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海底の空
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海底から見上げる海面は、陽光を浴びてキラキラと揺れていた。通り過ぎる魚達の影が、幻想的な世界を更に美しく見せた。
碧い碧い海の底で、生きる人々が居た。
もし地上に住む人々が、その存在に気付いたならば『海底人』と、そう呼ぶのだろうか。或いは世界に伝わる人魚伝説、それは彼等のことかもしれない。
「兄さま、これは何?」
海底に住む兄妹。妹ナギは兄オウミに問い掛ける。何やら一生懸命読んでいた本を広げて見せた。
「ああ。それはね地上の生物で『花』と言うんだよ」
少年は優しく微笑んだ。ナギは瞳をクリリと輝かせる。その愛らしさには、誰もが笑みを零すであろう。
「は……な? 綺麗ね。見たいね」
だがその時。
突如、大きな爆発音が響き渡った。波はうねり、辺りは物凄い揺れに襲われる。
ナギは恐ろしさに脅え泣き出した。兄は、守るように妹を抱き締めた。いったい何が起きたと言うのか。
眠っていた長老が怒りの声を発した。
「バカな! また地上びとは死の兵器を使ったのか!?」
辺りに居た人々も、ざわめき出す。
「何てことだ! またしても我々が生きる場所を奪うのか?」
「早く逃げなければ、私たちも死の病にかかってしまうわ」
「逃げるって、どこにだ。俺達の行く場所なんて、もう無い」
いつからだろう……。悲しみが始まったのは……。
地上びとは戦争で死の兵器を使う為に、海で実験をした。その度に海は死んで行った。黒い海の底で、小さな命も溶けて行った。
そして、また……。
生きる場所を奪われた海底びとは、このまま滅びる運命なのか。
人々は泣いていた。
死の病に冒された仲間達は、次々に母なる海へと帰って行った。
オウミ少年は、意を決した。
「長老! 僕は地上へ行きます。地上びとにお願いして来ます!」
もう死の兵器を使わないでくれ……と。
「だが地上びとに成れば二度と海底びとには戻れんぞ」
「構いません。ナギも死にました。もう誰にも死んで欲しくないんです」
長老は、地上びとに成れるという秘薬を、少年に渡した。
*
地上へ上がった少年は茫然とした。
黒い海。
灰色の雲が敷き詰められた空。
そして、死んだ街。
地上もまた、死の世界だった。
独り立ち尽くすオウミの元へ、足音が近付いて来る。
「だぁれ? 誰か居るの?」
驚いて振り向くオウミ。そして更に驚愕する。
「ナ……ギ……」
妹に似た少女。いや、だが違う。その瞳の色は殆んど無く、焦点も合っていない。盲目なのだろう。
「良かった。もう誰も居なくなっちゃったのかと思った」
盲目の少女は、屈託なく微笑んだ。
黙っていたオウミだが、ふと少女の足元に、しゃがみ込んだ。冷たい風に揺れる、小さな命を発見したのだ。
「は、は……な。花だ」
初めて見る本物の花。少年の頬を、大粒の涙が次々と流れた。
「どうしたの? 泣いているの?」
「……」
神よ。この汚れきった世界を浄化して下さい神? 海の神? 地上の神? 天の神? どの神に祈れば願いは叶う? 僕は……何をすればいい?
「ねぇ。綺麗な海でしょう? でも寒くて入れないね。早く暖かくならないかな」
せめてこの、いたいけな少女に、碧く輝く美しい海を見せてやりたい。
「あぁ。本当に碧く綺麗な海だね」
少女は花のように笑った。
おしまい
碧い碧い海の底で、生きる人々が居た。
もし地上に住む人々が、その存在に気付いたならば『海底人』と、そう呼ぶのだろうか。或いは世界に伝わる人魚伝説、それは彼等のことかもしれない。
「兄さま、これは何?」
海底に住む兄妹。妹ナギは兄オウミに問い掛ける。何やら一生懸命読んでいた本を広げて見せた。
「ああ。それはね地上の生物で『花』と言うんだよ」
少年は優しく微笑んだ。ナギは瞳をクリリと輝かせる。その愛らしさには、誰もが笑みを零すであろう。
「は……な? 綺麗ね。見たいね」
だがその時。
突如、大きな爆発音が響き渡った。波はうねり、辺りは物凄い揺れに襲われる。
ナギは恐ろしさに脅え泣き出した。兄は、守るように妹を抱き締めた。いったい何が起きたと言うのか。
眠っていた長老が怒りの声を発した。
「バカな! また地上びとは死の兵器を使ったのか!?」
辺りに居た人々も、ざわめき出す。
「何てことだ! またしても我々が生きる場所を奪うのか?」
「早く逃げなければ、私たちも死の病にかかってしまうわ」
「逃げるって、どこにだ。俺達の行く場所なんて、もう無い」
いつからだろう……。悲しみが始まったのは……。
地上びとは戦争で死の兵器を使う為に、海で実験をした。その度に海は死んで行った。黒い海の底で、小さな命も溶けて行った。
そして、また……。
生きる場所を奪われた海底びとは、このまま滅びる運命なのか。
人々は泣いていた。
死の病に冒された仲間達は、次々に母なる海へと帰って行った。
オウミ少年は、意を決した。
「長老! 僕は地上へ行きます。地上びとにお願いして来ます!」
もう死の兵器を使わないでくれ……と。
「だが地上びとに成れば二度と海底びとには戻れんぞ」
「構いません。ナギも死にました。もう誰にも死んで欲しくないんです」
長老は、地上びとに成れるという秘薬を、少年に渡した。
*
地上へ上がった少年は茫然とした。
黒い海。
灰色の雲が敷き詰められた空。
そして、死んだ街。
地上もまた、死の世界だった。
独り立ち尽くすオウミの元へ、足音が近付いて来る。
「だぁれ? 誰か居るの?」
驚いて振り向くオウミ。そして更に驚愕する。
「ナ……ギ……」
妹に似た少女。いや、だが違う。その瞳の色は殆んど無く、焦点も合っていない。盲目なのだろう。
「良かった。もう誰も居なくなっちゃったのかと思った」
盲目の少女は、屈託なく微笑んだ。
黙っていたオウミだが、ふと少女の足元に、しゃがみ込んだ。冷たい風に揺れる、小さな命を発見したのだ。
「は、は……な。花だ」
初めて見る本物の花。少年の頬を、大粒の涙が次々と流れた。
「どうしたの? 泣いているの?」
「……」
神よ。この汚れきった世界を浄化して下さい神? 海の神? 地上の神? 天の神? どの神に祈れば願いは叶う? 僕は……何をすればいい?
「ねぇ。綺麗な海でしょう? でも寒くて入れないね。早く暖かくならないかな」
せめてこの、いたいけな少女に、碧く輝く美しい海を見せてやりたい。
「あぁ。本当に碧く綺麗な海だね」
少女は花のように笑った。
おしまい
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