30 / 44
第一章:転生と旅立ち
エピローグ:旅立つ俺たちはまだ魔王の脅威を知らなかった
しおりを挟む
「世話になったなメアリー・シェリー。ありがとう」
俺はメアリーに礼を言った。
「礼には及ばんさ。あたしはちゃんと報酬をいただくからね」
ライカはかなり感動しているようだった。
「メアリー先生、インチキなんて言ってすみませんでした。本当に不死の科学が存在するなんて・・私などは科学者としてまだまだ未熟です」
「お若いお嬢ちゃん博士。それはキャリアが違うからだよ。お嬢ちゃんもあたしの歳まで研究を続ければそれなりの成果は出るさ。お励みなさい」
「ありがとうございます」
屋敷の中からビクターとパーシーがミンミンの衣服と所持品を持って出てきた。
それをライカが受け取る。
「ビクターとパーシーはあたしの初期作品なのさ。複数の死体の優れた部分を繋ぎ合わせて完璧な人間を造ろうとしたんだ。結果は見ての通り出来損ないだったけどね。それでもよく働いてくれる大切なあたしの家族さ」
母親を知らずに育ち、子供や夫を失った悲しみをエネルギーに、死を撲滅する研究に人生を捧げているメアリー。
彼女がビクターとパーシーを見つめる目には、たしかな愛情が感じられた。
「いいかいお嬢ちゃん博士。この世のすべては科学で説明がつくことばかりなんだ。たとえ今説明できなくても科学的思考を止めてはいけない。神秘も魔法もいずれは科学が解明する。それをするのがあたしたち科学者の使命なんだよ」
「はい、肝に銘じます」
ライカはそういうと、報酬の金を支払った。
そして俺はチョーキの装備一式をメアリーに渡した。
「確かに受け取ったよ。これはオマケだ。お嬢ちゃん博士、あんたに預けよう」
それは束になったノートだった。
「これは・・・まさか!」
「あたしの研究ノートさ。蘇生術のレシピが書かれている。あんたに熱意があるなら、これをさらに完成させることができるでしょうね」
「こんな大切なものを・・・」
「この研究はあたし一人で抱え込むべきものじゃないのさ。しかし悪人の手に渡すわけにはいかない。あんたを見込んで渡すんだから大切にしておくれ」
「はい。必ず!」
ライカは蘇生術のノートを受け取った。
そして俺に向かってこう言った。
「マーカス、ミンミンちゃん蘇生の費用は私が全額持つわ。そんなお金惜しくないほど貴重なものを手に入れたから」
・・・正直、それはかなり助かる。。
こうして俺たちはメアリーの屋敷を後にし、バチャタンへの旅に出ることになった。
━━…━━…━━…━━…━━…━━━━…━━…━━…━━…━━…━━
メアリー・シェリーは神は存在しないと言った。
しかし、神は存在するし神の視座というものがある。
これから記す出来事はその神の視座に基づくものであり、俺はまだ知りえなかったことだ。
それは俺たちがメアリーのもとを立ち去って数日後の夕刻のことだ。
メアリーはビクター、パーシーとともに大広間で夕食のテーブルに着いていた。
そのとき激しく扉を叩く音がした。
「なんだい、食事時に騒がしいねえ。ビクター、もう少し後にしてもらうように言ってきなさい」
ビクターが玄関の扉に向かおうとしたそのとき、木材の割れる大きな音が響いた。
何者かがその扉を破壊したのだ。
驚いた3人が玄関の方を見ると、そこにひとりの男が立っていた。
背の高さはビクター、パーシーほどではないが、彼らよりも発達した筋肉の持ち主なのでより大きく見える。
素肌の上にきらびやかな装飾が施されたベストを羽織っており、ゆったりしたパンツを履いている。
その顔には一切の贅肉が無く、鋭く切れ込んだ目は冷酷な光を放っているようだ。
短く刈り込んだ髪のある頭部に、王冠のように宝石を散りばめた鉢がね状のヘッドピースを着けている。
歳は30歳前後くらいに見える。
そしてその体全体から強烈な邪気を放っていた。
「ひさしぶりだな、メアリー・シェリー」
その男は地底から響くような低く太い声でそう言った。
「あ、あんたは・・・」
メアリーは額から冷や汗を流している。
「あんたは、魔王・・・」
魔王と呼ばれた男は低く籠った笑い声を上げた。
「食事時にすまんな、俺も呼ばれていいかね」
「あ・・ああ、かけとくれ。しばらくだったね。何も扉を壊さずとも少し待ってくれれば開けたのに」
男は黙って席に着いた。
「ビクター、お客に食事を持ってきておあげ」
そう言いながらメアリーが目配せをすると、ビクターは席を立った。
