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三章 壊れゆく日常編
三十四話
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だが、純からのメッセージにきちんと圧を感じながらも大黒は純に連絡をしていない。連絡をすれば言葉通りすぐに駆けつけてくる確信があったからこそ、連絡をするわけにはいかなかった。
純は大黒の体を時限爆弾と例え、霊力を使うことさえ控えるように言い含めていた。そんな大黒から一定期間以上目を離してしまうなんて純の行動原理から考えると到底ありえないことであり、純が今置かれている状況が抜き差しならないものであることを示していた。
純と式神契約を交わしている大黒は、純が命を落としたり大怪我をしたりすると契約書を通じて異変を感じ取ることが出来る。
そのため今のところ純が無事であることは分かっているのだが、自分の体に目に見える異常が無い内は純を呼ぶ気はなかった。
緊急事態の最中にいるであろう純に負担をかけたくない。そもそも全ては自分のせいなのだから純に甘えてはいけない。
それが大黒の胸中だった。そしてその考えは少し前にハクには伝えていた。
「貴方の考えも理解出来ますが、妹の方はそれを望んでいないように思えますがね」
「かもな。けどそれを言うなら俺だって妹の世話になりっぱなしになるのは望んでない。というかそれ以前に純には負い目がありまくりだからなぁ……。本来なら頼っちゃいけない相手だっていうのに」
「背負い込みすぎ、と言っても貴方は聞かないでしょうね。なので妹に連絡をしないことにこれ以上とやかくは言いませんが、私にぐらいは話して下さい。その辺りのことで甘えに来てくれると言うのなら私も素直に応じましょう」
「そう、だな。そうさせてもらうか」
大黒としてはハクにもあまり頼ってしまいたくはなかったが、情報共有という意味では話しておいたほうがいいと判断し、とりあえず現在自分が分かっていることはすべて話すことにした。
「前に言ったかもしれないけど、変化条件は十中八九俺がキレることだろうな。怒りっていう負の感情が引き金になるのは妖怪変化っぽいし、まず間違いないと思う」
「ふむ。怒りを感じたらとは言いますが、変化にまで至る怒りとは実際どれくらいのものなのかは分かりますか?」
「………………」
大黒はハクの問われて変化の時に浮き出た感情を思い起こす。
「……具体的と言えるかは分からないけど、今まで変化した時は全部相手に殺意を抱いてたな」
「なるほど。怒りが殺意にまで昇華されると変化するのでしょうか……、一応言っておきますがその可能性があるのなら無闇矢鱈と他人に殺意を抱くのは今後控えた方が良いですよ?」
「ハクは俺のこと何だと思ってんの? 俺はキレやすい若者とは対極に位置するような人間のつもりなんだけど」
「……じゃあ聞きますがこれから先、私が外に出ることがあったとしてその際私が見知らぬ男性にナンパされたら貴方はどうしますか?」
「そりゃもう八つ裂き………………まぁ、気をつけるよ。そうだな、いくら温厚な俺だって機嫌が悪い時もあるし、そんな時でもちゃんと感情のコントロールが出来るように今から心がけとくよ」
「ええ、あの本当に気をつけて下さいね? その沸点の低さだとこれからの人生かなり苦労することになりますよ?」
貴方も私も、とハクは大黒に聞こえない程度の声量で呟く。
「はっはっは。そんな心配しなくても大丈夫だって。ハク絡みのこと以外なら我慢強いのも本当だし。なんせ俺の得意技は結界術だ、耐え抜くのは得意中の得意と言っても過言じゃない」
「私は貴方が戦っているのは一回しか見たことありませんが、少なくともその時は結界を守りには使っていなかったように思えますが……」
大黒の結界という言葉でハクの脳裏に浮かんだのは、大黒家の戦いで豊前坊を結界で圧殺してる姿だった。
お世辞にも我慢強い人間が使う結界術の使い方ではなく、むしろ防御に使うべき結界を攻撃に使っていることを考えれば大黒は攻撃性が強い人間なのではないかという疑問まで頭をもたげてきた。
「……確かによくよく考えてみれば攻撃に使ってた方が多い気がしてきた。いや、でもそれは最近一対一の戦いばっかりだったから……でもないな。あ、あれ?」
「自分のアイデンティティにはもっと自信を持っといて下さい! 下手に突っついたこっちが申し訳なくなります!」
本格的に混乱してる大黒を見てハクは頭を抱えて叫んでしまう。
「いや、うん。そのうち俺の超絶守りテクを見せる時も来るだろうし、その時には納得してもらえるはずだ。耐えるって文字の擬人化みたいになってみせる」
「もうどうでもいいです。それに貴方の結界術の腕を疑ったこともないので証明して貰う必要もありませんよ。……凄い勢いで話が脱線しましたね。とりあえず変化条件は分かりました。で、後は体に異変があるかどうかなのですが……」
「異変なー……」
大黒は手を閉じたり開いたりして自身の可動を確かめる。
そして腕から足までざっと視線を動かし、異常な部分がないことを確認すると一つ頷いた。
「うん。目に見える部分も、多分目に見えない部分も問題なし。一回目も二回目も三回目も変化した後、霊力を使い果たせば人間に戻ったことも一緒だったし、純やハクは心配しすぎだと思うんだけどなー……」
「用心に越したことはありません。貴方はもっと自分の体が普通ではなくなってることに自覚を持つべきです」
どこか楽観的な大黒に、ハクは少し不機嫌そうな顔で忠告する。
純は大黒の体を時限爆弾と例え、霊力を使うことさえ控えるように言い含めていた。そんな大黒から一定期間以上目を離してしまうなんて純の行動原理から考えると到底ありえないことであり、純が今置かれている状況が抜き差しならないものであることを示していた。
純と式神契約を交わしている大黒は、純が命を落としたり大怪我をしたりすると契約書を通じて異変を感じ取ることが出来る。
そのため今のところ純が無事であることは分かっているのだが、自分の体に目に見える異常が無い内は純を呼ぶ気はなかった。
緊急事態の最中にいるであろう純に負担をかけたくない。そもそも全ては自分のせいなのだから純に甘えてはいけない。
それが大黒の胸中だった。そしてその考えは少し前にハクには伝えていた。
「貴方の考えも理解出来ますが、妹の方はそれを望んでいないように思えますがね」
「かもな。けどそれを言うなら俺だって妹の世話になりっぱなしになるのは望んでない。というかそれ以前に純には負い目がありまくりだからなぁ……。本来なら頼っちゃいけない相手だっていうのに」
「背負い込みすぎ、と言っても貴方は聞かないでしょうね。なので妹に連絡をしないことにこれ以上とやかくは言いませんが、私にぐらいは話して下さい。その辺りのことで甘えに来てくれると言うのなら私も素直に応じましょう」
「そう、だな。そうさせてもらうか」
大黒としてはハクにもあまり頼ってしまいたくはなかったが、情報共有という意味では話しておいたほうがいいと判断し、とりあえず現在自分が分かっていることはすべて話すことにした。
「前に言ったかもしれないけど、変化条件は十中八九俺がキレることだろうな。怒りっていう負の感情が引き金になるのは妖怪変化っぽいし、まず間違いないと思う」
「ふむ。怒りを感じたらとは言いますが、変化にまで至る怒りとは実際どれくらいのものなのかは分かりますか?」
「………………」
大黒はハクの問われて変化の時に浮き出た感情を思い起こす。
「……具体的と言えるかは分からないけど、今まで変化した時は全部相手に殺意を抱いてたな」
「なるほど。怒りが殺意にまで昇華されると変化するのでしょうか……、一応言っておきますがその可能性があるのなら無闇矢鱈と他人に殺意を抱くのは今後控えた方が良いですよ?」
「ハクは俺のこと何だと思ってんの? 俺はキレやすい若者とは対極に位置するような人間のつもりなんだけど」
「……じゃあ聞きますがこれから先、私が外に出ることがあったとしてその際私が見知らぬ男性にナンパされたら貴方はどうしますか?」
「そりゃもう八つ裂き………………まぁ、気をつけるよ。そうだな、いくら温厚な俺だって機嫌が悪い時もあるし、そんな時でもちゃんと感情のコントロールが出来るように今から心がけとくよ」
「ええ、あの本当に気をつけて下さいね? その沸点の低さだとこれからの人生かなり苦労することになりますよ?」
貴方も私も、とハクは大黒に聞こえない程度の声量で呟く。
「はっはっは。そんな心配しなくても大丈夫だって。ハク絡みのこと以外なら我慢強いのも本当だし。なんせ俺の得意技は結界術だ、耐え抜くのは得意中の得意と言っても過言じゃない」
「私は貴方が戦っているのは一回しか見たことありませんが、少なくともその時は結界を守りには使っていなかったように思えますが……」
大黒の結界という言葉でハクの脳裏に浮かんだのは、大黒家の戦いで豊前坊を結界で圧殺してる姿だった。
お世辞にも我慢強い人間が使う結界術の使い方ではなく、むしろ防御に使うべき結界を攻撃に使っていることを考えれば大黒は攻撃性が強い人間なのではないかという疑問まで頭をもたげてきた。
「……確かによくよく考えてみれば攻撃に使ってた方が多い気がしてきた。いや、でもそれは最近一対一の戦いばっかりだったから……でもないな。あ、あれ?」
「自分のアイデンティティにはもっと自信を持っといて下さい! 下手に突っついたこっちが申し訳なくなります!」
本格的に混乱してる大黒を見てハクは頭を抱えて叫んでしまう。
「いや、うん。そのうち俺の超絶守りテクを見せる時も来るだろうし、その時には納得してもらえるはずだ。耐えるって文字の擬人化みたいになってみせる」
「もうどうでもいいです。それに貴方の結界術の腕を疑ったこともないので証明して貰う必要もありませんよ。……凄い勢いで話が脱線しましたね。とりあえず変化条件は分かりました。で、後は体に異変があるかどうかなのですが……」
「異変なー……」
大黒は手を閉じたり開いたりして自身の可動を確かめる。
そして腕から足までざっと視線を動かし、異常な部分がないことを確認すると一つ頷いた。
「うん。目に見える部分も、多分目に見えない部分も問題なし。一回目も二回目も三回目も変化した後、霊力を使い果たせば人間に戻ったことも一緒だったし、純やハクは心配しすぎだと思うんだけどなー……」
「用心に越したことはありません。貴方はもっと自分の体が普通ではなくなってることに自覚を持つべきです」
どこか楽観的な大黒に、ハクは少し不機嫌そうな顔で忠告する。
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