九尾の狐、監禁しました

八神響

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三章 壊れゆく日常編

十六話

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「しかし本当に大学という場所は人が多いですね。こんなに人で溢れかえっていると何人か妖怪が混じっていても気が付かないかもしれません」
「まあ実際にこうしてハクが潜り込めてるわけだしな。昨日の訪問客は茨木童子、今日の訪問客は九尾の狐、そして学校のどこかには頭のおかしいやつが妖怪を弄くり回してたであろう研究室がある。もはや通行人に普通の妖怪がいたとしても驚くことすらなさそうだよ」
「……よく考えればそうですね」

 二人は話しながら、一つ一つの場所を注意深く観察する。

 講義中の教室、各階のトイレ、体育館、講堂、人気のない階段、イベントで使用されるステージ、中庭、食堂。
 一般生徒が立ち入れない場所も、二人なら隠形して潜入することが出来る。

 どこかに空間の綻びがないか、霊力の残滓が残っていないか。それらを気にしながら大学を一通り徘徊した。

 しかし、決して見落としがないように神経を尖らせること三時間、二人は未だにその手がかりすら掴めずにいた。

「ハク、疲れてないか? もし疲れてたら休憩しよう、ちょうどいい所にカフェがあるし。もしくは大学の近くにいいホテルがあるからそこで休憩してもいいかもしれない」
「お気になさらず、今すぐ貴方の腕を持っていけるくらいの元気は残っているので」
「物騒だ!」

 大黒もハクほど集中して探索してはいないが、三時間である程度以上の疲労はた
まっていたため休憩を提案する。
 しかしハクに一蹴され、続行を余儀なくされる。

「とは言うものの確かに集中力は落ちてきましたね……。少しでも進展があればまだ励みにもなるんですけど……」
「頑張れ頑張れ! やれば出来る! 諦めるな!」
「誰がそんな暑苦しく励ませと言いました? それよりも何か思い当たる節などを出してくれません? その陰陽師が隠れるのによく使っていた場所や隠れそうな場所、もしくは研究するにあたって何が必要か。その辺りを貴方が出してくれれば作業も捗ると思うのですが」
「あー……、なんかあったかなぁ……」

 大黒は視線を宙に浮かし記憶を辿る。

「とりえあず地下に潜るのが好きな奴ではあったな。『秘密基地と言えば地下にあるのが定番だろう?』ってよく言ってた気がする。そんな感じでわりとストレートな奴ではあったんだ。だから捻った場所には行かないと思う。それに捻らずともどうせ見つからないって思ってただろうし」
「なるほど……」
「それでいて出入りもしやすい場所かな。隠形が得意って言っても扉をすり抜けられるわけじゃないし、扉に厳重な鍵がかけられてたら使いづらいはずだ」
「私達もさっき屋上に入るのには苦労しましたしね」

 ハクはつい数十分前のことを思い出す。
 
 大黒が通う大学は講義に使われる教室が固まっている場所として、一号館から七号館まで七つの建物がある。
 二人は手始めにそれらを一階から順に上へと昇り、一つ一つの教室を調べて回っていた。
 
 そして最上階まで調べ終え、最後に屋上を調べようとしたところ、そこには当然のことながら鍵がかけられていた。

 壊すわけにもいかず、さてどうしたものかと悩んだ二人は誰もいない教室の窓から身を乗り出し、大黒が結界で作ったいくつかの足場を伝って屋上に乗り込んだ。

 自由に出入り出来ない場所は、それだけ労力が必要になることもあり、二人はそういった場所を候補から消すことにした。

「俺が言えるのはそれくらいかな。ハクは実際にここを回ってみて何か違和感とかは見つけられたりした?」
「……違和感と言うにはあまりに些細なものですが、この学校は現代にしてはほんの少しだけ霊気が濃いように感じました」
「…………」

 そう言われて大黒は辺りを見回して、空中に漂う霊気を確認してみる。

「……、……? いや、分からないな……。至って普通な場所な気もするけど……」
「本当に少しですからね、誤差の範囲と言えば誤差の範囲です。ですがこういった感覚の時、気の所為だったことはありません。……………………あの、この学校の地図は持っていませんか?」
「地図? そんなもの持って……、ああ多分ホームページに載ってるか」

 大黒は一旦ハクから手を離し、ポケットからスマートフォンを取り出す。
 そしていくつか操作をし、学内の全体図を画面に映し出した。

「これで何か分かったりするのか?」
「恐らくですが。…………ええ、やはりそうですね」

 画面を見たハクは、何か分かったように頷いて歩き出した。
 大黒は慌ててその後を追い、先を行くハクの手をパっと掴んだ。

「ちょっと待ってくれ」
「どうしました? 質問は道中に受け付けますが」
「いや、そういうのじゃなくて。どうせなら今日は最後まで手を繋いで行きたいな、と」
「……っ、………………」

 大黒の言葉にハクは何かを言い返そうとしたが、最終的には口をもごつかせるだけで終わり、困ったような顔で大黒の手を受け入れた。
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