九尾の狐、監禁しました

八神響

文字の大きさ
108 / 117
三章 壊れゆく日常編

三十一話

しおりを挟む
(……ああ、どうにもダメだな。この手の奴にはつい感情が抑えられなくなる。大黒秋人くそやろうのことを想起させるからなんだろうけど、それで感情のコントロールが出来なくなるのは我ながら未熟だよなぁ……)

 大黒が上原に強くあたってしまう理由、それは上原が相生を殺そうとしている人間だというのに加え、大黒秋人に似た部分を感じていたからでもあった。

 肥大化したプライドに実力が追いついていない弱者。その上で自分のために他人を傷つけることを厭わない人間。

 だがそれは何も上原や秋人に限った話ではなく、陰陽師という人種の八割はそういった性質を持つ。

 そうは分かっているのに過剰に反応してしまった自分に、大黒は少し恥ずかしい気持ちを抱いていた。

(脅すだけならともかく、あんな風に欠点をあげつらう必要は無かったなぁ。何様だって感じになるし………………、まあいいや、切り替えていこう)

 悶々としながらも治療を終えた大黒は、地面に刺したままの木刀を支えにしてグッと立ち上がった。

「傷は塞がった。しばらくは痺れて上手く動かないかもしれないが、数分あれば違和感もなくなって元通りになるはずだ」
「そらどーも……」
「俺はもう眠いし、そろそろ行くよ。この結界は消していくから、あんたも見つからない内にどっか行った方がいい。いくら家庭教師とはいえ、こんな真夜中に庭で寝てたら不審者として通報されそうだしな」
「…………なぁ」

 大黒は消失結界を解除してこの場を離れようとしたが、立ち去る前に上原に呼びかけられ足を止めた。

「なんだ? 特にもう話すことはない気もするけど」
「本当の所、結局お前はどうして姫愛ちゃんを助けるようなことをしたんだ?」
「は? それは最初に言っただろ。ただ友達だから助けるんだ、って。人殺しは駄目だなんて高尚な理由は無いし、金のためだなんて低俗な理由もない。ただ、守りたいものは全部守るってちょっと前に決めたんでな。それに背くような自分にはなりたくなかったんだよ」
「…………」

 大黒の偽らざる本音を聞いても上原は渋い顔のままだった。

 陰陽師として生きてきたものにとって、他人とは騙し、利用するもの。特に陰陽師同士ならともかく、陰陽術も使えない一般人相手にはそれが顕著になる。

 だから最後まで上原には理解できなかった。自分が手も足も出ないくらい陰陽師として出来上がっている大黒が、損得感情抜きで相生を助けようとしている現実が。

 だが、大黒としても今自分が話したこと以上に言えることは何一つなく、上原が納得いっていないのは承知の上でそこから退散することにした。

「別に分からないなら分からないでいいだろ。俺とあんたがこれから友達になるわけでもないし。相生姫愛を守ってさえくれれば、他でどんなことしてようが俺は関知しないからあんたもこれまで通り好きに生きてくれ」
「言われなくてもそうするさ。お前が陰陽師にしては変なやつだったからちょーっと気になっただけで。……じゃーな、出来れば二度と会わないですむことを祈ってるよ」

 体の感覚を取り戻したのか、上原ものそりと立ち上がって手近な木にもたれかかった。

 そして手をヒラヒラと振って、大黒に別れの挨拶をした。

 それを見届けた大黒は何も返さず、空中にいくつかの結界を作って相生邸から遠ざかっていった。

「……はぁ、だから陰陽師じゃないって言ってんのに」

 等間隔に張られた結界を足場に空中を跳んでいきながら、大黒は小さくぼやく。

 アンニュイな雰囲気を漂わせながら、人でない姿のまま夜空を跳ねる大黒。

 向かう先は大黒が住んでいる家から一番近いところにある小さな山。

 本来は今の姿にならずに事を収めるつもりだったが、予定外に妖怪化してしまい力も使い切れなかったので、人気ひとけのないところで霊力を出し切り人間に戻るために思いついた場所がそこだった。

(眠い……、けど妖怪のまま委員長の家に戻るわけにもいかないしな。それにこの力のおかげで話し合いも早めに終わったんだ。俺の睡眠時間くらい必要経費と考えよう)

 そうやって自分を納得させた後、大黒の脳裏に浮かんだのは気持ちよく寝ている相生の姿だった。

(ハクが言ってた問題も無事クリア出来たし、今夜からは委員長もぐっすり寝れるかな? これだけ上手くまとめたんだし家に帰ったらハクも褒めてくれるかもしれない……いや、きっと滅茶苦茶に甘やかしてくれるはずだ。……ヤバいな、目がどんどん冴えてきた)

 事態が解決して安心した大黒は、ありえない妄想をしながら顔をだらしなく緩ませる。


 ハクがクリアすべき問題として提示していたのは、相生が妖怪や陰陽師の姿を見ることなく全ての事を終えなければいけないということだった。

 相生のように霊力が少ない人間は妖怪の姿を見ることが出来ない。しかしそういう人間でも妖怪の存在が現実にいることを知ってしまったり、触れてしまったりすると、妖怪の姿が目に映るようになることがある。

 『知らない』という壁さえ破壊してしまえば、人間は誰でも妖怪を視る可能性を秘めている。

 だがそれで霊力が増すわけではないので、自衛する術も持たないまま妖怪と関わりを持つことになってしまう。

 視ることとは、見られること。妖怪を視る事のできる人間はそうでない人間より、妖怪に狙われる確率が大幅に上がる。

 それとまた同様に、陰陽師の存在も普通に生きていくにあたって知らないでいた方がいいことの一つである。

 知ってしまえば、相生の兄のように繋がりを持ってしまうかもしれない。そうなれば人生において生死の選択を迫られる機会も自ずと増える。

 そういった事態を防ぐため、ハクは大黒に全てを秘密裏に終わらせるよう厳命した。

 相生のような人間が、血なまぐさい世界に足を踏み入れてしまわないように。

 かくして、全ては相生が寝ている間に行われた。

 少々予定とはズレることはありながらも、相生をこちらの世界に巻き込むことは避けられた。

 それをやり遂げた大黒は、晴れ晴れしい気持ちで空を駆けていく。

 守ることの出来た日常が明日からも続くことに期待を膨らませながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...