241 / 244
カテリーナ編⑥秩序の魔女 エルフェリア
秩序の魔女 エルフェリア
しおりを挟む
高木の枝に身を潜めていたカルナとルメは、同時に空気の変化を感じ取った。
「……ついに、動いたわね」
ルメの声は低く、張りつめている。
「秩序の魔女が?」
カルナは、信じられないという表情で前方を見据えた。
「ああ」
ルメは一度、視線を逸らし、念を押すように言った。
「よく聞いて。
秩序の魔女は――魔法勝負において、一度も負けたことがない」
「……何だと?」
カルナの喉が鳴る。
「魔力が、そんなに桁違いなのか?」
「違う」
ルメは即座に否定した。
「強いとか、速いとか、そういう次元じゃない」
一拍置き、静かに続ける。
「見たり、聞いたりしないで」
「……は?」
「いいから。
これは、忠告じゃない。警告よ」
ルメの目は、真剣そのものだった。
「どういう意味だ?」
「――体験すれば、分かる」
その言葉が終わる前に、戦場の空気が、さらに歪んだ。
セイラ、アナスタシア、ラグナ。
三者の攻防は、なおも続いていた。
風が裂け、氷が砕け、大地がうねる。
互いに傷を負いながらも、誰一人として引かない。
(……ここまで来て)
アナスタシアは歯を食いしばった。
(諦めるわけには……)
ラグナも同じ思いだった。
セイラは、肩で息をしながら叫んだ。
「――まだだ!」
風が、再び彼女の周囲に集まる。
「決着は、まだついていない!」
その瞬間。
戦場に、異質な気配が差し込んだ。
風でもない。
魔力でもない。
――“規則”。
それが最も近い感覚だった。
「は~い」
場違いなほど、軽い声。
「元気にしてた? セイラ」
空間が、きしんだ。
セイラの顔が、はっきりと歪む。
「……その声」
彼女は、即座に理解した。
「おまえは――」
「うん」
微笑みながら、魔女は一歩前に出る。
「秩序の魔女、エルフェリア」
その名を聞いて、戦場の空気が凍りついた。
気づいたのは、2人だけだった。
セイラと――
かつて、彼女の弟子だったリセル。
「……師匠……?」
リセルの声が震える。
「久しぶりだね、リセル」
エルフェリアは、軽く手を振った。
「元気そうで何より」
だが、その視線は、すぐにセイラへ戻る。
「セイラ」
にこやかに、残酷な言葉を投げる。
「――負けたね?」
「……私は」
セイラは、即座に否定した。
「負けていない」
「そう?」
エルフェリアは首を傾げる。
「じゃあ……これは、どうかな?」
エルフェリアが、指を鳴らした。
魔法陣は、ない。
詠唱も、ない。
ただ――言葉。
「ルール」
その一言で、全員の背筋に悪寒が走った。
「私が話したルールを――」
一瞬。
セイラは反射的に動いた。
目を塞ぎ、耳を塞ぐ。
(聞かない……!見るな……!)
だが、エルフェリアの声は止まらない。
「聞いたものは、強制的に従う」
そして、告げられた。
「ルール」
戦場が、息を止める。
「一番傷ついたものは――」
一拍。
「瀕死の重症を負う」
次の瞬間。
「――ぐっ……!!」
セイラが、崩れ落ちた。
全身から、血が噴き出す。
「な……っ……」
セイラは、信じられないという顔で呻いた。
「何故……!?
