短編集(2)(BL)

kotori

文字の大きさ
上 下
38 / 68
きらきら

2

しおりを挟む
 
これで良かったんだと、何度も自分に言い聞かせた。
他の道もなかったわけじゃない。
だけど、自信がなかった。
臆病だと言われても仕方がないが、色々な事情を踏まえた上で堅実な道を選んだことは間違いじゃなかったと思う。





ーー絶対これでいけますよ!

ーーだから無理だって言ってるだろ。大体、おまえのプランは賭けが多すぎるんだよ

溜息混じりにそう言うと、津田はますますムキになる。

ーー賭けでもいいじゃないすか!それくらい必死にならないと!

ーー津田、落ち着けって

見かねた本村が割って入るが、津田は聞く耳を持たない。

ーーリスクを考えて守ってばっかじゃ、絶対勝てないっすよ!

俺たちは、仕事の上ではぶつかることが多かった。
若さ故の勢いと、歳を重ねた故の慎重さと。
だけどそれがお互いに良い刺激になってたんだと思う。
津田の感性は面白かったし、あいつも俺の話を聞きたがった。
今日のように、よく二人で飲みに行った。
明け方まで飲み明かすこともしばしばだった。



ーー内緒ですよ?

とある酒の席で本村が言った。
津田と本村は同期で、仲が良かった。

ーーあいつ、憧れてるって言ってました

本村はただ純粋に、後輩として先輩を慕っているという意味で言ったんだろう。

俺は気づいていた。
あの頃、津田が俺に対してどういう感情を抱いてたのか。
だけど怖かった。
それを認めてしまったら、自分の気持ちを抑えられなくなりそうで。
お互いの為に、それはよくないと思った。
だから何も言わなかったし、そんな素振りもみせなかった。
きっと時間が経てば、薄れていくものだと。
そう思っていた。




翌日、車で彼を駅まで送った。
車内では昨夜の話に触れることはなく、新しい会社の話や俺の家で作ってる酒の話をした。
遠いはずの駅には、あっという間に着いた。
じゃあお元気でと彼は言い、一日に数本しかないローカル線の古い電車に乗り込む。
誰もいないホームには俺だけが残された。

「……っ、」

……また、だ

津田の言うとおりだと思った。
不確かなものに賭ける勇気なんて俺にはない。
後悔することを恐れて、逃げてばかりいる。
そして今、あいつを呼び止められない俺はやっぱりただの臆病者で。

「……津田!」

その声は、発車のベルにかき消される。
その時、ガタリと音をたてて電車の窓が開いた。

「北川さん、」

あの頃と変わらない笑顔を浮かべて、津田は言った。

「会えて、良かったです」


しおりを挟む

処理中です...