ワンナイトのセフレかと思ったら彼氏でした

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突然だが、みんなにはコンプレックスはあるだろうか。

僕には山ほどある。平凡なこの顔、声、身長。全部だ。

ただ、それはどうしようもない、天命のようなもの。
だが、僕は今、その中のひとつを努力で解消しようとしている。

「やあおはよう、うみさんですよね?」

……そう、脱処女だ。

僕はゲイだ。それも完全にネコ。
中学生の頃、同級生のイケメンに抱かれる妄想で抜いてしまった時点で、もう確定してしまった。
もちろん、親にも友達にも言っていない。言ったところで引かれるだろうし、そもそも言う必要もない。だって僕は最初から、誰かと付き合うつもりなんてなかったからだ。

——付き合ったら、別れる可能性が出てくる。それが怖い。捨てられるくらいなら、最初から始めない。そう決めてきた。だから好きな人ができても、好きなまま終わらせる。安全圏から眺めるだけ。そうやって自分を守ってきたのだ。

でも。

誰にも抱かれないまま死ぬのは、嫌だった。

性欲は強い。興味は人一番ある。周囲には「初体験済み」なんて話をサラッとするやつが増えてきた。僕だけ置いていかれるのは正直つらい。せめて大学生の内にはほしい。もうギリギリだけど。そう思った僕は、ゲイ向けのマッチングアプリに手を出した。

条件はただ一つ。イケメンであること。

正直、性格なんてどうでもいい。だってワンナイト狙いだから。上手くて、しかもイケメンならそれでいい。——いや、イケメンなら大抵上手いはず。そんな浅はかな期待を抱きながらアプリを覗いた。

だが、マチアプは残酷だ。
奇跡の一枚で武装した「加工イケメン」や、光の加減で三割増しに見えるやつばかり。実物と会って落胆すること数回、僕は心が折れかけていた。

しかし——今回は違った。

「は、はい。うみです。ルイさんですよね?よろしくお願いします!」

目の前に現れたのは、写真詐欺ではない本物のイケメンだった。
サラサラした黒髪に高身長。服装はシンプルなのに清潔感があって、全体的にチャラそうな雰囲気を纏っている。——そう、絶対遊んでる。僕の理想だ。

「じゃあどこ行く?」

彼は人懐っこい笑みを浮かべて言った。
その瞬間、思わず心の中で叫んだ。

かっこいい……!

「あ、あの……ホテルで……」

「……へぇ、真面目そうなのに、えらく積極的だね。慣れてるの?」

「い、いえ……その……ダメですか?」

「……いいよ。行こうか」

——こうして僕は、思いのほかあっさりと処女を捨てたのだった。

行為後——。
ベッドに横たわったまま、ぼんやりと天井を見上げていた。
心地よい疲労と、じんわりした熱。初めてなのに意外と痛みは少なく、むしろ安心感に包まれていた。

そんな余韻に浸っていると、隣にいるルイがするりと身体を寄せてきた。自然な流れで、僕は彼に抱きすくめられる。

「ねぇ、明日も会わない?」

低く甘い声に、僕は思わず目を瞬かせる。
……意外だ。こういうのって「お疲れー」って感じで、あっさり終わるもんじゃないのか?
それとも、これは“遊び慣れた人の常套句”なんだろうか。

「うーん……会えたら」

とりあえず無難にそう答えると、ルイは満足そうに微笑んで、コクリと頷いた。
……まあ連絡先も交換してないし、適当に返事しとけばそのまま自然消滅だろう。遊び慣れてそうな彼にとっても、この程度の返答は聞き慣れてるはずだ。

安心しかけた矢先——

「キスしよ」

有無を言わせず、柔らかな唇が重ねられた。さっきまでの行為と違い、妙に長く、離れる気配がない。

……え、これ、普通ワンナイトでやる流れなのか?

僕の混乱をよそに、ルイの唇は深く、しつこいほどに重なり続けた。相変わらず上手だなぁなんて思いながら。

こうして僕の初めてのワンナイトは幕を下ろした。
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