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しおりを挟む今から二週間くらい前。
学校から帰る途中でそれを目撃した。
道端に停めた小さな自転車の前にしゃがんでいる阿部と、小学生くらいの男の子。
ーー……なおる?
ーー大丈夫だから、もうちょい待ってろ
どうやら自転車を修理してあげてるらしい。
ーー………
あいつ意外といい奴なんだなと思った。
学校では不良だの問題児だの散々言われてるのに…。
俺はなんとなくその場から動けずに、その広い背中をじっと見ていた。
ーーすぐなおっから、
相手が子どもだからといって特にいつもと態度が変わる訳でもなく、男の子はずっとびくびくしてたけどーー自転車がなおると笑顔になった。
ーーありがとう、おにいちゃん!
ーーおう、
その時の阿部の表情に、俺は釘付けになった。
そう、それはきっとーー学校の奴らは知らない彼の素顔。
阿部は自転車に乗った子どもを見送ると、汚れた手を払って鞄を拾い、さっさと行ってしまった。
ーー………
恋はするものではなく落ちるものだと、昔の映画のキャッチコピーにあったけど。
まさしくそれだと思った。
「……あ、」
「……え?」
その日同じ電車に乗り合わせたのは、偶然じゃなかった。
なんとか接点を作りたくて通学時間と電車を調べたのだ。
運命の出逢いなんて、自分で作るものだ。
「阿部…だよね、」
「………」
「あ、俺C組の一ノ瀬(イチノセ)。一ノ瀬隼人」
「………」
……こ、こえー…!
無言の圧力に思わずビビる。
そりゃ違うクラスのなんの面識もない奴に、急に話しかけられたら戸惑うだろうけど!
……無表情…てか無視とか!あと顔、怖いから!
「あ、あのさ、俺…」
「……喧嘩なら、他所で売れよ」
「……え?」
なんか、とんでもない誤解を受けてる気がする。
「や、違くてっ」
……が、頑張れ俺!
「前から俺、阿部と話してみたいって思ってて…っ」
「……え?」
阿部が目を見開く。
「あ、あのさ…」
と、その時。
「あ、」
阿部は何かに気づいたような反応をした。
「え?」
「わり、」
そう言うと、彼は別の車両に行ってしまう。
「ちょっ…」
呼び掛けも空しくその場に取り残された俺は、ちょっと落ち込みながらも彼の後ろ姿を目で追った。
……あれって、
俺は目を見張った。
阿部が向かった先には、意外な人物がいた。
……早川?
確か、阿部のクラスの担任…。
……え、なんで…
いや教師と生徒が一緒にいたからって、別におかしくはないけど。
タイプ的に、あんまり関わりがなさそうっていうか…。
……それに、なんか…
早川の顔は、ここからじゃよく見えないけど。
彼に話しかけている阿部は、それこそ今まで見たこともないような表情をしていた。
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