魔法師ミミと雨の塔

にゃっつ

文字の大きさ
上 下
5 / 5

【エピローグ】

しおりを挟む
 ミミにとって事件だらけだったあの日から数日後。

 人工の雨のお陰で、商店街の火事は広まらずに済み死傷者も出なかった。目下、復興作業中である。その一方、雨の塔の取り壊しが決まる。再建を望む声も多いので、きっとまた立派な塔が出来るだろう。その時はミミが雨の装置を、動かす事になるかもしれない。

「お待たせ、ナアさん!」

 ナアが育てていた『人面草』の花が、再び咲いたので新たな薬を作ることが出来た。今度は瓶二本。一つは親子で分け合って使用し、動物の耳も尻尾も消えた。

 もう一つをネコのナアに振りかけると、スルスルスルと青年の姿に変化した。優しげな眼鏡の青年との、数日ぶりの再会である。

「ありがとうミミ。でも僕は……」

「うん。パパに聞いた。ナアさんが本当は叔父さんなんかじゃなくて、元々ネコだったんだって」

 元々ネコだったナア。その友達だったロウが、ナアを『人化薬』で人間に変えたのだった。あの絵本『ぼくはネコ』の様に。そもそもロウが、絵本を描いた張本人である。つまりあの絵本は実話だったのだ。

「ナアさんはミミの友達だもん! それにナアさんが人間じゃないと、薬が無くなって困る人いっぱい居るでしょ」

 ナアは人間として、薬師として、もう長いことこの町に馴染んでいるのだ。

「あとミミからもお願い。おじいちゃんに薬を作って欲しいの! ミミも手伝うから」

 ナアは黙っているが、ミミは構わず喋り続ける。

「まず何が必要? あ、先に薬草摘みに行かなくちゃね……。そうだ、パパも一緒に来てくれるかな?」

 ミミは勝手に話を進めると、早速ナアの手を取って家を飛び出して行く。ナアは少女に引っ張られながら、少し困った様に……だが心から嬉しそうに笑った。

「でもね……」

 ミミはナアと手を繋いで歩きながら、いたずらっぽい笑みで言う。

「でもちょっと『ニャアさん』も可愛いかったけどね」

 塔の前に花を供えていたロウが、二人に気付いて手を振っている。青空の下、ミミの首にかけられた水晶玉が優しく煌めいた。


おしまい
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:59

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:17,339pt お気に入り:7,455

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:2,504

追放薬師と病の姫君

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:3

ショートショート集

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:1

継母の心得

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:62,530pt お気に入り:23,336

ねこみみ サムライ 銀河さん

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:2

田舎者の薬師は平穏に暮らしたい。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:823

異世界喫茶『甘味屋』の日常

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,862pt お気に入り:1,217

手乗りドラゴンと行く追放公爵令息の冒険譚

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,474pt お気に入り:2,524

処理中です...