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第一章「『魔法少女☆マジカラ』編」
第11話(Bパート)
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ー所変わって、街の外れ
数時間前に魔法少女達が飛び立っていった、つまり怪人の軍勢が街を襲うべくこれでもかというくらいに向かっていた場所である
ドロドローンの大群が文字通り姿形を変えて目の色一つ変えずに飛んで来るその様は、常人からしてはそれだけで恐怖となる事だろう
…さて、そんな場所ではついさっきまで時を同じくして、それを迎え撃つべくと如何にも気だるそうな男達人 正が待ち伏せしていたのだが
では魔法少女達が城に着き、幹部やボスと立ち回っている頃…一体この場所では何が起きていたのだろうか?
まぁ、感の良い読者ならもう分かっている事だろう
「唸れ俺の〇イ・ボルグゥゥッ!」
「「「「ドロォォオッッ!?!?」」」」
ただただバカがバカの様に大暴れしているだけだった
「〇クスカリバー!エヌマ〇リシュ!ミ〇デイン!」
ちぎっては投げちぎっては投げ、撃っては捨て撃っては捨て、殴っては飛ばし殴っては飛ばし…と敵相手とはいえ散々にやりたい放題
オマケにテキトーに叫んでいる技名も危ない
幾ら理性の欠片も無さそうな雑魚怪人といえど、この鬼というか修羅な姿にはどの個体も揃ってドン引き
「安心しな…ただの峰打ちだ、気絶させているだけだ…」
「「ド、ドロォ…」」
どう見ようが明らかに峰打ちでもないし気絶で済みそうにも無い、勿論かないの気持ちを組んでかただの気分でか、本当にただの見かけだけなのだが
「どうしたぁ…こちとら今流行りのなろう系チート主人公だってのに、出番なくて結構鬱憤溜まってんだ…!
…来ねぇならコッチから行くぞ雑魚共ォォ!」
そう言ってドロドローンだったモノの破片を片手で鷲掴みしながら、怯える敵ににじり寄り一気に走り出していく正
「「「「ド、ド、ド…………
ドロォオォォオオッッ!!!!」」」」
とんだはた迷惑なバーサーカーである
ーーーー
ではその一方で魔法少女達は、怪人の城の中での対決は、今現在どうなっているのかというと
「…嘘だろォォォッ!?」
大っ変取り返しのつかない事になっていた
(や、やっちまったァァ!
明らかにキーアイテム的なの死んだよ、〇いごのかぎ粉々になったよ!)
今までのストーリーや展開から分かる通りどう見たってラストシーンで絶対に必要となりそうだったかさみが拾ったブローチ
それが今、とあるポンコツ二名のお陰でお亡くなりになったのだった
「え、あっその…」
(どうするよコレ、取り返しつかないよコレ!
つーかあの豚何キョドりまくってんだ、お前が飛ばしたんだろが!)
勿論カルナやその他周囲の方々にとってコレはかなりショックな出来事、例えるならばコレはそうだ、冒険の書が全部消えた様な感覚
その空気に流石のジャドーも気づいたようで、自分の主の顔色すら気まずさで拝めずにただ震えてるのみ
(いや見ろ、ちゃんと見ろ!ちゃんと目を合わせて話さない方が後々不味い事になるからそれ!お怒りゲージ限界突破するから!)
学校の問題児であるかないの説得力ある脳内アドバイスであった
そしてその一方でもう一人、怒るどころか責任を感じてる者がもう一人
(…目ぇ話してた隙にとんでもない事になったッスぅぅ!)
かさみの保護者をしておきながら余所見していた、バカ妖精である
というのもコイツ、カルナの話に夢中になるあまりソレばかりに意識が向いた結果、いつの間にヨロヨロと苦しみながらもフラついて離れていっていたかさみに全く気づいていなかったのである
(ヤバいッスコレ完全に私の監督責任ッス、いや壊したのあの人らだけれども!つーか何であの人達あんな絶妙なベストタイミングでエラいもん踏んづけてんの!?)
本当にその通りである
だが、しかししかしと言っている間にも刻々と時間が過ぎていくにも関わらず、重いのか軽いのか微妙な空気は薄まる気配も無い
責任を感じているのかうむむと唸るアイリス
「ぬぐぐぐ一体どうすれば…そうだ、一旦かないさんと話し合いを…!」
そう思い付いた途端、アイリスはサッと行動に移そうとレッドの方へと改めて振り向き目をやってみると…
「いいか、これを…」
「成程、それでアレが…」
何故か敵であるジャドーとヒソヒソと内緒話をするレッドの姿があった
「…アレ?何してんスか、あれ」
本当に小声での話し合いなので内容までは聞こえない
若干心配しながらももどかしくなるアイリスを他所にレッドは話を終えた後、何か思わせ振りに配置につきジャドーもそれに合わせる
(ま、まさかコレを収集付ける画期的な方法が…!)
そして
「あーっ何て事だー、偶然戦闘中の攻撃に巻き込まれて事故で、事故で重要なかさみのブローチが壊れてしまったー!」
「!?」
妙ちきりんな棒読みの芝居を始めた、それも事故って事を強調しつつ
「こ、これでは仕方がないなーっ!我々の目的が潰えてしまったーっ!」
それに続いてジャドーも棒読みながら思いっきり乗る
どうやらさっきのコソコソ話は、ただ自分達の非から逃げ遂せる為の小芝居の作戦を立てていただけだった様だ
「しかし敵の目的が無くなった以上私達も此処に居る意味も無い、さっさと自宅に帰ってお祝いパーティでもしよう!」
「そうだな、俺も反省もとい慰め会の準備をせねばならんな!」
そう言ってまるで息があった様に同時に二人は背を向け
「「じゃ、そういう事で」」
その場からそれぞれ、一人で逃げようとした
「「…じゃねぇだろォォッ!!」」
「「めたばにッ!?」」
二人の頭に炸裂する二つの衝撃、それぞれカルナが玉座から飛び蹴りを、アイリスが中距離からロケット頭突きをかました
「何すんだよアイリス!折角オチつけて解決しようと思ったのに…」
「何処がついてたんスか!?オチどころか全てが不完全燃焼だよ!」
がなるアイリスに、苦虫を噛み潰したような顔で耳を塞ぐレッド
「大体やらかした本人がそのまま匙投げたまんまってどういう事だ!主人公の自覚あるんスかアンタ!」
「別に良いでしょ?このご時世、バットエンドとか謎がそのまま残るエンドってのも人気じゃん、このままってのも味あるでしょ」
「アンタのはただの投げっ放しエンドだろーが!」
アイリスの怒涛のツッコミは留まる事を知らず
勿論それに関しては魔法少女側だけじゃない、同じくしてやらかしていた怪人側でも同時進行で個別に行われていた
「キミはキミで随分敵と仲良くやってる様じゃじゃないか、えぇ?
