空手バックパッカー・リターンズ

冨井春義

文字の大きさ
21 / 61
キャンディ(スリランカ)

人間性の欠落

しおりを挟む
「・・・あ!あれ。師匠、あれを見て!」

「ん?・・・なんだ?」

 見ると土砂降りの雨の中、おそらく10歳に満たない腰にサロンを巻きつけただけの裸の少女が、軒下で雨宿りしている人たちを相手に物乞いをしています。

 しかも驚いた事に、その少女は素っ裸の赤ん坊を抱いているのです!
 この雨の中で。。

「ああ、あれは物乞いだな。しかしひどいな。親はどこかで見てるんだろうけど」

「師匠!それどころじゃないよ!あれじゃ赤ん坊が死んじゃうよ!」

 言うなりタカは雨の中走り出します。

「なーにやってんだあ!おまえはあ!!」

 駆け寄るなり少女を赤ん坊ごと抱きかかえ、軒下に避難させます。少女はびっくりして怯えている。

「プレディ!スジャータ!タオルだ。タオル持って来い」

 あわてて、プレディも走りよりタオルで赤ん坊の身体を拭きます。

 スジャータが少女にシンハラ語で何か(おそらく怖がらなくて良い・・といったこと)を言ってます。

「赤ん坊が冷たい・・・これはヤバいぞ。。。」

 タカは赤ん坊を抱きしめて自分の体温で暖めます。

 しばらくそのまま・・じっと抱きしめていると。

 何か貧相なサリーを着た女が恐る恐るタカに近づいてきます。 

「プレディ。その女が多分母親だろう。言ってやってくれ。100ルピーやるから雨がやむまで子供に物乞いさせるなと」

 私が言うとプレディが女に伝えました。
 女は許しを乞うように手を合わせ頭を下げます。

 タカは女に赤ん坊を手渡し、雨宿りするよう指図しました。。。

 やがて雨がやみ、晴れ間が覗くと女は赤ん坊と少女をつれて去っていきました。

 タカは非常に不機嫌になっております。

「なんなんだ、あれは!あれでも母親か?あいつは雨の中子供が歩いているのを黙って見ていたのか!」
 ショックを受けているようです。

 ・・・が、しかし。

 実はショックを受けていたのはタカばかりではありませんでした。

 私は、あの少女が赤ん坊を抱いて雨の中を歩いているのを見て、別になんとも思っていなかったのです!
 スリランカの物乞いとは、ああいうものだと。。。

 私は以前に怪我をして腐りかけた足を見せての物乞いを見た事があります。
 ここでは物乞いは命をかけてやるものです。

「どうだ?私は今、死にかけている。哀れと思うなら恵んでくれ。。。」

 これが普通と感じておりました。 

 先ほどの親子にしてもそうです。赤ん坊が死にそうだ・・というのを人に見せて物乞いをしていたのです。おそらくあの母親は「今日はなかなか良い収入になった」と思っている事でしょう。

 私はスリランカで、そういう感覚に慣れてしまっていた。

 人間としての普通の感覚・・・タカのように赤ん坊を何とかしなければ・・という意識が根底から欠落していたのです!

 これは怖いことです。。。

 キャンディの太陽もずいぶん西に傾き、日差しはゆるやかになっております。
 香辛料とココナッツの匂いのする風が吹いている。。 

「タカ。。」

「押忍、師匠」

「そろそろ、スリランカでの保養は終了だな。。」

「押忍」

 保養といいながらスリランカでもけっこうあれこれドタバタしていましたが、ここまでは次に訪れるタイでのドタバタ活劇の、ほんの前哨戦に過ぎなかったということは、このときはまだ知るよしもありませんでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

処理中です...