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1年生
1年生第1話 入学
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<1年生 入学式>
それは、4月初旬のこと。
俺は今、入学した高校に向かっている。
うちの市は、雪の多い北の方にあるので桜の時期にはまだ早いし、日中でも風はまだ寒い。
今は、朝の8時、今日は風もなく、太陽のおかげで暖かく感じている。
「市立東央高校」、それが自分がこれから通う高校だ。
その高校は、市内では3番目くらいで、1番上の県立、次が全国でも有名な私立で、その次にあたる。進学も就職もある程度する高校である。
市内中心部にあるが、その敷地面積は県内1で、全国でも有数の敷地面積を誇り、野球場2、ラグビー場、サッカー場、テニスコートの他、体育館が4、柔道場、弓道場、剣道場、相撲の土俵などと合宿施設、鬱蒼とした小公園が校舎の裏手に広がり、さらにその周囲は、杉林に囲まれていて騒音で周囲の住民に迷惑をかけないようになっていた。もっともその杉林自体は学校のものではない、国有林で伐採保護区となっていて、森の中の静かな佇まいの高校となっている。
高校の敷地の横には、重要文化財に指定された公園があり、公園の外周にある堀の周回路もうちの高校のマラソンコースとして活用されていると聞いている。
高校に向かう生徒達は、知り合いと楽しそうに学校に向かっている。
制服のくたびれ方で先輩後輩がわかりそうだ。うちの制服は、男子がブレザーと中にベストを着てスラックスの3ピース構成で女子の制服も同じだが、若干バリエーションやデザインが違う。そして各学年がわかるように女子がリボン、男子がネクタイの色が違う。あわせて、スカートやスラックスのチェック柄の色も合わせて変えてある。制服が初々しくてちょっとギクシャクしているのが一年生だと思う。もちろん俺もそうだ。着慣れない衣装を着ている自分がちゃんと歩けているいるか不安だ。
そして、でかい敷地のおかげで、校門までの道のりがえらい大変である。敷地と道路を隔てるフェンスが見えてから、ややしばらく歩いて、やっと校門にたどり着いた。
校門には、でっかい入学式と書かれた看板が立てられ、両親と共にその門をくぐる者や、在校生なのか1人、または複数人で入っていく者達もいる。
この学校は、1クラス45人で特進の理数科を含め各学年10クラスあり、3学年で総勢1350人が在校していることになる。なので、学年ごとに玄関が分けられていて、一番手前が3年生で一番門から遠いのが1年生の玄関らしい。それぞれの玄関前にクラス別の名簿が張り出されていた。
校門を抜けてから、俺は、ふいに思い出して、学校から貸与されたPDAの電源を入れた。IPPDという変なロゴのOSが立ち上がり、PDAのメニュー画面が現れた。特に何も表示はされていない。それもそうだ、最初の説明でも校舎内に入らないと何も表示されないと言っていた。
先週、入学前のガイダンスが市民体育館で行われ、指定された教科書やジャージなどを受け取った時に、このPDAを渡され、誓約書にサインをさせられた。その時に入学時に門から入った際に電源を入れることを重ねて説明されていた。もちろん何も起きないことも。
画面を確認してから、1年の玄関の横に張ってある、クラス別に名前の書かれた掲示板を見る。最近の個人情報保護の観点からは、少し外れている気もしないではないが、まあ、学生として一緒に生活していくのだから、名前程度の個人情報は、問題ないのだろう。
俺は、普通の感覚として1-Aから見始める。玄関に近い方から1-Aとなっていたので、A組から順に確認していく。
A組には名前がない、ない、ない。E組をすぎるとちょっと不安になった。あれ?俺って入学してたよね?とか思ってしまった。まあ、合格発表の時に受験番号は3回くらい確認したし、事前のガイダンスにも参加できているのだから問題ないはずだと、自分の中の不安を打ち消し、でも、少しあせりつつクラスごとに2回ずつ確認して次のクラスの表にうつる。
おお、あった。H組だ。ほっとしつつ、それでも、不安になっていた自分に「ばかじゃねーの」と心の中でつっこみをいれ、玄関に向かう。1年生の玄関だけあって、親がついてきている人がけっこういる。
まあ、俺は1人だけどね。もちろん、親うぜえとか、ばばあだから来ないでとか親に言ったわけではない、いないからだ。だからといって、施設で暮らしていたわけでもない、3年間育ててくれた叔父夫婦もいる。叔父夫婦の家は少し離れているし、今日は仕事のため来られなかったというだけだ。
まあ、来なくてもいいと説得はしたのだけれど。
玄関に入って靴箱を探していると。PDAからアラームの音がした。画面では、操作を要求している。指紋認証のボタンを押す。
「ようこそ、東央高校へ、ご入学おめでとうございます。あなたは1年H組です。下駄箱はこちらです」と玄関の案内図と自分の立っている位置、そして下駄箱の位置を表示している。なるほど、PDAの電源を入れろというのは、こういうことか。大体の位置を把握して移動する。すると、今度は、PDAの画面表示が下駄箱の表示にかわり、自分の靴箱の位置が表示され、顔を上げて下駄箱を直接見ると、靴箱の名前の欄がぼんやりと光っている。
「こりゃあすごいな」思わずつぶやいてしまった。今時の高校はみんなこうなのだろうか?
持参した上靴にはきかえ、履いてきた革靴を入れようと取っ手に手をかけたが、開かない。するとPDAから、「PDAを扉にかざしてください」というガイダンスが流れた。PDAを靴箱にかざす。すると、「カチッ」という音と共にロックがはずれた。取っ手に手をかけると、今度は扉が開いた。靴を入れて扉を閉めると「カチッ」と言う音と共にロックされた。思わずもう一度PDAをかざしてみる。すると「カチッ」という音と共にロックが解除された。なるほど、これはすごいや。そう思いながらもう一度ロックを外し扉を開けないで見ていると、「カチッ」とロックがかかった。一定時間操作しないと自動的にロックされるのか。なるほど。
これでは、一昔前みたいにラブレターを下駄箱に入れるとかできないなあ、とか変なことを考えたが、現実的には靴にいたずらされないようにしているのだろう。いじめ防止か?そんな事を考えながら、そこから移動して、廊下を見渡す。またもPDAが「あなたの教室はこちらです」と、今度は、教室までの移動ルートが表示され、車のナビのように画面に廊下が表示されている。すごい、今いる位置から見えている風景と全く同じ風景がPDAの画面に表示されている。いや、いつのまにかカメラモードになっていて、そこに矢印が表示されているようだ。こんなもの無くても行けそうだけど、迷う人は迷うからなあ、とか思いつつ、階段を4階まで昇り、目的の教室に到着する。
ドアは開いていた。教室に入ると、今度は座席位置まで知らせてくれる。しかし音声は出なかった。教室の黒板が全面液晶画面になっており、そこにも表示されている。念のため黒板の座席とPDAの座席を確認して自分の席に座った。まあ、俺の席はわかりやすい。なんたって一番前である。しかもなぜか窓側の一番前だ。
俺の名は、「我妻脩一(あずましゅういち)」これからこの高校で勉強とバイトを頑張ろうと思う。
教室にはすでに何人かの生徒はいるが、緊張しているのかみんな静かなものだ、早く登校して正解だった。
俺は、PDAに表示されるクラス名簿を見ていた。実は、3年前ほど前の小学6年生までは、うちの市に住んでいたので、誰かいないかと探していたが、3年前のはずなのに記憶が曖昧だ。まあ、小学校から中学校に進学するときは、同じ校区の奴も一緒に進学するので知り合いもいるかもしれないが、高校は市内と各周辺市町村から集まってくるのだから、知り合いがほとんどいないのもうなずける。
そう思いながら、画面をみてぼーっと考えていたら、目の前に人影がさした。
<1年生に入学:優実と有希>
顔を上げるとそこには、ショートカットにリムレスメガネの小さい女の子が立っていた。
「・・・・」無言のまま俺をじっと見ている。小学校時代の知り合いなのか?と、おぼろげな記憶をたどってみる。髪の毛が少し跳ねていて耳のようにも見える。あ、猫。
「ゆき、有希か?」にこっと笑ってうなずく。そしてまた見つめる。
「久しぶりだな、有希」小学6年生の夏、捨て猫をめぐってバタバタした時に悲しい思いをさせてしまった女の子だった。あの時は、何もできなくてごめん。というかそんな想い出さえ忘れかけていたとは、ちょっとふがいない。
「あら、有希なにやってんのよ、誰?その人」
そう言って近づいてくる女の子がいた。セミロングのちょっと日焼けしている女の子。ああ、こっちは強烈に憶えている。近所のガキ大将だったやつだ。
「あー、シュウ?やっぱりシュウだ」
俺をびしっと指さして言う。あいかわらずのポーズとあいかわらず声がでかい。教室内のこれから同級生になるだろう皆さんかから注目を浴びてしまっている。
「あらー、最初わかんなかったよ、私、わかる?」
顔は覚えている。でも、名前がでてこない。でも、俺は、おぼろげな記憶をたどって、知っている名前を言う。
「い・・石川さん?」
「そう、石川優実よ ユ・ミ、こっちに帰ってきたんだ」
「ああ、大学に進学したいからね、久しぶりだね、石川さん」
「まあ、大学目指すなら当然だよね、ここ進学校だもんね、私なんかついていけるのかなあ」
たははと笑いながら言う。あいかわらずマイペースだ。有希は、石川さんの真似をして、たははと笑っている。有希、真似すんな。
「合格できたと言うことは、大丈夫だろう?きっと」勝手なことを俺は言った。
「え?私、ぎりぎりよ、でもね、親友が行くって言うからがんばっちゃった。」
そう言って石川さんは、有希を見る。なんだか有希はぼーっと俺を見ている。おーい会話に入ってこーい。もしかして、スルーしたということは、親友じゃないのか?
「それにしても有希、あんた我妻と知り合いだったの?だいたい有希は、男の子と話すの苦手でしょうが」
俺と有希とを見比べながら不思議そうに言った。有希が石川さんに耳打ちする。
「昔、困ったときに手を貸してくれた?そうなのね、そのとき私入院してたって?ふうん」
なんか2人で話し込んでいる。石川さんは相変わらず元気そうだ、セミロングの髪に快活な笑顔、美人とまではいかないが、人懐っこい雰囲気は変わらない。
「もう、話聞きなさいよ、まあ、これからよろしくね」
ほどなく予鈴がなって、生徒達はおのおのの席について、先生を待った。
本鈴と共に担任が来た。結構年齢が高い。長身で白髪をオールバックにしている。受け持ちの科目は物理だそうだ。
「おはよう皆さん。私は奥村という。このクラスの担任だ。これからよろしく。この1年間つきあっていく上で何点か先に行っておく。
まず、高校は、自分が来たくてここにいると言うこと。まあ、不本意に来ている者もいるかもしれないが、それでも、来るという意志を持っていなければここにいないと言うことだ。嫌ならいつでもやめられる。やめる権利を君たちは持っていると言うこと。小学校や中学校のような義務教育ではないと言うこと。
二つ目は、このクラスには最低でも1年間は、全員で学校生活をしてくことになること。馬が合おうが合うまいが、1年間は一緒だ。それは私も同じだ。だから、お互い親しくなるのも口をきかないのも自由だが、集団生活をしていく上で最低限度のマナーを守りなさいと言いたい。あくまでアドバイスだがな。
三つ目だ。犯罪は犯すなということ。ここに来たのは君たちの自由意志だと私は言ったが、君たちは未成年で、あくまで親の庇護下での意志の行使であること。はっきり言うと、お前ら親に食わせてもらってんだから親に迷惑かけるなということだ。まあ、親がいない奴がいたとしても、後見人とか親権者とか誰かの監督下にいるんだから、迷惑かけるなら成人後にしろということだ。端的に犯罪起こしたりとか、学校内で喧嘩して退学だとか、留年するとか色々な問題を起こすなという事だ。もし、巻き込まれた場合にはちゃんと言え。言わなきゃ守ってもやれない。そんなところかな。
あと、PDAは絶対壊すなよ。有料だし、私まで始末書だ」
わはははと、先生は笑っているが、最後にしゃれにならないオチを持ってきて笑いを取るつもりだったのか、誰も笑わなかった。むしろ暗い雰囲気になっている。先生は、やばいと思ったのか
「言い忘れたが、この学校は行事も多い、行事を通じて先輩や後輩、同じ学年みんな仲間意識が強くなる。想い出もたくさん作れる。ぜひとも「ああこの学校に来て良かった」と思ってもらいたい。まあ、行事に追われて勉強が疎かになるかもしれないから、それだけは気をつけてな。みんながんばってくれ」
そこで一息ついて、先生は続ける。
「それでは、手持ちのPDAの簡単な使い方を教える。これは、最初に教えて良いのはここまでだ、と言われているところまでだ」みんながぽかんとしている。
「俺は、親切だから教えてやるけど。つまりは、自分で使いこなせるようになれということさ」そう言って先生は説明を始める。
電源のオンオフから、校則、生徒名簿、スケジューラ、録画、録音、掲示板、SNSなどが機能としてあることだけ教えられた。使い方まで教えてくれない。自分で使って試してみて、マニュアルを読んで憶えろと言っている。さすがに仕様書までは、見られなかったが。とりあえず、先生はマニュアルに従って説明していた。これは、きっとどのクラスも同じ事を言っているに違いない。つまり全員スタートラインは一緒ということだ。使いこなせれば学校生活が有利に、いや、楽しくなるのだろう。ということにしておく。
「さて、ここでやっと自己紹介だが、時間がない。名前と出身中学くらいと何か言いたいことがあればそれを言って終わりにしよう。あとで、自分のプロフィール欄に言い足りないことを書いておけ。では、出席番号1番我妻」
「はい、蘭輿中学から来ました我妻脩一です。よろしくお願いします」
俺は立って、自己紹介をした。すると出身中学校がいきなり区域外であることからざわつく。
ここは市立高校である。つまり市内の生徒を優先していて市外からの受験生の枠は絞られている。当然、市外からの者は、優秀な者しか受験しないからだ。まあ、本当に頭の良い奴は、この圏域トップの県立高校を受験すればいいことで、そこがやばそうな奴で、私立に行くだけ金がない奴が受験している。それだけに頭は、トップクラスである・・・らしい。というかそう思われている。実際は違うのだけれど。
そうこうしているうちに全員の自己紹介が終了したところで、タイミング良く校内放送がかかった。
ピンポンパンポーン「新入生及びご来場の父兄の方にお知らせします。ただいまから入学式を開催しますので、皆さん第1体育館にお集まりください。繰り返します~」
PDAが震えて第1体育館の場所の地図が示され、ルートも示されている。
「おら、いくぞ」奥村先生がみんなを促す。全員立ち上がり、PDAを見ながら廊下に出た。まあ、俺は、PDAを見ながらみんなについていった。PDAは見ていたが、案内ではなく校則を必死になって読んでいた。ある項目を探して。
入学式は、滞りなく終了し、クラスに戻り、明日の予定が説明された。明日は、在校生と新入生の対面式があるそうだ。その後、クラブ棟や体育館内でクラブ勧誘が行われるようだ。
ガイダンスによると、この学校は進学校だが、部活動を推奨していて、部活動はよほどの理由がない限りは、必須となっているらしい。文化系クラブと運動系クラブの掛け持ちも可。しかし、成績が悪い場合には、部活動停止にもなるようになっている。当然、幽霊部員をやりやすい文化部の入部者が多くなるが、幽霊部員でいることはできない工夫がされている。学年末に「個人の部活動の記録」をレポートにして提出することとなっているからだ。しかも、先輩の過去レポートなどをパクった場合は、留年にされると言う噂である。このため、入る部活の選択も重要になってくる。なお、運動部は、ある程度のフォーマットが作られている。大会記録の優劣だけでなく、自分の運動機能の向上に向けてどのような訓練をしたのか、目的・訓練内容・結果のフィードバックまでがレポートとなっている。これからのスポーツマンは馬鹿ではいられないからなのだそうだ。
帰り道、たまたま、石川さんと有希と一緒に帰ることになった。
「すごい学校ね、クラブ入部必須なんて。進学校なのにね」
「そうだな。奥村先生の言う、上級生と下級生、同学年同士のつながりのためなのかな」
「そうだとしても部活強要は、ちょっとひどすぎない?」
「まあな、でも、学校の受験要覧には出ていたみたいだよ」
「え、読んだの?」不思議そうに石川さんが言う。
「俺がじゃなくて、要覧を読んだ叔母さんが教えてくれた」
「そうよね、あんなもの読むわけ無いわよね」
「ゆ・・石川さんはどうするんだい?」
「ああ、もう優美でいいわよ。私なんか最初からシュウって読んでたでしょう?」
「それは助かる。ん、でどうするんだ?」
「あー私は、陸上部よ。種目は、短距離と障害」優美は指を折りながらそう言った。
「なるほど、有希は?」おもむろに小さなカバンから文庫本を出して俺に見せた。
「文芸部か」うなずく有希。
「で、シュウはどうするのよ」
「俺は、バイトしなきゃならないからなあ。暇のありそうな部に・・・」
「って、バイトするの?」俺は優美に肩をつかまれ、立ち止まらされた。ビックリするじゃないか。
「ああ、知ってるだろう?俺、両親いないし」さすがに目は合わせられない。哀れみの目で見られたくなかった。
「まあ、知ってるけど。叔父さんの所で暮らしてるんでしょ?」
「いや、「暮らしてた」だ。今は、自分の家に戻ってきて1人で暮らし始めたんだ」
「生活費は?」
ちらっと見ると怒ったような真剣な目で見ている。有希は、喧嘩しているように見えたのか、どうしていいかわからずおろおろと俺たちを見ている。
「とりあえず、授業料は免除だから問題ないけど、それ以外の経費と生活費を捻出しなければならない。当面は貯金ですごして、バイトできるようになったらそれでなんとか。それからは大学の資金の貯金だ」
「そうなのね」優美は目を伏せたようだ。
「まあ、校則やら読んだら、奨学金制度もあるみたいだし、バイトも申請すれば大丈夫みたいだから何とかなるんじゃね?」
努めて明るく言った。返ってくる言葉がないので、さらに続ける。
「だから、楽な文化部をと思ってクラブ一覧見てたら、アマチュア無線部ってのがあって、そこの部長がハム仲間みたいなんだよ。だからこれで安心かなって」
「ま、がんばりなさい」背中をバンっとたたいて、優美は走り出した。
「用事があるからここでお先するね。また明日!」
優美は走りながら手を振って交差点を曲がっていった。有希は俺を見ていて、袖をつんつんと引っ張る。何か話したいことがあるのか。俺は頭を下げる。俺の頭をなでた。そしてにっこり笑って。
「さようなら。また明日」と言って。同じように交差点を曲がっていった。
「やっぱり、ひとりになると寂しいねえ」独り言を言って俺は、自宅に戻った。
俺が、独りになったのは、まあ、ありきたりな話である。両親は俺を置いて交通事故で亡くなった。小学校6年生の冬である。中学校の制服もまだ買っていない頃。相手の車が対向車線をはみ出してきての正面衝突。相手は盗難車。運転者は逃げて捕まらない。葬儀の時から誰が引き取るのかという話が始まっていた。生命保険加入の話は伏せられていて、無一文らしいという誤情報から、親戚は誰も引き取ろうとはしなかった。まあ、両親もあまり親戚付き合いもしていなかったから当然でもある。
そんな時に俺の両親の友人であるという夫婦が、誰も引き取り手がいないのであれば、私が引き取りたいと言ってくれた。親戚は諸手をあげて賛成し、喜々として同意書(念書)に連名で署名をしてくれたという。実は、俺の両親から何かあった時に頼むと言われていたらしく、生命保険の存在も知っていて、親戚の様子を伺っていて引き取り手が現れたらそれを教えようとしていたとも言っていた。
そうやって俺は叔父夫婦に引き取られたのだが、俺は、実のところその時のことをよく憶えていない。そして、引き取られた先の叔父夫婦には、2人の子どもがいた。
ひとつ下の蓮美という女の子とその1つ下の省という男の子。名字は石垣。だから叔父夫婦とも従姉弟とも血のつながりは全くない。そして、小学校の卒業式も参加せず、叔父のところに引っ越して、そこで中学校に入学した。たいした話ではないし、叔父夫婦もいい人だったので、「お父さん」「お母さん」と呼ぶまでにたいした時間はかからなかった。
一番打ち解けなかったのは、蓮美である。いや、むしろいじめられていた。というのも、蓮美は養子であり、俺が同居することになった時にそれを知り、入れ替わりに捨てられると思ったのだそうだ。どちらかがここでの生活から切り離されると不安に思ったのだそうだ。今考えればそんなことは、ありえないと思うのだが、その時の私はどうかしていた。と、いじめを謝られた時にそう語ってくれた。俺自身は、そうされるのが当然で、むしろ受け入れられているのが不安だったのだ。だからむしろいじめられることで、安心していた面もあった。
まあ、そんな訳で俺は、地元の高校を受験し、独りで小学校6年生まで住んでいた家に戻り、今ここに至っている。
翌朝、弁当を作って持って行っても良いのかよくわからなかったので、手ぶらで登校した。交差点には、昨日別れた2人が待っていてくれて、ちょっとうれしかった。
そして、在校生と新入生の対面式が行われた。
木造の古くて狭い体育館の入り口とは反対側に2・3年生がスペースを空けて待機。そこに1年生が中央にかなりのスペースをあけ、その反対側に並んでいく。
入場が始まってから、ランダムなのだろうけど、在校生が1年生に対して一輪の花を渡すとかカードを渡すとかをしていて、おもしろいなあと思っていたんだが、入場が終わりそうなときに狭くて身動きの取れない新入生の上の天井めがけて、糸こんにゃくとか豆腐とか水物をぶつけて、下にまき散らすことをやった在校生がいた。水をかぶった子達は保健室に行ってジャージに着替えたらしいけど、ひどいことをするなあと思った。もしこれが伝統があるならくそくらえだ。
騒然となった会場の中、式は行われ、星白と名乗った生徒会長は、この学校を嫌いにならないで欲しいといったが、それはもう遅いんじゃないか?
そのせいか、その後のクラブ勧誘は、活気がなさそうに見えた。まあ、俺は、目当てのアマチュア無線部の場所をPDAで確認して第3体育館に行った。
「佐藤和己先輩!」遠くから呼ぶと、きょろきょろしてそして、俺を見つけた。
「おう無事合格したんだな。おめでとう。よしよし、んで、うちの部(アマチュア無線部)に入る?」
「ハイ、でも、バイトがあるので余り積極的に参加できないかもしれませんが」
「んー、バイトか~、幽霊部員でも俺はかまわないが、最初の顔見せだけは来てくれ、さすがに他の部員が新人の顔を知らないというわけにはいかないからな。それと、うちの学校は、バイト禁止じゃないのか?」
「一応、校則では申請すれば大丈夫となっています。これから、学校に申請するつもりです。」
「んー、今まで学校に許可もらってバイトしてる奴なんて見たことも聞いたこと無いんだよ。だから、みんな無許可でやってるんじゃないのかなあ」
「そうなんですか?でも、俺って生活費稼がないとだめなんで、正式に許可取ってやらないと後々面倒なんですよ」
「そうなのか。大変そうだが頑張れ。というか、ここに座っててくれ、で、勧誘してくれ。ちょっと、トイレに行ってくる」
「いきなり新人が勧誘ですか?」
「興味のある奴が来たら誘ってみてくれ。まあ、超ドマイナーな部なんで誰も寄りつかんと思うが」
「了解しました」そう言って佐藤部長は、トイレに行って戻ってきたが、誰も来ない。
結局、終了の午後3時までそこに一緒にいたが、誰も来なかった。ていうか、部員自体も来ないというのはどうなんでしょうか。
その時に部活動についてさらに詳しく聞いたが、運動部と文化部の掛け持ちは、成績が落ちると警告。その後改善されないと、運動部の方の活動を休止させられるために、安易に文化部との掛け持ちができなくなっている。もちろん運動部単独加入でも、成績が極端に落ちた場合は、同様の措置がされるが、あくまで極端にというところなので、かなり軽減されている。
文化部の数は総枠が決まっていて、年末の部員数と上半期の部活動成果報告の結果で廃部の可能性もあるらしい。年度当初新入部員の勧誘で部員数5人以上いないと廃部、1月末現在で3年を除いて3人以上いないと廃部になるのだそうだ。要領の良い奴は、1年生で人数をそろえて部なり同好会なりの申請を行い、3年まで部を存続して、廃部してしまうというケースもあるという。
それは稀なケースで、うちの部は、今までギリギリ幽霊部員でなんとか5人そろえてしのいできたけど、今年は2年生が皆無なので、来年度は存続できなさそうなんだと言われた。それって俺、やばくないですか?
それと部と同好会の違いは、存続実績と人数と全国大会の有無や上半期のレポートの評価を元に順位付けされて、順番に部室があたるようになっている。年度末には廃部となった部室の取り合いも毎年起きているのだそうだ。
最後にレポートについてだけど、うちの場合、レポートって添削されて返されるそうで、それに慣れておくと、大学入試の小論文や大学・社会人のレポート時に悩む必要がなくなるらしいと、OBやOGがこの点をことさら強調してたという。面倒がらずにちゃんと取り組んだ方がメリットがあると教えてくれた。
「さっきも言ったけど、ちゃんと来年度のことも考えておくように。今年はとりあえず大丈夫だけどね」
「え?そうなんですか?ちょっと考えちゃうな」
今から違う部に入る気にもならなかったので、そのまま入部届を出し、机を片づけて家に帰った。さあ、明日から授業が始まる。
「ねえ、シュウ。学食行こう」昼に優美が俺に声をかけてくれる。
「おまえさあ、女の子なんだから女同士で行けよ。それに、有希はどうした?」
「えー、有希、学食ダメだからパンだし、私はパンだけじゃ持たないし、今のところ他に知り合いいないし」
「だから、友達作るためのクラスだろうが」
「でもね、せっかくあんた戻ってきたんだし、しかも同じクラスになったんだし仲良くしたいなあって」
優美、くねくねするな気色悪い。
「そうか、おまえ、俺のことLOVEだったのか・・・」
「バカねえそんなわけないでしょ!「と・も・だ・ち」わかる?「と・も・だ・ち」、こんな美人が友達にいるだけであんた男子にうらやましがられるわよ。そうしたら、友達出来るかもよ。あんたこっちに来て日が浅いんだし」
びしっと指さしながら優美は言った。
「ご親切痛み入りますが、間違いが2つほどありますね」
「なによ間違いって」その不服そうな顔はなんだろう。
「美人ってとことお前といると友達が出来るというところ」
「ブスだと言いたいわけね」
「自分から美人って言うやつはたいがい性格がブスだろう。あ、性格「も」か、そんなやつと一緒にいたら俺まで性格悪いのかと思われてしまいそう」
「私に拳を握らせて生きているやつはひとりもいないわよ」そう言いながら優美はすでに拳を握っている。
「だぶん死んだやつも知らんな、では、学食へお先に」そう言ってひらりと席を立ち逃げた。
「言わせておけば、まて、シュウ!!」
「あ、そうそう、周りを見回してからね」周囲のクラスメイトは、珍獣を見るような目で俺たちを見ている。
「え?周り?えええええみんな見てるうううう、恥ずかしーーーー」立ちすくむ優美を置いて俺は食堂に向かう。
<学食にて>
食堂にて日替わり定食を食べる。栄養バランスとコストパフォーマンスを考えての選択だ。その代わり帰ったら玉子もやし炒めでご飯だな。うーんひもじい。
「よ、シュウさん。隣いいですか?」そう言ってその男は、隣に座った。
「名前を馴れ馴れしく呼ぶやつに知り合いはいないが」
「そんな、ひどい、同じクラスなのに顔も覚えていないなんて」
「まだ、2日目なんで、知っているのは2人だけだ、すごいなお前は、全部覚えたのか。んーと」
「柴崎昂(コウ)だ、コーちゃんと呼んでください」
「名古屋?」俺はついつい
「それはコーチン」コウはすかさずそう返す。おおうナイスだ。
「イングリッシュブレックファスト」
「それはこーちゃ」語呂があわないのにうまく韻を踏んでいる。さすがだ。
「おおう即答ですか。では、豊岡市のマスコットキャラクターは何でしょうか?」
「いや、それはオーちゃんでしょう」
「さすがわざと外しに行きますか。正解はコーチャンです」
「まんまじゃないですか」
「コーチャン、クラッター・・・」
「シュウさんや、そのネタ古すぎますよ。今の若い人、誰もわからない、年寄りだって今頃ネットでぐぐってるようなネタですよね」
「誰にいっとるんだか知らないが、お前にはしっかり通じておろうが、こーちゃんふぉー?」
「そう、県内最大規模の書店が・・って、違うって!」こいつ、ノリつっこみもいけるのか。
「ネタにしっかりついてくるあたりボケもツッコミもOKとみた」
「まあ、それは置いといて」手で物を反対側に持って行く仕草をするこーちゃん。ついおもしろくなって、
「持ってきて」
「だから、持ってこないでよ、話が進まんでしょう」
「進めたくないって」
「う~ん、無理矢理進めます。見てましたよ夫婦げんか」
「なにを?」
「さっきの夫婦げんかですよ」
「ああ、あれね。別に夫婦げんかでもないけど」
「そうなんですか?あれだけ呼吸が合っているのに?ああ、夫婦漫才?」
「昔の知り合いさ。それも小学校6年生までのね」
「僕は、彼女と中学時代からのつきあいだけど、シュウ、君のこと知らないけど?幼なじみなの?」
「ああ、小学校卒業前に転校したからな。小学校のクラスメートというのが正確なところだな」
そんな会話をしていると、きょろきょろ回りを見渡しながら優美が来た。
「シュウ、シュウ・・・んーーー、あーーーこんなところにいた! こそこそと学食の隅っこにってあれ、コウじゃん」
「ハウ」コウと呼ばれたコウが、手をあげて挨拶している。
「あんたたち知り合い?」二人を見比べながら優美が言う。
「いいや、突然やってきてお前との関係を詮索されていたところだ。俺と優美のことを息のあった夫婦漫才とか言ってたぞ」
「コウ!」なんか右手が拳を作ってますが。
「いや、夫婦げんかと言っていたんだ、犬も食わないやつ」コウはその拳を見ながらも平然とそう言った。
「対して変わらないじゃない」おいおい腕まくりするなよ、やばそうだな。
「いや、そういわれましても」
「優実」俺はやさしそうに微笑む。
「な、なによ」それにたじろぐ優美。
「ありがとう、君がクラスで騒いでくれたおかげで友達がひとりひっかかったよ」
「え?」なぜかきょとんとする優美。
「コウ、君は僕の友達だ!」
「え?」
「ということで、優実、お前のおかげで友達ができた。だからこれからお前もクラスに友達を作ってくれ。まあ、きっとさっきのやりとりで女子はみんなドン退いているとは思うが」
「いやー、責任とってよシュウ」
「無理」
「つめた!、コウなんとかしなさいよ」
「じゃあ僕のナンパ術でクラスの女子を籠絡しますか」両手の指をいやらしくクネクネする。妙にえっちだ。
「それは、よけい退くと思うが」
「まあ、時間が解決してくれるでしょう?」コウが
「なに達観してるんだよコウ」
「優実」
「なによ、考え事で忙しいのよ」頭を抱えている優美。俺は、時計をさしながら言った。
「飯の時間終わる」振り返って時計を見る優美。あと数分で昼食時間が終了しそうになっている。
「ああっ私のお昼ご飯・・・・・」
「パン買っておいて、休憩時間に食べれば?」
そう言って俺は食器の乗ったお盆を持って立ち上がる。コウもそれに続く。
「休み時間に食べろっての?花の乙女に?」つられて優美も続く
「じゃあ、放課後まで我慢しなダイエットだと思って」食器を棚に戻し、教室に戻ろうと廊下に向かう。
「そういえば、最近2キロほど・・・」コウちゃんが言いかけるとバッキャッッとくの字に吹っ飛ぶコウ。
「それ以上言ったら殴り殺す」
「もう殴ってるって・・・俺は殴るのね、シュウは殴らないのに」コウは転がりながらも会話をやめない。
「あんたは、中学時代さんざん殴ってるからね、タイミングばっちり」
「おおこわ、暴力女だったのか・・・」
「シュウ!あんたも殴られたいのね・・・」ギロリと睨んで両手を組んで指を鳴らしている優美。指をボキボキ鳴らすと軟骨減るらしいよ。
「いや、けっこうです。これ以上関係を持ちたくない」
「なんですって?」後ろにオーラが見えます、見えます。いや2回言うな。
「いえ、なんでもない・・・さ、教室に帰ろう」
「ぞぅ・だ・ね”(そうだね)」
腹を押さえ、声がぶれているコウに肩を貸して俺はその場から退場した。優美は売店に向かったようだ。
翌日から、教室に帰っても漫才は変わらず、漫才トリオが誕生し(さすがにパンチは出なかったが)
まもなく優実は、持ち前のコミュニケーション能力でこのネタを元に他の女子達と友達になっていった。なら最初からやっとけというのに。
<バイト申請>
奥村先生にバイトの申請について話を聞いたところ、学校事務に提出するように言われ、事務の人から説明を聞いたところ、家族からの承諾書、理由の証明書などを出すように求められた。叔父に電話して、書類を送付し、押印の上、返送してもらい、さらに数日かかった。
その後、申請書を何度も書き直しさせられ、いい加減うんざりしていたが、やっと申請書が受理された。そして、しばらく時間がかかるとか言われた。決定までの具体的な日数については不明。さらに追加の書類が必要になるかもしれないとまで言われた。さすが市立高校、さすが役所、さすが公務員、まじで1回で終わらせろよ。
○一週間後
学生の本分は学業です。お昼休みは食事です。今日はお弁当持参です。有希が俺の机に向かい合わせにしてお弁当を食べている。周囲の男達が羨望のまなざしで俺たちを見ている?いや、俺に対して敵意の視線を送ってきているだけだった。
「有希美味しいか?」俺の言葉に有希は頷く。会話はほとんどない。
「またお弁当?良く作るわね」優美が
「生活かかってるから、極貧」
「あんた生活費は?」
「自活だ。早くバイトの許可おりてくれ・・・餓死して死んじゃうっっっ」俺はついつい叫んだ。
「叔父さんのとこから・・・そりゃ無理か」
「無理でしょう普通」
「何の話だい?シュウ」コウが食堂から戻ってきた。
「コウか、ああ、まだ話してなかったっけ、俺、両親死んでいないんだ」
「ほう、大胆な告白だ、それは大変とか言って欲しい?」
「いや、同情するなら金をくれって言いたくなるから」
「おお、「どうした安達」ですな」
「うむ、同志」腕相撲の時のように腕を出す
「同志!」そう言うと、2人はがっちりと手を握りあった。そして腕相撲を始める。
「あんた達、変よね」
「お前に言われる筋合いはない。ドツキ夫婦漫才」俺はそう言った。
実のところ優美とコウの漫才の方が多いのだ。
「なんですって!」優美の拳が飛ぶ。しかし俺はタイミングを外してかわす。
「おお、よけたシュウ、すごい」コウが拍手をした。有希、真似するな。
「俺に来るときにはためらいがある。一瞬動きが止まっ、げほっ」
「今度は躊躇無しかい!!シュウ大丈夫か?」
「いや、予期してなかった分、脳が揺れた」
「でも、どっちにしたって俺は入っている?」
「コウ、私は関係ない」
「あー、世間では「あの漫才トリオ」で通ってるらしい」
「誰から聞いたの」
「あそこで手を振っている、クラスの事情通に、やほー」コウが手を振って、こちらを見ていた女子生徒が手を振り返している。おおう黒髪の綺麗なメガネ美人だ。
「ああ、いいんちょですね。木村香さん」
「いいんちょ?ああ、学級委員になった」
「立候補してなったある意味正統派な学級委員長なんですが、本人はすでに報道部に入るってるらしいけど」
「なるほど事情通ね、で、いくら払ったの」
「はあ、お金なんて払いませんよ」
「ただで情報くれるわけないでしょ。「情報は金也」って校則に・・」
「んなもの載ってるかい」
「いや、情報には情報を」
「どんな情報を?」
「あっちが欲しがっていた優美のスリーサイズ・・・っげふ」立っていたコウの腹を直撃する、
「いつか殺す」
「でも、推測値+願望値だって言っといたよ」
「PDAで確認してみる・・・・」優美がPDAを開いた。その言葉に俺と有希もPDAを確認する。
「へえ、なんでも書き込まれてますねえ」
「なになに・・・確かにコウと俺と漫才トリオって書いてるな。どうりで違うクラスの奴らがたまに来て、俺らの方を見て笑ってたのは、これのせいか」
「そのくらいならいいけど、よく見てよ、個人のプライバシーなんかないも同然だね」
「でも、ちゃんと情報提供者の名前が書いてあるし、根拠もかいてあるようだな」
「一応ね、この端末、外に持ち出すとデータ見られなくなるし、画面を写メしようとしてもスクランブルかかるしプリントアウトもできなくなってるんだよね」
「それ、ちょっとすごくないか?」
「なんでも、ここは、先進施設のモデル校なんだって」
「おれらはモルモットか・・・」
「そんなことはいい、ほれ、このスリーサイズは、本人から正確な値を得るために誰かが入力してる。女子の欄は、ほとんど入力がないな。まあ、嫌われるの前提で申告する男もいないだろうし、女子が入力したら諍いの元だしな。入れる馬鹿はいないか、男の最大身長は・・・57メートル550トンってコ○バトラーかよ!!! しかも自分で申告してる。
「コウ!あんたね、こんなデータ入れたの!ああ!ウェストが!私こんなに太くない!訂正してくる」そういって、いいんちょの元に飛んでいった。
「 はや!」
「情報は、スピードが重要ですから。(byすたあれっど)」
「おお!でも、胸とか尻とかはどうすんだ?」
「本人が申告に言った場合、正確な数値を教えないと数値も変えてもらえないらしいよー」
「それって誰かが申告して一度載ったら」
「そう、無視するか正しい値に変更するかどちらかしかない」
「情報を売ったやつ最悪・・・・でも、普通、無視するよね・・・」
「暫定の方がまだましのような気がする」
「直してきたわ、間違いは許せない!」
「え?じゃあ全部本当の数字教えてきたの?」
「しょうがないじゃない。そうしないとあんなに太いと思われちゃあ・・」
「これさあ、全校生徒が見てるわけだよね、全校生徒にスリーサイズ知られることになるよねえ」
ピコンっとPDAの着信音が鳴った。
「あ、メールだ。なになに、「生徒の基本情報が訂正になりました。1-Hの石川さんです」
おお、ご丁寧にメールで更新を教えてくれるのか、すごいね」コウは感心している。
「あっ! え、えええええええ」
優美は、叫び声がドップラー効果をおこしながらいいんちょの所に向かう。
しかし、がっくり肩を落としてとぼとぼとこちらに帰ってくる。
「ダメだったみたいね」
「さらし者だ・・・」
「いったい何の話してたんだっけ」
「俺の自炊の話だったような」
「まあ、おもしろかったから・・・・」
○悪友祐介登場
俺は、PDAを片手に廊下を歩いていた。バイトの申請からこっち暇すぎて、昼休みや放課後に校舎内外を探検して回っていた。人気のない旧実験棟校舎を歩いている時に向こうから歩いて来る男がいる。誰も使ってないこんな所を歩いているのは、実に怪しい。あ、俺もか。
「こんにちは、我妻さん」その男は丁寧に俺に挨拶をした。
「こんにちは、俺になにか用事?」
「そうです、あなたを探していたんですよ」
「そうですか、さて、なんでしょうか。金ならありませんよ。貧乏ですから」
俺は両手をあげて降参のポーズを取る。
「噂どおりの対応ですね」
「あんた誰?しかもこんな所で会うなんて、偶然とか言わないよね」
今度は俺が警戒モードで話す。
「これは失礼しました。自己紹介がまだでしたね。私は、1年E組の寒河江祐介と申します。実は、お願いがありまして、ぜひとも私と友達になって欲しいと思いまして。どうでしょうかお友達になってもらえませんかねえ」
「俺は、我妻脩一だ。ってさっき呼ばれたから、もうそっちは俺の名前知ってるんだよね。それでお願いしてまでお友達になりたいってどういうことなんだい。何かの冗談?」
「冗談ではありませんし、怒らせるつもりもありません。私は、自分が興味を惹かれた方とお友達になって、楽しく学校生活を送り、想い出を作れたらなあと思っているのですよ」
寒河江と名乗ったその男は、ニコニコしながら言った。大変うさんくさい。
「気持ちは聞いたけど、普通そういうことは、知り合いになってから、友達になるもんじゃないのかい?こう突然やってきて友達になりましょうとかいうものでもないとおもうんだが」
「私は、昔から友達を作るのが不得手でして、どうアプローチするのがいいのかよくわからないんですよ。わざと出会いを演出しても、それはそれで何か変ですし、それが後からばれてもお互い気まずいですしね。だからこう単刀直入にズバっと切り込んでみたわけです。どうですか?」
「正直に話してくれてありがとう。俺も友達を作るのがヘタだし、その気持ちはわかる気がする。だから友達になれるとは思うんだけど、実はね、今は暇だけど、これからバイトの許可が下りれば、ほとんど学校以外はバイトに行くことになると思うんだよね。それでもよければだが」
「私が興味をもったのはまさにそのバイトなんですよ」寒河江がニヤリと笑った。極悪な表情だ。
「バイトが?なんで?」
「この学校はバイトを禁止していない。でも、みんな無許可でバイトをしています。なぜでしょうか?」
「手続きが面倒くさいから?」
「それもありますが、実は、手を変え品を変え圧力をかけてバイトの申請をさせないのです。でも、あなたはひとつずつつぶして、申請までこぎつけたと言うではありませんか。そこが私が気になったところなんです」
「そんなことで?」
「他にもありますが、聞きたいですか?」
「やめとく、なんか聞きたくないかも。最初の印象は最悪だったけど、そのストレートな物言い嫌いじゃない。俺は、友達になるほどの価値はないと思うので、お互い友達(仮)みたいな感じでいかないかい?」
「ありがとうございます。もう一つだけ興味を持った点を言わせてください」
「あ、うん、どうぞ」
「この実験棟に探検に来たのは、新入生であなたが2番目だからです」うれしそうにそう言った。
「じゃあ一番目は・・・寒河江さん?」
「はいそうです。それとユースケと呼んでください」
キラキラにまぶしい笑顔で答えるユースケを見て、俺はちょっと後悔した。
それから、ユースケは、ちょくちょくうちのクラスに遊びに来るようになり、すぐにコウとも意気投合して友達になった。あ、(仮)は、翌日には解消した。ユースケのすごいところは、優美や有希には超紳士な対応ですぐに仲良くなった。それでもやっぱり男同士の方が楽しい。
話してみると、ユースケは、表面上は大人びているけど、時折見せる寂しい瞳は子供の瞳、幼少期にちゃんと遊んでこなかった証、今になって遊びようもないが、まあ、お互い様か。俺も遊びなれてないからな。
さて、この後極悪トリオと呼ばれるシュウコウユースケは、こうしてチームを組んだ。あれ、組んだんだっけ?
<地理巡検>
さて、4月中旬には、1年生初の学校の公式行事がある。地理巡検である。まあ、本当の初の公式行事は入学式だろうと突っ込むのはやめて欲しい。
この地理巡検というのは、市内の名所旧跡を訪ねて(観光とも言うが)そこにまつわる歴史や背景などをレポートにまとめて1学年の終わり、来年の3月までに提出する行事である。
簡単に言うと地理や歴史の勉強である。2日間かけて市内を回る。初日は全員で史跡を巡って先生の解説を聞き、2日目は自分の行きたいところへ自由に行動して情報を集めレポートの基礎資料を収集してくるのである。
えーっ今ならネットで調べれば作れるんじゃん。とか思う人もいるでしょうが、ちゃんと罠が仕掛けられています。初日の史跡巡りの時の説明をちゃんと聞いて、その説明内容が間違っていないかを後で確認しておかないと、レポート提出時にレポートの嘘がばれます。もちろんそのことは事前に説明されていますから、先生の説明のウソを探すのにみんな必死です。
あとは、自分なりのレポートを作れば完成です。
なので、先輩方のレポートを真似をしようとしても難しいのです。まあ、全く同じレポートを出したやつが停学になったという噂も聞きますが本当でしょうか?
一応、個人でレポートを提出するのですが、やはりチームを組んで回った方が効率的です。なので
「コウ、どうする?」
「まあ、このメンバーになるでしょう?ねえおふたりさん」うなずいている女子2名
「まあ、人見知りの有希はわかるが、優美もかよ」
「んー、なんかね微妙に遠慮された」
「遠慮された?」
「4人でちょうど良いんじゃない?ってお邪魔でしょうとも言われた」優美が寂しそうにいった。
「確かにタクシー移動なら4人が限界だが」
「沼田千尋ちゃんとか関谷あさみちゃんとか、と一緒に回ろうとしたんだけど」
「森山直樹君とか洋森しのぶ君は、鏡晶君と一緒に行くって言うし、加藤雅基、中村嘉宏君は、山崎和真君と行くって。あぶれた」
それは誰なの?うちのクラスは、複数名前を持っている男子しかいないのか。
へ?
いやなんでもない。
「シュウ、このメンバーで行こうよ」
「そうだな」
<地理巡検本戦>
地理の先生は、出発前のガイダンスでこうおっしゃられた。
「さて諸君。地理という科目は机に座って地図を眺めていればいいものではない。フィールドワーク。これにつきる」
先生はそこで一旦言葉を切った。
「ということでこの学校では、いやこの学校の社会という科目には地理巡検という課題がある」
「実際に生活しているこの地域にある遺跡・歴史を実際に目で見て肌に感じてそのすべてをレポートにして提出してもらいたい」
「来週2日間かけて現地調査を行い、年度末までにレポートを提出すること。出さなかった場合にはどんなに成績優秀者でも単位を落とし留年とする。いいな」
「一年近くも期間があるんだ、時間がなくてとか言い訳は通用せんからそう思え。では楽しみにしているように」
「一日目はバスハイクですな」
「まあなあ、昔は、録音機材とか持って歩いていたって言ってたな」
「今は楽だよね~スマホとデジカメあれば十分だし、ネットにいくらでも情報もあるしね~」
コウは気楽そうに言った。
「しかし、うちの市は、市町村合併のあおりで市内全域といったら半島の右半分だからすごい広いぞ。最近、新しい遺跡も発掘されて、どんどん新事実が出てきているらしいじゃないか。ネットの情報だけでは、レポートにならないんじゃないか?」
「とりあえず1日目は、西部地区の主立ったもの見て湯ノ川地区と当別いって、2日目は、四稜郭の遺跡のあたり午前中回って、午後からフリーらしいわよ」優美がそう言った。
「午後からどこ回ろうか?」全員が俺を見る。
「俺がその場所を決めるのか?」
「あんた意外にこの辺の地理に詳しいんでしょう?」
「まあ、親に連れられて遺跡も見て歩いたしなあ」
「じゃあよろしく」
本当に何事もなく地理巡検は終わり、レポートは連休前には終了していた。
思えば、バイトが認められる前のこの時が一番普通の生活だったようだ。
この時は誰も彼が伝説を作り始めるとは思ってもみなかった。彼自身も。
Appendix
あれが例のバイトの申請をめげずに提出し続けた生徒ですか
そうでつ。親が死んでいるそうで、生活が苦しいそうでつ。
死んでいる。
交通事故でつ
なるほどね。それでも学校はバイトを認める気はないようですね。
そうでつ。むしろ申請中にバイトを始めてもらいたいのではないでつかね。
生徒を守るための生徒会としてはなんとかしないとなりませんね。
学校と敵対するでつか?
まあ、やりようはあるでしょう。
守る価値があるでつか?
あなたの親戚が友人でも?
ああ、あれは気にしてないでつよ。血縁ともいえないです。知り合いではあるでつけどね。
まあ、しばらくは静観しましょうか
続く
それは、4月初旬のこと。
俺は今、入学した高校に向かっている。
うちの市は、雪の多い北の方にあるので桜の時期にはまだ早いし、日中でも風はまだ寒い。
今は、朝の8時、今日は風もなく、太陽のおかげで暖かく感じている。
「市立東央高校」、それが自分がこれから通う高校だ。
その高校は、市内では3番目くらいで、1番上の県立、次が全国でも有名な私立で、その次にあたる。進学も就職もある程度する高校である。
市内中心部にあるが、その敷地面積は県内1で、全国でも有数の敷地面積を誇り、野球場2、ラグビー場、サッカー場、テニスコートの他、体育館が4、柔道場、弓道場、剣道場、相撲の土俵などと合宿施設、鬱蒼とした小公園が校舎の裏手に広がり、さらにその周囲は、杉林に囲まれていて騒音で周囲の住民に迷惑をかけないようになっていた。もっともその杉林自体は学校のものではない、国有林で伐採保護区となっていて、森の中の静かな佇まいの高校となっている。
高校の敷地の横には、重要文化財に指定された公園があり、公園の外周にある堀の周回路もうちの高校のマラソンコースとして活用されていると聞いている。
高校に向かう生徒達は、知り合いと楽しそうに学校に向かっている。
制服のくたびれ方で先輩後輩がわかりそうだ。うちの制服は、男子がブレザーと中にベストを着てスラックスの3ピース構成で女子の制服も同じだが、若干バリエーションやデザインが違う。そして各学年がわかるように女子がリボン、男子がネクタイの色が違う。あわせて、スカートやスラックスのチェック柄の色も合わせて変えてある。制服が初々しくてちょっとギクシャクしているのが一年生だと思う。もちろん俺もそうだ。着慣れない衣装を着ている自分がちゃんと歩けているいるか不安だ。
そして、でかい敷地のおかげで、校門までの道のりがえらい大変である。敷地と道路を隔てるフェンスが見えてから、ややしばらく歩いて、やっと校門にたどり着いた。
校門には、でっかい入学式と書かれた看板が立てられ、両親と共にその門をくぐる者や、在校生なのか1人、または複数人で入っていく者達もいる。
この学校は、1クラス45人で特進の理数科を含め各学年10クラスあり、3学年で総勢1350人が在校していることになる。なので、学年ごとに玄関が分けられていて、一番手前が3年生で一番門から遠いのが1年生の玄関らしい。それぞれの玄関前にクラス別の名簿が張り出されていた。
校門を抜けてから、俺は、ふいに思い出して、学校から貸与されたPDAの電源を入れた。IPPDという変なロゴのOSが立ち上がり、PDAのメニュー画面が現れた。特に何も表示はされていない。それもそうだ、最初の説明でも校舎内に入らないと何も表示されないと言っていた。
先週、入学前のガイダンスが市民体育館で行われ、指定された教科書やジャージなどを受け取った時に、このPDAを渡され、誓約書にサインをさせられた。その時に入学時に門から入った際に電源を入れることを重ねて説明されていた。もちろん何も起きないことも。
画面を確認してから、1年の玄関の横に張ってある、クラス別に名前の書かれた掲示板を見る。最近の個人情報保護の観点からは、少し外れている気もしないではないが、まあ、学生として一緒に生活していくのだから、名前程度の個人情報は、問題ないのだろう。
俺は、普通の感覚として1-Aから見始める。玄関に近い方から1-Aとなっていたので、A組から順に確認していく。
A組には名前がない、ない、ない。E組をすぎるとちょっと不安になった。あれ?俺って入学してたよね?とか思ってしまった。まあ、合格発表の時に受験番号は3回くらい確認したし、事前のガイダンスにも参加できているのだから問題ないはずだと、自分の中の不安を打ち消し、でも、少しあせりつつクラスごとに2回ずつ確認して次のクラスの表にうつる。
おお、あった。H組だ。ほっとしつつ、それでも、不安になっていた自分に「ばかじゃねーの」と心の中でつっこみをいれ、玄関に向かう。1年生の玄関だけあって、親がついてきている人がけっこういる。
まあ、俺は1人だけどね。もちろん、親うぜえとか、ばばあだから来ないでとか親に言ったわけではない、いないからだ。だからといって、施設で暮らしていたわけでもない、3年間育ててくれた叔父夫婦もいる。叔父夫婦の家は少し離れているし、今日は仕事のため来られなかったというだけだ。
まあ、来なくてもいいと説得はしたのだけれど。
玄関に入って靴箱を探していると。PDAからアラームの音がした。画面では、操作を要求している。指紋認証のボタンを押す。
「ようこそ、東央高校へ、ご入学おめでとうございます。あなたは1年H組です。下駄箱はこちらです」と玄関の案内図と自分の立っている位置、そして下駄箱の位置を表示している。なるほど、PDAの電源を入れろというのは、こういうことか。大体の位置を把握して移動する。すると、今度は、PDAの画面表示が下駄箱の表示にかわり、自分の靴箱の位置が表示され、顔を上げて下駄箱を直接見ると、靴箱の名前の欄がぼんやりと光っている。
「こりゃあすごいな」思わずつぶやいてしまった。今時の高校はみんなこうなのだろうか?
持参した上靴にはきかえ、履いてきた革靴を入れようと取っ手に手をかけたが、開かない。するとPDAから、「PDAを扉にかざしてください」というガイダンスが流れた。PDAを靴箱にかざす。すると、「カチッ」という音と共にロックがはずれた。取っ手に手をかけると、今度は扉が開いた。靴を入れて扉を閉めると「カチッ」と言う音と共にロックされた。思わずもう一度PDAをかざしてみる。すると「カチッ」という音と共にロックが解除された。なるほど、これはすごいや。そう思いながらもう一度ロックを外し扉を開けないで見ていると、「カチッ」とロックがかかった。一定時間操作しないと自動的にロックされるのか。なるほど。
これでは、一昔前みたいにラブレターを下駄箱に入れるとかできないなあ、とか変なことを考えたが、現実的には靴にいたずらされないようにしているのだろう。いじめ防止か?そんな事を考えながら、そこから移動して、廊下を見渡す。またもPDAが「あなたの教室はこちらです」と、今度は、教室までの移動ルートが表示され、車のナビのように画面に廊下が表示されている。すごい、今いる位置から見えている風景と全く同じ風景がPDAの画面に表示されている。いや、いつのまにかカメラモードになっていて、そこに矢印が表示されているようだ。こんなもの無くても行けそうだけど、迷う人は迷うからなあ、とか思いつつ、階段を4階まで昇り、目的の教室に到着する。
ドアは開いていた。教室に入ると、今度は座席位置まで知らせてくれる。しかし音声は出なかった。教室の黒板が全面液晶画面になっており、そこにも表示されている。念のため黒板の座席とPDAの座席を確認して自分の席に座った。まあ、俺の席はわかりやすい。なんたって一番前である。しかもなぜか窓側の一番前だ。
俺の名は、「我妻脩一(あずましゅういち)」これからこの高校で勉強とバイトを頑張ろうと思う。
教室にはすでに何人かの生徒はいるが、緊張しているのかみんな静かなものだ、早く登校して正解だった。
俺は、PDAに表示されるクラス名簿を見ていた。実は、3年前ほど前の小学6年生までは、うちの市に住んでいたので、誰かいないかと探していたが、3年前のはずなのに記憶が曖昧だ。まあ、小学校から中学校に進学するときは、同じ校区の奴も一緒に進学するので知り合いもいるかもしれないが、高校は市内と各周辺市町村から集まってくるのだから、知り合いがほとんどいないのもうなずける。
そう思いながら、画面をみてぼーっと考えていたら、目の前に人影がさした。
<1年生に入学:優実と有希>
顔を上げるとそこには、ショートカットにリムレスメガネの小さい女の子が立っていた。
「・・・・」無言のまま俺をじっと見ている。小学校時代の知り合いなのか?と、おぼろげな記憶をたどってみる。髪の毛が少し跳ねていて耳のようにも見える。あ、猫。
「ゆき、有希か?」にこっと笑ってうなずく。そしてまた見つめる。
「久しぶりだな、有希」小学6年生の夏、捨て猫をめぐってバタバタした時に悲しい思いをさせてしまった女の子だった。あの時は、何もできなくてごめん。というかそんな想い出さえ忘れかけていたとは、ちょっとふがいない。
「あら、有希なにやってんのよ、誰?その人」
そう言って近づいてくる女の子がいた。セミロングのちょっと日焼けしている女の子。ああ、こっちは強烈に憶えている。近所のガキ大将だったやつだ。
「あー、シュウ?やっぱりシュウだ」
俺をびしっと指さして言う。あいかわらずのポーズとあいかわらず声がでかい。教室内のこれから同級生になるだろう皆さんかから注目を浴びてしまっている。
「あらー、最初わかんなかったよ、私、わかる?」
顔は覚えている。でも、名前がでてこない。でも、俺は、おぼろげな記憶をたどって、知っている名前を言う。
「い・・石川さん?」
「そう、石川優実よ ユ・ミ、こっちに帰ってきたんだ」
「ああ、大学に進学したいからね、久しぶりだね、石川さん」
「まあ、大学目指すなら当然だよね、ここ進学校だもんね、私なんかついていけるのかなあ」
たははと笑いながら言う。あいかわらずマイペースだ。有希は、石川さんの真似をして、たははと笑っている。有希、真似すんな。
「合格できたと言うことは、大丈夫だろう?きっと」勝手なことを俺は言った。
「え?私、ぎりぎりよ、でもね、親友が行くって言うからがんばっちゃった。」
そう言って石川さんは、有希を見る。なんだか有希はぼーっと俺を見ている。おーい会話に入ってこーい。もしかして、スルーしたということは、親友じゃないのか?
「それにしても有希、あんた我妻と知り合いだったの?だいたい有希は、男の子と話すの苦手でしょうが」
俺と有希とを見比べながら不思議そうに言った。有希が石川さんに耳打ちする。
「昔、困ったときに手を貸してくれた?そうなのね、そのとき私入院してたって?ふうん」
なんか2人で話し込んでいる。石川さんは相変わらず元気そうだ、セミロングの髪に快活な笑顔、美人とまではいかないが、人懐っこい雰囲気は変わらない。
「もう、話聞きなさいよ、まあ、これからよろしくね」
ほどなく予鈴がなって、生徒達はおのおのの席について、先生を待った。
本鈴と共に担任が来た。結構年齢が高い。長身で白髪をオールバックにしている。受け持ちの科目は物理だそうだ。
「おはよう皆さん。私は奥村という。このクラスの担任だ。これからよろしく。この1年間つきあっていく上で何点か先に行っておく。
まず、高校は、自分が来たくてここにいると言うこと。まあ、不本意に来ている者もいるかもしれないが、それでも、来るという意志を持っていなければここにいないと言うことだ。嫌ならいつでもやめられる。やめる権利を君たちは持っていると言うこと。小学校や中学校のような義務教育ではないと言うこと。
二つ目は、このクラスには最低でも1年間は、全員で学校生活をしてくことになること。馬が合おうが合うまいが、1年間は一緒だ。それは私も同じだ。だから、お互い親しくなるのも口をきかないのも自由だが、集団生活をしていく上で最低限度のマナーを守りなさいと言いたい。あくまでアドバイスだがな。
三つ目だ。犯罪は犯すなということ。ここに来たのは君たちの自由意志だと私は言ったが、君たちは未成年で、あくまで親の庇護下での意志の行使であること。はっきり言うと、お前ら親に食わせてもらってんだから親に迷惑かけるなということだ。まあ、親がいない奴がいたとしても、後見人とか親権者とか誰かの監督下にいるんだから、迷惑かけるなら成人後にしろということだ。端的に犯罪起こしたりとか、学校内で喧嘩して退学だとか、留年するとか色々な問題を起こすなという事だ。もし、巻き込まれた場合にはちゃんと言え。言わなきゃ守ってもやれない。そんなところかな。
あと、PDAは絶対壊すなよ。有料だし、私まで始末書だ」
わはははと、先生は笑っているが、最後にしゃれにならないオチを持ってきて笑いを取るつもりだったのか、誰も笑わなかった。むしろ暗い雰囲気になっている。先生は、やばいと思ったのか
「言い忘れたが、この学校は行事も多い、行事を通じて先輩や後輩、同じ学年みんな仲間意識が強くなる。想い出もたくさん作れる。ぜひとも「ああこの学校に来て良かった」と思ってもらいたい。まあ、行事に追われて勉強が疎かになるかもしれないから、それだけは気をつけてな。みんながんばってくれ」
そこで一息ついて、先生は続ける。
「それでは、手持ちのPDAの簡単な使い方を教える。これは、最初に教えて良いのはここまでだ、と言われているところまでだ」みんながぽかんとしている。
「俺は、親切だから教えてやるけど。つまりは、自分で使いこなせるようになれということさ」そう言って先生は説明を始める。
電源のオンオフから、校則、生徒名簿、スケジューラ、録画、録音、掲示板、SNSなどが機能としてあることだけ教えられた。使い方まで教えてくれない。自分で使って試してみて、マニュアルを読んで憶えろと言っている。さすがに仕様書までは、見られなかったが。とりあえず、先生はマニュアルに従って説明していた。これは、きっとどのクラスも同じ事を言っているに違いない。つまり全員スタートラインは一緒ということだ。使いこなせれば学校生活が有利に、いや、楽しくなるのだろう。ということにしておく。
「さて、ここでやっと自己紹介だが、時間がない。名前と出身中学くらいと何か言いたいことがあればそれを言って終わりにしよう。あとで、自分のプロフィール欄に言い足りないことを書いておけ。では、出席番号1番我妻」
「はい、蘭輿中学から来ました我妻脩一です。よろしくお願いします」
俺は立って、自己紹介をした。すると出身中学校がいきなり区域外であることからざわつく。
ここは市立高校である。つまり市内の生徒を優先していて市外からの受験生の枠は絞られている。当然、市外からの者は、優秀な者しか受験しないからだ。まあ、本当に頭の良い奴は、この圏域トップの県立高校を受験すればいいことで、そこがやばそうな奴で、私立に行くだけ金がない奴が受験している。それだけに頭は、トップクラスである・・・らしい。というかそう思われている。実際は違うのだけれど。
そうこうしているうちに全員の自己紹介が終了したところで、タイミング良く校内放送がかかった。
ピンポンパンポーン「新入生及びご来場の父兄の方にお知らせします。ただいまから入学式を開催しますので、皆さん第1体育館にお集まりください。繰り返します~」
PDAが震えて第1体育館の場所の地図が示され、ルートも示されている。
「おら、いくぞ」奥村先生がみんなを促す。全員立ち上がり、PDAを見ながら廊下に出た。まあ、俺は、PDAを見ながらみんなについていった。PDAは見ていたが、案内ではなく校則を必死になって読んでいた。ある項目を探して。
入学式は、滞りなく終了し、クラスに戻り、明日の予定が説明された。明日は、在校生と新入生の対面式があるそうだ。その後、クラブ棟や体育館内でクラブ勧誘が行われるようだ。
ガイダンスによると、この学校は進学校だが、部活動を推奨していて、部活動はよほどの理由がない限りは、必須となっているらしい。文化系クラブと運動系クラブの掛け持ちも可。しかし、成績が悪い場合には、部活動停止にもなるようになっている。当然、幽霊部員をやりやすい文化部の入部者が多くなるが、幽霊部員でいることはできない工夫がされている。学年末に「個人の部活動の記録」をレポートにして提出することとなっているからだ。しかも、先輩の過去レポートなどをパクった場合は、留年にされると言う噂である。このため、入る部活の選択も重要になってくる。なお、運動部は、ある程度のフォーマットが作られている。大会記録の優劣だけでなく、自分の運動機能の向上に向けてどのような訓練をしたのか、目的・訓練内容・結果のフィードバックまでがレポートとなっている。これからのスポーツマンは馬鹿ではいられないからなのだそうだ。
帰り道、たまたま、石川さんと有希と一緒に帰ることになった。
「すごい学校ね、クラブ入部必須なんて。進学校なのにね」
「そうだな。奥村先生の言う、上級生と下級生、同学年同士のつながりのためなのかな」
「そうだとしても部活強要は、ちょっとひどすぎない?」
「まあな、でも、学校の受験要覧には出ていたみたいだよ」
「え、読んだの?」不思議そうに石川さんが言う。
「俺がじゃなくて、要覧を読んだ叔母さんが教えてくれた」
「そうよね、あんなもの読むわけ無いわよね」
「ゆ・・石川さんはどうするんだい?」
「ああ、もう優美でいいわよ。私なんか最初からシュウって読んでたでしょう?」
「それは助かる。ん、でどうするんだ?」
「あー私は、陸上部よ。種目は、短距離と障害」優美は指を折りながらそう言った。
「なるほど、有希は?」おもむろに小さなカバンから文庫本を出して俺に見せた。
「文芸部か」うなずく有希。
「で、シュウはどうするのよ」
「俺は、バイトしなきゃならないからなあ。暇のありそうな部に・・・」
「って、バイトするの?」俺は優美に肩をつかまれ、立ち止まらされた。ビックリするじゃないか。
「ああ、知ってるだろう?俺、両親いないし」さすがに目は合わせられない。哀れみの目で見られたくなかった。
「まあ、知ってるけど。叔父さんの所で暮らしてるんでしょ?」
「いや、「暮らしてた」だ。今は、自分の家に戻ってきて1人で暮らし始めたんだ」
「生活費は?」
ちらっと見ると怒ったような真剣な目で見ている。有希は、喧嘩しているように見えたのか、どうしていいかわからずおろおろと俺たちを見ている。
「とりあえず、授業料は免除だから問題ないけど、それ以外の経費と生活費を捻出しなければならない。当面は貯金ですごして、バイトできるようになったらそれでなんとか。それからは大学の資金の貯金だ」
「そうなのね」優美は目を伏せたようだ。
「まあ、校則やら読んだら、奨学金制度もあるみたいだし、バイトも申請すれば大丈夫みたいだから何とかなるんじゃね?」
努めて明るく言った。返ってくる言葉がないので、さらに続ける。
「だから、楽な文化部をと思ってクラブ一覧見てたら、アマチュア無線部ってのがあって、そこの部長がハム仲間みたいなんだよ。だからこれで安心かなって」
「ま、がんばりなさい」背中をバンっとたたいて、優美は走り出した。
「用事があるからここでお先するね。また明日!」
優美は走りながら手を振って交差点を曲がっていった。有希は俺を見ていて、袖をつんつんと引っ張る。何か話したいことがあるのか。俺は頭を下げる。俺の頭をなでた。そしてにっこり笑って。
「さようなら。また明日」と言って。同じように交差点を曲がっていった。
「やっぱり、ひとりになると寂しいねえ」独り言を言って俺は、自宅に戻った。
俺が、独りになったのは、まあ、ありきたりな話である。両親は俺を置いて交通事故で亡くなった。小学校6年生の冬である。中学校の制服もまだ買っていない頃。相手の車が対向車線をはみ出してきての正面衝突。相手は盗難車。運転者は逃げて捕まらない。葬儀の時から誰が引き取るのかという話が始まっていた。生命保険加入の話は伏せられていて、無一文らしいという誤情報から、親戚は誰も引き取ろうとはしなかった。まあ、両親もあまり親戚付き合いもしていなかったから当然でもある。
そんな時に俺の両親の友人であるという夫婦が、誰も引き取り手がいないのであれば、私が引き取りたいと言ってくれた。親戚は諸手をあげて賛成し、喜々として同意書(念書)に連名で署名をしてくれたという。実は、俺の両親から何かあった時に頼むと言われていたらしく、生命保険の存在も知っていて、親戚の様子を伺っていて引き取り手が現れたらそれを教えようとしていたとも言っていた。
そうやって俺は叔父夫婦に引き取られたのだが、俺は、実のところその時のことをよく憶えていない。そして、引き取られた先の叔父夫婦には、2人の子どもがいた。
ひとつ下の蓮美という女の子とその1つ下の省という男の子。名字は石垣。だから叔父夫婦とも従姉弟とも血のつながりは全くない。そして、小学校の卒業式も参加せず、叔父のところに引っ越して、そこで中学校に入学した。たいした話ではないし、叔父夫婦もいい人だったので、「お父さん」「お母さん」と呼ぶまでにたいした時間はかからなかった。
一番打ち解けなかったのは、蓮美である。いや、むしろいじめられていた。というのも、蓮美は養子であり、俺が同居することになった時にそれを知り、入れ替わりに捨てられると思ったのだそうだ。どちらかがここでの生活から切り離されると不安に思ったのだそうだ。今考えればそんなことは、ありえないと思うのだが、その時の私はどうかしていた。と、いじめを謝られた時にそう語ってくれた。俺自身は、そうされるのが当然で、むしろ受け入れられているのが不安だったのだ。だからむしろいじめられることで、安心していた面もあった。
まあ、そんな訳で俺は、地元の高校を受験し、独りで小学校6年生まで住んでいた家に戻り、今ここに至っている。
翌朝、弁当を作って持って行っても良いのかよくわからなかったので、手ぶらで登校した。交差点には、昨日別れた2人が待っていてくれて、ちょっとうれしかった。
そして、在校生と新入生の対面式が行われた。
木造の古くて狭い体育館の入り口とは反対側に2・3年生がスペースを空けて待機。そこに1年生が中央にかなりのスペースをあけ、その反対側に並んでいく。
入場が始まってから、ランダムなのだろうけど、在校生が1年生に対して一輪の花を渡すとかカードを渡すとかをしていて、おもしろいなあと思っていたんだが、入場が終わりそうなときに狭くて身動きの取れない新入生の上の天井めがけて、糸こんにゃくとか豆腐とか水物をぶつけて、下にまき散らすことをやった在校生がいた。水をかぶった子達は保健室に行ってジャージに着替えたらしいけど、ひどいことをするなあと思った。もしこれが伝統があるならくそくらえだ。
騒然となった会場の中、式は行われ、星白と名乗った生徒会長は、この学校を嫌いにならないで欲しいといったが、それはもう遅いんじゃないか?
そのせいか、その後のクラブ勧誘は、活気がなさそうに見えた。まあ、俺は、目当てのアマチュア無線部の場所をPDAで確認して第3体育館に行った。
「佐藤和己先輩!」遠くから呼ぶと、きょろきょろしてそして、俺を見つけた。
「おう無事合格したんだな。おめでとう。よしよし、んで、うちの部(アマチュア無線部)に入る?」
「ハイ、でも、バイトがあるので余り積極的に参加できないかもしれませんが」
「んー、バイトか~、幽霊部員でも俺はかまわないが、最初の顔見せだけは来てくれ、さすがに他の部員が新人の顔を知らないというわけにはいかないからな。それと、うちの学校は、バイト禁止じゃないのか?」
「一応、校則では申請すれば大丈夫となっています。これから、学校に申請するつもりです。」
「んー、今まで学校に許可もらってバイトしてる奴なんて見たことも聞いたこと無いんだよ。だから、みんな無許可でやってるんじゃないのかなあ」
「そうなんですか?でも、俺って生活費稼がないとだめなんで、正式に許可取ってやらないと後々面倒なんですよ」
「そうなのか。大変そうだが頑張れ。というか、ここに座っててくれ、で、勧誘してくれ。ちょっと、トイレに行ってくる」
「いきなり新人が勧誘ですか?」
「興味のある奴が来たら誘ってみてくれ。まあ、超ドマイナーな部なんで誰も寄りつかんと思うが」
「了解しました」そう言って佐藤部長は、トイレに行って戻ってきたが、誰も来ない。
結局、終了の午後3時までそこに一緒にいたが、誰も来なかった。ていうか、部員自体も来ないというのはどうなんでしょうか。
その時に部活動についてさらに詳しく聞いたが、運動部と文化部の掛け持ちは、成績が落ちると警告。その後改善されないと、運動部の方の活動を休止させられるために、安易に文化部との掛け持ちができなくなっている。もちろん運動部単独加入でも、成績が極端に落ちた場合は、同様の措置がされるが、あくまで極端にというところなので、かなり軽減されている。
文化部の数は総枠が決まっていて、年末の部員数と上半期の部活動成果報告の結果で廃部の可能性もあるらしい。年度当初新入部員の勧誘で部員数5人以上いないと廃部、1月末現在で3年を除いて3人以上いないと廃部になるのだそうだ。要領の良い奴は、1年生で人数をそろえて部なり同好会なりの申請を行い、3年まで部を存続して、廃部してしまうというケースもあるという。
それは稀なケースで、うちの部は、今までギリギリ幽霊部員でなんとか5人そろえてしのいできたけど、今年は2年生が皆無なので、来年度は存続できなさそうなんだと言われた。それって俺、やばくないですか?
それと部と同好会の違いは、存続実績と人数と全国大会の有無や上半期のレポートの評価を元に順位付けされて、順番に部室があたるようになっている。年度末には廃部となった部室の取り合いも毎年起きているのだそうだ。
最後にレポートについてだけど、うちの場合、レポートって添削されて返されるそうで、それに慣れておくと、大学入試の小論文や大学・社会人のレポート時に悩む必要がなくなるらしいと、OBやOGがこの点をことさら強調してたという。面倒がらずにちゃんと取り組んだ方がメリットがあると教えてくれた。
「さっきも言ったけど、ちゃんと来年度のことも考えておくように。今年はとりあえず大丈夫だけどね」
「え?そうなんですか?ちょっと考えちゃうな」
今から違う部に入る気にもならなかったので、そのまま入部届を出し、机を片づけて家に帰った。さあ、明日から授業が始まる。
「ねえ、シュウ。学食行こう」昼に優美が俺に声をかけてくれる。
「おまえさあ、女の子なんだから女同士で行けよ。それに、有希はどうした?」
「えー、有希、学食ダメだからパンだし、私はパンだけじゃ持たないし、今のところ他に知り合いいないし」
「だから、友達作るためのクラスだろうが」
「でもね、せっかくあんた戻ってきたんだし、しかも同じクラスになったんだし仲良くしたいなあって」
優美、くねくねするな気色悪い。
「そうか、おまえ、俺のことLOVEだったのか・・・」
「バカねえそんなわけないでしょ!「と・も・だ・ち」わかる?「と・も・だ・ち」、こんな美人が友達にいるだけであんた男子にうらやましがられるわよ。そうしたら、友達出来るかもよ。あんたこっちに来て日が浅いんだし」
びしっと指さしながら優美は言った。
「ご親切痛み入りますが、間違いが2つほどありますね」
「なによ間違いって」その不服そうな顔はなんだろう。
「美人ってとことお前といると友達が出来るというところ」
「ブスだと言いたいわけね」
「自分から美人って言うやつはたいがい性格がブスだろう。あ、性格「も」か、そんなやつと一緒にいたら俺まで性格悪いのかと思われてしまいそう」
「私に拳を握らせて生きているやつはひとりもいないわよ」そう言いながら優美はすでに拳を握っている。
「だぶん死んだやつも知らんな、では、学食へお先に」そう言ってひらりと席を立ち逃げた。
「言わせておけば、まて、シュウ!!」
「あ、そうそう、周りを見回してからね」周囲のクラスメイトは、珍獣を見るような目で俺たちを見ている。
「え?周り?えええええみんな見てるうううう、恥ずかしーーーー」立ちすくむ優美を置いて俺は食堂に向かう。
<学食にて>
食堂にて日替わり定食を食べる。栄養バランスとコストパフォーマンスを考えての選択だ。その代わり帰ったら玉子もやし炒めでご飯だな。うーんひもじい。
「よ、シュウさん。隣いいですか?」そう言ってその男は、隣に座った。
「名前を馴れ馴れしく呼ぶやつに知り合いはいないが」
「そんな、ひどい、同じクラスなのに顔も覚えていないなんて」
「まだ、2日目なんで、知っているのは2人だけだ、すごいなお前は、全部覚えたのか。んーと」
「柴崎昂(コウ)だ、コーちゃんと呼んでください」
「名古屋?」俺はついつい
「それはコーチン」コウはすかさずそう返す。おおうナイスだ。
「イングリッシュブレックファスト」
「それはこーちゃ」語呂があわないのにうまく韻を踏んでいる。さすがだ。
「おおう即答ですか。では、豊岡市のマスコットキャラクターは何でしょうか?」
「いや、それはオーちゃんでしょう」
「さすがわざと外しに行きますか。正解はコーチャンです」
「まんまじゃないですか」
「コーチャン、クラッター・・・」
「シュウさんや、そのネタ古すぎますよ。今の若い人、誰もわからない、年寄りだって今頃ネットでぐぐってるようなネタですよね」
「誰にいっとるんだか知らないが、お前にはしっかり通じておろうが、こーちゃんふぉー?」
「そう、県内最大規模の書店が・・って、違うって!」こいつ、ノリつっこみもいけるのか。
「ネタにしっかりついてくるあたりボケもツッコミもOKとみた」
「まあ、それは置いといて」手で物を反対側に持って行く仕草をするこーちゃん。ついおもしろくなって、
「持ってきて」
「だから、持ってこないでよ、話が進まんでしょう」
「進めたくないって」
「う~ん、無理矢理進めます。見てましたよ夫婦げんか」
「なにを?」
「さっきの夫婦げんかですよ」
「ああ、あれね。別に夫婦げんかでもないけど」
「そうなんですか?あれだけ呼吸が合っているのに?ああ、夫婦漫才?」
「昔の知り合いさ。それも小学校6年生までのね」
「僕は、彼女と中学時代からのつきあいだけど、シュウ、君のこと知らないけど?幼なじみなの?」
「ああ、小学校卒業前に転校したからな。小学校のクラスメートというのが正確なところだな」
そんな会話をしていると、きょろきょろ回りを見渡しながら優美が来た。
「シュウ、シュウ・・・んーーー、あーーーこんなところにいた! こそこそと学食の隅っこにってあれ、コウじゃん」
「ハウ」コウと呼ばれたコウが、手をあげて挨拶している。
「あんたたち知り合い?」二人を見比べながら優美が言う。
「いいや、突然やってきてお前との関係を詮索されていたところだ。俺と優美のことを息のあった夫婦漫才とか言ってたぞ」
「コウ!」なんか右手が拳を作ってますが。
「いや、夫婦げんかと言っていたんだ、犬も食わないやつ」コウはその拳を見ながらも平然とそう言った。
「対して変わらないじゃない」おいおい腕まくりするなよ、やばそうだな。
「いや、そういわれましても」
「優実」俺はやさしそうに微笑む。
「な、なによ」それにたじろぐ優美。
「ありがとう、君がクラスで騒いでくれたおかげで友達がひとりひっかかったよ」
「え?」なぜかきょとんとする優美。
「コウ、君は僕の友達だ!」
「え?」
「ということで、優実、お前のおかげで友達ができた。だからこれからお前もクラスに友達を作ってくれ。まあ、きっとさっきのやりとりで女子はみんなドン退いているとは思うが」
「いやー、責任とってよシュウ」
「無理」
「つめた!、コウなんとかしなさいよ」
「じゃあ僕のナンパ術でクラスの女子を籠絡しますか」両手の指をいやらしくクネクネする。妙にえっちだ。
「それは、よけい退くと思うが」
「まあ、時間が解決してくれるでしょう?」コウが
「なに達観してるんだよコウ」
「優実」
「なによ、考え事で忙しいのよ」頭を抱えている優美。俺は、時計をさしながら言った。
「飯の時間終わる」振り返って時計を見る優美。あと数分で昼食時間が終了しそうになっている。
「ああっ私のお昼ご飯・・・・・」
「パン買っておいて、休憩時間に食べれば?」
そう言って俺は食器の乗ったお盆を持って立ち上がる。コウもそれに続く。
「休み時間に食べろっての?花の乙女に?」つられて優美も続く
「じゃあ、放課後まで我慢しなダイエットだと思って」食器を棚に戻し、教室に戻ろうと廊下に向かう。
「そういえば、最近2キロほど・・・」コウちゃんが言いかけるとバッキャッッとくの字に吹っ飛ぶコウ。
「それ以上言ったら殴り殺す」
「もう殴ってるって・・・俺は殴るのね、シュウは殴らないのに」コウは転がりながらも会話をやめない。
「あんたは、中学時代さんざん殴ってるからね、タイミングばっちり」
「おおこわ、暴力女だったのか・・・」
「シュウ!あんたも殴られたいのね・・・」ギロリと睨んで両手を組んで指を鳴らしている優美。指をボキボキ鳴らすと軟骨減るらしいよ。
「いや、けっこうです。これ以上関係を持ちたくない」
「なんですって?」後ろにオーラが見えます、見えます。いや2回言うな。
「いえ、なんでもない・・・さ、教室に帰ろう」
「ぞぅ・だ・ね”(そうだね)」
腹を押さえ、声がぶれているコウに肩を貸して俺はその場から退場した。優美は売店に向かったようだ。
翌日から、教室に帰っても漫才は変わらず、漫才トリオが誕生し(さすがにパンチは出なかったが)
まもなく優実は、持ち前のコミュニケーション能力でこのネタを元に他の女子達と友達になっていった。なら最初からやっとけというのに。
<バイト申請>
奥村先生にバイトの申請について話を聞いたところ、学校事務に提出するように言われ、事務の人から説明を聞いたところ、家族からの承諾書、理由の証明書などを出すように求められた。叔父に電話して、書類を送付し、押印の上、返送してもらい、さらに数日かかった。
その後、申請書を何度も書き直しさせられ、いい加減うんざりしていたが、やっと申請書が受理された。そして、しばらく時間がかかるとか言われた。決定までの具体的な日数については不明。さらに追加の書類が必要になるかもしれないとまで言われた。さすが市立高校、さすが役所、さすが公務員、まじで1回で終わらせろよ。
○一週間後
学生の本分は学業です。お昼休みは食事です。今日はお弁当持参です。有希が俺の机に向かい合わせにしてお弁当を食べている。周囲の男達が羨望のまなざしで俺たちを見ている?いや、俺に対して敵意の視線を送ってきているだけだった。
「有希美味しいか?」俺の言葉に有希は頷く。会話はほとんどない。
「またお弁当?良く作るわね」優美が
「生活かかってるから、極貧」
「あんた生活費は?」
「自活だ。早くバイトの許可おりてくれ・・・餓死して死んじゃうっっっ」俺はついつい叫んだ。
「叔父さんのとこから・・・そりゃ無理か」
「無理でしょう普通」
「何の話だい?シュウ」コウが食堂から戻ってきた。
「コウか、ああ、まだ話してなかったっけ、俺、両親死んでいないんだ」
「ほう、大胆な告白だ、それは大変とか言って欲しい?」
「いや、同情するなら金をくれって言いたくなるから」
「おお、「どうした安達」ですな」
「うむ、同志」腕相撲の時のように腕を出す
「同志!」そう言うと、2人はがっちりと手を握りあった。そして腕相撲を始める。
「あんた達、変よね」
「お前に言われる筋合いはない。ドツキ夫婦漫才」俺はそう言った。
実のところ優美とコウの漫才の方が多いのだ。
「なんですって!」優美の拳が飛ぶ。しかし俺はタイミングを外してかわす。
「おお、よけたシュウ、すごい」コウが拍手をした。有希、真似するな。
「俺に来るときにはためらいがある。一瞬動きが止まっ、げほっ」
「今度は躊躇無しかい!!シュウ大丈夫か?」
「いや、予期してなかった分、脳が揺れた」
「でも、どっちにしたって俺は入っている?」
「コウ、私は関係ない」
「あー、世間では「あの漫才トリオ」で通ってるらしい」
「誰から聞いたの」
「あそこで手を振っている、クラスの事情通に、やほー」コウが手を振って、こちらを見ていた女子生徒が手を振り返している。おおう黒髪の綺麗なメガネ美人だ。
「ああ、いいんちょですね。木村香さん」
「いいんちょ?ああ、学級委員になった」
「立候補してなったある意味正統派な学級委員長なんですが、本人はすでに報道部に入るってるらしいけど」
「なるほど事情通ね、で、いくら払ったの」
「はあ、お金なんて払いませんよ」
「ただで情報くれるわけないでしょ。「情報は金也」って校則に・・」
「んなもの載ってるかい」
「いや、情報には情報を」
「どんな情報を?」
「あっちが欲しがっていた優美のスリーサイズ・・・っげふ」立っていたコウの腹を直撃する、
「いつか殺す」
「でも、推測値+願望値だって言っといたよ」
「PDAで確認してみる・・・・」優美がPDAを開いた。その言葉に俺と有希もPDAを確認する。
「へえ、なんでも書き込まれてますねえ」
「なになに・・・確かにコウと俺と漫才トリオって書いてるな。どうりで違うクラスの奴らがたまに来て、俺らの方を見て笑ってたのは、これのせいか」
「そのくらいならいいけど、よく見てよ、個人のプライバシーなんかないも同然だね」
「でも、ちゃんと情報提供者の名前が書いてあるし、根拠もかいてあるようだな」
「一応ね、この端末、外に持ち出すとデータ見られなくなるし、画面を写メしようとしてもスクランブルかかるしプリントアウトもできなくなってるんだよね」
「それ、ちょっとすごくないか?」
「なんでも、ここは、先進施設のモデル校なんだって」
「おれらはモルモットか・・・」
「そんなことはいい、ほれ、このスリーサイズは、本人から正確な値を得るために誰かが入力してる。女子の欄は、ほとんど入力がないな。まあ、嫌われるの前提で申告する男もいないだろうし、女子が入力したら諍いの元だしな。入れる馬鹿はいないか、男の最大身長は・・・57メートル550トンってコ○バトラーかよ!!! しかも自分で申告してる。
「コウ!あんたね、こんなデータ入れたの!ああ!ウェストが!私こんなに太くない!訂正してくる」そういって、いいんちょの元に飛んでいった。
「 はや!」
「情報は、スピードが重要ですから。(byすたあれっど)」
「おお!でも、胸とか尻とかはどうすんだ?」
「本人が申告に言った場合、正確な数値を教えないと数値も変えてもらえないらしいよー」
「それって誰かが申告して一度載ったら」
「そう、無視するか正しい値に変更するかどちらかしかない」
「情報を売ったやつ最悪・・・・でも、普通、無視するよね・・・」
「暫定の方がまだましのような気がする」
「直してきたわ、間違いは許せない!」
「え?じゃあ全部本当の数字教えてきたの?」
「しょうがないじゃない。そうしないとあんなに太いと思われちゃあ・・」
「これさあ、全校生徒が見てるわけだよね、全校生徒にスリーサイズ知られることになるよねえ」
ピコンっとPDAの着信音が鳴った。
「あ、メールだ。なになに、「生徒の基本情報が訂正になりました。1-Hの石川さんです」
おお、ご丁寧にメールで更新を教えてくれるのか、すごいね」コウは感心している。
「あっ! え、えええええええ」
優美は、叫び声がドップラー効果をおこしながらいいんちょの所に向かう。
しかし、がっくり肩を落としてとぼとぼとこちらに帰ってくる。
「ダメだったみたいね」
「さらし者だ・・・」
「いったい何の話してたんだっけ」
「俺の自炊の話だったような」
「まあ、おもしろかったから・・・・」
○悪友祐介登場
俺は、PDAを片手に廊下を歩いていた。バイトの申請からこっち暇すぎて、昼休みや放課後に校舎内外を探検して回っていた。人気のない旧実験棟校舎を歩いている時に向こうから歩いて来る男がいる。誰も使ってないこんな所を歩いているのは、実に怪しい。あ、俺もか。
「こんにちは、我妻さん」その男は丁寧に俺に挨拶をした。
「こんにちは、俺になにか用事?」
「そうです、あなたを探していたんですよ」
「そうですか、さて、なんでしょうか。金ならありませんよ。貧乏ですから」
俺は両手をあげて降参のポーズを取る。
「噂どおりの対応ですね」
「あんた誰?しかもこんな所で会うなんて、偶然とか言わないよね」
今度は俺が警戒モードで話す。
「これは失礼しました。自己紹介がまだでしたね。私は、1年E組の寒河江祐介と申します。実は、お願いがありまして、ぜひとも私と友達になって欲しいと思いまして。どうでしょうかお友達になってもらえませんかねえ」
「俺は、我妻脩一だ。ってさっき呼ばれたから、もうそっちは俺の名前知ってるんだよね。それでお願いしてまでお友達になりたいってどういうことなんだい。何かの冗談?」
「冗談ではありませんし、怒らせるつもりもありません。私は、自分が興味を惹かれた方とお友達になって、楽しく学校生活を送り、想い出を作れたらなあと思っているのですよ」
寒河江と名乗ったその男は、ニコニコしながら言った。大変うさんくさい。
「気持ちは聞いたけど、普通そういうことは、知り合いになってから、友達になるもんじゃないのかい?こう突然やってきて友達になりましょうとかいうものでもないとおもうんだが」
「私は、昔から友達を作るのが不得手でして、どうアプローチするのがいいのかよくわからないんですよ。わざと出会いを演出しても、それはそれで何か変ですし、それが後からばれてもお互い気まずいですしね。だからこう単刀直入にズバっと切り込んでみたわけです。どうですか?」
「正直に話してくれてありがとう。俺も友達を作るのがヘタだし、その気持ちはわかる気がする。だから友達になれるとは思うんだけど、実はね、今は暇だけど、これからバイトの許可が下りれば、ほとんど学校以外はバイトに行くことになると思うんだよね。それでもよければだが」
「私が興味をもったのはまさにそのバイトなんですよ」寒河江がニヤリと笑った。極悪な表情だ。
「バイトが?なんで?」
「この学校はバイトを禁止していない。でも、みんな無許可でバイトをしています。なぜでしょうか?」
「手続きが面倒くさいから?」
「それもありますが、実は、手を変え品を変え圧力をかけてバイトの申請をさせないのです。でも、あなたはひとつずつつぶして、申請までこぎつけたと言うではありませんか。そこが私が気になったところなんです」
「そんなことで?」
「他にもありますが、聞きたいですか?」
「やめとく、なんか聞きたくないかも。最初の印象は最悪だったけど、そのストレートな物言い嫌いじゃない。俺は、友達になるほどの価値はないと思うので、お互い友達(仮)みたいな感じでいかないかい?」
「ありがとうございます。もう一つだけ興味を持った点を言わせてください」
「あ、うん、どうぞ」
「この実験棟に探検に来たのは、新入生であなたが2番目だからです」うれしそうにそう言った。
「じゃあ一番目は・・・寒河江さん?」
「はいそうです。それとユースケと呼んでください」
キラキラにまぶしい笑顔で答えるユースケを見て、俺はちょっと後悔した。
それから、ユースケは、ちょくちょくうちのクラスに遊びに来るようになり、すぐにコウとも意気投合して友達になった。あ、(仮)は、翌日には解消した。ユースケのすごいところは、優美や有希には超紳士な対応ですぐに仲良くなった。それでもやっぱり男同士の方が楽しい。
話してみると、ユースケは、表面上は大人びているけど、時折見せる寂しい瞳は子供の瞳、幼少期にちゃんと遊んでこなかった証、今になって遊びようもないが、まあ、お互い様か。俺も遊びなれてないからな。
さて、この後極悪トリオと呼ばれるシュウコウユースケは、こうしてチームを組んだ。あれ、組んだんだっけ?
<地理巡検>
さて、4月中旬には、1年生初の学校の公式行事がある。地理巡検である。まあ、本当の初の公式行事は入学式だろうと突っ込むのはやめて欲しい。
この地理巡検というのは、市内の名所旧跡を訪ねて(観光とも言うが)そこにまつわる歴史や背景などをレポートにまとめて1学年の終わり、来年の3月までに提出する行事である。
簡単に言うと地理や歴史の勉強である。2日間かけて市内を回る。初日は全員で史跡を巡って先生の解説を聞き、2日目は自分の行きたいところへ自由に行動して情報を集めレポートの基礎資料を収集してくるのである。
えーっ今ならネットで調べれば作れるんじゃん。とか思う人もいるでしょうが、ちゃんと罠が仕掛けられています。初日の史跡巡りの時の説明をちゃんと聞いて、その説明内容が間違っていないかを後で確認しておかないと、レポート提出時にレポートの嘘がばれます。もちろんそのことは事前に説明されていますから、先生の説明のウソを探すのにみんな必死です。
あとは、自分なりのレポートを作れば完成です。
なので、先輩方のレポートを真似をしようとしても難しいのです。まあ、全く同じレポートを出したやつが停学になったという噂も聞きますが本当でしょうか?
一応、個人でレポートを提出するのですが、やはりチームを組んで回った方が効率的です。なので
「コウ、どうする?」
「まあ、このメンバーになるでしょう?ねえおふたりさん」うなずいている女子2名
「まあ、人見知りの有希はわかるが、優美もかよ」
「んー、なんかね微妙に遠慮された」
「遠慮された?」
「4人でちょうど良いんじゃない?ってお邪魔でしょうとも言われた」優美が寂しそうにいった。
「確かにタクシー移動なら4人が限界だが」
「沼田千尋ちゃんとか関谷あさみちゃんとか、と一緒に回ろうとしたんだけど」
「森山直樹君とか洋森しのぶ君は、鏡晶君と一緒に行くって言うし、加藤雅基、中村嘉宏君は、山崎和真君と行くって。あぶれた」
それは誰なの?うちのクラスは、複数名前を持っている男子しかいないのか。
へ?
いやなんでもない。
「シュウ、このメンバーで行こうよ」
「そうだな」
<地理巡検本戦>
地理の先生は、出発前のガイダンスでこうおっしゃられた。
「さて諸君。地理という科目は机に座って地図を眺めていればいいものではない。フィールドワーク。これにつきる」
先生はそこで一旦言葉を切った。
「ということでこの学校では、いやこの学校の社会という科目には地理巡検という課題がある」
「実際に生活しているこの地域にある遺跡・歴史を実際に目で見て肌に感じてそのすべてをレポートにして提出してもらいたい」
「来週2日間かけて現地調査を行い、年度末までにレポートを提出すること。出さなかった場合にはどんなに成績優秀者でも単位を落とし留年とする。いいな」
「一年近くも期間があるんだ、時間がなくてとか言い訳は通用せんからそう思え。では楽しみにしているように」
「一日目はバスハイクですな」
「まあなあ、昔は、録音機材とか持って歩いていたって言ってたな」
「今は楽だよね~スマホとデジカメあれば十分だし、ネットにいくらでも情報もあるしね~」
コウは気楽そうに言った。
「しかし、うちの市は、市町村合併のあおりで市内全域といったら半島の右半分だからすごい広いぞ。最近、新しい遺跡も発掘されて、どんどん新事実が出てきているらしいじゃないか。ネットの情報だけでは、レポートにならないんじゃないか?」
「とりあえず1日目は、西部地区の主立ったもの見て湯ノ川地区と当別いって、2日目は、四稜郭の遺跡のあたり午前中回って、午後からフリーらしいわよ」優美がそう言った。
「午後からどこ回ろうか?」全員が俺を見る。
「俺がその場所を決めるのか?」
「あんた意外にこの辺の地理に詳しいんでしょう?」
「まあ、親に連れられて遺跡も見て歩いたしなあ」
「じゃあよろしく」
本当に何事もなく地理巡検は終わり、レポートは連休前には終了していた。
思えば、バイトが認められる前のこの時が一番普通の生活だったようだ。
この時は誰も彼が伝説を作り始めるとは思ってもみなかった。彼自身も。
Appendix
あれが例のバイトの申請をめげずに提出し続けた生徒ですか
そうでつ。親が死んでいるそうで、生活が苦しいそうでつ。
死んでいる。
交通事故でつ
なるほどね。それでも学校はバイトを認める気はないようですね。
そうでつ。むしろ申請中にバイトを始めてもらいたいのではないでつかね。
生徒を守るための生徒会としてはなんとかしないとなりませんね。
学校と敵対するでつか?
まあ、やりようはあるでしょう。
守る価値があるでつか?
あなたの親戚が友人でも?
ああ、あれは気にしてないでつよ。血縁ともいえないです。知り合いではあるでつけどね。
まあ、しばらくは静観しましょうか
続く
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