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しおりを挟む「いっ、一緒に帰りませんかっ?!」
放課後。
顔を真っ赤にしたそいつは、俺の前でどもりながら言った。
「……いーけど」
そう言って席を立ち、周囲を一瞥する。
するとこっちを注目していたクラスの奴らはさっと目を逸らした。
柏崎敦巳(カシワザキ アツミ)は、代々続く由緒正しい名家の息子――つまり金持ちのボンボンらしい。
同じクラスになったことはないし話したこともなかったけど、それくらいは知っていた。
そんな奴が名門でもなんでもないこの学校に通う理由はわからないが、特に興味もなかった。
「さ、寒いですね!」
「まぁ、冬だしな」
既に暗くなりかけた空を見上げながら言う。
俺たちは最近、よく話すようになった。
たまにこうして一緒に帰ったりもする。
ただしつきあってるとかそんなんじゃない。
――……てゆうか俺、おまえのこと知らねぇし
いきなり告られた日の翌日、俺はあいつを屋上に呼び出した。
――男とつきあったこともねぇし
――………
アツミは俺の前に立ってから、ずっと俯いたままだった。
ぎゅっと握りしめた拳は、小さく震えていた。
――……だからさ、
その言葉にぴくり、と小さな肩が反応する。
――……まずはトモダチになってみる、とか?
――………!
その瞬間アツミは勢いよく顔をあげ、ぱあっと嬉しそうな表情を浮かべた。
――はい!是非、お友達になりたいです!
別に告白をOKしたわけじゃないのに飛び跳ねそうな勢いで喜んでるアツミを見て、罪悪感を抱かなかったわけじゃない。
だけどまぁ、言ってしまったもんは仕方ない。
「………」
「………」
「……てかさ、」
「は、はい?!」
「なんで敬語?」
隣りを歩きながらずっと疑問だったことを口にすると、え?とアツミは首を傾げた。
「俺らタメじゃん。なんで敬語使うわけ?」
「……あ、えっと、」
アツミは少し困ったような顔をする。
「誰に対してもそうなんで…」
「……はぁ?友達にも?」
「はい。常日頃から丁寧な言葉を使うようにと言われているので」
「………」
……意味わかんねぇ…
そういえば、育ちの良さが滲み出てるせいかクラスでは若干浮いてるって貴史が言ってたっけ…。
「どっか寄ってくか?」
気を取り直してそう誘ってみると、今度は申し訳なさそうな顔をした。
「……すみません、寄り道をしてはいけないと言われているので…」
「………」
小学生かよ…てか今どきそんなガキもあんまいねぇよ…。
「じゃあ休みの日ならいいわけ?」
俺としては、なんとか取っ掛かりを作りたかった。
「あ、はい。門限さえ守れば」
門限ねぇ…と苦笑いを浮かべる。
なんかいろいろ面倒くさい奴だなと思いつつ、俺は今度の日曜に会う約束を取りつけた。
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