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33.式神契約とは
しおりを挟む数日後。
帝の住まいは、一部焼け焦げた為、立て直しの工事が行われていた。その間、帝と妃は、ヤジリの屋敷に寝泊まりすることになり、ヤジリは照れくさそうだった。
菊之介は、鬼闇返しの秘術を使い、鬼を全て闇へと帰した。
負傷した帝に変わり、ヤジリが帝になることが決まり、菊之介は補佐の役割を与えられた。
鬼女の名前を取り消された京は幽閉から解放されたが、都には必要最低限下りずに、林の中で生活していた。
時々、烈火が京を訪ねているようで、二人の仲は、とても良いようだった。
助彦は、畳の上で横になって空を見上げていた。
鬼の脅威がなくなり、平和になった京都はとてもおだやかだ。
助彦は、伸びを一つして、起き上がった。
「そろそろ帰るか」
助彦は、帰り方を知っている、菊之介の元を訪ねることにした。
助彦が、障子を開けると、寄り添って勉強している、ヤジリと菊之介がいた。
ヤジリが慌てて菊之介と距離を取る。
「いきなり障子を開けるやつがいるか!」
「ここにいるけど?なに照れてんの?ヤジリ」
助彦がヤジリをからかうと顔を真っ赤にして、小さな唸り声を上げた。
「別におれに気を使うことないじゃん」
助彦は拗ねたふりをしながら、ヤジリを盗み見た。
式神契約を解消してから、ヤジリは変わった。
前より表現豊かになったし、何より笑うようになった。
その変化が素直に嬉しい。
「菊之介。おれそろそろ元の次元の時間軸に帰ろうと思うんだけど、帰り方教えて」
助彦があっさりと告げると、ヤジリと菊之介は、悲しそうな顔をした。
だが、菊之介は無理に笑顔を作ると頷いた。
「わかった。むしろいままでこの世界に居てくれて有難う。助彦殿には、本当に色々と世話になった」
「おれはただ、自分のしたいことをしただけだよ」
助彦は、にこりと微笑んだ。
「やはり、助彦殿にはかなわないな」
菊之介も微笑み返した。
「助彦」
ヤジリが、涙目で助彦の手を握った。
「なに泣きそうになってんだよ。ヤジリ」
「助彦は、我と離れて寂しくないのか?」
「寂しいけど、ヤジリとはいつでも会えるじゃん」
「?」
ヤジリは、訳が分からずに首をかしげた。
「ヤジリは、おれの理想の姿だから、おれが理想を追いかけていれば、いつでもヤジリに
会えるだろ?」
その言葉に、ヤジリは、眩しそうに目を細めて微笑んだ。
「そうだな。我の理想の姿は、助彦だ。だから、我も理想を追い続けよう」
助彦とヤジリは、つないだ手を握り合った。
「帰るなら他の者も呼ぶか?」
「いやいいよ。みんな、ラブラブだから、邪魔しちゃ悪いし」
「ラブラブ?」
ヤジリは言葉の意味が解らず、首をかしげた。
「ヤジリと菊之介みたいな関係のこと」
「我と菊之介様の邪魔はしてもよいというのか?」
ヤジリは拗ねてそっぽを向いてしまった。
助彦は、さすがにからかい過ぎたと思い、ヤジリに平謝りした。
「では、助彦殿始めようか」
「ああ、頼む」
「ヤジリ。助彦殿との式神契約を解消してくれ」
「えっ。なぜですか?」
「助彦殿をこの次元に繋ぎ止めているのが、式神契約だからだ。式神とは、そもそも、別次元の生き物をこちらの世界に召喚して力を得る術だったのだが、いつの間にか召喚された式神の子孫が増えて、別次元から召喚する必要性が無くなったのだ。元をたどれば、鬼もここではない次元から召喚された元式神の残りだと考えられている」
「そっか。だから勝はすぐに元の世界に帰って行ったのか」
勝の名前を出したら、菊之介は考え込んだ。
「菊之介?」
「……もしもの話だが」
菊之介は、言いにくそうにためらったあと、決意したように口を開いた。
「助彦殿が、ヤジリの立場ならば、鬼の王を受け入れられたか?」
「えっ」
戸惑った助彦を見て菊之介は慌てて手を横に振った。
「いや、答えなくてよい。ただ、心に留めておいてほしかっただけだ」
助彦は中途半端に質問されて、もやもやとした。
「やっぱここに居たか」
烈火が、障子からひょういと顔を覗かせた。
おずおずと京も烈火の後ろから姿を現した。
「烈火に京さん」
「俺らだけじゃないぜ」
烈火が促すと、妃に支えられた帝まで現れた。
「父上に、母上まで。どうして」
ヤジリは、帝を支えて畳に座らせた。
「息子の顔を拝みたいと思うのはいけないことですか?」
妃は、扇子で顔を隠し、帝の隣に礼儀正しく正座した。
「本当は、助彦様がお帰りになられると占いで出たので、慌てて様子を見に来たのでございます。まだいらしてほっと致しました」
「お前最後まで水臭いやつだな」
烈火が、助彦の肩を抱き寄せた。
空いている手で助彦の頭をごしごしと乱暴に撫でる。
そういう所は本当に変わらない。
助彦の視界が涙で歪んだ。
助彦は、子供っぽい自分を卒業したかった。
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