九尾の狐、監禁しました

八神響

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二章 混ざり怪編

十九話

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『ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ』

 薄気味悪い笑い声が閑静だった道路に響き渡る。

 それは人間の笑い声のようにも聞こえるが、絶対に人間のものではないと言える不穏さを持っており、思わず耳を塞ぎたくなる不気味な笑いだった。

「……近くに住んでる人の笑い声っすかね」
「こんな笑い方をする人間がいてたまるか。どう考えても人外の類だろ」
「いやいや当主ならあるいはこんな笑い方をするかも……」
「その発言帰ったら純に伝えてやるからな」
「それだけは勘弁してください!」

 おどけた会話をしながらも鬼川と大黒の二人は油断なく辺りを見回す。

 車を止めて、笑い声がどこから聞こえてくるのか突き止めようとする二人だが、山に囲まれた場所であるため声が反響して中々方向を絞れない。

 そして二人が相手の場所を把握する前に、笑い声と共に巨大な何かが車にめがけて飛んできた。

「ひひひひひひひひひひひひっ!」

 どぐしゃぁっ! と音を立てて車の上に飛び乗ってきたそれは、四本の足で念入りに車を踏み潰す。

 そこには確かな悪意があり、獲物を確実に殺すための知性も感じられた。


 踏む。踏む。踏む。踏む。踏む。


 何度も何度も繰り返される相手を仕留めるための行為。しかしどうしたことか、一向に血溜まりが形成されない。完全に車は潰したはずなのに肉の感触は全くなかった。

 そうなってようやく、その生き物は周りを確認するという行動に出た。

「あ、やっとこっちに気づいた。感覚は鈍そうだな、痛みとかはちゃんと感じてくれるといいんだが……」
「ああ……、あたしのレクサス……」
「……大きい動物ね」

 そして自分から少し離れた場所に踏み潰したはずの人間がいることを目視し、車から足をどけて、三人の方に体を向けた。

 それから間髪入れずに人間を襲おうとしたのだが、その前に体の周りを透明な箱に囲まれてしまい身動きが取れなくなった。

「生成っと……、さてどうしようか。あのままだと五分も持ちそうにない感じもするが」

 生き物を結界の中に閉じ込めた人間、大黒は今後の対処について隣りで項垂れている鬼川に相談する。

 だが鬼川は大黒の声が聞こえていないのか、何事かをブツブツと呟き続けていた。

「レクサス……、レクサス……」
「いや、どんだけショック受けてんだ。さすがにもう車の一台くらい諦める状況だろ」

 踏み潰された車を見て悲しみに暮れていた鬼川は、その大黒の発言を聞いた瞬間大黒に掴みかかり、激しく前後に揺さぶり始めた。

「くらい!? くらいって言ったんすか!? あたしがあれを手に入れるためにどんだけ当主に頭を下げ続けたと思ってんすか!」
「分かった分かった! 悪かったよ! 帰ったら俺からも純に車を買ってもらえるよう頼んで見るから今は落ち着いてくれ!」
「それならいいんす。お兄さんから言われたら当主もノーとは言わないでしょうし。で、あれは何なんすか?」

 また車が手に入ると分かった鬼川はパッと大黒から手を離し、自分たちを襲ってきた生き物についての問いを投げる。

「現金なやつだな……。で、あれか……あれは多分ぬえ、だとは思う。猿みたいな顔に狸っぽい体で、手足には虎の模様があって尻尾は蛇、見た目の特徴だけで言うなら完全に鵺で間違いないはずだ」

 大黒は結界をガリガリと爪で攻撃している生き物を見て立てた予測を鬼川に話す。

 鵺。

 猿の頭、狸の胴体、虎の手足、そして尻尾が蛇になっている異形の妖怪。

 平安時代末期に不気味な鳴き声で、時の天皇の体を病で蝕んだとされる。その病は正攻法では治らず、悩んだ天皇の側近は、源頼光の子孫であり弓の名手であった源頼政に鳴き声の主の退治を命じた。

 そうして源頼政に弓で射抜かれた鵺は、その後バラバラに刻まれ川へと流されていったという。


 その逸話を思い出しながら話していた大黒だったが、どうにも自信がなさげで目の前の生き物を鵺だと断言できずにいた。

「なんでそんな曖昧な言い方なんすか。そっちに分かってもらわないとあたしとしては不安になるんすけど」
「鵺にしては引っかかる点が少しあるんだよ。鬼川はなんか変に思わないのか?」
「あたしはまずその鵺ってのがなんなのかも知らねぇんでなんとも。変かと言われれば全身変に見えるし」

 そう言って肩を竦める鬼川に大黒は驚きの目を向ける。

「鵺ってかなり有名な妖怪だし、陰陽師なら知らないはずは無いと思うんだけど……」
「あたしは元々は陰陽師の家の出じゃ無いっすからねー。大黒家の仕事も妖怪と戦うのは怜の役目で、あたしは人間相手の拷……話し合いが主っすし、妖怪には全然詳しくないんすよ」
「途中ではぐらかされた拷……の続きが滅茶苦茶気になる」

 現在の大黒家の運営がどうなっているのかを根掘り葉掘り問いただしたくなった大黒だったが、そんな状況では無いことを思い出し、頭を振って話を元に戻す。
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