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こんな親衛隊があったって良いじゃない4
しおりを挟む「好きです、付き合って下さい!」
「!」
会長を探して歩いていたら、そんなセリフが聞こえた。
咄嗟に壁の影に隠れてそちらを見るとなんと告白されているのは我らが会長ではないか!
(誰だあの野郎……!)
親衛隊隊長の目を盗んで会長に接触するなんてふてえ野郎だあんちくしょうとっちめてやる、と潜んでいたその場から二人の元へ乗り込もうとしたのだが。
「ごめんね、気持ちは嬉しいんだけど、オレ好きな子がいるんだ」
…………え。
会長に
(好きな子?)
聞こえたセリフに暫く固まってしまった。
え、すきって何そんなの初耳なんですけどオレ何も聞いてないんですけど、というか!
(会長の好きな人?今付き合ってる人はいないから、てことは片思い?ちょっ、待っ、あんな素敵な人が片思いだなんて、もし告白なんかしちゃったら一発でオッケーしちゃうよだって会長素敵だもん……!)
どうしよう会長がみんなの会長じゃなくなってしまう。
そう思ったオレは、
*
「どどどどうしようなあどうしよう会長好きな子いるんだって!!!」
「「「……は?」」」
言いながら猛ダッシュで親衛隊の集会室へと入る。
隊長のセリフにぽかんとする副隊長他隊員達。
(え、てか会長が好きなのって隊長だよな?)
(もしかして気付いてなかった?)
(まあ激ニブな隊長じゃ仕方ないな)
(あんなにあからさまなのに……会長ちょっと不憫)
即座に目と目で会話し各々の突っ込みを胸に仕舞う。
もうとっくに知っていた情報をさも今知りましたとばかりに問い返すのは副隊長である。
「それ誰から聞いたの?」
「……えっと、会長が」
「直接言われた?」
「いや、告白されてて、それ断る時に言ってたのを影でこっそり……」
「盗み聞きかよ」
「盗み聞きなんてするつもりなかったよ!抜け駆けすんなって乗り込みたかったけど!!会長好きなコいるなんて初耳だし驚いたし固まってたらいつの間にか二人ともいなくなってたんだから仕方ねえじゃん!」
「固まるなよ。逆上するような相手だったらどうすんの?会長ピンチだよ?」
「……!!!(しまった!!!)」
「(今気付いたなこいつ)どうする?告白した奴に忠告しに行く?それとも制裁する?」
「制裁……いやでも会長ちゃんと断ってたし!」
「うん、まあ断る云々の前に親衛隊通せって話なんだけど。なんのための親衛隊だよ」
「……確かにそうだけど」
しょぼん、と眉を下げる隊長。
これではどちらが隊長なのかわからない。
大きな溜め息を吐いたのは副隊長。
「まあいいよ。で、会長に好きなコがいたとして隊長はどうしたいの?」
「……うーん、応援したいのは山々なんだけどでも会長が誰かのもんになるってのは嫌だ」
「(お、これはみんなに言っちゃうか?)」
隊長が会長大好きなのは周知の事実だが、本人気付かれてるとは思ってない。
憧れとしての好意だとみせているのが見ていてやきもきするので、さっさと恋愛としての感情だと言って欲しい面々は、ついにきたかと固唾を飲む。
「だって今まで手塩にかけて大切に大切に守ってきたんだぞ!?それがどこの馬の骨とも知れない馬鹿娘又は息子に取られるなんて堪えられない!」
「「「そっちかよ」」」
周りからの総突っ込み。
なんとなく予想はしていたが突っ込まざるを得ない。
「わかった。もう良い隊長に胸きゅんを期待したオレらが悪かった」
「何だよ胸きゅんって」
「気にしないで隊長は会長のとこに行ってきて」
「え」
「(確実に隊長の事だと思うけど)もしかしたら断る口実だったかもしれないでしょ?だから事実確認」
「!そっか!そうだよな!?んじゃ早速行ってくる!」
ばたばたと出て行く隊長。
その後ろ姿を見送りながら。
「全く世話が焼ける」
「てか副隊長、このままだと二人くっついちゃうんじゃないですか?」
「あー、うん、なんかもじもじしてんの見てるの飽きたから別に良いや」
「隊長やめないと良いですねー」
「大丈夫、彼氏出来たからってあっさり投げ出すようだったらぶっ飛ばすから」
「「「……」」」
にっこりと天使の微笑みでもってそう言う副隊長に、心の中で怖いと震える隊員達がいた。
*
さて、野生の感で再び会長を捜し当てた隊長だったが。
「会長ー!」
「あ、ちょうどよかった」
「へ?」
「おいしいお菓子貰ったんだ。お茶でもしない?」
「え!良いんですか!?」
突然の誘いに流され暢気にティータイム。
「うわ!めちゃくちゃうまいですねこれ!」
「こっちのもおいしいよ。はい」
「えっ、いやあの」
「なに?ほら、あーん」
「あ、あーん(うわーっうわーっ)」
会長からお菓子をあーんしてもらって恥ずかしがりながらもとさもぐもぐとそれを食べる隊長。
ほんわかした空気が漂う中。
(どうしようすっげえ幸せ会長にあーんってしてもらっちゃった!……あれ、てかオレ何しにきたんだ………ってあああああああああ!!!!)
本来の目的をはたと思い出した隊長。
(のんびり茶飲んでる場合じゃねえオレ!)
それに気付くのに三十分を超えてしまっているのはどういう事だろう。
「か、かかか会長、あのっ」
「ん?どうしたの?」
「っ、あの」
「うん?」
「…………す、好きな人がいるというのは本当ですか!?」
「……」
聞いた瞬間にシン、と静まり返る。
あれ、聞いちゃいけなかったのかなまずい事したかなと焦る隊長。
会長は笑みを崩さないままに聞き返した。
「それ、誰に聞いたの?」
「え、いや、か、風の噂で……」
(あああ会長に嘘ついちゃったオレのばか!でもあの時あそこにいたってバレたら余計な気を使わせるかもしれないし!)
「噂?噂になっちゃってるんだ?」
「ま、まあ……」
「……そっか。なら早いとこケリつけちゃおうかな」
「え?」
そのセリフに、あの言葉が単なる断る口実なんかではなく真実だと知る。
「協力してくれる?」
「……っ」
協力とは何をしたら良いのか。
制裁しないのはもちろんのこと、二人きりの時間をなるべく作ったり邪魔しないようにしたりしなければならないのだろうか。
それを影からこっそり見ていなければならない状況に、これからなるのだと考えただけで嫌だ。
その思いが返事を渋らせる。
けど、
「オレ……っ」
「してくれないの?」
「――‥っ」
「じゃあ」
「し、します!なんでもします!」
いらない、と言われるのが怖くて反射的に叫ぶように答えてしまった。
「ほんと?嬉しいな」
ふわりと笑む会長は文句なしにカッコイイ。
ちくしょう失恋決定かよ、てか誰だ会長の、オレの大大大大大好きな会長の心を奪ったクソ野郎はああああああああ八つ裂きにしてやりたい協力するふりして葬り去ってしまおうか、いや落ち着けオレそんな事したら信用ガタ落ちだ、最初からオレなんかが手に入れられるとは思ってないけれど、せめて隊長としての信用くらい得てないと悲しすぎてやってられん。
「じゃあまずは、こっち来てくれる?」
「……はい」
「目瞑って」
「?はい」
座っている会長の前に立ち、なんだろうと思いつつ言われた通りに目を瞑る。
と、
「……」
「……」
くい、と引き寄せられ間近に迫った会長の香りに次いで、ふわりと唇に触れたもの。
「…………………………え?」
ぱちりと目を開くと鼻先の触れる距離に愛しい人の顔があって。
「これからよろしくね」
は?
「オレが好きなのは隊長だよ」
…………は?
「協力してくれるんだよね?」
………………は?
「オレと付き合ってくれる?」
はあああああああああああ!?
なんですと!?
オレの耳イカレたのかそれとも白昼夢!?
悲しすぎて自分に都合の良い夢見てんのかなコレ今すげえ嬉しいセリフが聞こえたような気がすんだけど気のせいかな気のせいなのかないやマジ幻聴かもしれないどうしよう、てか、
「かいちょ、今、き、き……!」
「うん?かわいかったからつい」
「かわ……っ、いやいやそれは会長の方が……!」
「ねえ、返事は?」
「え!?いやっ、あの、その」
促され、幻聴ではなかったと知る。
「か、会長はオレが好きなんですか!?」
「そうだよ。ずっと好きだった」
「……っ」
「隊長としてじゃなく、恋人として傍にいて欲しいんだ」
真っ赤に染まる隊長の顔。
茹で蛸も真っ青なその状態が今にも襲いたくなるくらい可愛かったとは後日の会長談。
「ねえお願い。オレと付き合って?」
ぎゅっと両手を大きなそれで包まれて、少し下から真剣に見上げられる。
そもそもが大好きすぎる会長の、その申し出に対しての隊長の答えなんて既に決まっていて。
「は、はい」
消え入るような声で返すと、先程よりも更に強く引かれ、腰に腕が回り優しく抱き締められた。
end.
おまけ
「!!!!!会長!問題が…!!!」
「ん?なに?」
「オレ、オレ親衛隊の隊長なのに、会長とその、そういう関係になっても良いものなんでしょうか…?!!」
「問題ないんじゃない?」
「でもっ、(はっ!!副隊長達になんて説明しようどうしようオレが制裁されちゃう?!!会長の傍にいれるなら制裁くらい我慢出来るけど…!!いやでもこれでみんなに嫌われちゃうかもしれないのは寂しすぎる…っ、どうしよう、オレ隊長やめた方が良いのか?ああああほんとどうしよう…!!)」
「…(またなんかぐるぐる考えてんだろうなあ、かわいー)」
満面の笑みでもって幸せアピールをする会長と、他隊員の手前申し訳なさに眉を落としながらもやはりどこか幸せオーラの漂う隊長を見て、副隊長以下略がおめでとう良かったねと祝福をするのは、このすぐ後。
終わり!
応援ありがとうございます!
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