5 / 5
雨は また 巡り
しおりを挟む
雨が降ると思い出す。
まだ学生の頃、僕は小さな書店でアルバイトをしていた。
何でも無い、いつも通りの日。ただ、雨が静かに降っていた。
天気が悪いと、お客さんもまばらで退屈な時間も多い。棚に並んだ本の整頓をしてはみるが、大した時間つぶしにはならない。
いっそ店長に言って帰らせてもらおうか……。そんなことを考えながら狭い店内をウロウロしていたが、ふと視線を感じて外に目をやる。
そこには五・六歳くらいの少女が一人たたずんでいた。雨だと言うのに傘もささずに……。彼女はこちらに笑いかけると、パシャパシャと楽しそうに跳び跳ねて遊び始めた。
付近に保護者が居る様子は無い。迷子だろうか。心配になったので、とりあえず声をかけようと足を踏み出した。
パサリ
急に背後で整頓中の本が崩れ落ち、驚いて振り向く。そしてまた視線を外に戻すと、そこに居たはずの少女は居なくなっていた。
目を反らした時に、保護者が来て帰ったのかもしれない。
良く良く思い出してみると、雨の中に居たはずの彼女は、少しも濡れていなかったような気がする。
「まさか……な」
*
次の日もまた雨だった。
昨日と同じように彼女は現れた。やはり、どこも濡れていないようだ。僕と目が会うと、ただニッコリ微笑む。そしてまた少し目を離した間に、居なくなってしまった。
最初は幽霊じゃないかとも疑った。だが全く恐ろしさは感じない。あの柔らかな笑顔は、とても幽霊とは思えなかった。優しく暖かな印象で、どちらかと言うと『天使』の様な……。いずれにしても、不思議な感じの少女だった。
*
次の日は晴れだった。
太陽が眩しくて、濡れた地面も直ぐに乾きそうだ。
店の中には、お客が数人。週間少年誌を立ち読みする高校生。難しそうな本を手にしているスーツ姿の男性。幼い子とその母親は絵本をあれこれと選び中。
そこでまた、ふと外を見ると彼女が居た。足元には小さな小さな水溜り。だが可笑しなことに気が付いた。
少女の体が透けて、背後の景色が見えているではないか。
僕はただ茫然と見詰めていた。すると少女はまた僕に微笑みかけると、ヒラヒラと手を振った。
そして、まるで水が蒸発するかのように忽然と姿を消した。
地面もいつの間にやら、すっかり乾いていた。
「……これ下さい」
不意に声がして我に帰る。幼い女の子が背伸びをしながら、1冊の絵本をカウンターの上に乗せた。
『雨の妖精のおはなし』
その絵本は僕自身も昔見た記憶が有る。
雨の日に現れた雨の妖精と、子供たちが出会い仲良くなる。だが晴れた日に、妖精は別れを惜しみつつ消えて行くのだ。
一言こう言い残して……。
「また会おうね」
あるいは彼女も、雨の妖精だったのかもしれない。蒸発して天に昇った雨は、また巡り巡って新たな大地に降り注ぐ。
彼女もまた、どこかの地に降り立つのだろう。そんな気がしてならなかった。
雨上がりの空に、そっと手を振る。
おしまい
まだ学生の頃、僕は小さな書店でアルバイトをしていた。
何でも無い、いつも通りの日。ただ、雨が静かに降っていた。
天気が悪いと、お客さんもまばらで退屈な時間も多い。棚に並んだ本の整頓をしてはみるが、大した時間つぶしにはならない。
いっそ店長に言って帰らせてもらおうか……。そんなことを考えながら狭い店内をウロウロしていたが、ふと視線を感じて外に目をやる。
そこには五・六歳くらいの少女が一人たたずんでいた。雨だと言うのに傘もささずに……。彼女はこちらに笑いかけると、パシャパシャと楽しそうに跳び跳ねて遊び始めた。
付近に保護者が居る様子は無い。迷子だろうか。心配になったので、とりあえず声をかけようと足を踏み出した。
パサリ
急に背後で整頓中の本が崩れ落ち、驚いて振り向く。そしてまた視線を外に戻すと、そこに居たはずの少女は居なくなっていた。
目を反らした時に、保護者が来て帰ったのかもしれない。
良く良く思い出してみると、雨の中に居たはずの彼女は、少しも濡れていなかったような気がする。
「まさか……な」
*
次の日もまた雨だった。
昨日と同じように彼女は現れた。やはり、どこも濡れていないようだ。僕と目が会うと、ただニッコリ微笑む。そしてまた少し目を離した間に、居なくなってしまった。
最初は幽霊じゃないかとも疑った。だが全く恐ろしさは感じない。あの柔らかな笑顔は、とても幽霊とは思えなかった。優しく暖かな印象で、どちらかと言うと『天使』の様な……。いずれにしても、不思議な感じの少女だった。
*
次の日は晴れだった。
太陽が眩しくて、濡れた地面も直ぐに乾きそうだ。
店の中には、お客が数人。週間少年誌を立ち読みする高校生。難しそうな本を手にしているスーツ姿の男性。幼い子とその母親は絵本をあれこれと選び中。
そこでまた、ふと外を見ると彼女が居た。足元には小さな小さな水溜り。だが可笑しなことに気が付いた。
少女の体が透けて、背後の景色が見えているではないか。
僕はただ茫然と見詰めていた。すると少女はまた僕に微笑みかけると、ヒラヒラと手を振った。
そして、まるで水が蒸発するかのように忽然と姿を消した。
地面もいつの間にやら、すっかり乾いていた。
「……これ下さい」
不意に声がして我に帰る。幼い女の子が背伸びをしながら、1冊の絵本をカウンターの上に乗せた。
『雨の妖精のおはなし』
その絵本は僕自身も昔見た記憶が有る。
雨の日に現れた雨の妖精と、子供たちが出会い仲良くなる。だが晴れた日に、妖精は別れを惜しみつつ消えて行くのだ。
一言こう言い残して……。
「また会おうね」
あるいは彼女も、雨の妖精だったのかもしれない。蒸発して天に昇った雨は、また巡り巡って新たな大地に降り注ぐ。
彼女もまた、どこかの地に降り立つのだろう。そんな気がしてならなかった。
雨上がりの空に、そっと手を振る。
おしまい
0
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
👨一人用声劇台本「寝落ち通話」
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
彼女のツイートを心配になった彼氏は彼女に電話をする。
続編「遊園地デート」もあり。
ジャンル:恋愛
所要時間:5分以内
男性一人用の声劇台本になります。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる