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第7話 宝石移送
第7-1話 依頼
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○ 領主さんからのお願い1
滞在期間が長くなると、当然、領主さんからの依頼もあります。
呼び出されたので、お屋敷に向かうと商人さんが一緒にいらっしゃいました。
「最近は、いかがですか、薬の売れ行きは。」
「とりあえず、少しずつですが、旅の路銀はたまりつつあります。」
「そうですか、それはよかった。そろそろ冬の時期ですから、薬草もとれなくなりますので、お時間もひまになるのではないですか?」
「確かに収量が減ってきています。絶滅させてもいけないので、あまり取らないようにしていますので。」
「そうでしょう、もしお時間が取れるのであれば、ひとつお願いがあるのですが」
「私にできることであれば、」
「このたび、少し離れた大きい国にかなり高価な物を納めなければなりませんで、その護衛に同行していただけないかと思いまして?」
「私どもには何もできませんが。」
「この商人から聞きましたが、魔獣の出現を予知できる天使と呼ばれている娘さんがいると聞きましたが、」
「それについては、先日、以前住んでいた町から戻るときに効果が無くなったものですから、魔物に襲われながらこちらに戻って参りました。しかも、商人さんもご存じですが、盗賊には効果が無いのです。」
「それもお聞きしております。しかし、相手からは、輸送に関しては、万全を期すように言明されております。私どもの今回の荷物を届けることに失敗しますと、その国を通じて商品等を売り買いしている都合上、こちらの立場も危うくなるものですから、できる限りのことをしたいと思います。」
「そうですか。それでも、娘達や一緒に暮らしている者達と話してみないといけません。」
「わかりました、実は、受けていただくときの条件ですが、この街での冒険者としての登録を無料でしたいと思っています。」
「やはり取引になりますか。」
「ええ、商売人ですので。冒険者登録したいが費用が高くて困っているとお聞きしましたがいかがですか。」
「正直、こんなに高いとは思いませんでした。他の地方も皆そうなんですか?」
「うちがなぜ高くしているかというと、納税の義務の一部免除とこの城塞都市の護衛を義務としています。ですので、相応の力量を持った者しか認めていません。ですから流れ者などここに住まない者には出さないようにしています。この街では、ステータスでありますし、いろいろな優遇措置もしています。最大の特典は、この都市の護衛業務の時に死んだ場合には家族への補償もしているからなのです。」
「ああ、そういうことですか。」
「はい、誰にでも許可をしないのはそういうことです。もちろんこの資格がない者が狩りをして獲物を獲ってきても買い取ります。でも、安く買い取ります。」
「一応、無資格でも大丈夫なのですね。」
「はい、すべての問題を冒険者だけで処理できるかといえば難しいので、そういう人達もいらっしゃいます。ただし、頼む側との信頼関係が結べればということもあります。」
「はあ、どういうことですか?」
「悪質な業者が依頼主であれば、高い金で買い取るような話を持ちかけて、持ってきたら、安い金しか払わないとか。とにかくリスクが高いです。まあ、逆に依頼してもちゃんと達成せず前金もらって踏み倒す者も出ますからどっちもどっちですけどね。ですが、冒険者として資格登録をしていれば、依頼主に問題があったら街がバックアップします。でも、冒険者が依頼主に変なことをすれば資格を剥奪します。」
「はあ、」
「ですが、この資格には例外もあります
。この町に貢献をしてくれた人には、特別に資格を与える場合があります。」
「なるほど、そういうことなんですね。」
「はい、少し考えてはくれませんか。」
「うちの娘達と話をしてみないことには、」
「無理強いはできませんが、是非お願いします。」
「お話しはお伺いしました。では、これで。」
「良い返事を期待しております。」
この街には世話になっている。確かにそうだ。だが、今回のは、あまりにもまずい。とりあえず皆さんと合流しましょう。
例のケバブ屋さんのところの椅子に座ってみんなでひなたぼっこをしている。危険が無いようできるだけ全員で移動するようにしています。
「早かったな。呼ばれたという事は、あまり良い話では無いな。」
「はい」そう言って私は力の無い目でアンジーを見る
「私?ああ、また天使がらみなのね?」手についたタレをペロリとなめて、割とのんきそうです。
「用事が終わっているなら、家に戻りましょうか。ここでは話せない話ですので」
「かなり深刻そうじゃのう。」
「そうみたいね。逃げる用意が必要なくらいの話なのかしら」
「この街住みやすいんですけどね~」人見知りのエルフィが度々ここに食事に来ているのは、よく知っていますよ。慣れてきたんですね。
さて、家に戻りました。みんな食卓テーブルに揃っています。
「なんじゃ、言いづらいのか、早く話してみい」
「今回、お願いされたのは、馬車の護衛です。加護が欲しいそうです」
「ああ、本当に天使様関連じゃな。」
「ええ、天使様ご指名です。」
「問題なかろう。わしらも同行すれば。」
「私もそう思ったのですが、行き先がですね、あそこの国なんですよ。」
「あそこの国って、あの壺のか」
「はい。」
「どういういきさつじゃ。」
「急に高価な宝石が必要になったとかで、こちらにある有名な宝石の原石を献上することになったそうです。それでその護衛に万全を期したいと。」
「あの件は絡んでないのか?」
「わかりません、1ヶ月も経っていないので、もしかしたら天使の噂を聞いて、おびき出すつもりなのかもしれません。」
「にしては、釣り針がでかすぎるな。」
「あの壺のことが他国に知られてしまって~、他のものを用意しなければならなくなったとかですかね~」
エルフィそれはありますねえ。
「それもあるなあ。そっちは調べてもらわないとわからぬが。」
「誰に聞くんですか」
「魔法使いのエリスのばばあにじゃ。」
「ああ、そうですねえ。教えてくれますか?」
「まあ、五分五分じゃがなあ」
「引き受けない方が良いと思うのですが・・・」私は、どうして良いかわからなくなっていました。
「歯切れが悪いのう。何が交換条件なのじゃ。」
「ええ、この街での冒険者の資格です。」
「なるほど、上級市民に格上げとなるか。ここからいなくなるわしらにとっては、あまり魅力は無いと思うが」
「そうですね。今となっては必要とは思いません。薬の売り上げだけだと少し時間がかかってしまいますが、なんとかなりますし。」
「では、魔法使いさんのところに早速話を聞きに言ってきましょう。」
「明日にしておけ、もう日が暮れる。」
「そうですね。では、」
「はい夕食の準備はもうできています。」
「さすがメアさん。いつもありがとうございます。」
「いえ、メイドとして当然です。」
そうして、夕食を食べ、入浴をして早めにベッドに入りました。今日は、皆さん自分の部屋で寝ています。
翌朝、私は、街に向かいました。モーラは、別なところに用事があるといって、街に着くとどこかに行ってしまいました。私は、気が乗らない薬屋の扉をあけて入ろうとしましたが、おや、ノックしなくても扉が開きました。
「昨日すぐに私のところに来ると思っていたのに。意外に遅かったわね」
エリスさんが奥の席にいて声をかけてくる。
「はあ、あまりにも急展開過ぎて。」
「あの領主と商人が私の所にも来て話をしているとは、思わないの」
「ということは、話が来ているんですね」
「そうなのよ。あなた達を説得するよう言われているわ」
「そのことは良いのです。その関係で何か事情を知っていればと思いまして。」
「ああ、情報集めのお願いね。私が聞いているのは、貴重な荷物をある国に届けるので天使様にどうしても同行いただきたいから、説得して欲しいとしか言われていないわ。」
「その、ある国の詳しい事情について、その国にいる魔法使いさんから何か情報をもらえませんか。」
「ああ、そういうこと?まあ、聞いてみますね。明後日おいでなさい。連絡がついていれば明後日にはわかると思うわ。でも、連絡がつかなかった場合あきらめてね。」
「連絡がつかないことがあるのですか?」
「いないこともあるからね。」
「そうですね。また来ます。」
「そういうことを気にするという事は、今回のは、まずい事なのかもねえ。」
「そうですか?」
「まあ、ここから出て行くことも視野に入れておいた方が良いかもしれないわよ。」
「それでは、そちらに迷惑がかかるでしょう?」
「大丈夫よ、卸しと小売りの関係ですもの。影響はないわ、安心して。」
「ありがとうございます。」
「どうじゃった」
どこかに消えていたモーラは、用事を済ませたのか、宿屋の所の居酒屋にいました。
「明後日連絡が取れたらと言っていました。いないかもしれないとも」
「ふん、わしが一緒に行かなくてよかったわ。文句を言っていたな。」
「ああ、すぐ連絡取れるんですか?」
「明日にはわかったろう。」
「でもいないかもしれないと言っていましたよ。」
「魔法使いは自分の住処に何かあったら困るから、何らか仕掛けをしているものじゃ。」
「なるほど。」
「良いほうに考えれば、情報を探ってもらうのかもしれないが、そううまくは、いかんじゃろう。」
「そういうものですか」
「魔法使い同士はそういうものじゃ。利害が一致せんと情報交換もできんはずじゃからなあ。」
「進展はありませんでしたが、ちゃんと考えておかないとなりませんねえ」
「みんなとちゃんと話し合いをするのじゃろうな」
「当然です。」
そして、帰り道を2人で帰ります。言葉を交わすこともなくぶらぶらと歩いて。
家に到着すると、皆さんテーブルでぼーっとしています。まあ、何もする気にはならないでしょうねえ。
「皆さんそう暗くならないでください。魔法使いさんは、何も知りませんでしたし、あの国にいる魔法使いさんに聞いてくれると言ってくれましたので、明後日また聞きに行ってきます。」
「まあ、こやつは、その間に皆の意見でも聞いておきたいそうじゃ。」
「荷物だけ届けて、そこから戻るという手はどうですか~そうすれば、領主の顔も立つのではありませんか。」
エルフィがめずらしく意見を言う。この街から離れがたいのでしょうか。
「まあ、帰ってしまえば戻されることも無いとは思いますけれど、あれは連れてこいと言っているのとほぼ同義ですからねえ。土壇場で逃げ出したら・・・」
「壺を盗んだことを認めるようなものですかねえ」
「これだけ離れていれば、盗むなんてできるわけ無いと考えますけどね、普通は。」
「まあ、普通では無いことが起きていますからねえ。あくまでそれは水神様のお力なんですけど。」
「いっそのこと国王に会ってしらを切るほうが良いのではないですか?」とメア
「確かにモーラの幻術で私の顔だけは変えてもらっていますけど。他の人は見られていますし、顔を憶えて無くても、天使様のお付きの人達が人数も風貌もほとんど同じですからねえ。」
「ほとんど顔を隠して見せていなかったことが、かえって悪かったか。2人だけ行かせればよかったかのう。」
「あの時は、街の中に入ろうとしてすぐ拉致されましたから、別れて行動する余裕もありませんでしたでしょう。」
「別れていれば少しはなんとかなったかのう。」
「以前の件では、2つのグループに分かれて行動したときに、事件が起きましたからねえ。私としては皆さんと一緒が良いと判断したんですが、あの時はダメだったんですかねえ。」
「いずれにしても、ここから逃げる用意をしましょうか。ここでの生活にも慣れてきて、皆さんの顔に明るさが戻ってきたところだったですが、残念です。」
私からみなさんにお伺いを立てる。
「逃げるのもなあ、わしがいうのもなんじゃが、この街では何かと便宜を図ってもらったりしていて、後足で砂をかけるようなことは、なかなかできんなあ。やはりしらを切りとおすほうがよいかもしれん。」
「それは、おもにお菓子をもらったりしていることかしら。」
アンジーが茶化して言う。場の雰囲気が少しなごむ。
「まあ、確かにそれもあるが、わしみたいにいろいろなところに顔を出していると、自然と聞こえてくるものなのじゃ。」
「私もそう思います。買い物の際には特に気にしていただいていると感じました。これまで、エリス様のところにいたときとは違いました。」
メアさんもやはり感じていたのですね。どうやらみなさんこの街とはすでに深く関わっているのですねえ。
「ユーリはどう思いますか?」
「僕は、いえ、私は、どちらでもかまいません。傭兵としてここで暮らしていましたから、女の子と知られてからは、いろいろありましたので。」
あまり好意的な感じではありませんね。あれからもそんなに経ってはいませんが、何かあったのでしょうか。
「とりあえず、明後日には、情報が入るかもしれんのじゃろう。」
「確証はありませんが。」
「こんなことをみんなでうだうだ考えていてもしかたないかもしれんな。後はお主の意志次第になるじゃろう。」
「ええ?この話し合いは、一体なんだったのですか。」
「あくまでお主の考えを補強するものじゃ。それがリーダーというものじゃろう?仲間の意見を聞き、それをまとめて全体の方向性を決めるのじゃろう。」
「これまでの経過から言ってもモーラがリーダーですよね」
「わしは、必ずお主の意見を尊重しているが?わしの立ち位置は、リーダーと言うよりは、司会者じゃな。ああ、参謀になるのか。」
「人々とのしがらみというのは、難しいですね。」
「だがそれが人の中で暮らすと言うことじゃ。そうじゃろう?」
「明後日の魔女さんからのお話によって、もう一度話し合いましょう。今日の薬草採集は、このままだとあまり意味がありませんので、今日・明日はだらだらしますか。」
「だらだらって、何?」
「休日です。まだそういう習慣はないのでしょうけど、これから分業化が進むと、7日間に1日から2日は休息日を作るのですよ。」
「最近、働きづめだったものねえ。1ヶ月はのんびりできたけど」
「ねえ、街に行きましょう。」思いついたようにアンジーが提案してきた。
「いいのう、外に出るか。」
「はい、そうしましょう。」
「あそこの果実酒が飲めるなら。」
めずらしくエルフィが言った。何か思い入れでもあるのだろうか。恥ずかしそうに下を向いて両手の指同士を合わせ人差し指をくるくると回している。
「そうじゃのう、行きたいところへ行っておくとするか。」
「街中は大丈夫だと思いますが、連絡は密にしてくださいね。」
「大丈夫じゃ、お主が交代でわしらの誰か一人と行動すれば良いのじゃから。」
「やったーデートね。」アンジーが小躍りしている。どうしたんですか浮かれています。
「でえと・・・逢い引きのことですね。ぜひ」ユーリの気合いが入る。
「そこまでのものではないでしょうけども、皆さんがそうしたいなら、順番に。」
「順番阿前に憶えたじゃんけんじゃ、しかし、わしは抜けるぞ、どうせあの薬屋に行くときに一緒に行くからな。最後でいいのじゃ。」
続く
滞在期間が長くなると、当然、領主さんからの依頼もあります。
呼び出されたので、お屋敷に向かうと商人さんが一緒にいらっしゃいました。
「最近は、いかがですか、薬の売れ行きは。」
「とりあえず、少しずつですが、旅の路銀はたまりつつあります。」
「そうですか、それはよかった。そろそろ冬の時期ですから、薬草もとれなくなりますので、お時間もひまになるのではないですか?」
「確かに収量が減ってきています。絶滅させてもいけないので、あまり取らないようにしていますので。」
「そうでしょう、もしお時間が取れるのであれば、ひとつお願いがあるのですが」
「私にできることであれば、」
「このたび、少し離れた大きい国にかなり高価な物を納めなければなりませんで、その護衛に同行していただけないかと思いまして?」
「私どもには何もできませんが。」
「この商人から聞きましたが、魔獣の出現を予知できる天使と呼ばれている娘さんがいると聞きましたが、」
「それについては、先日、以前住んでいた町から戻るときに効果が無くなったものですから、魔物に襲われながらこちらに戻って参りました。しかも、商人さんもご存じですが、盗賊には効果が無いのです。」
「それもお聞きしております。しかし、相手からは、輸送に関しては、万全を期すように言明されております。私どもの今回の荷物を届けることに失敗しますと、その国を通じて商品等を売り買いしている都合上、こちらの立場も危うくなるものですから、できる限りのことをしたいと思います。」
「そうですか。それでも、娘達や一緒に暮らしている者達と話してみないといけません。」
「わかりました、実は、受けていただくときの条件ですが、この街での冒険者としての登録を無料でしたいと思っています。」
「やはり取引になりますか。」
「ええ、商売人ですので。冒険者登録したいが費用が高くて困っているとお聞きしましたがいかがですか。」
「正直、こんなに高いとは思いませんでした。他の地方も皆そうなんですか?」
「うちがなぜ高くしているかというと、納税の義務の一部免除とこの城塞都市の護衛を義務としています。ですので、相応の力量を持った者しか認めていません。ですから流れ者などここに住まない者には出さないようにしています。この街では、ステータスでありますし、いろいろな優遇措置もしています。最大の特典は、この都市の護衛業務の時に死んだ場合には家族への補償もしているからなのです。」
「ああ、そういうことですか。」
「はい、誰にでも許可をしないのはそういうことです。もちろんこの資格がない者が狩りをして獲物を獲ってきても買い取ります。でも、安く買い取ります。」
「一応、無資格でも大丈夫なのですね。」
「はい、すべての問題を冒険者だけで処理できるかといえば難しいので、そういう人達もいらっしゃいます。ただし、頼む側との信頼関係が結べればということもあります。」
「はあ、どういうことですか?」
「悪質な業者が依頼主であれば、高い金で買い取るような話を持ちかけて、持ってきたら、安い金しか払わないとか。とにかくリスクが高いです。まあ、逆に依頼してもちゃんと達成せず前金もらって踏み倒す者も出ますからどっちもどっちですけどね。ですが、冒険者として資格登録をしていれば、依頼主に問題があったら街がバックアップします。でも、冒険者が依頼主に変なことをすれば資格を剥奪します。」
「はあ、」
「ですが、この資格には例外もあります
。この町に貢献をしてくれた人には、特別に資格を与える場合があります。」
「なるほど、そういうことなんですね。」
「はい、少し考えてはくれませんか。」
「うちの娘達と話をしてみないことには、」
「無理強いはできませんが、是非お願いします。」
「お話しはお伺いしました。では、これで。」
「良い返事を期待しております。」
この街には世話になっている。確かにそうだ。だが、今回のは、あまりにもまずい。とりあえず皆さんと合流しましょう。
例のケバブ屋さんのところの椅子に座ってみんなでひなたぼっこをしている。危険が無いようできるだけ全員で移動するようにしています。
「早かったな。呼ばれたという事は、あまり良い話では無いな。」
「はい」そう言って私は力の無い目でアンジーを見る
「私?ああ、また天使がらみなのね?」手についたタレをペロリとなめて、割とのんきそうです。
「用事が終わっているなら、家に戻りましょうか。ここでは話せない話ですので」
「かなり深刻そうじゃのう。」
「そうみたいね。逃げる用意が必要なくらいの話なのかしら」
「この街住みやすいんですけどね~」人見知りのエルフィが度々ここに食事に来ているのは、よく知っていますよ。慣れてきたんですね。
さて、家に戻りました。みんな食卓テーブルに揃っています。
「なんじゃ、言いづらいのか、早く話してみい」
「今回、お願いされたのは、馬車の護衛です。加護が欲しいそうです」
「ああ、本当に天使様関連じゃな。」
「ええ、天使様ご指名です。」
「問題なかろう。わしらも同行すれば。」
「私もそう思ったのですが、行き先がですね、あそこの国なんですよ。」
「あそこの国って、あの壺のか」
「はい。」
「どういういきさつじゃ。」
「急に高価な宝石が必要になったとかで、こちらにある有名な宝石の原石を献上することになったそうです。それでその護衛に万全を期したいと。」
「あの件は絡んでないのか?」
「わかりません、1ヶ月も経っていないので、もしかしたら天使の噂を聞いて、おびき出すつもりなのかもしれません。」
「にしては、釣り針がでかすぎるな。」
「あの壺のことが他国に知られてしまって~、他のものを用意しなければならなくなったとかですかね~」
エルフィそれはありますねえ。
「それもあるなあ。そっちは調べてもらわないとわからぬが。」
「誰に聞くんですか」
「魔法使いのエリスのばばあにじゃ。」
「ああ、そうですねえ。教えてくれますか?」
「まあ、五分五分じゃがなあ」
「引き受けない方が良いと思うのですが・・・」私は、どうして良いかわからなくなっていました。
「歯切れが悪いのう。何が交換条件なのじゃ。」
「ええ、この街での冒険者の資格です。」
「なるほど、上級市民に格上げとなるか。ここからいなくなるわしらにとっては、あまり魅力は無いと思うが」
「そうですね。今となっては必要とは思いません。薬の売り上げだけだと少し時間がかかってしまいますが、なんとかなりますし。」
「では、魔法使いさんのところに早速話を聞きに言ってきましょう。」
「明日にしておけ、もう日が暮れる。」
「そうですね。では、」
「はい夕食の準備はもうできています。」
「さすがメアさん。いつもありがとうございます。」
「いえ、メイドとして当然です。」
そうして、夕食を食べ、入浴をして早めにベッドに入りました。今日は、皆さん自分の部屋で寝ています。
翌朝、私は、街に向かいました。モーラは、別なところに用事があるといって、街に着くとどこかに行ってしまいました。私は、気が乗らない薬屋の扉をあけて入ろうとしましたが、おや、ノックしなくても扉が開きました。
「昨日すぐに私のところに来ると思っていたのに。意外に遅かったわね」
エリスさんが奥の席にいて声をかけてくる。
「はあ、あまりにも急展開過ぎて。」
「あの領主と商人が私の所にも来て話をしているとは、思わないの」
「ということは、話が来ているんですね」
「そうなのよ。あなた達を説得するよう言われているわ」
「そのことは良いのです。その関係で何か事情を知っていればと思いまして。」
「ああ、情報集めのお願いね。私が聞いているのは、貴重な荷物をある国に届けるので天使様にどうしても同行いただきたいから、説得して欲しいとしか言われていないわ。」
「その、ある国の詳しい事情について、その国にいる魔法使いさんから何か情報をもらえませんか。」
「ああ、そういうこと?まあ、聞いてみますね。明後日おいでなさい。連絡がついていれば明後日にはわかると思うわ。でも、連絡がつかなかった場合あきらめてね。」
「連絡がつかないことがあるのですか?」
「いないこともあるからね。」
「そうですね。また来ます。」
「そういうことを気にするという事は、今回のは、まずい事なのかもねえ。」
「そうですか?」
「まあ、ここから出て行くことも視野に入れておいた方が良いかもしれないわよ。」
「それでは、そちらに迷惑がかかるでしょう?」
「大丈夫よ、卸しと小売りの関係ですもの。影響はないわ、安心して。」
「ありがとうございます。」
「どうじゃった」
どこかに消えていたモーラは、用事を済ませたのか、宿屋の所の居酒屋にいました。
「明後日連絡が取れたらと言っていました。いないかもしれないとも」
「ふん、わしが一緒に行かなくてよかったわ。文句を言っていたな。」
「ああ、すぐ連絡取れるんですか?」
「明日にはわかったろう。」
「でもいないかもしれないと言っていましたよ。」
「魔法使いは自分の住処に何かあったら困るから、何らか仕掛けをしているものじゃ。」
「なるほど。」
「良いほうに考えれば、情報を探ってもらうのかもしれないが、そううまくは、いかんじゃろう。」
「そういうものですか」
「魔法使い同士はそういうものじゃ。利害が一致せんと情報交換もできんはずじゃからなあ。」
「進展はありませんでしたが、ちゃんと考えておかないとなりませんねえ」
「みんなとちゃんと話し合いをするのじゃろうな」
「当然です。」
そして、帰り道を2人で帰ります。言葉を交わすこともなくぶらぶらと歩いて。
家に到着すると、皆さんテーブルでぼーっとしています。まあ、何もする気にはならないでしょうねえ。
「皆さんそう暗くならないでください。魔法使いさんは、何も知りませんでしたし、あの国にいる魔法使いさんに聞いてくれると言ってくれましたので、明後日また聞きに行ってきます。」
「まあ、こやつは、その間に皆の意見でも聞いておきたいそうじゃ。」
「荷物だけ届けて、そこから戻るという手はどうですか~そうすれば、領主の顔も立つのではありませんか。」
エルフィがめずらしく意見を言う。この街から離れがたいのでしょうか。
「まあ、帰ってしまえば戻されることも無いとは思いますけれど、あれは連れてこいと言っているのとほぼ同義ですからねえ。土壇場で逃げ出したら・・・」
「壺を盗んだことを認めるようなものですかねえ」
「これだけ離れていれば、盗むなんてできるわけ無いと考えますけどね、普通は。」
「まあ、普通では無いことが起きていますからねえ。あくまでそれは水神様のお力なんですけど。」
「いっそのこと国王に会ってしらを切るほうが良いのではないですか?」とメア
「確かにモーラの幻術で私の顔だけは変えてもらっていますけど。他の人は見られていますし、顔を憶えて無くても、天使様のお付きの人達が人数も風貌もほとんど同じですからねえ。」
「ほとんど顔を隠して見せていなかったことが、かえって悪かったか。2人だけ行かせればよかったかのう。」
「あの時は、街の中に入ろうとしてすぐ拉致されましたから、別れて行動する余裕もありませんでしたでしょう。」
「別れていれば少しはなんとかなったかのう。」
「以前の件では、2つのグループに分かれて行動したときに、事件が起きましたからねえ。私としては皆さんと一緒が良いと判断したんですが、あの時はダメだったんですかねえ。」
「いずれにしても、ここから逃げる用意をしましょうか。ここでの生活にも慣れてきて、皆さんの顔に明るさが戻ってきたところだったですが、残念です。」
私からみなさんにお伺いを立てる。
「逃げるのもなあ、わしがいうのもなんじゃが、この街では何かと便宜を図ってもらったりしていて、後足で砂をかけるようなことは、なかなかできんなあ。やはりしらを切りとおすほうがよいかもしれん。」
「それは、おもにお菓子をもらったりしていることかしら。」
アンジーが茶化して言う。場の雰囲気が少しなごむ。
「まあ、確かにそれもあるが、わしみたいにいろいろなところに顔を出していると、自然と聞こえてくるものなのじゃ。」
「私もそう思います。買い物の際には特に気にしていただいていると感じました。これまで、エリス様のところにいたときとは違いました。」
メアさんもやはり感じていたのですね。どうやらみなさんこの街とはすでに深く関わっているのですねえ。
「ユーリはどう思いますか?」
「僕は、いえ、私は、どちらでもかまいません。傭兵としてここで暮らしていましたから、女の子と知られてからは、いろいろありましたので。」
あまり好意的な感じではありませんね。あれからもそんなに経ってはいませんが、何かあったのでしょうか。
「とりあえず、明後日には、情報が入るかもしれんのじゃろう。」
「確証はありませんが。」
「こんなことをみんなでうだうだ考えていてもしかたないかもしれんな。後はお主の意志次第になるじゃろう。」
「ええ?この話し合いは、一体なんだったのですか。」
「あくまでお主の考えを補強するものじゃ。それがリーダーというものじゃろう?仲間の意見を聞き、それをまとめて全体の方向性を決めるのじゃろう。」
「これまでの経過から言ってもモーラがリーダーですよね」
「わしは、必ずお主の意見を尊重しているが?わしの立ち位置は、リーダーと言うよりは、司会者じゃな。ああ、参謀になるのか。」
「人々とのしがらみというのは、難しいですね。」
「だがそれが人の中で暮らすと言うことじゃ。そうじゃろう?」
「明後日の魔女さんからのお話によって、もう一度話し合いましょう。今日の薬草採集は、このままだとあまり意味がありませんので、今日・明日はだらだらしますか。」
「だらだらって、何?」
「休日です。まだそういう習慣はないのでしょうけど、これから分業化が進むと、7日間に1日から2日は休息日を作るのですよ。」
「最近、働きづめだったものねえ。1ヶ月はのんびりできたけど」
「ねえ、街に行きましょう。」思いついたようにアンジーが提案してきた。
「いいのう、外に出るか。」
「はい、そうしましょう。」
「あそこの果実酒が飲めるなら。」
めずらしくエルフィが言った。何か思い入れでもあるのだろうか。恥ずかしそうに下を向いて両手の指同士を合わせ人差し指をくるくると回している。
「そうじゃのう、行きたいところへ行っておくとするか。」
「街中は大丈夫だと思いますが、連絡は密にしてくださいね。」
「大丈夫じゃ、お主が交代でわしらの誰か一人と行動すれば良いのじゃから。」
「やったーデートね。」アンジーが小躍りしている。どうしたんですか浮かれています。
「でえと・・・逢い引きのことですね。ぜひ」ユーリの気合いが入る。
「そこまでのものではないでしょうけども、皆さんがそうしたいなら、順番に。」
「順番阿前に憶えたじゃんけんじゃ、しかし、わしは抜けるぞ、どうせあの薬屋に行くときに一緒に行くからな。最後でいいのじゃ。」
続く
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【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
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