魔女達に愛を

リーゼスリエ

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カテリーナ編⑤セイラの実力

風の一族 セイラ

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野蛮な魔女達の幹部が、一斉にルネイアへ駆け寄っていく。
 誰かが名を呼び、誰かが肩を支え、誰かが涙を浮かべていた。

 その光景を、少し離れた場所から見つめていた2人がいた。

 大地一族 重力の魔女、ラグナ。
 そして、水の一族、氷の魔女アナスタシア。

「……まさかだな。」

 低く呟いたのはラグナだった。

「ルネイアを倒すとは……。」

「本当にね。」

 アナスタシアは目を細め、遠くを見るように言った。

「彼女がいた騎士団……噂に聞いていたけれど。
 あれは――“あの騎士団”よね?」

「間違いない。」

 ラグナは短く答えた。

「血統の一族と互角に渡り合った、魔女狩りの精鋭。
 だが……内部崩壊で潰されたと聞いていた。」

「それほどの騎士団にいたルネイアを、今のカテリーナが倒した……。」

 アナスタシアは、静かに息を吐いた。

「時代が、変わったのね。」

 ラグナはふと、視線を別の方向へ向けた。

「……それより、見ろ。」

「?」

「セイラだ。」

 アナスタシアも気づく。
 戦場の中心にいながら、セイラは一歩も動いていなかった。

 風の一族の生き残り。
 野蛮な魔女達の象徴。
 これまで、常に圧倒的な存在感を放ってきた女。

 だが今は――

「……おとなしいわね。」

 アナスタシアが呟いた。

「何を考えているのかしら。」

 ラグナは険しい表情で言った。

「何かを……“確かめよう”としている顔だ。」

 ***

 セイラは、ルネイアが倒れ、仲間達に囲まれる姿を見つめていた。

(……やはり、か)

 予感はあった。
 だが、現実として突きつけられると、胸の奥がざわつく。

(ルネイアが……変わった。
 野蛮な魔女達が……変わった)

 それは、セイラにとって――
 “許容できる変化”ではなかった。

(確かめなければならない)

 視線は、自然と1人の少年へ向かう。

 健司。

 この異質な中心。
 魔女でも、血統でもない。
 だが、確実に世界を歪めている存在。

(後ろには……秩序の魔女が迫っている)

 感じていた。
 遥か後方から向けられる、冷たい観測の視線。

(時間は、残されていない)

 セイラは、一歩前に出た。

 ***

「最終決着だ。」

 その声に、空気が震えた。

 健司は、まっすぐセイラを見る。

「健司。
 おまえの考えていることは――夢なんだよ。」

 その言葉に、場が静まり返る。

 否定。
 切り捨て。
 世界の理を知る者の言葉。

 だが、健司は怯まなかった。

「夢ですか?」

 むしろ、少しだけ微笑む。

「じゃあ……叶いますね。」

「……何を言っている?」

 セイラの目が、わずかに細くなる。

「夢は、叶うものです。」

 健司は穏やかに続けた。

「それに、セイラさんが“夢”と言った理由、分かりますよ。」

「……ほう?」

「野蛮な魔女達の幹部が、変わってしまったからですよね。」

 その瞬間。

 セイラの魔力が――跳ね上がった。

 嵐のような圧力が、周囲を叩き潰す。

 地面が軋み、空気が裂ける。

「っ……!」

 多くの魔女が、その場に膝をついた。
 立っていられない。
 存在そのものを否定されるような圧迫感。

 だが――

 2人だけが、前に出た。

 アナスタシアと、ラグナ。

「……来るわよ。」

「分かっている。」

 2人は、セイラの前に立った。

「セイラ。」

 アナスタシアが言う。

「私達が、相手だ。」

 ラグナも土を纏い、低く告げる。

「健司の前には、立たせない。」

 セイラは、ゆっくりと口角を上げた。

「いいね。」

 その笑みは、かつての冷酷な魔女のものだった。

「あなた達とは……まだ戦ったことがなかった。」

 風が渦を巻く。

「楽しみだよ。」

 そして、はっきりと告げた。

「健司の夢は――ここまでだ。」

 健司は2人の背中を見つめ、静かに言った。

「……ありがとう。」

 アナスタシアは振り返らずに答えた。

「勘違いしないで。
 これは――私達自身の戦いよ。」

 ラグナも、大地を鳴らしながら言う。

「秩序でも、野蛮でもない。
 “今”を生きる者の戦いだ。」

 セイラの瞳が、わずかに揺れた。

(……やはりだ)

 健司の周囲に集まる者達は、
 誰もが“自分の意志”で立っている。

(これが……おまえの力か、健司)

 その背後――
 見えない場所で、秩序の魔女は静かに観察していた。

(――面白い)

 夢を壊す者と、夢を叶える者。
 その分岐点に、世界は立っている。

 そして今――
 本当の最終決着が、幕を開けようとしていた。
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