まさかあんなのでボクを誤魔化せるとでも?」
「え…あっいやぁ、そのー…」
「…後で覚えとけよ豚」
「!?」
ドスの効いた声がジャドーの耳を突き刺す
そりゃそうだ、誰だってそうなる
「ま、待て二人とも!このまま訳も分からず戦っても駄目だろ、まして目的が無くなった敵に追い打ちをかけるなんて!」
「そうですよ、こんな魔法少女程度いつでも!」
言っている事は確かにそうだが相手が街を襲うという大罪を既に始めている上にそもそも言っている本人の説得力が無い
レッドの言葉にジャドーも乗っかるがそれは同じ事
「これじゃあ敵が踏んだり蹴ったりだろう!そんなかわいそうな事、お母さんが許しま」
しかし、そう言い訳がましく言い続けるレッドを
「あ?」
のアイリスの威圧的なメンチで
「うっすすんません、レッド死ぬ気で戦います!」
「オイコラてめぇお母さん何処行った!許さないんじゃなかったのか!」
瞬く間に掌返しで即座に震えながらも構える
「こちらも反撃だよ、行け」
「い、いやでも…」
ジャドーも同じく、最初は躊躇こそするものの
「ジャドー、もしここで魔法少女を討ち取れないなら…お前がどうなるかはもう分かっているよな?」
「魔法少女!今日から此処が貴様らの墓場だァ!」
カルナの恐喝で同じく恐怖を無理矢理誤魔化しながら斧を振り回しレッドの方へと全速力で走って突っ込んで行った
「う、うぉりゃあぁああ!」
「おぉおぉぉおおおお!」
とはいえ恐怖で動いてはいるものの敵を倒しそれぞれの目的を叶えようとする気持ちはどちらも強く、それには恐喝により動かされる以上の力をビリビリと感じる
腐っても、一人のリーダーと一匹の幹部であるのだ
「うおりゃあかさみちゃんのブローチの仇ィィ!」
「だからそれ結局前も共犯だっただろーがァァ!」
雄叫びが部屋中に反響し、二つの大きな衝撃が激突する
「…いや、大丈夫」
だがそれと同時に、かさみが口を開いた
「へ?か、かさみさん…?」
アイリスの心配を他所にかさみは壊れたブローチの破片のある場所へと、スタスタと早歩きで向かって行く
「…何だぁ?」
「かさみ、ちゃん?」
ジャドーとレッドもそれに気づき互いに動きを止める
またも急に早変わりした部屋の空気にも全く気にせずに歩き進めバラバラの破片の場所へと辿り着くと、かさみはその場でしゃがみ破片にそっと指で触れた
すると
「っコレは……!?」
まるで呼応するかの様にブローチから放たれた光が、辺り一帯を覆う
その場の全員がその眩さに目を塞いだ
…光を放ったとされる、一人以外は
「やっと…全部、思い出した…!」
眩く輝くソレを手に取り握り締め、そしてかさみは
「…………」
いや、一人の白い魔法少女は出てきた
そのさっきまで粉々になっていたブローチを身に着けて、魔法少女たる証拠のコスチュームを身に着けて
「…【魔法少女マジカルホワイト】、参上」
その姿は正しく、魔法少女にとっては既に一度は見ていた姿だった
目の前の光景に誰もが目を見開いた
「アレが、我が主が追い求めていた…!」
魔法少女側であるレッドやアイリスはおろか、ジャドーは兎も角全くといって表情を崩してもいなかったカルナすらも
だがしかし不可解な事ばかりが頭に残る
「で、でもどうして?ブローチは粉々になってた筈でしょ…じゃあどうして?しかも変身って…」
「私に聞かれても分からないッスよ!
というかそれよりも、今さっき『思い出した』って…」
そう、かさみ…もといマジカルホワイトが先程ボソリと吐いていた『思い出した』という言葉
コレが意味するものとは…
「…くふふふふっ」
「!」
ホワイトの姿を数秒だけ見た後、カルナが口元を抑えながらも隠し切れずに笑みを浮かばせ笑い声を放つ
それはそうだ、かさみが魔法少女が復活したという事、それはつまり
「やっと…会えた」
先程のカルナの言っていた事が確かならば
怪人側の目的もいよいよ達成目前にまで一気に近づいてしまったという事に、他ならないのだ
「我が…ある、じ?」
ジャドーはカルナの方へと視線を変え、心配そうに様子を見ている
やがてカルナが口を開いた
「やぁ、久しぶりだねカサミ」
「…カルナ」
ホワイトはカルナの声を聞いて、そちらへと体を向ける
「いや、かるなと言った方が良いかな?」
「…どっちでも」
「や、あのどっちも読み方変わんないんスけど」
「しっアイリス静かに」
アイリスの素朴なツッコミを抑えつつもレッドはその場から下がり二人の空間をそのままにした上で、少し距離を置いた場所からその様子を見始める
(しっかし…本当に分かんないなぁ、魔法少女と怪人のボスて
昔敵としてずっと戦い合ってたライバル的なアレか、はたまた復讐の為にわざわざ…とか?)
その通り、片方はかつての魔法少女でもう片方が怪人の長と言える存在
再開したと思われる二人が、一体何を思い何を語るのか
「漸くして会えたね、もうキミとは会えないかもと何度思った事か
記憶も力も蘇った気分はどうだい?」
「うん、久しぶり、調子は…悪くないかな」
カルナが一言、何の変わりも無い言葉を投げかけ、ホワイトが答える
「それは良かったよ…いやぁキミが寝ていた病院から消えたと聞いた時は肝を冷やしたものだ、まぁすぐに見つけ出したけれどね」
「それは…ゴメン、カルナにも迷惑をかけた
でも悪い事ばかりでもなかったよ、かない達が助けてくれたりして…」
「…ま、キミがそう言うなら良かったんだろうね」
その様子は先程の不気味さは不自然なくらいに消え去っていて、その二人の光景はまさに久しく出会った親友のそれだった
「でもゴメン…何十年も待たせちゃって、カルナの事も忘れちゃって…」
「別に問題はないさ、キミが楽しく人生をまた謳歌しているのなら…ボクからはもう何も言う気はないさ」
(…思ってた以上に仲が良かったのかな、かなり幸せそう
というか、コレならこのまま私のミスを有耶無耶にゲフンゲフン何とか安心安全な方向であっさり解決出来るんじゃね!?)
なんて事を考えながら呑気に隅っこで様子を見ているレッド
そしてレッドの思惑通り、ホワイトは表情をほんの少しだけ強ばらせながらカルナに対してこう切り出した
「…ならカルナ、このまま私は貴女とまた仲良くあの街で過ごしたい」
その言葉に、さっきまで安堵した表情のカルナの眉が数ミリ上がる
「貴女が正直何を思ってこうしたのかは分からない
でも、だからもうこの際…私も何も問わない、だから一緒に…」
ホワイトがか細い声で自らの感情をぶつけた
…が、その思いが届く事は無かった
「…悪いけどそれは出来ない質問だね」
「っ!」
カルナは先程まで上げていた口角を落としホワイトを睨みつけて言う
「それとこれとは話が別だ、キミがその身体で見て聞いた通りボクはもうキミ達魔法少女の敵となっているんだよ」
妙に荒々しく、何処か興奮した様な声色
「それがどうしたのさ
また一からやっていけば良い、」
「…もしキミが此処に現れたのが昔だったら、まだ踏みとどまれたさ
でも…もう、元には戻れないんだ」
そう言って脱ぎ捨てられたパーカー
「もしかして、と思ってたけど…」
そして隠れていた頭からは現れたのは二本の小さな角、いや角というよりかは三角形の髪飾りの様なものだった
「そう、カサミ…キミが思っている通りだ
ボクはもう既に、怪人となってしまっているんだよ」
怪人とは
人の感情から生まれその感情のままに理性なく暴れる、魔法少女の敵と共に、平和や協調とは真逆といっていい様な生物である
ただの人の手では抑えられないその力の他に特筆すべきはその本能、ただ好きな様に暴れ好きな様に蹂躙する凶暴とも言えるべきモノ
そんな怪人に、もしもの話だが、人間が変質しつつあるとするならば
それは勿論…
(理性が壊れた、まるで暴走した…ロボットの様な人格なってしまう、ってところッスか…!)
「嘘、でしょ…!?」
正しくそれは、前までかないが最も危惧していたモノそのものだった
「…復活して間もないところ悪いんだけれどね、こんな事はボクもなるべくさっさと早めに終わらせたいんだ」
そう言って捨てる様に投げられた光の球、だがその攻撃はその投げ方に見合わず鋭く早く、そして高い密度のエネルギーの塊
ホワイトはそれを半身で避ける、着弾したエネルギー弾は大きな爆音を立て炎を立てながら地面を抉った
「ホワイト、ボクは今のキミを…肯定出来ない」
「…っ!」
その言葉を聞いて、ホワイトはただただ苦痛の表情を浮かべながらやるせない気持ちのまま、攻撃してきたカルナに飛びかかる
「さぁ…コレがまさに、最後の戦いだ!」
「…カルナぁぁああッ!」
それに対して魔力を纏った拳を、ホワイトの攻撃に真正面から迎え撃つ様にして前に素早く突き出すカルナ
二つの力が激突して出来た一つの強大な衝撃は反響しながらも、この部屋はおろかこの城全てを地震の如く大きく揺らした
「ぐぅっ…なんて、衝撃!?」
その風圧でさえもレッドは両腕を顔の前にあて踏ん張るのがやっと
そんなレッドに襲いかかるのは
「ぬぇええいッ!」
斧を構え、飛び出しながら振り下ろすジャドーだった
「ちぃっ、オイお前何裏切ってんだ!ついさっきまで和解ムードだったろうが、会話の流れ的に!」
「うるせぇこちとら主に脅されて後がねぇんだ、死ねぇ小娘が!」
刃と刃が重なり合い、火花を散らしながら
「かないさん!」
部屋の隅に隠れたアイリスがレッドを鼓舞する
「「うぉぉおおおお!」」
それと同時にもう一つの決戦もまた始まろうとしていた…
「必殺のォ、レッドハー…」
「喰らえ【ダーク・ブラスター】!」
「えぐぅッ!?」
「!?」
が、結局始まらなかった
カルナがホワイトに向けて掌から放った魔力ビームが、高速で一直線に飛びホワイトの髪を掠って…そのままレッドの方の頭に直撃した
「か、かないさーん!?」
「まっ前が、前が見えねェ…」
そのおかげでレッドの顔面は、戦闘再開早々お茶の間に見せられないような有様となり、ジャドー共々を戦慄させた
「…ハッ!
有難うございます我が主、隙ありマジカルレッドォオ!」
その隙に乗じてジャドーは顔を抑え悶絶するレッドに狙いを定め猛ダッシュで向か斧にてい必殺の構えをし、そして体格に合わず目にも止まらぬ速さで斧を振ったところで
「コレでトドメだ【ナイト・クラッ…」
「なんの【ホワイトハート・バスター!」
「ぐわぁぁああ!?」
カルナが寸でのところで避けたホワイトの必殺の拳が偶然後ろに居たジャドーにぶち当たり、その勢いでぶっ飛ばした
それは何とも綺麗な飛び様だった
「ふぅ危ない危ない、うっかり当たる所だったよ」
「いや当たってる、きっちり部下に当たってるから!」
カルナが安堵しているすぐ傍でレッドとカルナが一緒になって地面をのた打ち回る、一体何の光景なのだろうか
「オイィ何してんだテメェらァ!
今さっきまでそれぞれ二組別々に戦って決着つけるみたいな流れだったじゃん、何流れ無視してコッチに不意打ちかましてんだゴラァ!」
「流れならぬ流れ弾ッスね」
「上手くねーんだよ、被害受けてんのコッチ!」
遠くから眺めつつ他人事みたく眺めるアイリスに対しすぐに立ち上がり指をさすレッドに
「我が主、コッチも当たってる!味方ですから!」
「あぁゴメンよ豚、次からは気を付けるよ豚」
「豚って何!?まださっきの事根に持ってんすか!」
嫌味ったらしくジャドーをあしらうカルナ
そんな二人に起き上がりつつもジャドーとレッドは頭に血を流した状態でウンザリとした様な表情を浮かべる
「さて…今度はもう少し、本気でいくよ!」
「望むところだ、コッチも全力で…答える」
それでも尚、ホワイトとカルナの二人はまたすぐに対峙しその場で自身の魔力を一気に体外へと激しく放出させた、さながらバトル漫画の様に
そのオーラはまさに今までのどんな怪人や魔法少女よりも強く、その力はまさに桁違いのそれであった
だが勿論の事、力が大きいという事は
「「だからコッチの被害も考えろやァァ!」」
周囲に与える影響もそれなりに大きくなるというもの
二人の魔力の放出による凄まじい爆発の様な風圧は味方であるもう二人とアイリスにへと襲い掛かっていく
「ぐぅうぅぅ…っ、なんて凄まじい力だ…!」
「ちょ、マジあぶっ…危なっ!こうなったら…」
それは例え魔法少女でもよろけてしまう程であり、それをまともに受けているジャドーとレッドはジリジリと共に後ろへ半歩ずつ下がってしまう
「アイリス、バリア宜しく!」
「うぇっかないさん!?り、りょうか…」
「すまない恩に着る!」
「待てコラ」
そして遂に、後ろに避難していたアイリスの元へと逃げてしまった、敵であるジャドーと一緒に
「何で敵である筈のアンタまでコッチに避難してんスか、怪人としての誇りは無いんスか!」
「うるせぇ命あっての物種だ!」
「もう私はコイツが三下キャラにしか見えない
っていうかアイリス早く、早くバリア!」
「りょ、了解ッス【フェアリーバリア】!」
アイリスは文句をブツブツと言って腑に落ちない顔をしながら自分達を囲うバリアをすぐに張り一先ずの安全を確保した
そんな事もお構いなしに二人は激しくぶつかり合う
「それっ!避けれるものなら避けてみなよっ!」
「くっ、この…ずぇりゃああぁぁッ!」
「っ…ならコレはどうだい!?」
連続して放った光弾を素早く立ち回り懐に入り込んで一発パンチを繰り出すホワイトに対し、次にカルナが行ったのは両手の平からエネルギーを圧縮してのビームの放出
それもかなりの高密度かつ、広範囲のものだ
「ふぅっ…はぁああッ!」
ホワイトはそれでも、刀同士を競り合わせるが如く一直線に出たビームに沿って、カルナの元へとまた接近する
そして再度、拳をこめかみに目掛けて振り下ろした
「ぐぅうっ!」
「かはぁっ!」
寸でのところでカルナがもう片方の手で放った魔力弾によって反撃し、両者が互いの攻撃をカウンターの如く直撃する
それぞれがノーガードのまま受けた二人は、暫く腹を抑えよろけながらも立ち続け、また踏みとどまり再び前に駆け出した
「ふぅ…ふぅ、それならこうだ!」
ホワイトが、壁を伝い飛び回り加速していく
「…速度で強引に優位に立つつもりかい
ならば、こうするまでだ」
するとカルナはさっきの様な魔力の弾を全方位にむやみやたらに撃ちまくった、その技はまるで魔法少女マジカルブルーの【ブルーハート・スプラッシュ】の様
「キミの仲間の技だ、甘んじて受けると良いよ」
「……!」
街に偵察させていた怪人によって記録されコピーされたのだろうか、それもブルーのよりも明らかに破壊力が高い様に見える
「がっ、ぐぅう、このっ…てぇいやっ!」
容赦無く襲い掛かる攻撃の嵐に耐え、ホワイトは腕を振り払う様にしてカルナの魔力弾を跳ね除けた
「力づくで強引に消し飛ばしたか、そうでなくちゃあ面白くない!」
「…まだ、まだっ終わらせない!」
そしてほんの一瞬睨み合う間が出来た後、すぐにまた再び殴打と射撃が飛び交う激しい戦闘は始まり、また周囲を顧みず衝撃が放たれていく
「だから少しは加減しろ馬鹿どもォォ!」
その衝撃のしわ寄せは勿論、アイリスのバリアもといレッドやジャドー達に来るのだが
「うっわぁ何アレ、此処別の漫画じゃないッスよね?」
「流石にアレに巻き込まれたら一溜まりもないな…」
その今までとは明らかに異次元にも思えるその戦いぶりに三人は息を飲むばかりで、とても中に入る気すら起きない
だが、それはあの二人の間でのみの話だ
「これじゃ嫌でも手助けは…!」
「今だ隙ありィ!」
「うおぁああああ!?」
今度はアイリスのバリアの中に入ったままにも関わらず、気にも留めずにすぐ隣からいきなり殴りかかってきた
「お前遂にやったな、やりやがったな!悪党なりの必要最低限の流儀ってものはお前には無いのか!?」
「うるせぇ死ね!」
「コッチは別の意味でやべーッスわ」
反撃する暇すらも与えずに驚くレッド目掛けて拳を振るジャドー
最早なりふり構ってはいられないとでも考えたのか、その様子は何処か焦っているようにも見えた
「この、このっこのォ!」
しかしながら只今別の戦闘の最中である二人の流れ弾から必死に逃げてきたからなのか、斧を何処かに置いてきたせいでまんま素手のみで戦っている、となればさっきまでの互角という話は別だ
「うわったったったぁ、こんの…いい加減にぃ
しろって言ってんだろーがッ!」
「ぐほぁあッ!?」
烈火の如き勢いでバットの如く振られたロッドが、ジャドーのデカい腹に目掛けて叩き込まれる
「っしゃあ!
獲物の無い敵なんてハナから雑魚、イコール私の勝ちじゃい!」
「…かないさんもかないさんで、そゆとこみみっちいッスよね」
アイリスは調子に乗ったレッドを見て、敵を倒した事に喜んで良いのか味方がまた一段と悪役っぽくなっている事に嘆くべきなのかと複雑な表情をしていた
「ぐっが…何の、まだまだ…!」
するとジャドーが再びレッドに拳を向け襲い掛かった
「おらぁああっ!」
ただ力任せに大きな腕をぶん回すだけの単純な攻撃
「おっと、よっ…お返しっ!」
「ぐほぁッ!?」
だが、パワーはあれどやはり戦い慣れていないという様子すら見える、今まで戦い続けてきた魔法少女にとっては本当に人の子供の様に腕を闇雲に振り回しているだけだ
恐らく焦りもあるだろうが、これでは避けてカウンターを決める事など先程と比べれば天と地の差がある程にたやすい
(くそっ、せめて何か…武器さえ、あれば…)
それでも何度も立ち向かうジャドー、それは果たして自身の主への思いからなのか
「はぁ、はぁ…いい加減倒れろ、しつこいんだよお前!」
「待ってかないさんそれ死亡フラグッスから!?」
まるで優位に立って調子に乗った三下のフラグ臭すらするセリフ
それでもジャドーは、そんな言葉も気にも留めず言った
「…無ぇもん言っても仕方ねぇ
上等だ!魔法少女風情が、かかってこいやぁああッ!」
例え自分の身がズタボロになり、今現在既に立っている事すらやっとの状態であるのにも関わらず、だ
その声には、最早敵ながらも男気すらも感じるだろう
「まだ息があったかァァ!!」
「ゲボラァッ!?」
「ちょっ」
ま、そんな事ウチには関係無いんですけどね
とでも言いたげに、堂々と弁慶立ちしていたジャドーの顔面に思い切り跳び蹴りをかましたその衝撃音は、いっそ何処か清々しさすら感じるものだったという
「…何してんスか、いやつーか本当に何してんだお前ェェ!?」
叫んで当然の、アイリスの魂のシャウトだった
「何か色々御託並べてて聞くのも面倒臭かったし…」
「いや面倒で済まして良い行動ではねーよ、悪魔か!もう魔法少女の主人公どころかサブキャラすら張れねーよこの外道!」
鼻をほじりながらゲシゲシとタバコの煙を消すかの様にテキトーに踏み続けるその姿は、どう見ても典型的なクズ型
一応これでも主人公っぽいシリアルとかあったんですよ
「まぁぶっちゃけ言うと妬みだよね
だって何でコイツ私が全体的に悪いみたいな雰囲気出して往生際悪く襲い掛かってくんの?我魔法少女ぞ、正義の味方ぞ?」
「いや今のアンタの状況を客観視しろ!セリフ行動全部含めてどう見てもアンタが極悪人でこの怪人が正義だから!」
まぁ初見さんが見たらどっちがどっちだって話だけどね
と、兎にも角にも終わり方は酷いものだったが、状況から見てもこの時点で既にレッドの勝利は充分明確になっていたのであった
何せ今戦っているカルナを除いて、敵は不利な状況であった上に散々タコ殴りにまでされてボロボロ、戦えてももう勝ち目などほぼ無いに等しい
「まーまー、倒せたんだから良いじゃない、今起きた事を喜ぶべきだ!」
「そうだけど過程が酷過ぎるって言ってんスよ!」
「過去は振り返らない主義なんでね…前だけを見て生きていくのさ」
「アンタが見てんのただの墓標!」
だからこそ、今の状況でレッドが負ける要素は無いのだ
だがそれでも負けられない、譲れないものもまたあるものだ
「…まだだ」
「「!?」」
背を向けていたレッドとアイリスが倒れた筈のジャドーに振り向いた
再びゆっくりと立ち上がり、地に足をしっかりとつけてその身で歩いていくジャドー、それには何処からか底知れぬ力強さのような何かが放たれている様にも見える
「んにゃろ、まだ立つか…っ!」
「…いや、ちょっと待ってくださいッス」
だが、やはり
「まだ、終わってねぇ…何勝った気で、いやがる…!」
足取りはおぼつかず真っ直ぐに歩けていない、腕は力無くぶら下がっているだけにしか見えない、息も既に絶え絶えだ
誰がどう見たって、戦える状態ではない
「くそっ酷い…おい、もう何も無理に戦わなくても!」
「いややったの七割がたアンタなんスけども」
そんな今でもおちゃらけ馬鹿にしたような態度を前にしても、ジャドーは歩みをビタ一ミリも止めずに段々と近づいていく
そして後少しまで来たというところで
「…………っ
ぅおぉるぁああァァッ!」
まるで今ある力を全て残さず出し切るかの様に、一気に踏み込み上から拳をレッドの頭に目掛けて落とした
「っあぶなぁ!?」
「ぐぅっ…!」
しかしそれでも手負いの攻撃、軽々と躱されてしまう
「くそがぁ…まだ、だッ…!?」
それでも、それでもと何回も暴れては躱され、最早自分の攻撃ですらまともに出来ない程にまで弱っていた
「いやちょっと、流石にコレ止めた方が…」
その姿は流石に痛めつけていた張本人であるレッドまでもが、引いている程に見ていられないものだった
「おっ…おい、流石にもう辞めた方が」
「うるせぇ!お前に何が分かる、この俺の痛みが」
「や、物理的な意味でなら充分分かるから、そのゾンビにしか見えない傷以上の何かが既に物語ってるから、な?」
何とか止めようとするレッドだったが、ジャドーの決死の行動は止まりそうもなく、ジャドー自身の方が先に絶えそうな勢いだ
「と、兎に角バリアでそんな無理に暴れられても困るッスし、力づくでも止めて下さいッス!」
「りょ…了解!」
「ぐおぉ、っぉおお…!」
そうアイリスが言い、若干迷いつつもレッドが体ごとジャドーを抑えにかかる、すると
「ちょっとだけ悪いけど、かく…」
「くそ、くそぉっ…!」
「「!?」」
さっきの様な殺気だったものや無理矢理体を動かし暴れていたものとはまた一転、レッドが近づくやいなや力が抜けた様にもたれ掛かり涙を流した
その表情から察するに、どれほど悔しいだろうか
「くそ…何故力が出ない!武器を失ったとはいえ、こうまで一方的に…まるで誰かに邪魔されているかの様に…!」
「ちょっ、暴れないのは良いけど重い、超重いコレ!てかいきなりコレってお前どんだけ情緒不安定だよ!?」
(…邪魔されている?)
容赦なく倒れ掛かる像異常とも思える重みに苦しむレッド
そんな事も知らずかおかまいなしにとジャドーは
「だがそれでもこんな時にこんな所で、お前ら魔法少女に負けるワケにはいかねぇんだ…どうしても、絶対にどうしてもだ!
例え貴様らが昔の主と同じ、魔法少女だとしても!」
「あぁもう執拗い!知るかそんなの、お前らのボスが魔法少…じょ…
…うん?」
だが、その一言でレッドとアイリスは動きを止める
「あー…えーとゴメン、今何て言った?」
「あ?何をいきなり…お前ら魔法少女に負けるワケには」
「違う、その先ッス!」
二人はすぐ様ジャドーに詰め寄り信じられないと思いつつも再度聞き直そうとする、肝心のジャドーの方が今度は引いてしまっている
「ぜ…絶対にどうしても…」
「もうちょい先!セリフ一個分位!」
何が何だか分からないまま、思い返しながら言うジャドーだが
「その前ってぇと確か、昔の我が主が…あっ」
自分で言って気づきやべぇという風の顔をしだす
「おめぇバカだろ!さっきのといい本当にバカだろ!」
「今更スけれどあの怪人見た目によらず天然キャラなんじゃ…」
二人からの非難というか怒号というか、若干呆れの入ったツッコミが容赦なく襲いかかる
そしてそれと同時に、レッドが顔を近づかせ
「…まぁ、とはいえコッチにとっては好都合」
「ぐぅっ!?」
ジャドーの鎧ごと胸ぐらを掴んで問い詰めた
「さ、話して貰おうか…キミの主とやらについて、なぁ?」
(うっわ凄く悪い顔ッスわぁ…)
勿論、脅迫という強引な形をとって
《第十一話へ続く…》
数時間前に魔法少女達が飛び立っていった、つまり怪人の軍勢が街を襲うべくこれでもかというくらいに向かっていた場所である
ドロドローンの大群が文字通り姿形を変えて目の色一つ変えずに飛んで来るその様は、常人からしてはそれだけで恐怖となる事だろう
…さて、そんな場所ではついさっきまで時を同じくして、それを迎え撃つべくと如何にも気だるそうな男達人 正が待ち伏せしていたのだが
では魔法少女達が城に着き、幹部やボスと立ち回っている頃…一体この場所では何が起きていたのだろうか?
