みどりとあおとあお

うりぼう

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「オレと付き合ってくれない?」

言われたセリフに、ああコイツもかと小さく息を吐いた。







オレには双子の弟がいる。
顔だけはそっくりだが周りがオレ達を間違える事はない。
何故なら性格が驚く程違うから。
それを抜きにしてもオレは眼鏡をかけているし、髪型も違うし、何より纏う空気が違いすぎるから間違えようがないのだと思う。

弟、翠は明るく天真爛漫な性格で嫌味がなく、勉強も出来るし運動も何をやっても一番でいつも人に囲まれている。
それはオレの自慢であり憧れでもあるのだが、悩みの種でもある。

翠はとにかくモテるのだ。

オレはというと、暗い……とは思いたくないが、本ばかり読んでいて休日は出掛けるくらいなら眠っていたいという性格のせいか、周りからはつまらない奴と思われているに違いない。
けれどそんなオレでも翠に近付くために利用しようとする奴は山のようにいる。
幼稚園の時から翠の争奪戦は既に始まっていて、小学校に入学するとおませな女子達からこぞって、やれ手紙を渡して、やれ紹介して、好きだと伝えてこれ渡してあれ渡してなどなど、オレの周りにはそんな奴らばかりが集まった。
果ては弟の代わりでも良いから付き合ってと言われた事もある。
流石にこの時は断った。
ありえない。

そんなこんなで幼稚園から始まり、高校生ともなるとそんなことにも慣れっこになっていて、呼び出されるイコール翠への橋渡しと考えるようになってしまっていた。

だから今回話しかけられた時もそうだと思っていた。

「平井」

人通りの少ない、というよりもほぼない階段の踊り場に座り込んで弁当を食べていた時の事。
頭上から声を掛けられ見上げると、階段の途中からこちらを見下ろす男前がいた。

目が合うとゆったりとした動作で降りてきて目の前に立つ。
ああ、どこかで見た事があると思ったら以前委員会で一緒になった事がある男だ。
穏やかで優しい話し方をする奴だったなと思い出す。

何か用かと問うと、男はまるで食事にでも誘うかのように言い放った。

「オレと付き合ってくれない?」
「……は?」

ぽかんと口を開ける。
いきなり何だ。
というかこれは告白なのかそれともどこかに行くという意味なのか。

疑問に先回りして答えられる。

「ちなみに、どこかにとかいう意味じゃないからな?」

という事はそういう事か。
付き合うってそういう事か。
でも何でオレだ。
考えて、ああそうかとすぐに答えが出た。

(……翠か)

こいつも他の女達と同じように心を奪われた一人か。
顔が同じなら良いと思っているのだろうか、それともオレと仲良くなれば翠との距離が縮まるとでも思っているのか。

オレ自身を好きになってくれたのではという疑問はこれっぽっちも浮かばない。
だってこの男との接点は件の委員会の時のみ。
あの短い接触で惚れられる程オレという人間は魅力的ではない。

わからないように小さく息を吐き出す。

弟は男にまでモテるのか。
というよりもこいつホモか。
今時珍しくもないんだろうけどここまで堂々とされると拍子抜けしてしまう。

「どうかな?真剣に考えてくれると嬉しいんだけど」

いつもなら即座に断ってしまう。
冗談じゃないと突っぱねているところなのだが、今回は何故だかそうする気分にはなれなかった。

「オレ、翠じゃないよ。兄貴の方だけど」
「知ってるよ、平井碧でしょ?前に委員会で一緒だったよね」

覚えているのか。
一人だと存在感のないオレをよく覚えていたものだ。

「翠の……」

代わり?なんて聞けるはずもなく。

「ん?」
「あ、いや……なんでオレ?」
「それは……えっと、わかんない?」

明言はしない。
そんな曖昧なセリフでわかるわけがないのに。

それともはっきりとは言い難い理由なのか。

「駄目、かな?」

おずおずと、それでいて真剣に見下ろしてくる目に不思議と興味が沸いた。

「ほんとにオレでいいの?」
「……もちろん」

なんだろうね、その間は。

僅かな間に全ての真実が込められている気がした。
代わりでも良いなんてさっぱり理解出来ないけど、せいぜい一、二週間も相手にしたら向こうから何かが違うと気付いてこちらを切り捨てるだろう。

同時に、何故今回に限って興味を引かれるのかその正体を知りたくなってしまったオレは……

「わかった、いいよ」

付き合おうか。
そう返事をした。












それから奴、市川晴太はことあるごとにオレ達と一緒にいるようになった。
オレ達とは言わずもがなオレと翠。

付き合っているから当たり前といえば当たり前なのだが、登下校から休み時間昼休み休日に至るまで市川は足蹴く通っている。
必然的に翠と接触する機会も増え、同じ部活で元から面識があったらしい二人の仲の良さを目の当たりにした。

今日も今日とて昼休みにオレの元へとやってくる翠に付いて来ている。

「あおー、椎茸食べて!」
「やだ。好き嫌いしないの」
「そんな事言わないでー!お願いお願い!」

椎茸を箸でつまみこちらに差し出す翠に、傍らで見ていた市川が笑いながら口を挟む。

「何、椎茸嫌いなの?」
「うん。もうこのぐにょぐにょした食感が無理。ありえない。だからお願い食べてお兄ちゃあああんっ」
「全くもう、こんな時だけ……」

たった数分しか違わないのに都合の良い時ばかり兄と呼ぶ翠に呆れて溜め息を吐き出しながらもあーんと口を開く。
我ながら甘いとは思うが、その他大勢に漏れずオレだって翠が可愛いのだ。
甘やかしてしまうのは仕方がない。

口を開いたオレに翠は嬉々として椎茸を放ってくる。
直接入れられたそれを噛むと、染みた煮汁が溢れ出してきた。
おいしいけどな、椎茸。

そういえば市川と付き合う事になってから翠が今まで以上に構ってくるようになった気がする。
今まではあまり人前ではしなかった、今のような事をたくさんするようになった。

オレの希望で市川と『付き合う』というのは翠には秘密なのに、なんでだろう。
まるで牽制するような行動に疑問を持つが、気にしても始まらないだろう。
だって翠の過剰なスキンシップは今に始まったことじゃない。

「仲良いんだな」
「あ……」

いつものように受け入れて、しまったと気付く。

少し機嫌が悪そうだ。
そりゃそうか、好きな奴が例え兄とはいえ別の奴と仲良くしているのは気持ちの良いものじゃないよな。

「あー…….あ、みど、市川も椎茸食べたいって」
「は?いや、オレは」
「マジで!?サンキュー晴太!」
「え、いやだから、んぐっ」
「いやー助かるなあ」

市川の口にも押し込み朗らかに笑う翠。
大人しくもぐもぐと口を動かすその様子にオレも思わず笑みを零してしまう。

それと同時に、翠の意識が向けられた瞬間に柔らかくなる市川の雰囲気に、胸が痛んだような気がした。













「平井、これ聞いてみ、超良いから」
「ん?」

帰り道に寄った某CD屋さんで視聴用のヘッドホンを頭に被せられる。
全く聞いた事のない知らない歌を薦めてくる市川。
歌は英語と日本語がうまい具合に入り交じっていて、なる程耳に馴染む声が酷く心に染み渡る。
歌詞は半分も聞き取れないけれど、早めのテンポで明るく、確かに良い歌だなと漠然と思った。

「……うん、良い歌」
「だろ?オレのイチ押し!」
「他には?なんかある?」
「んー、全部良いんだけど……あ、これも!」

慣れた様子で機械を操作すると、別の曲が流れてきた。
先程のとは違うスローバラード。
ゆったりとした音楽に目を瞑り聞き入ってしまった。

(……市川みたいだ)

静かに、ゆっくりと耳に馴染む曲にそんな事を思う。

付き合ってみてわかった事。
市川は優しい。
そして物凄く気がきく。
オレがあれがしたいな、これがしたいなと思っていることや、ああして欲しいこうして欲しいという事を全て先回りしてやられてしまうのだ。

例えば高いところにあるものを取ってくれるだとか。
重いものを運ぶのを手伝ってくれたりだとか。
さりげなく人混みから身を呈して庇ってくれたり、あやすように頭を撫でたり、ほんの些細な事でも大袈裟に喜んだり楽しんだり。

まるで女子供にするような行動だけれども、そんな事に余り慣れていなかったオレにとってそれは酷く新鮮で、何より自分を見てくれているというのが嬉しい。
翠の身代わりなのだから、翠といる時以外は適当に扱われるのだと思っていたがそんな事は全くない。

今までかけられたこともないような優しい声で呼ばれる名前。
そして今までになかった暖かい空気。
それは翠といる時とは違い、ふわふわと宙に浮かんでいるような、心許ないけれど不思議と安心するような、そんな空気だった。

付き合うというのはこういうものなのか。

今まで誰かと付き合った事なんてなかったから、わからない。
愛されるというのはこういう事なのか。
これも経験した事がないからわからない。

決して嫌なわけではない。
むしろ心地よくて、笑うことも増えたし、ずっとこのままいれたら良いのにと思ってしまうほど。

けれど……

「碧ー!晴太ー!こんなとこにいたのかよー!」
「!」
「……翠」

ヘッドホンの向こう側から聞こえた翠の声。

そういえばこの二人はお互いを下の名前で呼び合ってる。
『付き合う』ことになってからもう一ヶ月近く経つオレの事は未だに名字なのに。

(……ん?)

今一瞬むかついた。
何にむかついたんだ?
考えてもわからない。
わからないけど……

「何聞いてんの?晴太のおすすめ?」
「あ、ちょっ、無理矢理取るなよ危ないだろ」
「ごめんごめん、で、何?どの曲?」

すぐ傍で楽しそうに話す二人を見たくなくて、声を聞きたくなくて、くるりと背を向けヘッドホンを耳に押し付けた。



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