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カテリーナ編③激突
モソロイ敗北の波紋――ルネイアの怒りと孤独
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死者を従え、絶望で相手を折る――“ネクロのモソロイ”。
魔女ランキング第13位、その名は恐怖とともに語られる存在。
そのモソロイが――ソレイユに敗れた。
ディープドラゴンは太陽の炎に焼かれ、死者の槍は砕かれ、どれだけ闇を呼び出しても光は消えなかった。
最後には、闇を纏った槍ごと、ソレイユの“太陽の槍”に砕かれた。
敗北を悟ったモソロイの目からは、黒い涙がひとすじ落ちた。
その瞬間。
「……あり得ない」
沈黙を破ったのは、“野蛮の魔女”ルネイアだった。
体を震わせ、怒りで大地をひび割れさせるほどの覇気をまとい、彼女はモソロイを見つめた。
「モソロイが……? あのモソロイが……? 負けるなんて……!」
声には驚愕と――そして、言葉にできない感情が混じっていた。
怒り?
悔しさ?
それとも――。
彼女の肩が震えているのは、誰の目にも明らかだった。
「……ルネイアさん」
健司はゆっくりと前に出た。
「あなた……仲間がいなくなるのが、寂しいんですね?」
言った瞬間、ルネイアの赤い瞳が大きく揺れた。
「……なに、言ってるのさ」
かすれた声。まるで心の奥を抉られたみたいに。
「仲間が負ければ、普通は怒るだろ? 私はただ、それだけさ」
「違うと思いますよ」
健司は、真正面から見つめて言った。
「あなたは……“一人になるのが怖い”んじゃないですか?」
ルネイアは凍りついた。
荒々しい息が一瞬だけ途切れ、赤い瞳が細かく震えた。
「……何が、分かるのさ。健司君に……私の何が……!」
叫びながら魔力が漏れ、周囲の空気が一気に重くなる。
このままでは爆発する――誰もがそう感じた。
「ルネイアさん、落ち着いてください!」
アカレイが間に入り、ルネイアの肩を押さえた。
ルネイアは、大きく息を吸い、肩を震わせながら目を閉じた。
時間にして十秒ほど。それだけで魔力の狂気は静まり、彼女はいつもの強気の仮面を被り直した。
「……ふぅ。危ない、危ない。ありがとう、アカレイ」
彼女は笑った。
だが、その笑みはどこか弱々しかった。
「さて」
フミッセが前に出た。
嘘もごまかしも通じない――“真実の魔女”。
「次は私だね。相手は誰かな?」
「私だ、フミッセ」
名乗りをあげたのは“エルネア”。
静かな水色の瞳が揺れながらも、芯の強い気配をまとっていた。
その戦いの火蓋が切られようとした、その時だった。
さらに上空。
大木の太い枝の上に、二つの影が腰を下ろしていた。
1人は、赤髪の魔女ルメ。
もう1人は、紅髪で沈着なカルナ。
ルメは、戦場を見下ろしながら呟いた。
「驚きだね……。あれが、あの“健司”か?」
「見た目は普通の少年なのに、妙に人の心を暴くのが巧いね」
カルナの声は落ち着いていたが、わずかな警戒も滲んでいた。
「それより――後ろを見て、ルメ」
「後ろ?」
ルメが振り返った瞬間――息を呑んだ。
ソレイユやセイラ、フミッセたちの遥か後方。
森の影の、そのさらに奥。
ひとりの魔女が立っていた。
黒いローブ。
目は冷たく、世界そのものを秤にかけているような無感情。
「……誰、あれ?」
「わからない。でも……」
カルナは喉を鳴らし、言葉を絞り出した。
「禍々しい魔力を……もっと奥から感じる。あれは多分――」
「秩序の魔女、だね」
ルメの声は震えていた。
秩序。
すべてを正し、すべてを均等にし、すべてを裁く――絶対の魔女。
その魔女が、戦いを黙って観察している。
「……かなり、やばいんじゃない?」
「やばいよ。だけど、まだ動かない。観察だけしてる」
カルナも唇をかみしめた。
「どうなるかな……この戦い」
「さぁね。でも――」
ルメは健司を見つめながら、確信したように呟いた。
「たぶん……“波乱”どころじゃ済まないよ」
エルネアが一歩進む。
フミッセも、一歩進む。
互いの魔力がぶつかり、空気がしなる。
「始めようか、フミッセ」
「ええ。あなたの“真実”を見せてもらうわ」
2人の胸の奥に、激しい火花が散る。
その瞬間――。
森の奥の“秩序の魔女”が、まるで聴こえたかのように微笑んだ。
冷たく、美しく、残酷な――“秩序”の微笑み。
その目はまっすぐ“健司”だけを見据えていた。
魔女ランキング第13位、その名は恐怖とともに語られる存在。
そのモソロイが――ソレイユに敗れた。
ディープドラゴンは太陽の炎に焼かれ、死者の槍は砕かれ、どれだけ闇を呼び出しても光は消えなかった。
最後には、闇を纏った槍ごと、ソレイユの“太陽の槍”に砕かれた。
敗北を悟ったモソロイの目からは、黒い涙がひとすじ落ちた。
その瞬間。
「……あり得ない」
沈黙を破ったのは、“野蛮の魔女”ルネイアだった。
体を震わせ、怒りで大地をひび割れさせるほどの覇気をまとい、彼女はモソロイを見つめた。
「モソロイが……? あのモソロイが……? 負けるなんて……!」
声には驚愕と――そして、言葉にできない感情が混じっていた。
怒り?
悔しさ?
それとも――。
彼女の肩が震えているのは、誰の目にも明らかだった。
「……ルネイアさん」
健司はゆっくりと前に出た。
「あなた……仲間がいなくなるのが、寂しいんですね?」
言った瞬間、ルネイアの赤い瞳が大きく揺れた。
「……なに、言ってるのさ」
かすれた声。まるで心の奥を抉られたみたいに。
「仲間が負ければ、普通は怒るだろ? 私はただ、それだけさ」
「違うと思いますよ」
健司は、真正面から見つめて言った。
「あなたは……“一人になるのが怖い”んじゃないですか?」
ルネイアは凍りついた。
荒々しい息が一瞬だけ途切れ、赤い瞳が細かく震えた。
「……何が、分かるのさ。健司君に……私の何が……!」
叫びながら魔力が漏れ、周囲の空気が一気に重くなる。
このままでは爆発する――誰もがそう感じた。
「ルネイアさん、落ち着いてください!」
アカレイが間に入り、ルネイアの肩を押さえた。
ルネイアは、大きく息を吸い、肩を震わせながら目を閉じた。
時間にして十秒ほど。それだけで魔力の狂気は静まり、彼女はいつもの強気の仮面を被り直した。
「……ふぅ。危ない、危ない。ありがとう、アカレイ」
彼女は笑った。
だが、その笑みはどこか弱々しかった。
「さて」
フミッセが前に出た。
嘘もごまかしも通じない――“真実の魔女”。
「次は私だね。相手は誰かな?」
「私だ、フミッセ」
名乗りをあげたのは“エルネア”。
静かな水色の瞳が揺れながらも、芯の強い気配をまとっていた。
その戦いの火蓋が切られようとした、その時だった。
さらに上空。
大木の太い枝の上に、二つの影が腰を下ろしていた。
1人は、赤髪の魔女ルメ。
もう1人は、紅髪で沈着なカルナ。
ルメは、戦場を見下ろしながら呟いた。
「驚きだね……。あれが、あの“健司”か?」
「見た目は普通の少年なのに、妙に人の心を暴くのが巧いね」
カルナの声は落ち着いていたが、わずかな警戒も滲んでいた。
「それより――後ろを見て、ルメ」
「後ろ?」
ルメが振り返った瞬間――息を呑んだ。
ソレイユやセイラ、フミッセたちの遥か後方。
森の影の、そのさらに奥。
ひとりの魔女が立っていた。
黒いローブ。
目は冷たく、世界そのものを秤にかけているような無感情。
「……誰、あれ?」
「わからない。でも……」
カルナは喉を鳴らし、言葉を絞り出した。
「禍々しい魔力を……もっと奥から感じる。あれは多分――」
「秩序の魔女、だね」
ルメの声は震えていた。
秩序。
すべてを正し、すべてを均等にし、すべてを裁く――絶対の魔女。
その魔女が、戦いを黙って観察している。
「……かなり、やばいんじゃない?」
「やばいよ。だけど、まだ動かない。観察だけしてる」
カルナも唇をかみしめた。
「どうなるかな……この戦い」
「さぁね。でも――」
ルメは健司を見つめながら、確信したように呟いた。
「たぶん……“波乱”どころじゃ済まないよ」
エルネアが一歩進む。
フミッセも、一歩進む。
互いの魔力がぶつかり、空気がしなる。
「始めようか、フミッセ」
「ええ。あなたの“真実”を見せてもらうわ」
2人の胸の奥に、激しい火花が散る。
その瞬間――。
森の奥の“秩序の魔女”が、まるで聴こえたかのように微笑んだ。
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その目はまっすぐ“健司”だけを見据えていた。
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