アプリで元カノを気にしなくなるくらい魅力的になろうとした結果、彼氏がフリーズしました

あと

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1.再会ともやもやとAI

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「……え?」

ある日のショッピングモール。
日用品の買い物をしていた、その時だった。

視界の先に――彼氏がいた。
しかも、女の人と一緒に。

大きくてぱっちりした瞳。
軽くカールした髪。
華やかで、誰が見ても「可愛い」と思う顔立ち。

……お似合いだ、どう見ても。

「………」

俺の名前は、天野翔。大学四年生。
進藤郁也とは、付き合い始めてまだ二か月ほどしか経っていない。

「……確かめなきゃ」

逃げる理由は、ない。
そう言い聞かせて、足を踏み出した。

「あの……」

「っ! 天野……」

気づかれた。

その瞬間、別方向から男の人が近づいてきた。

「あれ? 進藤と莉子じゃん」

「……中高の同級生」

郁也が、小さく教えてくれる。

なるほど。
知り合いが集まるものだな。

「あれ?お前ら、より戻したの?ならよかったー!俺、応援してたんだよ!お前らカップル!」

……確定だ。元カノ。

「なあなあ、何年付き合ってたんだっけ? つーか、何で別れたの? お前ら本気だったんだろ?」

空気が、重くなる。

「……四年半。中二で付き合い始めて、高三の受験で忙しくなって、自然消滅」

郁也は、嫌そうな顔で答えた。

四年半。

その数字が、胸に沈む。
「四年くらい」じゃない。「四年半」。

ちゃんと、数えてたんだ。

一人の相手と、本気で、四年半。

……ダメだ。
胸の奥が、ざわざわする。

これなら、「俺イケメンだから遊んでた」とか、「軽い付き合いばっかだった」とか言われた方が、まだマシだった。

遊びじゃない。
本気の恋だったという事実の方が、ずっと刺さる。

……俺、こんなに繊細だったっけ。
女々しすぎる。

「そっからは? 誰とも?」

「……しつこい。俺が遊ぶタイプじゃないのは知ってるだろ」

郁也が、ちらりと俺を見る。

胸が、きゅっと締まる。

「進藤ー。未練ないのか?」

「ない。全く」

即答。

「えー、残念」

「……さっき、私が喉乾いたって言ったら、私の好きな飲み物奢ってくれたのは?」

元カノが、冗談めかして言う。

「……莉子……そんなの、誰にでもやる」

「えー? 何で好物覚えてんの?」

「……心では忘れたつもりでも、好物とか好きな店とか、頭では覚えてただけ。深い意味はない。人間のバグだよ」

笑えない。俺がお茶を買う時、いつも「それ、そんなに美味しいの?」って他人事みたいに聞いてくるくせに。……元カノの好みは、勝手に出てくるくらい染み付いてるのかよ。

「お前冷たいぞ! 知ってんだぞ! お前らが深ーい仲だったことくらい!」

「……おい!」

帰りたい。
でも、足が動かない。
深い仲――その言葉の裏にある生々しい想像を、止めることができなかった。
俺にはキスもしない癖に。

「あはは。まあいいや。二人とも未練ないなら、俺は残念だが去るわ。じゃあなー」

男は、そう言って去っていった。
元カノも、同じ方向へ消えた。

残されたのは、俺と郁也だけ。

次の瞬間、肩をガシッと掴まれる。

「未練はない!! もう何も関係ない!! たまたま会って、話しかけられただけだ!」

必死な声。

「……俺のことは『天野』って苗字で呼ぶのに」

自分でも驚くほど、冷たい声が出た。

「元カノは、『莉子』って名前で呼ぶんだな」

「……っ! それは……」

「ごめん。これ以上話してても、ダメそう」

視線を逸らす。

「俺、帰る」

そう言って、ショッピングモールを飛び出した。

……ほんと、俺。余裕なくて、ダサすぎる。


———

「……はあ、ダメだ…」

あの後すぐに家へ帰った。
洗い物も洗濯もする気になれない
頭の中は元カノでいっぱいだ。

「……落ち着け。冷静になれ」

まず、何がモヤモヤしてるかまとめて言語化するんだ。

1つ目。
元カノと付き合い始めた時期とか、好物とか、好きな店とか——未だに全部覚えてるところ。
「記憶力がいい」で済む話じゃない。気持ちがまだ残ってるようにしか見えない。

2つ目。
4年半も本気で付き合ってたところ。真面目なのはいいことだけど、モヤモヤする。

3つ目。
未だに元カノを下の名前で呼んでるところ。
俺なんて、ずっと名字呼びなのに。

4つ目。
彼女とは深い仲だった癖に、俺にはキスすらしないところ。
“大切にしてる”のか、“そういう目で見れない”のか、もうわからない。

5つ目。
俺は全部、郁也が初めてなのに——相手は、初めてじゃないところ。
……うん。これが一番、モヤモヤする。

6つ目
言語化できない。とりあえずモヤモヤする。

「まとめたはいいけど、これ誰に相談すればいいんだよ…」

枕に顔を埋めて、情けなさに身悶える。
郁也に直接ぶつける?いや、今の俺は正直、郁也にも理不尽に怒ってる。
郁也は優しすぎるんだ。莉子さんに対してもっと冷たく、突き放して欲しかった。好物の飲み物なんか奢るなよ。でも、それができない「誰にでも優しい男」だから、俺は彼を好きになったんじゃなかったか。

「でも、一人で抱え込むの良くないよな…誰かに相談したい…」

けれど、周囲の友人には誰にも話せない。
男同士で付き合っていることは秘密にしている。隠したがったのは俺の方で、郁也は「言いふらしたい」なんて笑っていたけれど……。

「…….検索するか…」

すがるような思いで、スマホの画面を光らせた。

『恋人 元カノ 嫉妬 相談』

ヒットした数多の記事を読み漁る中、あるアプリの広告が目に留まった。

「なんだこれ……Chat key?」

通称『チャッキー』。可愛い動物のキャラクターが、どんな悩みにも答えてくれる相談アプリらしい。

レビューを見ると、「誰にも言えないことが言える」「親身になってくれる」と評価も高い。

「……AI相手なら、引かれることもないか」

俺は迷いながらも、そのアプリをダウンロードした。
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