まぁ、感の良い読者ならもう分かっている事だろう
「唸れ俺の〇イ・ボルグゥゥッ!」
「「「「ドロォォオッッ!?!?」」」」
ただただバカがバカの様に大暴れしているだけだった
「〇クスカリバー!エヌマ〇リシュ!ミ〇デイン!」
ちぎっては投げちぎっては投げ、撃っては捨て撃っては捨て、殴っては飛ばし殴っては飛ばし…と敵相手とはいえ散々にやりたい放題
オマケにテキトーに叫んでいる技名も危ない
幾ら理性の欠片も無さそうな雑魚怪人といえど、この鬼というか修羅な姿にはどの個体も揃ってドン引き
「安心しな…ただの峰打ちだ、気絶させているだけだ…」
「「ド、ドロォ…」」
どう見ようが明らかに峰打ちでもないし気絶で済みそうにも無い、勿論かないの気持ちを組んでかただの気分でか、本当にただの見かけだけなのだが
「どうしたぁ…こちとら今流行りのなろう系チート主人公だってのに、出番なくて結構鬱憤溜まってんだ…!
…来ねぇならコッチから行くぞ雑魚共ォォ!」
そう言ってドロドローンだったモノの破片を片手で鷲掴みしながら、怯える敵ににじり寄り一気に走り出していく正
「「「「ド、ド、ド…………
ドロォオォォオオッッ!!!!」」」」
とんだはた迷惑なバーサーカーである
ーーーー
ではその一方で魔法少女達は、怪人の城の中での対決は、今現在どうなっているのかというと
「…嘘だろォォォッ!?」
大っ変取り返しのつかない事になっていた
(や、やっちまったァァ!
明らかにキーアイテム的なの死んだよ、〇いごのかぎ粉々になったよ!)
今までのストーリーや展開から分かる通りどう見たってラストシーンで絶対に必要となりそうだったかさみが拾ったブローチ
それが今、とあるポンコツ二名のお陰でお亡くなりになったのだった
「え、あっその…」
(どうするよコレ、取り返しつかないよコレ!
つーかあの豚何キョドりまくってんだ、お前が飛ばしたんだろが!)
勿論カルナやその他周囲の方々にとってコレはかなりショックな出来事、例えるならばコレはそうだ、冒険の書が全部消えた様な感覚
その空気に流石のジャドーも気づいたようで、自分の主の顔色すら気まずさで拝めずにただ震えてるのみ
(いや見ろ、ちゃんと見ろ!ちゃんと目を合わせて話さない方が後々不味い事になるからそれ!お怒りゲージ限界突破するから!)
学校の問題児であるかないの説得力ある脳内アドバイスであった
そしてその一方でもう一人、怒るどころか責任を感じてる者がもう一人
(…目ぇ話してた隙にとんでもない事になったッスぅぅ!)
かさみの保護者をしておきながら余所見していた、バカ妖精である
というのもコイツ、カルナの話に夢中になるあまりソレばかりに意識が向いた結果、いつの間にヨロヨロと苦しみながらもフラついて離れていっていたかさみに全く気づいていなかったのである
(ヤバいッスコレ完全に私の監督責任ッス、いや壊したのあの人らだけれども!つーか何であの人達あんな絶妙なベストタイミングでエラいもん踏んづけてんの!?)
本当にその通りである
だが、しかししかしと言っている間にも刻々と時間が過ぎていくにも関わらず、重いのか軽いのか微妙な空気は薄まる気配も無い
責任を感じているのかうむむと唸るアイリス
「ぬぐぐぐ一体どうすれば…そうだ、一旦かないさんと話し合いを…!」
そう思い付いた途端、アイリスはサッと行動に移そうとレッドの方へと改めて振り向き目をやってみると…
「いいか、これを…」
「成程、それでアレが…」
何故か敵であるジャドーとヒソヒソと内緒話をするレッドの姿があった
「…アレ?何してんスか、あれ」
本当に小声での話し合いなので内容までは聞こえない
若干心配しながらももどかしくなるアイリスを他所にレッドは話を終えた後、何か思わせ振りに配置につきジャドーもそれに合わせる
(ま、まさかコレを収集付ける画期的な方法が…!)
そして
「あーっ何て事だー、偶然戦闘中の攻撃に巻き込まれて事故で、事故で重要なかさみのブローチが壊れてしまったー!」
「!?」
妙ちきりんな棒読みの芝居を始めた、それも事故って事を強調しつつ
「こ、これでは仕方がないなーっ!我々の目的が潰えてしまったーっ!」
それに続いてジャドーも棒読みながら思いっきり乗る
どうやらさっきのコソコソ話は、ただ自分達の非から逃げ遂せる為の小芝居の作戦を立てていただけだった様だ
「しかし敵の目的が無くなった以上私達も此処に居る意味も無い、さっさと自宅に帰ってお祝いパーティでもしよう!」
「そうだな、俺も反省もとい慰め会の準備をせねばならんな!」
そう言ってまるで息があった様に同時に二人は背を向け
「「じゃ、そういう事で」」
その場からそれぞれ、一人で逃げようとした
「「…じゃねぇだろォォッ!!」」
「「めたばにッ!?」」
二人の頭に炸裂する二つの衝撃、それぞれカルナが玉座から飛び蹴りを、アイリスが中距離からロケット頭突きをかました
「何すんだよアイリス!折角オチつけて解決しようと思ったのに…」
「何処がついてたんスか!?オチどころか全てが不完全燃焼だよ!」
がなるアイリスに、苦虫を噛み潰したような顔で耳を塞ぐレッド
「大体やらかした本人がそのまま匙投げたまんまってどういう事だ!主人公の自覚あるんスかアンタ!」
「別に良いでしょ?このご時世、バットエンドとか謎がそのまま残るエンドってのも人気じゃん、このままってのも味あるでしょ」
「アンタのはただの投げっ放しエンドだろーが!」
アイリスの怒涛のツッコミは留まる事を知らず
勿論それに関しては魔法少女側だけじゃない、同じくしてやらかしていた怪人側でも同時進行で個別に行われていた
「キミはキミで随分敵と仲良くやってる様じゃじゃないか、えぇ?
まさかあんなのでボクを誤魔化せるとでも?」
「え…あっいやぁ、そのー…」
「…後で覚えとけよ豚」
「!?」
ドスの効いた声がジャドーの耳を突き刺す
そりゃそうだ、誰だってそうなる
「ま、待て二人とも!このまま訳も分からず戦っても駄目だろ、まして目的が無くなった敵に追い打ちをかけるなんて!」
「そうですよ、こんな魔法少女程度いつでも!」
言っている事は確かにそうだが相手が街を襲うという大罪を既に始めている上にそもそも言っている本人の説得力が無い
レッドの言葉にジャドーも乗っかるがそれは同じ事
「これじゃあ敵が踏んだり蹴ったりだろう!そんなかわいそうな事、お母さんが許しま」
しかし、そう言い訳がましく言い続けるレッドを
「あ?」
のアイリスの威圧的なメンチで
「うっすすんません、レッド死ぬ気で戦います!」
「オイコラてめぇお母さん何処行った!許さないんじゃなかったのか!」
瞬く間に掌返しで即座に震えながらも構える
「こちらも反撃だよ、行け」
「い、いやでも…」
ジャドーも同じく、最初は躊躇こそするものの
「ジャドー、もしここで魔法少女を討ち取れないなら…お前がどうなるかはもう分かっているよな?」
「魔法少女!今日から此処が貴様らの墓場だァ!」
カルナの恐喝で同じく恐怖を無理矢理誤魔化しながら斧を振り回しレッドの方へと全速力で走って突っ込んで行った
「う、うぉりゃあぁああ!」
「おぉおぉぉおおおお!」
とはいえ恐怖で動いてはいるものの敵を倒しそれぞれの目的を叶えようとする気持ちはどちらも強く、それには恐喝により動かされる以上の力をビリビリと感じる
腐っても、一人のリーダーと一匹の幹部であるのだ
「うおりゃあかさみちゃんのブローチの仇ィィ!」
「だからそれ結局前も共犯だっただろーがァァ!」
雄叫びが部屋中に反響し、二つの大きな衝撃が激突する
「…いや、大丈夫」
だがそれと同時に、かさみが口を開いた
「へ?か、かさみさん…?」
アイリスの心配を他所にかさみは壊れたブローチの破片のある場所へと、スタスタと早歩きで向かって行く
「…何だぁ?」
「かさみ、ちゃん?」
ジャドーとレッドもそれに気づき互いに動きを止める
またも急に早変わりした部屋の空気にも全く気にせずに歩き進めバラバラの破片の場所へと辿り着くと、かさみはその場でしゃがみ破片にそっと指で触れた
すると
「っコレは……!?」
まるで呼応するかの様にブローチから放たれた光が、辺り一帯を覆う
その場の全員がその眩さに目を塞いだ
…光を放ったとされる、一人以外は
「やっと…全部、思い出した…!」
眩く輝くソレを手に取り握り締め、そしてかさみは
「…………」
いや、一人の白い魔法少女は出てきた
そのさっきまで粉々になっていたブローチを身に着けて、魔法少女たる証拠のコスチュームを身に着けて
「…【魔法少女マジカルホワイト】、参上」
その姿は正しく、魔法少女にとっては既に一度は見ていた姿だった
目の前の光景に誰もが目を見開いた
「アレが、我が主が追い求めていた…!」
魔法少女側であるレッドやアイリスはおろか、ジャドーは兎も角全くといって表情を崩してもいなかったカルナすらも
だがしかし不可解な事ばかりが頭に残る
「で、でもどうして?ブローチは粉々になってた筈でしょ…じゃあどうして?しかも変身って…」
「私に聞かれても分からないッスよ!
というかそれよりも、今さっき『思い出した』って…」
そう、かさみ…もといマジカルホワイトが先程ボソリと吐いていた『思い出した』という言葉
コレが意味するものとは…
「…くふふふふっ」
「!」
ホワイトの姿を数秒だけ見た後、カルナが口元を抑えながらも隠し切れずに笑みを浮かばせ笑い声を放つ
それはそうだ、かさみが魔法少女が復活したという事、それはつまり
「やっと…会えた」
先程のカルナの言っていた事が確かならば
怪人側の目的もいよいよ達成目前にまで一気に近づいてしまったという事に、他ならないのだ
「我が…ある、じ?」
ジャドーはカルナの方へと視線を変え、心配そうに様子を見ている
やがてカルナが口を開いた
「やぁ、久しぶりだねカサミ」
「…カルナ」
ホワイトはカルナの声を聞いて、そちらへと体を向ける
「いや、かるなと言った方が良いかな?」
「…どっちでも」
「や、あのどっちも読み方変わんないんスけど」
「しっアイリス静かに」
アイリスの素朴なツッコミを抑えつつもレッドはその場から下がり二人の空間をそのままにした上で、少し距離を置いた場所からその様子を見始める
(しっかし…本当に分かんないなぁ、魔法少女と怪人のボスて
昔敵としてずっと戦い合ってたライバル的なアレか、はたまた復讐の為にわざわざ…とか?)
その通り、片方はかつての魔法少女でもう片方が怪人の長と言える存在
再開したと思われる二人が、一体何を思い何を語るのか
「漸くして会えたね、もうキミとは会えないかもと何度思った事か
記憶も力も蘇った気分はどうだい?」
「うん、久しぶり、調子は…悪くないかな」
カルナが一言、何の変わりも無い言葉を投げかけ、ホワイトが答える
「それは良かったよ…いやぁキミが寝ていた病院から消えたと聞いた時は肝を冷やしたものだ、まぁすぐに見つけ出したけれどね」
「それは…ゴメン、カルナにも迷惑をかけた
でも悪い事ばかりでもなかったよ、かない達が助けてくれたりして…」
「…ま、キミがそう言うなら良かったんだろうね」
その様子は先程の不気味さは不自然なくらいに消え去っていて、その二人の光景はまさに久しく出会った親友のそれだった
「でもゴメン…何十年も待たせちゃって、カルナの事も忘れちゃって…」
「別に問題はないさ、キミが楽しく人生をまた謳歌しているのなら…ボクからはもう何も言う気はないさ」
(…思ってた以上に仲が良かったのかな、かなり幸せそう
というか、コレならこのまま私のミスを有耶無耶にゲフンゲフン何とか安心安全な方向であっさり解決出来るんじゃね!?)
なんて事を考えながら呑気に隅っこで様子を見ているレッド
そしてレッドの思惑通り、ホワイトは表情をほんの少しだけ強ばらせながらカルナに対してこう切り出した
「…ならカルナ、このまま私は貴女とまた仲良くあの街で過ごしたい」
その言葉に、さっきまで安堵した表情のカルナの眉が数ミリ上がる
「貴女が正直何を思ってこうしたのかは分からない
でも、だからもうこの際…私も何も問わない、だから一緒に…」
ホワイトがか細い声で自らの感情をぶつけた
…が、その思いが届く事は無かった
「…悪いけどそれは出来ない質問だね」
「っ!」
カルナは先程まで上げていた口角を落としホワイトを睨みつけて言う
「それとこれとは話が別だ、キミがその身体で見て聞いた通りボクはもうキミ達魔法少女の敵となっているんだよ」
妙に荒々しく、何処か興奮した様な声色
「それがどうしたのさ
また一からやっていけば良い、」
「…もしキミが此処に現れたのが昔だったら、まだ踏みとどまれたさ
でも…もう、元には戻れないんだ」
そう言って脱ぎ捨てられたパーカー
「もしかして、と思ってたけど…」
そして隠れていた頭からは現れたのは二本の小さな角、いや角というよりかは三角形の髪飾りの様なものだった
「そう、カサミ…キミが思っている通りだ
ボクはもう既に、怪人となってしまっているんだよ」
怪人とは
人の感情から生まれその感情のままに理性なく暴れる、魔法少女の敵と共に、平和や協調とは真逆といっていい様な生物である
ただの人の手では抑えられないその力の他に特筆すべきはその本能、ただ好きな様に暴れ好きな様に蹂躙する凶暴とも言えるべきモノ
そんな怪人に、もしもの話だが、人間が変質しつつあるとするならば
それは勿論…
(理性が壊れた、まるで暴走した…ロボットの様な人格なってしまう、ってところッスか…!)
「嘘、でしょ…!?」
正しくそれは、前までかないが最も危惧していたモノそのものだった
「…復活して間もないところ悪いんだけれどね、こんな事はボクもなるべくさっさと早めに終わらせたいんだ」
そう言って捨てる様に投げられた光の球、だがその攻撃はその投げ方に見合わず鋭く早く、そして高い密度のエネルギーの塊
ホワイトはそれを半身で避ける、着弾したエネルギー弾は大きな爆音を立て炎を立てながら地面を抉った
「ホワイト、ボクは今のキミを…肯定出来ない」
「…っ!」
その言葉を聞いて、ホワイトはただただ苦痛の表情を浮かべながらやるせない気持ちのまま、攻撃してきたカルナに飛びかかる
「さぁ…コレがまさに、最後の戦いだ!」
「…カルナぁぁああッ!」
それに対して魔力を纏った拳を、ホワイトの攻撃に真正面から迎え撃つ様にして前に素早く突き出すカルナ
二つの力が激突して出来た一つの強大な衝撃は反響しながらも、この部屋はおろかこの城全てを地震の如く大きく揺らした
「ぐぅっ…なんて、衝撃!?」
その風圧でさえもレッドは両腕を顔の前にあて踏ん張るのがやっと
そんなレッドに襲いかかるのは
「ぬぇええいッ!」
斧を構え、飛び出しながら振り下ろすジャドーだった
「ちぃっ、オイお前何裏切ってんだ!ついさっきまで和解ムードだったろうが、会話の流れ的に!」
「うるせぇこちとら主に脅されて後がねぇんだ、死ねぇ小娘が!」
刃と刃が重なり合い、火花を散らしながら
「かないさん!」
部屋の隅に隠れたアイリスがレッドを鼓舞する
「「うぉぉおおおお!」」
それと同時にもう一つの決戦もまた始まろうとしていた…
「必殺のォ、レッドハー…」
「喰らえ【ダーク・ブラスター】!」
「えぐぅッ!?」
「!?」
が、結局始まらなかった
カルナがホワイトに向けて掌から放った魔力ビームが、高速で一直線に飛びホワイトの髪を掠って…そのままレッドの方の頭に直撃した
「か、かないさーん!?」
「まっ前が、前が見えねェ…」
そのおかげでレッドの顔面は、戦闘再開早々お茶の間に見せられないような有様となり、ジャドー共々を戦慄させた
「…ハッ!
有難うございます我が主、隙ありマジカルレッドォオ!」
その隙に乗じてジャドーは顔を抑え悶絶するレッドに狙いを定め猛ダッシュで向か斧にてい必殺の構えをし、そして体格に合わず目にも止まらぬ速さで斧を振ったところで
「コレでトドメだ【ナイト・クラッ…」
「なんの【ホワイトハート・バスター!」
「ぐわぁぁああ!?」
カルナが寸でのところで避けたホワイトの必殺の拳が偶然後ろに居たジャドーにぶち当たり、その勢いでぶっ飛ばした
それは何とも綺麗な飛び様だった
「ふぅ危ない危ない、うっかり当たる所だったよ」
「いや当たってる、きっちり部下に当たってるから!」
カルナが安堵しているすぐ傍でレッドとカルナが一緒になって地面をのた打ち回る、一体何の光景なのだろうか
「オイィ何してんだテメェらァ!
今さっきまでそれぞれ二組別々に戦って決着つけるみたいな流れだったじゃん、何流れ無視してコッチに不意打ちかましてんだゴラァ!」
「流れならぬ流れ弾ッスね」
「上手くねーんだよ、被害受けてんのコッチ!」
遠くから眺めつつ他人事みたく眺めるアイリスに対しすぐに立ち上がり指をさすレッドに
「我が主、コッチも当たってる!味方ですから!」
「あぁゴメンよ豚、次からは気を付けるよ豚」
「豚って何!?まださっきの事根に持ってんすか!」
嫌味ったらしくジャドーをあしらうカルナ
そんな二人に起き上がりつつもジャドーとレッドは頭に血を流した状態でウンザリとした様な表情を浮かべる
「さて…今度はもう少し、本気でいくよ!」
「望むところだ、コッチも全力で…答える」
それでも尚、ホワイトとカルナの二人はまたすぐに対峙しその場で自身の魔力を一気に体外へと激しく放出させた、さながらバトル漫画の様に
そのオーラはまさに今までのどんな怪人や魔法少女よりも強く、その力はまさに桁違いのそれであった
だが勿論の事、力が大きいという事は
「「だからコッチの被害も考えろやァァ!」」
周囲に与える影響もそれなりに大きくなるというもの
二人の魔力の放出による凄まじい爆発の様な風圧は味方であるもう二人とアイリスにへと襲い掛かっていく
「ぐぅうぅぅ…っ、なんて凄まじい力だ…!」
「ちょ、マジあぶっ…危なっ!こうなったら…」
それは例え魔法少女でもよろけてしまう程であり、それをまともに受けているジャドーとレッドはジリジリと共に後ろへ半歩ずつ下がってしまう
「アイリス、バリア宜しく!」
「うぇっかないさん!?り、りょうか…」
「すまない恩に着る!」
「待てコラ」
そして遂に、後ろに避難していたアイリスの元へと逃げてしまった、敵であるジャドーと一緒に
「何で敵である筈のアンタまでコッチに避難してんスか、怪人としての誇りは無いんスか!」
「うるせぇ命あっての物種だ!」
「もう私はコイツが三下キャラにしか見えない
っていうかアイリス早く、早くバリア!」
「りょ、了解ッス【フェアリーバリア】!」
アイリスは文句をブツブツと言って腑に落ちない顔をしながら自分達を囲うバリアをすぐに張り一先ずの安全を確保した
そんな事もお構いなしに二人は激しくぶつかり合う
「それっ!避けれるものなら避けてみなよっ!」
「くっ、この…ずぇりゃああぁぁッ!」
「っ…ならコレはどうだい!?」
連続して放った光弾を素早く立ち回り懐に入り込んで一発パンチを繰り出すホワイトに対し、次にカルナが行ったのは両手の平からエネルギーを圧縮してのビームの放出
それもかなりの高密度かつ、広範囲のものだ
「ふぅっ…はぁああッ!」
ホワイトはそれでも、刀同士を競り合わせるが如く一直線に出たビームに沿って、カルナの元へとまた接近する
そして再度、拳をこめかみに目掛けて振り下ろした
「ぐぅうっ!」
「かはぁっ!」
寸でのところでカルナがもう片方の手で放った魔力弾によって反撃し、両者が互いの攻撃をカウンターの如く直撃する
それぞれがノーガードのまま受けた二人は、暫く腹を抑えよろけながらも立ち続け、また踏みとどまり再び前に駆け出した
「ふぅ…ふぅ、それならこうだ!」
ホワイトが、壁を伝い飛び回り加速していく
「…速度で強引に優位に立つつもりかい
ならば、こうするまでだ」
するとカルナはさっきの様な魔力の弾を全方位にむやみやたらに撃ちまくった、その技はまるで魔法少女マジカルブルーの【ブルーハート・スプラッシュ】の様
「キミの仲間の技だ、甘んじて受けると良いよ」
「……!」
街に偵察させていた怪人によって記録されコピーされたのだろうか、それもブルーのよりも明らかに破壊力が高い様に見える
「がっ、ぐぅう、このっ…てぇいやっ!」
容赦無く襲い掛かる攻撃の嵐に耐え、ホワイトは腕を振り払う様にしてカルナの魔力弾を跳ね除けた
「力づくで強引に消し飛ばしたか、そうでなくちゃあ面白くない!」
「…まだ、まだっ終わらせない!」
そしてほんの一瞬睨み合う間が出来た後、すぐにまた再び殴打と射撃が飛び交う激しい戦闘は始まり、また周囲を顧みず衝撃が放たれていく
「だから少しは加減しろ馬鹿どもォォ!」
その衝撃のしわ寄せは勿論、アイリスのバリアもといレッドやジャドー達に来るのだが
「うっわぁ何アレ、此処別の漫画じゃないッスよね?」
「流石にアレに巻き込まれたら一溜まりもないな…」
その今までとは明らかに異次元にも思えるその戦いぶりに三人は息を飲むばかりで、とても中に入る気すら起きない
だが、それはあの二人の間でのみの話だ
「これじゃ嫌でも手助けは…!」
「今だ隙ありィ!」
「うおぁああああ!?」
今度はアイリスのバリアの中に入ったままにも関わらず、気にも留めずにすぐ隣からいきなり殴りかかってきた
「お前遂にやったな、やりやがったな!悪党なりの必要最低限の流儀ってものはお前には無いのか!?」
「うるせぇ死ね!」
「コッチは別の意味でやべーッスわ」
反撃する暇すらも与えずに驚くレッド目掛けて拳を振るジャドー
最早なりふり構ってはいられないとでも考えたのか、その様子は何処か焦っているようにも見えた
「この、このっこのォ!」
しかしながら只今別の戦闘の最中である二人の流れ弾から必死に逃げてきたからなのか、斧を何処かに置いてきたせいでまんま素手のみで戦っている、となればさっきまでの互角という話は別だ
「うわったったったぁ、こんの…いい加減にぃ
しろって言ってんだろーがッ!」
「ぐほぁあッ!?」
烈火の如き勢いでバットの如く振られたロッドが、ジャドーのデカい腹に目掛けて叩き込まれる
「っしゃあ!
獲物の無い敵なんてハナから雑魚、イコール私の勝ちじゃい!」
「…かないさんもかないさんで、そゆとこみみっちいッスよね」
アイリスは調子に乗ったレッドを見て、敵を倒した事に喜んで良いのか味方がまた一段と悪役っぽくなっている事に嘆くべきなのかと複雑な表情をしていた
「ぐっが…何の、まだまだ…!」
するとジャドーが再びレッドに拳を向け襲い掛かった
「おらぁああっ!」
ただ力任せに大きな腕をぶん回すだけの単純な攻撃
「おっと、よっ…お返しっ!」
「ぐほぁッ!?」
だが、パワーはあれどやはり戦い慣れていないという様子すら見える、今まで戦い続けてきた魔法少女にとっては本当に人の子供の様に腕を闇雲に振り回しているだけだ
恐らく焦りもあるだろうが、これでは避けてカウンターを決める事など先程と比べれば天と地の差がある程にたやすい
(くそっ、せめて何か…武器さえ、あれば…)
それでも何度も立ち向かうジャドー、それは果たして自身の主への思いからなのか
「はぁ、はぁ…いい加減倒れろ、しつこいんだよお前!」
「待ってかないさんそれ死亡フラグッスから!?」
まるで優位に立って調子に乗った三下のフラグ臭すらするセリフ
それでもジャドーは、そんな言葉も気にも留めず言った
「…無ぇもん言っても仕方ねぇ
上等だ!魔法少女風情が、かかってこいやぁああッ!」
例え自分の身がズタボロになり、今現在既に立っている事すらやっとの状態であるのにも関わらず、だ
その声には、最早敵ながらも男気すらも感じるだろう
「まだ息があったかァァ!!」
「ゲボラァッ!?」
「ちょっ」
ま、そんな事ウチには関係無いんですけどね
とでも言いたげに、堂々と弁慶立ちしていたジャドーの顔面に思い切り跳び蹴りをかましたその衝撃音は、いっそ何処か清々しさすら感じるものだったという
「…何してんスか、いやつーか本当に何してんだお前ェェ!?」
叫んで当然の、アイリスの魂のシャウトだった
「何か色々御託並べてて聞くのも面倒臭かったし…」
「いや面倒で済まして良い行動ではねーよ、悪魔か!もう魔法少女の主人公どころかサブキャラすら張れねーよこの外道!」
鼻をほじりながらゲシゲシとタバコの煙を消すかの様にテキトーに踏み続けるその姿は、どう見ても典型的なクズ型
一応これでも主人公っぽいシリアルとかあったんですよ
「まぁぶっちゃけ言うと妬みだよね
だって何でコイツ私が全体的に悪いみたいな雰囲気出して往生際悪く襲い掛かってくんの?我魔法少女ぞ、正義の味方ぞ?」
「いや今のアンタの状況を客観視しろ!セリフ行動全部含めてどう見てもアンタが極悪人でこの怪人が正義だから!」
まぁ初見さんが見たらどっちがどっちだって話だけどね
と、兎にも角にも終わり方は酷いものだったが、状況から見てもこの時点で既にレッドの勝利は充分明確になっていたのであった
何せ今戦っているカルナを除いて、敵は不利な状況であった上に散々タコ殴りにまでされてボロボロ、戦えてももう勝ち目などほぼ無いに等しい
「まーまー、倒せたんだから良いじゃない、今起きた事を喜ぶべきだ!」
「そうだけど過程が酷過ぎるって言ってんスよ!」
「過去は振り返らない主義なんでね…前だけを見て生きていくのさ」
「アンタが見てんのただの墓標!」
だからこそ、今の状況でレッドが負ける要素は無いのだ
だがそれでも負けられない、譲れないものもまたあるものだ
「…まだだ」
「「!?」」
背を向けていたレッドとアイリスが倒れた筈のジャドーに振り向いた
再びゆっくりと立ち上がり、地に足をしっかりとつけてその身で歩いていくジャドー、それには何処からか底知れぬ力強さのような何かが放たれている様にも見える
「んにゃろ、まだ立つか…っ!」
「…いや、ちょっと待ってくださいッス」
だが、やはり
「まだ、終わってねぇ…何勝った気で、いやがる…!」
足取りはおぼつかず真っ直ぐに歩けていない、腕は力無くぶら下がっているだけにしか見えない、息も既に絶え絶えだ
誰がどう見たって、戦える状態ではない
「くそっ酷い…おい、もう何も無理に戦わなくても!」
「いややったの七割がたアンタなんスけども」
そんな今でもおちゃらけ馬鹿にしたような態度を前にしても、ジャドーは歩みをビタ一ミリも止めずに段々と近づいていく
そして後少しまで来たというところで
「…………っ
ぅおぉるぁああァァッ!」
まるで今ある力を全て残さず出し切るかの様に、一気に踏み込み上から拳をレッドの頭に目掛けて落とした
「っあぶなぁ!?」
「ぐぅっ…!」
しかしそれでも手負いの攻撃、軽々と躱されてしまう
「くそがぁ…まだ、だッ…!?」
それでも、それでもと何回も暴れては躱され、最早自分の攻撃ですらまともに出来ない程にまで弱っていた
「いやちょっと、流石にコレ止めた方が…」
その姿は流石に痛めつけていた張本人であるレッドまでもが、引いている程に見ていられないものだった
「おっ…おい、流石にもう辞めた方が」
「うるせぇ!お前に何が分かる、この俺の痛みが」
「や、物理的な意味でなら充分分かるから、そのゾンビにしか見えない傷以上の何かが既に物語ってるから、な?」
何とか止めようとするレッドだったが、ジャドーの決死の行動は止まりそうもなく、ジャドー自身の方が先に絶えそうな勢いだ
「と、兎に角バリアでそんな無理に暴れられても困るッスし、力づくでも止めて下さいッス!」
「りょ…了解!」
「ぐおぉ、っぉおお…!」
そうアイリスが言い、若干迷いつつもレッドが体ごとジャドーを抑えにかかる、すると
「ちょっとだけ悪いけど、かく…」
「くそ、くそぉっ…!」
「「!?」」
さっきの様な殺気だったものや無理矢理体を動かし暴れていたものとはまた一転、レッドが近づくやいなや力が抜けた様にもたれ掛かり涙を流した
その表情から察するに、どれほど悔しいだろうか
「くそ…何故力が出ない!武器を失ったとはいえ、こうまで一方的に…まるで誰かに邪魔されているかの様に…!」
「ちょっ、暴れないのは良いけど重い、超重いコレ!てかいきなりコレってお前どんだけ情緒不安定だよ!?」
(…邪魔されている?)
容赦なく倒れ掛かる像異常とも思える重みに苦しむレッド
そんな事も知らずかおかまいなしにとジャドーは
「だがそれでもこんな時にこんな所で、お前ら魔法少女に負けるワケにはいかねぇんだ…どうしても、絶対にどうしてもだ!
例え貴様らが昔の主と同じ、魔法少女だとしても!」
「あぁもう執拗い!知るかそんなの、お前らのボスが魔法少…じょ…
…うん?」
だが、その一言でレッドとアイリスは動きを止める
「あー…えーとゴメン、今何て言った?」
「あ?何をいきなり…お前ら魔法少女に負けるワケには」
「違う、その先ッス!」
二人はすぐ様ジャドーに詰め寄り信じられないと思いつつも再度聞き直そうとする、肝心のジャドーの方が今度は引いてしまっている
「ぜ…絶対にどうしても…」
「もうちょい先!セリフ一個分位!」
何が何だか分からないまま、思い返しながら言うジャドーだが
「その前ってぇと確か、昔の我が主が…あっ」
自分で言って気づきやべぇという風の顔をしだす
「おめぇバカだろ!さっきのといい本当にバカだろ!」
「今更スけれどあの怪人見た目によらず天然キャラなんじゃ…」
二人からの非難というか怒号というか、若干呆れの入ったツッコミが容赦なく襲いかかる
そしてそれと同時に、レッドが顔を近づかせ
「…まぁ、とはいえコッチにとっては好都合」
「ぐぅっ!?」
ジャドーの鎧ごと胸ぐらを掴んで問い詰めた
「さ、話して貰おうか…キミの主とやらについて、なぁ?」
(うっわ凄く悪い顔ッスわぁ…)
勿論、脅迫という強引な形をとって
《第十一話へ続く…》
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