魔女達に愛を

リーゼスリエ

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クロエ編⑪和解

リヴィエールの静寂、その裏で

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ルネイアが撤退し、空気がひどく静まり返った。
その静寂を破ったのは、“後ろ”から流れ込んでくる不可解な圧だった。

それは風でも、魔力でも、殺気でもない。
ただ“存在”だけが異様に強い。
まるで、見えない巨人がそこに立っているかのような――そんな質量。

ラグナが空をにらむ。

「……今の、感じたか」

アナスタシアも表情を険しくした。

「感じたわ。
 あの圧……西の魔女たちと同じ、いえ――それ以上かも」

クロエが無意識に健司の腕を掴む。

「ルネイアが逃げるほどの……あの組織の、誰か?」

ミイナは震え、ルナは息を呑み、アウレリアでさえ瞳を細めた。

その中で、健司だけは妙に落ち着いていた。
静かで、どこか吹っ切れたような、奇妙な笑みを浮かべて。

「気にしなくていいよ。
 それより……今日はもう休もう」

その言い方が、あまりに自然で、あまりに“重い何か”を押し込めたようで。
アナスタシアもラグナも、胸にひっかかりを覚えた。

――健司の気配が変だ。

でも誰も言わなかった。
言えなかった。
今その違和感を言葉にすると、何かが壊れてしまいそうで。

 

そのとき、リヴィエールの入口側で声が響いた。

「……リヴィエールに、ようこそ」

振り向くと、そこにマリエとシミラが立っていた。
かつて敵だった魔女たち。
かつて健司を殺そうとした存在たち。

ラグナが身構えようとした瞬間、健司が一歩前に出た。

「マリエさん、シミラさん。ようこそ」

マリエは困惑しながら尋ねた。

「私たちを……許すの?」

健司は、迷いなく頷いた。

「許すよ。
 だって、ここにいるみんなだって……あなた達と同じだった」

その言葉にカテリーナが眉を上げた。

「ちょっと、それどういう意味よ?
 私たちは別に――」

「敵意むき出しだったじゃないか、最初の頃」

アナスタシアが肩をすくめるようにして言う。

「……否定はしないわ。
 でもあれは、あなたが魔女を誘惑するからでしょう?」

「してないよ!?」

思わず健司がツッコむが、周りは苦笑で済ませていた。
緊張と疲労がやわらぐような空気が一瞬だけ漂う。

エルネアがカテリーナの肩に手を置き、優しく言った。

「まあまあ……健司の言うことも、一理あるんだから」

「む……まぁ……そうね。信じましょう、健司を」

カテリーナの素直じゃない肯定に、アウレリアがくすくす笑った。


マリエとシミラは、お互い目を合わせてから静かに息を吐く。

「……健司。あなたは本当に……変な男だね」

「あれほどのことをされた側なのに、どうしてそんな顔で言えるの?」

健司は苦笑した。

「だってさ、人って変われるじゃない?」

その言葉に、マリエの胸がかすかに揺れた。

変わる――
その言葉が、昔の痛みに触れた。

マリエは歩み出て、クロエに向き合う。

「……クロエ。
 過去のこと、本当に……すまない」

クロエは穏やかに微笑んだ。

「後悔してるんでしょう?
 なら、もういいんじゃない。
 恐怖が人を動かすなら……幸せも、人を動かすわ」

その言葉が、マリエの心にまっすぐ届いた。

マリエは後ろを振り返り、
そこに控えるブラッドレイン、メルガ、スルネと視線を交わした。

みんな、変われるかもしれない。
そう思わせる光が、健司の周りにはあった。

「……ああ。本当に、来てよかった」

シミラも小さく頷いた。

「健司……。次に会う時、敵でいられる自信がなかった。
 だから負けてよかったんだと思う」

リヴィエールの空気は、少しだけ温かくなった。

しかし――その裏で。

遠く、西の方から、またあの奇妙な“圧”が流れてくる。

ラグナとアナスタシアは気づいたが、誰も口にしなかった。

それはまるで――
「決戦の前の静けさ」を守ろうとしているかのようだった。
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