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しおりを挟む3時のおやつの時間。
お嬢様は窓側の廊下を通りかからなかった。
代わりに目の前に広がるのはお茶会を演出したテラスだった。
薔薇模様レースのお洒落なテーブルクロスの上には薔薇の形をしたお茶菓子が用意されている。
椅子を引かれ席に着けば、淹れたての紅茶が陶器のカップに注がれ、薔薇の香りを漂わせ鼻腔をくすぐる。
ローズティーか?
陶器を囲むように繊細な薔薇の絵柄が上品に描かれたカップを手に取った。
濃厚な薔薇色がカップを揺らすと波紋となって揺れ動く。
口に含むと舌から甘美な味わいが全身へと染み渡った。
「君は席に座らないのか?」
直立状態の少女はぷるぷると首を横に振って否定の意識を伝えてきた。
「私のような身分の低い人間が、お嬢様と同席などあってはならないことです」
「でもずっと立っているのは大変だろう」
「いえ、立ち仕事は慣れていますので大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
少女は頑なに断り続けた。
仕方なくお茶菓子に手をつけるが、数口含んだだけで食事の手が止まってしまった。
菓子や紅茶は最高級の品なのだろ。
この屋敷で出される料理は庶民からしたら一度は食べてみたい贅沢品だ。
だか毎日食べていれば飽きてしまう。
話し相手のいない食卓で、毎日毎日同じ料理が提供される。
安定した栄養のある食事。
お茶会を開くのならば変えられると思っていたのに、お茶菓子が屋敷で出される種類と何も変わらなかったのだ。
変わったのは、食べる場所だけ。
人が近くにいるのに一緒の食卓を囲むことすら許されないのは、とても寂しい。
寂しい感情など捨て去ったと思っていたのに。
どうして一人でいるよりも、誰かが近くにいるのに、寄り添えないことのほうが悲しく感じるのだろうか?
青年は無意識の内に少女に手を伸ばしていた。
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