矢印の方向

うりぼう

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※啓介視点



みんなに事情を説明した後。
少しだけしんみりとした空気が流れたのだが。

「あたし思ったんだけどさあ、真壁くんが好きならステージの上で告白しちゃえば?」
「……はい?」

真由香がとんでもない事を言い出した。

「それ良いじゃーん!めっちゃ良い!」
「ステージの上とか、女子そういうの好きだよなあ」
「悪くはないな、盛り上がるだろうし」

他の三人も何故か乗り気だ。

「いやいやいや、何言ってんだよ、わざわざステージの上で振られろって?」
「振られるとは限らないんじゃないか?」
「それは……」

ないと信じたいけれど、残念ながら望みは薄い。
だって一也が好きなのは安積なのだから。

「俺なんて、眼中にないと思う」
「それなら尚更、眼中に入りたいと思わない?」
「!」

そのセリフにハッとする。

「そうだよな、眼中にないなら入っちゃえば良いんだよ!」
「告白されて意識しだして、とか良くあるじゃん!」
「それに、あの時こうしておけば良かったって後悔したくないだろ?」
「……!」

その通りだ。
後悔したくない。
昨日から後悔しっぱなしで、これ以上後悔なんてしたくない。

「あとはほら、当たって砕けろって言うしね!」
「え、俺砕けんの?」
「骨は拾ってあげる」
「ははっ、優しすぎ」
「でしょー?」

軽い口調ではあるが、みんなが俺を心配しているのはとても伝わってくる。
きっと上手くいってくれると良いと望んでくれているのだろう。
上手くいかなくても、俺の気持ちが少しでも楽になるようにとの気遣いが嬉しい。

でも一也は目立つのが苦手だ。
ステージの上で告白するのは良いけれど、きっとその場の雰囲気に耐えられなくて逃げられてしまうかも。
それより最悪なのは、本気で嫌われることだ。

「だったら攫っちゃえば良いじゃん!」
「そうそう、お姫様抱っことか憧れるー!」
「お姫様抱っこ……」
「それは良いが、田辺さんはどうするつもりだ?」
「そこはあたし達に任せておきなさーい!」
「そうそう、こういう時は女同士が一番だからね!ステージもなんとかしておくから!」
「お前ら……ほんっと、良い奴だな」
「お礼はカラオケフリータイム食べ放題付きで良いからね」
「やったー!楽しみー!」

まだ返事していないのにもう二人はその気のようだ。
うん、良いよ、カラオケくらいいくらでも奢ってやる!

「当たって砕けろ、だもんな」

……という事があってからの今である。
ステージの上で俺が着飾り俺が髪を整えた一也を抱き上げてそこから一也を連れ去る。
普通に連れ出すのではきっと逃げられてしまうからこんな手段になってしまった。

「ちょっ、矢野!?何して……!?」
「叫んだら舌噛むよ?」
「……っ」

暴れて降りようとする一也にそう言って、ステージがある体育館の裏に行く。
俺より小さいし軽いとはいえ、さすがに男一人をずっと抱いて歩くのは大変で、誰もいない体育館裏で一也をそっと下ろす。
逃げないように腕を掴んだままなのは許して欲しい。

「……っ」

掴んだ手を離そうと一也がもがくが離さない。

「……何で?」

小さく震えた声が静かに響いた。











※一也視点


何で?何で?
その単語しか頭に浮かんで来ない。

何で矢野がステージに?
ごめんって何で?
何で俺を抱き上げてるんだ?
何でステージから一緒に下りたんだ?
何で連れ出されたんだ?
何で手を掴まれてるんだ?
何で……

(何で、俺を放っておいてくれないんだ)

あんな風に連れ出されて、こんな風に手を掴まれて、まっすぐに見つめられたら勘違いしてしまう。
違うのに、矢野は俺の事なんて何とも思ってないはずなのに。
どんなにもがいても手を離してくれない。

「……何で?」

やっとで出した声は情けないことに酷く震えている。

「何でだよ?何で、こんな……っ」
「……ごめん」

矢野の口から出たのは謝罪の一言。

「……何が、ごめん?」
「それは、その……色々」
「色々って?」
「だから、その、賭けのこととか……」

賭けの謝罪をする為だけにあの場から連れ出したのか?
それなら今度でも良かったんじゃないのか。

「別に、謝らなくても良いよ。もう終わった事だし」
「終わってない!」
「終わってるよ」

矢野は強く否定するが、これは明らかにもう終わった話。
だって、もう俺は矢野の申し出を受けてしまった。
言われるがまま、好きだから協力したいだなんて不純な動機で企画に参加した。
矢野が俺を口説いて、俺が頷いた瞬間に終わっていたんだから。

「ちゃんと最後まで付き合ったし、もうそれで良いだろ?他に何がしたいの?」
「俺は、ただ……」
「ただ、何?」
「……」

黙ってしまった矢野に溜め息を吐く。

「……何で俺だったの?」
「え?」
「賭けの対象。俺じゃなくても、もっと他の奴がいただろ?なのに何で俺だったの?からかいやすいと思った?俺なら簡単に落とせると思った?」

矢野が好きだから、何でも言う事を聞かせられるとでも思ったのだろうか。

「別に、誰でも良かったじゃん?俺じゃなくても」
「誰でも良いわけない!俺は、俺は一也だったから!」
「俺だったから、何?」

ああ、嫌だ。
考えたくなかったけど、やっぱり舐められてたのかな。
そんな人じゃないとはわかっているけど、やはりどうにも自分に自信が持てず下に下に考えてしまう。

俺、矢野に嫌われるような事しちゃったのかな。
自分では普通に接していたつもりでも矢野にとっては違ったのかもしれない。
ただのクラスメイトととして接している中で、決定的な何かをしてしまったのだろう。
それなのにあんなに俺に優しく出来るんだから、矢野はやっぱり凄い。

「俺は別に、恨んだり怒ったりなんてしてないよ」

そう、俺は別に恨んだり怒ったりしてる訳ではない。
ただ悲しかった。
それだけだ。

「矢野がしてた賭けも、今回選ばれたのも、俺にとっては嬉しいことばっかりだった。だから矢野が謝る必要なんてない。俺の好きな人のことも、矢野には……」

関係ない、と続けようとしたセリフは矢野によって遮られた。
言葉なんかじゃない。
温かく、力強い腕の力によって。

「一也!」
「え?」

気が付けば矢野の腕の中にいた。
逞しい胸に引き寄せられ、あまりに突然の事に頭が混乱する。
抱き締められているのだと理解した瞬間、離れなければと思った。
思ったけれど、身体が動かない。
あまりの温かさに堪えていた涙が溢れそうになる。

「や、の……」
「好きだ」

震える声で名前を呼ぶ俺の耳に飛び込んできたのは、信じられない一言だった。


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