魔女達に愛を

リーゼスリエ

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クロエ編⑨マリエとクロエ

時空間の牢獄

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リヴィエールの街の外れ、小さな野原が静かに風に揺れていた。
その静寂の中で、ただひとり、淡い金色の髪を持つ魔女が踏みしめていた。マリエ。
その目は冷たく、けれどどこか焦燥を帯びていて、誰かを探し求める獣のような気配をまとっている。

「……ルナ、ミイナ。どこにいるの?」

つぶやいた声は風に溶け、空へ吸い込まれた。

彼女にとって今回の任務は、主からの命令というより“確かめなければならない答え”だった。
人間に寄り添う魔女たち。
健司と共に歩もうとする者たち。
それが本当に正しいのか――否、許されていいのか。

その答えを得るためには、まず彼女らを捕らえなければならない。

マリエは目を閉じ、空間の揺らぎに耳を澄ませた。

魔力の反応が二つ。
幼いが、特異な波長を放つ――ルナとミイナのものだ。

同時に、やわらかな声が聞こえてきた。

「ご飯作ってあげるから、待ってて」

「クロエさんのご飯、久しぶり!」

「うん!ミイナ、あのお肉の煮込みが食べたい!」

マリエの表情が微かに揺れた。
その声音は、あまりに日常的で、あまりに無防備で、あまりに――幸せそうだった。

「……見つけた」

マリエの目が細くなる。

空間が一瞬だけ軋む。

そして次の瞬間、彼女の姿は消えた。



ルナとミイナは木陰の下で談笑し、草花を摘んでいた。
ほんの一瞬、風が止んだ。

その静寂が不自然に思えるほど。

「……ミイナ?」

「ルナ?」

二人が顔を見合わせたときだった。

ズンッ――!

まるで世界が一瞬だけ裏返ったかのように、視界がゆがみ、光がねじれた。

そして、時空間の裂け目からマリエが現れた。

「こんにちは、二人とも」

「誰?」

ルナの声が震える。
ミイナの手がぎゅっと握りしめられる。

マリエは微笑んだ――だが、それは温かさの欠片もない笑みだ。

「思っていたより楽しそうね。
でも、もう終わりよ。あなたたちを迎えに来たの」

マリエの手が伸びる瞬間、ルナとミイナの身体は光の枷に包まれた。

「きゃあっ!」

「いやっ……何これっ!」

二人は抵抗しようとしたが、時空魔法は触れることすら叶わない。
重さも、熱も、痛みすらなく、ただ存在そのものを拘束する。

マリエは淡々と告げた。

「逃げなくていいのよ。
あなたたちは――私が連れていくから」



「ルナ!?ミイナ!?大丈夫!?」

クロエが駆け込んできたのは、まさにその瞬間だった。
彼女の眼に飛び込んできたのは――

光の枷に捕らえられた二人の少女、
その前に立つマリエの姿。

「……マリエ。どうして、あんたがここにいるの」

クロエの低い声は怒りと焦りで震えていた。
マリエは振り返り、楽しげに笑った。

「どうして、って……捕まえに来たのよ。
ルナとミイナを」

「そんなこと――させるわけないでしょう!」

クロエが杖を構えた瞬間。

マリエの目が冷たく光った。

「本当に撃つつもり? その状態のルナとミイナに向けて?」

クロエはハッとした。
時空間拘束は魔力を吸う。
もし攻撃すれば、反射して二人にダメージが戻る。

クロエの手が震える。
杖を握る指先が汗ばむ。

「くっ……!」

マリエはゆっくり歩み寄り、クロエの前で立ち止まった。

「あなたは優しいから、絶対に撃てない。
わかってたわ」

静かな言葉が、逆に胸を締めつける。

「ふふ……では、また」

クロエが叫ぶより早く。

マリエの姿は、ルナとミイナごと歪んだ光に飲まれ――

瞬間、消えた。

「――ルナ!! ミイナ!!」

クロエの声が虚しく森に響く。

足が震え、膝が地面についた。

「……マリエ……あんた……だけは……」

クロエの胸の奥で、怒りが黒く渦を巻いた。
魔力が暴発するほどの激情。
涙が頬を伝う。

「絶対に許さない……。
絶対に……連れ戻すから……!」

その誓いは風に乗り、遠くへ消えていった。

だが、クロエは知っている。

マリエは本気だ。
あの時空魔法は、ただの“捕獲”ではない。
逃げることは不可能。
見つけることすら難しい。

その絶望を噛みしめながらも、クロエは静かに立ち上がった。

服についた土を払うことも忘れ、ただ一点――マリエが消えた場所を睨む。

「……待ってなさい。
あんたがどんな場所に連れていったって……ルナとミイナは、絶対に取り返す」

クロエの眼が、獣のような鋭さを帯びた。

風が吹き、空が揺れる。

新たな火種は、確かに灯った。
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