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「エル?」
「あー、いや、ははっ」
リュイさんから気遣うような視線を送られ、苦笑いを浮かべる。
「まあ色々事情があるみたいです」
そのまま笑って誤魔化す。
少し考えたけれど、やはり吐き出す気にはなれなかった。
「言いたくないなら良いけど……」
「すいません、でもありがとうございます」
「……俺だったらエルだけを大切にするのにな」
「!」
ぼそりと呟かれたリュイさんのセリフはばっちり耳に入ってきた。
「リュイさん……」
「あ、いや、俺だったらっていうか、これはその……!」
思わずじっと見つめてしまう俺に、リュイさんがあわあわと慌て出す。
そんなに慌てる必要なんてないのに。
心配しなくても『まさか俺を……!?』なんて妙な勘違いはしない。
それにしてもさすがお婿さんにしたいナンバーワン。
料理も出来て気遣いも出来て優しい上に一途だなんて非の打ち所がない。
「リュイさんのお嫁さんになる人は幸せですね」
「……そう思う?」
「もちろんです!」
力強く頷くと困ったように微笑むリュイさん。
この反応、もしや既に想い人がいるのだろうか。
その人を瞼の裏に思い描いてのその表情なのか。
でもそれにしては切ない表情だな。
もしやもしや叶わない恋でもしているのだろうか。
そういえば俺はたくさん悩みを聞いて貰っているが、リュイさんの悩みは聞いた事がない。
(なんてこった、俺とした事が……!)
世の中ギブアンドテイク。
こんなに散々悩みを聞いて貰っているのだから、俺もリュイさんに出来る事を返していかないと。
「リュイさん!」
「ん?何?」
「リュイさんも何か悩みがあったら言って下さいね!いつでも何でも聞きますから!エルのお悩み相談室はいつでも空席にしておきますから!」
「どうしたの突然」
「いえ、いつも聞いて貰ってるばっかりだなって思って」
「ふふ、だからエルのお悩み相談室?」
「はい!参考にならないかもしれませんけど、何でも話聞きますから!もちろんリュイさんの好きな人の話とかも聞きます!」
「す、好きな人?」
「はい!」
「えっと、それは……」
口籠るリュイさん。
この反応、やはり好きな人がいるんだ。
そしてその相手は他の人に言い難い人に違いない。
なるほどなるほど。
そうだよな、リュイさんだってまだ若いんだから好きな人の一人や二人いるに決まっている。
いや、二人いたら困っちゃうんだけど。
野次馬根性丸出しで相手を問い詰めそうになるが落ち着け俺。
こういうのは無理に聞き出す事ではない。
「とにかく、何でも話聞きますからね!」
「……うん、ありがとう」
またも困ったように微笑み頷くリュイさん。
この時の俺は、リュイさんが『エルだけを』というセリフに重きを置いていた事になど全く気付いていなかった。
「俺の事より、エルは自分の事でしょう?」
「そうでした」
といってももうこれ以上悩んでも仕方がない気がしている。
悩んだ所でダリアとベアトリスの仮婚約が今すぐ解消される訳でも本当の婚約に変わる訳でもないのだ。
それにさっきも思った通り、これ以上悩めば開けてはいけない扉を開けてしまいそうになるから怖い。
前世と合わせて50年近く生きている奴が何を今更怖がっているんだと思うがいくつになろうが怖いもんは怖いし嫌なものは嫌だ。
「俺の方はなんとかなりますから!それにユーンに癒されて半分くらいはどうでも良くなっちゃったし」
キュー!
傍らでじっと大人しく俺達の話を聞いていたユーンに抱き付くと、漸く構ってくれたかと嬉しそうに擦り寄られる。
可愛いけどちょっと勢いが強すぎて倒れそうになってしまった。
(まあでも、さっきの余計な一言は撤回っていうか、一応謝っといた方が良いかな)
らしくもなく漏れてしまった八つ当たりにも似た感情を取り消さなくては。
とはいえすぐには心の準備が出来ないので、夕飯を済ませたらダリアのところに行って、さっと済ませてさっさと寝てしまおう。
そう思い、再びユーンを強く抱き締めた。
*
(第三者視点)
その夜、寄宿舎の前にはとある人物が立っていた。
昼間エルと話したばかりのリュイである。
ほとんど竜舎に籠っているリュイがここにいるのを生徒達が物珍しそうに見ては通り過ぎていく。
どうやら誰かを待っているらしい。
エルではない。
むしろエルには知られたくない『用事』を済ませにきたのだ。
普段優しげでふわりと笑みを浮かべている表情は、今は固い。
そして粗方の生徒達が立ち去った後で、目当ての人物がやってきた。
「王子」
「!」
そう、リュイが待っていたのは他でもない、この国の王子でありエルの元婚約者であるダリアだった。
「こんばんは」
「……竜舎の?」
意外な人物に呼び止められたダリアは表情には出さずに驚く。
エルを介してならともかく、こうして二人で会うような、ましてや待ち伏せされるような間柄ではないから尚更だ。
「リュイと申します」
丁寧なおじぎと共に名乗るリュイ。
ダリアは訝しげに眉を寄せたまま、彼の目の前で足を止めた。
「何の用だ」
ダリアは正直リュイに対して良い感情を持っていない。
以前はただの竜舎に勤めている人間という認識に過ぎなかったリュイを気に食わないと思い始めたのは言わずもがな、エルと関わりがあるからだ。
自分の知らないところでエルと仲を深めている厄介な相手。
そして、その心にエルへの秘めた想いを抱えている要注意人物である。
「エルの事で少しお話があるのですが」
「……」
そんな彼の口から愛しい婚約者(元、だが)の名を出され、ダリアの眉間に更に皺が寄った。
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