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海賊編 第十二章 決戦
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海賊船へと戻り、再度李祝へと向かう。
闇化精霊に飲み込まれたウェイルが心配で仕方ない。
正直、風の大精霊を闇より解き放てる自信もない。
それでも、立ち向かわなければ、何も救われない事をラセは知っている。
『これを、闇の大精霊からあなたへ』
水の大精霊との別れ際。ラセは、黒い短槍を渡された。
「これは?」
『これは、闇の大精霊の力が籠った武器。きっと闇化した精霊を止める手助けになるはず』
渡された黒い短槍を眺める。
光沢のある黒い刃先。
何の素材で出来ているかわからないが、丈夫な柄。
そして、何より、振りが軽い。
なのに、しっくりとした安定感がある。
『この短槍は、あなたが今まで体験した闇の部分。
辛い事も、悲しい事も世界には溢れている。
けれども、あなたは、何度も乗り越えてきた。
今度も乗り越えてほしいの』
『人は、いや全ての生命は、闇の心を持っている。
けれども、闇を恐れないでほしい。
闇を隠さないでほしい。
闇を認めて、常に戦ってほしい。
闇を乗り越えた時、人は強くなれるから』
辛さや、悲しみが、試練だと言うのならば、何度だって戦う。
私は、その先にある、光を手に入れたいから。
李祝に辿りついた海賊船から、黒煙竜で、闇の帝国へと向けて飛び立つ。
先日訪れたよりも、安定した海域に、逆に警戒してしまう。
『おそらく、このあたりに居た闇化した精霊もウェイルの元へと行ったのだろう』
「ウェイルに大量の闇化精霊が、取りついている可能性があるのね」
「……」
精霊の見えないルイは、いつもの騒がしさがなく、無言だ。
本当は、ルイは連れてきたくなかった。
先日の戦いで、十分すぎるほど危険であることがわかっていたからだ。
それでも、ルイは、頑なにラセの傍を離れようとしなかった。
ルイに握られた手から、強い意思を感じる。
「おれが、」
「?」
「おれが、ラセを繋ぎ止めて置くから、闇に呑まれないでくれ」
祈るような呟きに、ラセは、ルイに手を握り返す。
「うん」
特に、妨害もないまま、黒煙竜は、闇の帝国の上空へと向かう。
静かすぎる街並みを警戒しながら、黒煙竜は、大神殿を目指す。
呆気にとられるほど、簡単に、大神殿の中にある礼拝堂までたどり着いてしまった。
闇化精霊が押し寄せた痕跡が建物のあちこちらに見られるが、肝心の風の大精霊とウェイルの姿が見当たらない。
「……二人は、何処に行ってしまったの?」
首に下げたペンダントから闇色の光が、壁へと延びる。
『ペンダントの中に保管している黒い短槍が、反応しています。
おそらく、導いているのでしょう?』
「でも、壁にしか見えないぞ?」
ルイの言葉を聞いて、黒煙竜が黒い煙を発生させる。
すると壁のあたりに、風の流れがあることが判明した。
『隠し扉があるらしい』
「黒煙竜。壁に近寄って」
ラセの指示に従い、黒煙竜は、壁の近くへと寄る。
壁の辺りを手探りすると、ある一点がへこんで、下に人一人通れるほどの大きさの通路が出現した。
ペンダントの黒い光も通路の先を示している。
黒煙竜の姿のままでは通れないロンは仕方なく、人型へと姿を変える。
三人は、慎重に見つけた通路を進む。
ラセは、使い慣れた短槍を取り出して、戦闘態勢を整える。
ロンが灯した火を頼りに先へと進むと、開けた空間へと出た。
「ここは?」
『さあ?ボクが寝ている間にこっそり作られていたのかもしれない』
「自分の家だったんだろ。ここ。しっかり管理してくれよ」
愚痴を零しながら、辺りを見渡す。
部屋の真ん中に巨大な魔法陣が描かれている。
魔法陣の中心部には、風の大精霊が横たわっていた。
黒いフードを被った人物が振り返る。
「ウェイル!」
近づこうとしたラセをルイが引き留める。
振り返ったウェイルは、虚ろな表情を浮かべている。
魔法陣から、闇の霧が発生している。
闇の霧が部屋に舞い上がる。
セントミアは、瞬時に、闇化を防ぐ珊瑚色の結界を展開した。
『あなたには、わからない。わたしの悲しみ。孤独』
風の大精霊の声が部屋に響く。
「確かに、私は、あなたにはなれない。だからあなたの苦しみを全て理解することは出来ない。でも、苦しい思いをして生きて来た人々は、あなただけではないの!」
ラセには、わからない。
両親を失ったクレイの思いは。
ラセには、わからない。
家臣を失って、祖国を奪われたチャナの思いは。
ラセには、わからない。
両親の愛を知らずに、二人で身を寄せ合って過ごした王子と王女の思いを。
それでも、人は、辛い事を乗り越えられる。
クレイは、新しい家族を作った。
チャナは、祖国の残った人だけでも支えようと決意した。
王子と王女は、共に居る事で、傷を耐えてきた。
「きっと、あなたにも、私の苦しみはわからない!」
嘘吐き呼ばわりされた幼児時代。
闇の帝国の者として公開処刑された苦痛。
逆恨みされて、海に突き落とされた虚しさ。
闇化精霊に飲み込まれたウェイルが心配で仕方ない。
正直、風の大精霊を闇より解き放てる自信もない。
それでも、立ち向かわなければ、何も救われない事をラセは知っている。
『これを、闇の大精霊からあなたへ』
水の大精霊との別れ際。ラセは、黒い短槍を渡された。
「これは?」
『これは、闇の大精霊の力が籠った武器。きっと闇化した精霊を止める手助けになるはず』
渡された黒い短槍を眺める。
光沢のある黒い刃先。
何の素材で出来ているかわからないが、丈夫な柄。
そして、何より、振りが軽い。
なのに、しっくりとした安定感がある。
『この短槍は、あなたが今まで体験した闇の部分。
辛い事も、悲しい事も世界には溢れている。
けれども、あなたは、何度も乗り越えてきた。
今度も乗り越えてほしいの』
『人は、いや全ての生命は、闇の心を持っている。
けれども、闇を恐れないでほしい。
闇を隠さないでほしい。
闇を認めて、常に戦ってほしい。
闇を乗り越えた時、人は強くなれるから』
辛さや、悲しみが、試練だと言うのならば、何度だって戦う。
私は、その先にある、光を手に入れたいから。
李祝に辿りついた海賊船から、黒煙竜で、闇の帝国へと向けて飛び立つ。
先日訪れたよりも、安定した海域に、逆に警戒してしまう。
『おそらく、このあたりに居た闇化した精霊もウェイルの元へと行ったのだろう』
「ウェイルに大量の闇化精霊が、取りついている可能性があるのね」
「……」
精霊の見えないルイは、いつもの騒がしさがなく、無言だ。
本当は、ルイは連れてきたくなかった。
先日の戦いで、十分すぎるほど危険であることがわかっていたからだ。
それでも、ルイは、頑なにラセの傍を離れようとしなかった。
ルイに握られた手から、強い意思を感じる。
「おれが、」
「?」
「おれが、ラセを繋ぎ止めて置くから、闇に呑まれないでくれ」
祈るような呟きに、ラセは、ルイに手を握り返す。
「うん」
特に、妨害もないまま、黒煙竜は、闇の帝国の上空へと向かう。
静かすぎる街並みを警戒しながら、黒煙竜は、大神殿を目指す。
呆気にとられるほど、簡単に、大神殿の中にある礼拝堂までたどり着いてしまった。
闇化精霊が押し寄せた痕跡が建物のあちこちらに見られるが、肝心の風の大精霊とウェイルの姿が見当たらない。
「……二人は、何処に行ってしまったの?」
首に下げたペンダントから闇色の光が、壁へと延びる。
『ペンダントの中に保管している黒い短槍が、反応しています。
おそらく、導いているのでしょう?』
「でも、壁にしか見えないぞ?」
ルイの言葉を聞いて、黒煙竜が黒い煙を発生させる。
すると壁のあたりに、風の流れがあることが判明した。
『隠し扉があるらしい』
「黒煙竜。壁に近寄って」
ラセの指示に従い、黒煙竜は、壁の近くへと寄る。
壁の辺りを手探りすると、ある一点がへこんで、下に人一人通れるほどの大きさの通路が出現した。
ペンダントの黒い光も通路の先を示している。
黒煙竜の姿のままでは通れないロンは仕方なく、人型へと姿を変える。
三人は、慎重に見つけた通路を進む。
ラセは、使い慣れた短槍を取り出して、戦闘態勢を整える。
ロンが灯した火を頼りに先へと進むと、開けた空間へと出た。
「ここは?」
『さあ?ボクが寝ている間にこっそり作られていたのかもしれない』
「自分の家だったんだろ。ここ。しっかり管理してくれよ」
愚痴を零しながら、辺りを見渡す。
部屋の真ん中に巨大な魔法陣が描かれている。
魔法陣の中心部には、風の大精霊が横たわっていた。
黒いフードを被った人物が振り返る。
「ウェイル!」
近づこうとしたラセをルイが引き留める。
振り返ったウェイルは、虚ろな表情を浮かべている。
魔法陣から、闇の霧が発生している。
闇の霧が部屋に舞い上がる。
セントミアは、瞬時に、闇化を防ぐ珊瑚色の結界を展開した。
『あなたには、わからない。わたしの悲しみ。孤独』
風の大精霊の声が部屋に響く。
「確かに、私は、あなたにはなれない。だからあなたの苦しみを全て理解することは出来ない。でも、苦しい思いをして生きて来た人々は、あなただけではないの!」
ラセには、わからない。
両親を失ったクレイの思いは。
ラセには、わからない。
家臣を失って、祖国を奪われたチャナの思いは。
ラセには、わからない。
両親の愛を知らずに、二人で身を寄せ合って過ごした王子と王女の思いを。
それでも、人は、辛い事を乗り越えられる。
クレイは、新しい家族を作った。
チャナは、祖国の残った人だけでも支えようと決意した。
王子と王女は、共に居る事で、傷を耐えてきた。
「きっと、あなたにも、私の苦しみはわからない!」
嘘吐き呼ばわりされた幼児時代。
闇の帝国の者として公開処刑された苦痛。
逆恨みされて、海に突き落とされた虚しさ。
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