私は……塞いだ……!」
目も、耳も。
確かに――塞いだはずだった。
エルフェリアは、淡々と答えた。
「それはね」
一歩、セイラに近づく。
「全員の話だから」
「……何?」
「認識している人が、一人でもいれば」
微笑む。
「セイラにも、適応される」
戦場が、完全に静まり返った。
「……なに、それ……」
アナスタシアの声が、震える。
「聞かなくても……?」
ラグナも、言葉を失っていた。
ルネイアは、拳を握りしめる。
「……防げない……」
野蛮な魔女達の幹部も、全員が硬直していた。
「何なの……この魔法……」
誰も、答えられない。
“強い”とか、“速い”とか、そんな次元ではない。
逃げ道が、存在しない。
それが、秩序。
エルフェリアは、瀕死のセイラを見下ろし、静かに言った。
「ねえ、セイラ」
かつて助けたものが、助けられたものを見る目で。
「おまえが――」
一拍。
「一度でも、防いだことがあったか?」
その言葉は、
刃よりも、深く突き刺さった。
セイラは、答えられなかった。
――秩序の魔女が、戦場に立った。
ここから先は、
力ではなく、存在そのものの戦いだった。
「……ついに、動いたわね」
ルメの声は低く、張りつめている。
「秩序の魔女が?」
カルナは、信じられないという表情で前方を見据えた。
「ああ」
ルメは一度、視線を逸らし、念を押すように言った。
「よく聞いて。
秩序の魔女は――魔法勝負において、一度も負けたことがない」
「……何だと?」
カルナの喉が鳴る。
「魔力が、そんなに桁違いなのか?」
「違う」
ルメは即座に否定した。
「強いとか、速いとか、そういう次元じゃない」
一拍置き、静かに続ける。
「見たり、聞いたりしないで」
「……は?」
「いいから。
これは、忠告じゃない。警告よ」
ルメの目は、真剣そのものだった。
「どういう意味だ?」
「――体験すれば、分かる」
その言葉が終わる前に、戦場の空気が、さらに歪んだ。
セイラ、アナスタシア、ラグナ。
三者の攻防は、なおも続いていた。
風が裂け、氷が砕け、大地がうねる。
互いに傷を負いながらも、誰一人として引かない。
(……ここまで来て)
アナスタシアは歯を食いしばった。
(諦めるわけには……)
ラグナも同じ思いだった。
セイラは、肩で息をしながら叫んだ。
「――まだだ!」
風が、再び彼女の周囲に集まる。
「決着は、まだついていない!」
その瞬間。
戦場に、異質な気配が差し込んだ。
風でもない。
魔力でもない。
――“規則”。
それが最も近い感覚だった。
「は~い」
場違いなほど、軽い声。
「元気にしてた? セイラ」
空間が、きしんだ。
セイラの顔が、はっきりと歪む。
「……その声」
彼女は、即座に理解した。
「おまえは――」
「うん」
微笑みながら、魔女は一歩前に出る。
「秩序の魔女、エルフェリア」
その名を聞いて、戦場の空気が凍りついた。
気づいたのは、2人だけだった。
セイラと――
かつて、彼女の弟子だったリセル。
「……師匠……?」
リセルの声が震える。
「久しぶりだね、リセル」
エルフェリアは、軽く手を振った。
「元気そうで何より」
だが、その視線は、すぐにセイラへ戻る。
「セイラ」
にこやかに、残酷な言葉を投げる。
「――負けたね?」
「……私は」
セイラは、即座に否定した。
「負けていない」
「そう?」
エルフェリアは首を傾げる。
「じゃあ……これは、どうかな?」
エルフェリアが、指を鳴らした。
魔法陣は、ない。
詠唱も、ない。
ただ――言葉。
「ルール」
その一言で、全員の背筋に悪寒が走った。
「私が話したルールを――」
一瞬。
セイラは反射的に動いた。
目を塞ぎ、耳を塞ぐ。
(聞かない……!見るな……!)
だが、エルフェリアの声は止まらない。
「聞いたものは、強制的に従う」
そして、告げられた。
「ルール」
戦場が、息を止める。
「一番傷ついたものは――」
一拍。
「瀕死の重症を負う」
次の瞬間。
「――ぐっ……!!」
セイラが、崩れ落ちた。
全身から、血が噴き出す。
「な……っ……」
セイラは、信じられないという顔で呻いた。
「何故……!?
私は……塞いだ……!」
目も、耳も。
確かに――塞いだはずだった。
エルフェリアは、淡々と答えた。
「それはね」
一歩、セイラに近づく。
「全員の話だから」
「……何?」
「認識している人が、一人でもいれば」
微笑む。
「セイラにも、適応される」
戦場が、完全に静まり返った。
「……なに、それ……」
アナスタシアの声が、震える。
「聞かなくても……?」
ラグナも、言葉を失っていた。
ルネイアは、拳を握りしめる。
「……防げない……」
野蛮な魔女達の幹部も、全員が硬直していた。
「何なの……この魔法……」
誰も、答えられない。
“強い”とか、“速い”とか、そんな次元ではない。
逃げ道が、存在しない。
それが、秩序。
エルフェリアは、瀕死のセイラを見下ろし、静かに言った。
「ねえ、セイラ」
かつて助けたものが、助けられたものを見る目で。
「おまえが――」
一拍。
「一度でも、防いだことがあったか?」
その言葉は、
刃よりも、深く突き刺さった。
セイラは、答えられなかった。
――秩序の魔女が、戦場に立った。
ここから先は、
力ではなく、存在そのものの戦いだった。
0
あなたにおすすめの小説
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
嘘コクのゆくえ
キムラましゅろう
恋愛
アニーは奨学金とバイトで稼いだお金で魔法学校に通う苦学生。
生活は困窮、他の学生みたいに愛だの恋だのに現を抜かしている暇などない生活を送っていた。
そんな中、とある教授の研究室で何らかの罰としてアニー=メイスンに告白して来いと教授が学生に命じているのを偶然耳にしてしまう。
アニーとは自分のこと、そして告白するように言われていた学生は密かに思いを寄せる同級生のロンド=ハミルトンで……
次の日、さっそくその命令に従ってアニーに嘘の告白、嘘コクをしてきたロンドにアニーは……
完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。
誤字脱字が罠のように点在するお話です。菩薩の如き広いお心でお読みいただけますと幸いです。
作者は元サヤハピエン主義を掲げております。
アンチ元サヤの方は回れ右をお勧めいたします。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
双子の姉に聴覚を奪われました。
浅見
恋愛
『あなたが馬鹿なお人よしで本当によかった!』
双子の王女エリシアは、姉ディアナに騙されて聴覚を失い、塔に幽閉されてしまう。
さらに皇太子との婚約も破棄され、あらたな婚約者には姉が選ばれた――はずなのに。
三年後、エリシアを迎えに現れたのは、他ならぬ皇太子その人だった。
借金5億で異世界転移、よりによって金本位制の世界だった
夜明け一葉
ファンタジー
32歳の個人トレーダー・佐藤慧は、5年間の雪辱を賭けたトレードで5億円の借金を抱え、意識を失った。目覚めると、そこは剣と魔法が存在する見知らぬ世界だった。常識が通じない異世界で、金貨を見るだけで嘔吐する「金アレルギー」を抱えながら、若き冒険者リナと出会い、生き延びる術を探し始める。諦めることだけができなかった男が、新たな世界で再び立ち上がる異世界サバイバル譚。
(完結)姑が勝手に連れてきた第二夫人が身籠ったようですが、夫は恐らく……
泉花ゆき
恋愛
蘭珠(ランジュ)が名門である凌家の嫡男、涼珩(リャンハン)に嫁いで一年ほど経ったころ。
一向に後継ぎが出来ないことに業を煮やした夫の母親は、どこからか第二夫人として一人の女性を屋敷へ連れてくる。
やがてその女が「子が出来た」と告げると、姑も夫も大喜び。
蘭珠の実家が商いで傾いたことを口実に、彼女には離縁が言い渡される。
……けれど、蘭珠は知っていた。
夫の涼珩が、「男女が同じ寝台で眠るだけで子ができる」と本気で信じているほど無知だということを。
どんなトラブルが待っているか分からないし、離縁は望むところ。
嫁ぐ時に用意した大量の持参金は、もちろん引き上げさせていただきます。
※ゆるゆる設定です
※以前上げていた作の設定、展開を改稿しています
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
妹と違って無能な姉だと蔑まれてきましたが、実際は逆でした
黒木 楓
恋愛
魔力が優れていた公爵令嬢の姉妹は、どちらかが次の聖女になることが決まっていた。
新たな聖女に妹のセローナが選ばれ、私シャロンは無能な姉だと貴族や王子達に蔑まれている。
傍に私が居たからこそセローナは活躍できているも、セローナは全て自分の手柄にしていた。
私の力によるものだとバレないよう、セローナは婚約者となった王子を利用して私を貶めてくる。
その結果――私は幽閉されることとなっていた。
幽閉されて数日後、ある魔道具が完成して、それによって真実が発覚する。
セローナが聖女に相応しくないと発覚するも、聖女の力を継承したから手遅れらしい。
幽閉しておいてセローナに協力して欲しいと私に貴族達が頼み始めるけど、協力する気は一切なかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる