嘘をつけなくなった俺は、大好きだけどいつも喧嘩ばかりしてた幼馴染をデレデレにしてしまう

兎井まだか

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嘘をつけなくなった俺は、大好きだけどいつも喧嘩ばかりしてた幼馴染をデレデレにしてしまう

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 やってしまった。また今日も幼馴染の真琴と喧嘩してしまった。

 理由は単純。

 真琴の顔を見るとつい思ってもいることとは反対のことを口走ってしまう俺の悪い癖。

 例えば、

(毎日俺を起こしてくれてありがとう!)
「毎日毎日起こしに来るなよ。うぜーんだよ!」

 例えば、

(俺に弁当を作った? マジ⁉ 嬉しい嬉しい!)
「俺に弁当を作った? どうせマズいんだろ。いらねーよ!」

 などだ。本当は真琴のことが大好きなのに。

 昔は俺も素直な子供だったのに、真琴を意識するようになってからはもうずっとこんな調子だ。素直になれない。今の関係が壊れてしまうんじゃないかと不安で。

 しかし、今日のあれはまずかった。

 もう布団に入ってかれこれ三時間は経っているが、今日の真琴とのやり取りを思い出す度にため息が出る。

 一向に眠れる気配が無い。

 なんであんなこと言っちゃったんだろうな……。



『相談ってなんだよ?』

『えっとね、圭ちゃんは三組の後藤くんって知ってる?』

(えっ、なになにそのイケメンの後藤がなんなの? まさか真琴あいつが好きなの⁉)
『顔だけな。イケメンの後藤だろ』

『うん。その後藤くんにね……』

(そ、その後藤に……。いやいや、言わないで聞きたくないっ!)
『その後藤がどうしたよ。早く言えよ』

『ごめん。その後藤くんにね……告白されちゃったの……』

(告白されちゃったんだ~。って重要なのはその後だよ! どうしたの? もちろん断ったんだよね、ねっ⁉)
『良かったじゃん。あいつ性格も良いらしいしからお前付き合えよ』
(良くねーよっ! 後藤の性格なんて知らねーよっ! なに後藤のアシストしてんだよ俺はっ⁉)

『そっか……圭ちゃんがそこまで言うんなら。考えてみようかな。もし付き合ったら圭ちゃん応援してくれる?』

(はあ? する訳ないじゃんっ。なんで好きな人が他のやつと付き合うのを俺が応援するわけ⁉ お人好し通り越して馬鹿だよっ! そいつ脳味噌入ってないよぉ)
『応援してやるよ。はあ~、これでやっと俺も彼女作れるわ。いつもお前と居てなかなか作るチャンスがなかったからなぁ』
(脳味噌入ってなかったあああっ!)

『そっか……。なんか私のせいでごめんね。ありがと、もう行くね。……バカ』

 それが今日の出来事。

 もし真琴が既に返事して付き合うことになってたら、明日からは俺を起こしに来てはくれないだろうな……。

 なんでこんなことになってしまったんだろう。

 何を言っても構い続けてくれる真琴に甘えていたんだろうな。

 こんな形で今の関係が壊れるくらいなら、好きだと伝えればよかった。

 考えれば考えるほど自己嫌悪になる。

 もっと素直になっていれば。

 素直に気持ちを伝えられる人間になりたい……。

 零れそうな涙を必死に我慢していると俺はいつの間にか眠ってしまっていた。

 そして翌朝を迎える。



「……ちゃん……ちゃん。圭ちゃんっ」

 心地良い声。

 俺の大好きな真琴の声。

 耳に馴染む声が俺の意識を徐々に覚醒させていく。

「圭ちゃん。朝だよ早く起きてよね。遅刻したら圭ちゃんのせいだよ」

 真琴? なんで? もう来ないと思っていたのに。

「また夜遅くまで起きてたんでしょ。いつも言ってるじゃん早寝早起きしないとダメだって。聞いてる?」

 ああ、真琴だ。俺の大好き真琴だ。

 やばい顔がニヤけそう。とりあえずいつも通りに……。

(うるせーな。誰が起こしてくれって頼んだよ)
「おはよう。いつも起こしてくれてありがとう…………へっ?」



 通学路。いつものように二人で登校していた。普段なら口喧嘩の一つや二つしている。が、今日はそれどころか一言も言葉を交わしていない。

 俺が妙なことを口走ったせいか真琴は黙ったままだし。俺もなぜあんなことを言ってしまったのかと考え自然と無口になってしまう。

 真琴が俺を起こしに来たってことは後藤とはまだ付き合ってないのか?

 よし、付き合うな。

 けど実際はどうなんだろう。気になる。気になり過ぎる。

 それとなく聞いてみるか。あくまで自然に、遠回りしながらね。

(なんだか今日は静かだな。風邪なら移すなよ)
「後藤とは付き合うなよ」

「え……?」

 いや、メジャー級のどストレートッ!

 何言ってんの俺はっ! 思ってることそのまま言ってどうする⁉

「圭ちゃん、今のって……」

「えっ、えっ? 今俺なんて言ったっけ? あははは……」

「後藤くんとは付き合うなって……」

 やっぱり言ってたか……。

(はあ? んなこと言ってねーしっ)
「そうだよ。そう言ったんだよっ」

 また思ったことそのまま言ってる……。どうした俺。いつもの悪い癖はどこにいった⁉

 朝からおかしい。真琴だって絶対変だと思ってるよな。

 そーっと真琴に目を遣ると、なんとも嬉しそうな顔をしていた。

 どういうこと?

「うん……。圭ちゃんがそう言うなら断るね」

 マジで? やったーやったー。ざまぁみろ後藤っ!

(い、言ってねーし。勘違いすんなよ馬鹿っ)
「ありがとう。嬉しいよ真琴」

 駄目だ。俺は本当に脳味噌がなくなったんじゃないのか?

「私も……嬉しいかも……」

 かもってなんだよ。匂わせすぎだろ。

 ここはハッキリ言ってくれよ。俺を安心させてくれよ。

(うるせーよ。気持ち悪いな)
「真琴は可愛いな。ただ、かもって濁さずにハッキリ言って欲しいな。どうなの?」

 いやいや遂に口調まで変だよ。流石にこれは気持ち悪いよ。

 少女漫画かよ……ってこれも俺の本音なんだよな……。

「ご、ごめん。びっくりしちゃって。圭ちゃんが私にこんなこと言ってくれるなんて……」

 言うと真琴は恥ずかしそうにモジモジしだす。

 くそっ、可愛いなもう!

「嬉しい。ありがと」

 上目遣いで言う真琴は、脳味噌が煮えるほど可愛かった。

(嘘だよ。ブス。えーっと……ブス!)
「良かった。真琴可愛いよ。真琴」

「もうやだぁ……。恥ずかしいよ圭ちゃん」

 これはもう確定だな。
 何を思っても本音が出てしまう。今までみたいに嘘がつけない。
 真琴に対して本音の言葉しか出てこない。どうしようっ⁉

 ……………………まあ、いいか。

 最初は焦ったけど、これはこれで良いんじゃないか?

 現にほら、真琴の顔を見てみろ俺。

 真琴が俺に対して今までこんな表情を見せたことがあるか?

 ないだろ?

 恥ずかしそうで、それでいて嬉しそうなこの表情。

 それはどんなものより愛おしく俺がずっとずっと見たかったものだろ。

 単純だったんだ。俺が欲しくて欲しくて堪らなかったものはこんな簡単で……とても難しい。それなのに単純なこと。

 ――自分の本音を言う。ただそれだけだったんだ。

「あーあ、圭ちゃんのせいで恋人作るチャンスを逃しちゃったな」

 わざとらしく残念がる真琴。あざとい。が、それもまた可愛い。

「チャンスなんてすぐ来るよ」

「そっか……。そのチャンスって圭ちゃんが……今くれたりするの?」

 いや、その言い方は可愛すぎだろ。あげますよ。むしろ貰ってくださいよ。

 よし、と俺は意を決する。

 ここまで真琴に言わせたんだ。

 最後は俺の口から、俺の言葉で、俺の本音を。

(そうだな。俺が真琴にあげるよ)
「そうだな。俺が真琴にあげるよ」

(真琴。お前のことが好きだ)
「真琴。お前のことが好きだ」

(俺と……)
「俺と……」

 真琴は俺の言葉を待って何も言わないでいてくれた。

 さあ、言うぞ俺の本音をしっかりと聞いてくれ。



(俺と付き合ってくれ)
「俺と結婚してくれ」



 あれ? あれれ? あれれれれれれれ~?

 なに言ってんだよ俺はっ⁉ 色々すっ飛ばして突然プロポーズって、どんだけ真琴のこと好きなんだよっ⁉

 いや、好きだよ。本当に今すぐ結婚したいくらい好きだよ。

 だからといって、やっぱり結婚は気が早すぎる。それまでに真琴としたいことが沢山あるんだっ!

 ……でも真琴と結婚したらどんな感じだろう?

 朝は今までように起こしてもらって、俺が仕事から帰ると真琴が出迎えてくれる。そしてお決まりのあのセリフだ。

『ご飯にする? お風呂にする? それとも…………』

 そして俺はハッと現実に戻る。

 真琴の気持ちはどうなんだ?

 俺はいいけど、真琴は何て思う。

 今まで散々喧嘩してたくせに、いきなり結婚してくれとは頭がおかし過ぎる。

 そもそも結婚以前に真琴が俺と付き合ってくれるのかもわからないじゃないか。

 俺は恐る恐る横を歩いていた真琴に目を遣る。しかし真琴の姿はない。

 慌てて振り返ると真琴は足を止め俯いてしまっていた。

 俺は真琴に駆け寄り、
「ご、ごめん。なんていうか俺、舞い上がってて。いきなり変なこと言っちゃって……。で、でも真琴が好きっていうのは本当だから。そこだけは絶対だからっ!」

 焦った俺は道端で恥ずかしい台詞を叫んでいた。誰になんと言われてもいい。笑われたっていい。俺にとって大切なのは真琴だけなんだっ‼



「もぅ、おっきい声で恥ずかしいなぁ…………うん、私も圭ちゃんと結婚したい」



 瞬間、真琴は俺に勢いよく抱きついた。

 想像していなかった返答と行動に思わずコケそうになるが俺はなんとか踏ん張り、しばらくしてようやく頭の整理が出来たところで真琴に声を掛けた。

「あ、ありがとう。なんか今日は驚くことばかりだな……」

 ホッとする俺に真琴は――。

「ううん。私の方が驚くことばかりだよ。だって圭ちゃん、私が言ってほしいなって思った言葉ばかり言うんだもん。『結婚してくれ』まで言うなんて、私の心が読めてるみたいっ」



 その言葉で俺は全てを理解した。

 俺は勘違いしていたんだ。

 嘘がつけなくなったと思ってた。でもそうではなかった。

 あれは真琴が俺に言って欲しかった言葉たちだったんだ。

 だから最後少し、ほんの少しだけ俺が思ってたこととは違ってたんだ。

 まあ、いいさ。

 だってそれも……もう俺の本音なんだから。
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