「魔王、あんた突然なんの用だね?まさか飯を食いに来たわけじゃあるまい」
男は上目遣いでメアリーの顔を見つめた。
「メアリー、お前も老いたな。お前の不死の科学もまだ完ぺきではないようだ」
メアリーの顔が恥辱に歪んだ。
「あんたは腹が立つほどまったく変わらないね。悔しいけどあんたが唯一の成功例だよ」
男はテーブルに置かれたワインを自分で杯に注ぐと一気に飲み干して言った。
「最近、また蘇生術を行ったようだな。今回はかなり成功したようじゃないか」
「どうしてそれを?・・ふん、さすがに魔王だよ、耳が早いね。しかし生き返った子は消えちまったから、成功したといえるかどうか」
「いや、見事に成功してるよ。まあそれはいい。俺が関心あるのはお前が受け取った報酬だ」
「報酬だと?魔王ともあろう者がこんな細々と暮らしている老人の金に関心があるのかね?」
「金の話じゃない。他に受け取った物があるだろう」
メアリーのこめかみを汗が伝った。
「あれは俺の物だ。俺に寄こすんだ」
「パーシー!!」
メアリーが叫ぶと、パーシーが男に跳びかかった。
男にしがみつこうとしたパーシーは、まるで蠅を追うように振られた片手で払い飛ばされてしまった。
パーシーは頭から壁に激突してそのまま動かなくなった。
「魔王様、この男を捕まえました」
破壊された扉から、ビクターを両脇から抱えた2名の鎧姿の戦士が入って来た。
「その男の持ち物を取り上げろ」
ビクターが持っていたものは、勇者チョーキの装備一式だった。
「さてメアリー・シェリー。お前の蘇生術は俺にとってはもはや邪魔でしかないんだ。お前たち3人には消えてもらうことにする」
男がそう言うと、手下の戦士のひとりが剣を抜いてビクターの腹部に深く突き刺した。
「ビクター!!」メアリーが悲痛な叫び声をあげた。
「メアリー、あの世というものが存在するならそこで仲良く暮らせ。無神論者のお前の行くあの世があるのかどうかは知らんがね」
メアリーは唇を噛みしめ、そして男の顔を睨んだ。
「覚えておくがいい。いずれあんたを殺しに行く勇者が現れるよ。それはあんたの血を引く者さ、魔王チョーキ!!」
その夜、メアリーの屋敷を焼き尽くした炎は、遠くの村々でも目撃されたほど大きかった。
ーーー第二章へつづくーーー
俺はメアリーに礼を言った。
「礼には及ばんさ。あたしはちゃんと報酬をいただくからね」
ライカはかなり感動しているようだった。
「メアリー先生、インチキなんて言ってすみませんでした。本当に不死の科学が存在するなんて・・私などは科学者としてまだまだ未熟です」
「お若いお嬢ちゃん博士。それはキャリアが違うからだよ。お嬢ちゃんもあたしの歳まで研究を続ければそれなりの成果は出るさ。お励みなさい」
「ありがとうございます」
屋敷の中からビクターとパーシーがミンミンの衣服と所持品を持って出てきた。
それをライカが受け取る。
「ビクターとパーシーはあたしの初期作品なのさ。複数の死体の優れた部分を繋ぎ合わせて完璧な人間を造ろうとしたんだ。結果は見ての通り出来損ないだったけどね。それでもよく働いてくれる大切なあたしの家族さ」
母親を知らずに育ち、子供や夫を失った悲しみをエネルギーに、死を撲滅する研究に人生を捧げているメアリー。
彼女がビクターとパーシーを見つめる目には、たしかな愛情が感じられた。
「いいかいお嬢ちゃん博士。この世のすべては科学で説明がつくことばかりなんだ。たとえ今説明できなくても科学的思考を止めてはいけない。神秘も魔法もいずれは科学が解明する。それをするのがあたしたち科学者の使命なんだよ」
「はい、肝に銘じます」
ライカはそういうと、報酬の金を支払った。
そして俺はチョーキの装備一式をメアリーに渡した。
「確かに受け取ったよ。これはオマケだ。お嬢ちゃん博士、あんたに預けよう」
それは束になったノートだった。
「これは・・・まさか!」
「あたしの研究ノートさ。蘇生術のレシピが書かれている。あんたに熱意があるなら、これをさらに完成させることができるでしょうね」
「こんな大切なものを・・・」
「この研究はあたし一人で抱え込むべきものじゃないのさ。しかし悪人の手に渡すわけにはいかない。あんたを見込んで渡すんだから大切にしておくれ」
「はい。必ず!」
ライカは蘇生術のノートを受け取った。
そして俺に向かってこう言った。
「マーカス、ミンミンちゃん蘇生の費用は私が全額持つわ。そんなお金惜しくないほど貴重なものを手に入れたから」
・・・正直、それはかなり助かる。。
こうして俺たちはメアリーの屋敷を後にし、バチャタンへの旅に出ることになった。
━━…━━…━━…━━…━━…━━━━…━━…━━…━━…━━…━━
メアリー・シェリーは神は存在しないと言った。
しかし、神は存在するし神の視座というものがある。
これから記す出来事はその神の視座に基づくものであり、俺はまだ知りえなかったことだ。
それは俺たちがメアリーのもとを立ち去って数日後の夕刻のことだ。
メアリーはビクター、パーシーとともに大広間で夕食のテーブルに着いていた。
そのとき激しく扉を叩く音がした。
「なんだい、食事時に騒がしいねえ。ビクター、もう少し後にしてもらうように言ってきなさい」
ビクターが玄関の扉に向かおうとしたそのとき、木材の割れる大きな音が響いた。
何者かがその扉を破壊したのだ。
驚いた3人が玄関の方を見ると、そこにひとりの男が立っていた。
背の高さはビクター、パーシーほどではないが、彼らよりも発達した筋肉の持ち主なのでより大きく見える。
素肌の上にきらびやかな装飾が施されたベストを羽織っており、ゆったりしたパンツを履いている。
その顔には一切の贅肉が無く、鋭く切れ込んだ目は冷酷な光を放っているようだ。
短く刈り込んだ髪のある頭部に、王冠のように宝石を散りばめた鉢がね状のヘッドピースを着けている。
歳は30歳前後くらいに見える。
そしてその体全体から強烈な邪気を放っていた。
「ひさしぶりだな、メアリー・シェリー」
その男は地底から響くような低く太い声でそう言った。
「あ、あんたは・・・」
メアリーは額から冷や汗を流している。
「あんたは、魔王・・・」
魔王と呼ばれた男は低く籠った笑い声を上げた。
「食事時にすまんな、俺も呼ばれていいかね」
「あ・・ああ、かけとくれ。しばらくだったね。何も扉を壊さずとも少し待ってくれれば開けたのに」
男は黙って席に着いた。
「ビクター、お客に食事を持ってきておあげ」
そう言いながらメアリーが目配せをすると、ビクターは席を立った。
「魔王、あんた突然なんの用だね?まさか飯を食いに来たわけじゃあるまい」
男は上目遣いでメアリーの顔を見つめた。
「メアリー、お前も老いたな。お前の不死の科学もまだ完ぺきではないようだ」
メアリーの顔が恥辱に歪んだ。
「あんたは腹が立つほどまったく変わらないね。悔しいけどあんたが唯一の成功例だよ」
男はテーブルに置かれたワインを自分で杯に注ぐと一気に飲み干して言った。
「最近、また蘇生術を行ったようだな。今回はかなり成功したようじゃないか」
「どうしてそれを?・・ふん、さすがに魔王だよ、耳が早いね。しかし生き返った子は消えちまったから、成功したといえるかどうか」
「いや、見事に成功してるよ。まあそれはいい。俺が関心あるのはお前が受け取った報酬だ」
「報酬だと?魔王ともあろう者がこんな細々と暮らしている老人の金に関心があるのかね?」
「金の話じゃない。他に受け取った物があるだろう」
メアリーのこめかみを汗が伝った。
「あれは俺の物だ。俺に寄こすんだ」
「パーシー!!」
メアリーが叫ぶと、パーシーが男に跳びかかった。
男にしがみつこうとしたパーシーは、まるで蠅を追うように振られた片手で払い飛ばされてしまった。
パーシーは頭から壁に激突してそのまま動かなくなった。
「魔王様、この男を捕まえました」
破壊された扉から、ビクターを両脇から抱えた2名の鎧姿の戦士が入って来た。
「その男の持ち物を取り上げろ」
ビクターが持っていたものは、勇者チョーキの装備一式だった。
「さてメアリー・シェリー。お前の蘇生術は俺にとってはもはや邪魔でしかないんだ。お前たち3人には消えてもらうことにする」
男がそう言うと、手下の戦士のひとりが剣を抜いてビクターの腹部に深く突き刺した。
「ビクター!!」メアリーが悲痛な叫び声をあげた。
「メアリー、あの世というものが存在するならそこで仲良く暮らせ。無神論者のお前の行くあの世があるのかどうかは知らんがね」
メアリーは唇を噛みしめ、そして男の顔を睨んだ。
「覚えておくがいい。いずれあんたを殺しに行く勇者が現れるよ。それはあんたの血を引く者さ、魔王チョーキ!!」
その夜、メアリーの屋敷を焼き尽くした炎は、遠くの村々でも目撃されたほど大きかった。
ーーー第二章へつづくーーー
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる