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Episode.04 恐ろしいところ
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しおりを挟む「あ、ルクリア様。おはよう、ございます。」
ぎこちなくにこりと笑うソフィに、おはようと応える。気まずい、というソフィの気持ちが明らかで、居心地が悪く、ソフィよりもぎこちない笑みを浮かべた。
「…ルクリア様は朝がお早いんですね。」
そんなわたしを悟ったソフィは、花瓶に花を生けながら話す。
橙色、黄色、赤色と、鮮やかな花々が咲き誇る花瓶。名前も知らない花の華やかな香り。
まるで、ここはあの家とは違う場所だと主張するみたいだ、と思った。〝ルクリ・スア〟の香油をつけたハンカチを手に取り、鼻をおさえようとしてーーー止めた。
これでは、落ち着く部屋になるようにと花を用意してくれたソフィに失礼だ、と。
「…綺麗な、花ね。」
そう言うと、ソフィはこちらを見て、少し嬉しそうに笑った。
「庭師の方に頼んでみたのです。気分が明るくなるような花を、と。ルクリア様に気に入っていただけたようで安心いたしました。」
あの薔薇が良いと思いながら告げた言葉に、ソフィが安心している。嘘をついている罪悪感と、薔薇の匂いではないなれない空間への緊張感。
少し息がしにくくなった。
朝食をとった後、部屋にある教本を眺めながらゆったりと過ごす。明日のことを思って心の重たさに息を吐いた。
窓の外では柔らかい光が庭園を美しくみせている。
赤い薔薇が誇らしげに咲くその庭園を見て、あの薔薇の優しい美しさを改めて感じた。
「ルクリア様、よければお庭を歩きませんか?」
控えめなソフィの声に、首を振る。
「そう、ですか…。」
ここはあの薔薇の咲く庭園ではない。わたしが好きだった、迷宮庭園だってここには無いのだ。
ちらりと見た庭園には、藤色の髪をした女の人がいる。楽しげに歩いている様子にキュッと両手を握り込む。他にも、ちらほらと庭園の楽しむ人が視界に写った。
わたしの隠れ場所はもう無いのだ。
今日の湯浴みの後は香油を塗ってもらおう。〝ルクリ・スア〟があればきっと、苦しくても息ができるから。
ハンカチを鼻の前に添えて、すうっと息を吸った。息苦しさが、少し軽くなる。
「…。」
ソフィの複雑な視線を背負って窓の外を眺める。
陽の光に微笑む人たちを背景に、憂鬱そうな自分の顔が見えた。苦しそうな顔だと口元だけ笑ってハンカチを握った。
今も苦しいのに、これからはきっと、もっと苦しい思いをしなくてはならない。怖い、と思う。恐ろしい、と思う。息苦しさが増して、ハッと息を吐く。
明日、学院が始まる。
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