嘘告だと思ってOKしたのに、なぜか本気で甘やかされてる

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「もうダメだ……」

完全に好きになってしまった。頭の中は千影でいっぱいだ。
呼吸するたびに思い出す。笑顔も、声も、触れた温度も。

「……はぁ……」

またため息が漏れる。
嘘告からのガチ恋なんて、冗談にもならない。
もし「やっぱり嘘でしたー」なんて軽く言われたら――俺は間違いなく立ち直れない。

「どうしたんだよー。幸せ逃げてくぞ?」

隣の正人が、何気なく突っ込んでくる。
俺は顔をしかめて首を振った。

「いや……ちょっとな」

詳しくは言えない。俺のこのぐちゃぐちゃな感情なんて、口に出せるわけがない。

ふと前を見ると、千影の姿があった。
駆け寄ろうとしたそのとき――隣に女性の影。

「藤崎千影じゃん!……あれ? 女の人? 彼女か!」

……ああ。やっぱりそうか。
心のどこかで信じかけた俺がバカだった。
胸の奥が空っぽになり、涙すら出てこない。

「……っ!碧? どした!」

正人の声を振り切り、俺はその場を逃げ出した。

その日、千影の連絡先を消した。LINEもSNSもすべてブロック。電話も着信拒否。
サークルも休むと決めた。徹底的に距離を置かないと、自分が壊れる気がした。

――数日後。

ピンポーン。

「……誰だ?」

宅配も頼んでない。来客の予定もない。

ダン! ダン! ダン!

ドアを叩く重い音。心臓が跳ね上がった。
慌てて玄関に駆け寄り、ドアを開ける。

「……え?」

「碧さん……」

そこに立っていたのは、千影だった。

反射的にドアを閉めようとするが、強く押し返される。
その目は、いつもの華やかさとは正反対で、光を失っていた。

「なんで……逃げるんですか」

低い声に背筋が凍る。

「だ、大丈夫か……?」

心配の声が先に出た。だが千影は首を振った。

「大丈夫じゃないです。ねぇ、碧さん」

次の瞬間、玄関の床に押し倒される。いや、押し付けられるのに近い。

「俺、何かやりました……?」

暗く沈んだ声。温度のない響きに、背筋がざわりと震える。

「悪いところ全部直します。重いって言われるなら直します。連絡だって我慢します。……だから……お願いします……別れないで……」

背中に回される腕が、必死に縋りついてくる。

「捨てないで……」

――なぜ、ここまで必死に?
嘘じゃないのか? 本気で……俺を?

混乱の中で、過去の「嘘告」の記憶が脳裏をよぎる。

「……退いてくれ……」

俺の声は震えていた。だが、その必死さが届いたのか、千影は意外なほど素直に身を離した。
俺を傷つけるつもりは、ない。そう感じた。

「……ちょっと外に出てくる」

「ま、待って!」

声を背に、俺は外へ飛び出した。
すぐに追いかけてくる気配。だが振り返らない。
胸をかき乱す鼓動に背中を押されるまま、ただ走った。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

無我夢中で走って、公園のベンチにたどり着いた。
千影の姿は見えない。胸が焼けるように痛くて、呼吸もまともにできない。
元々引きこもり気質の俺が全力で走ったせいで、体力はすっかり尽きていた。
ベンチに崩れ込むように座り込むと――不意に声が降ってきた。

「あれ? 水島じゃん」

心臓が止まるかと思った。
――よりにもよって。世界で一番、今会いたくない人間。
それは、高校のときに俺を笑いものにした、あの嘘告白の張本人だった。

「何やってんの?」

息が乱れて声が出ない。言葉を返そうとしても、喉が張り付いたみたいに動かなかった。

「えー誰ぇ?」

そいつの隣にいる女が、軽い調子で聞いてくる。

「高校の同級生! いやー久しぶり」

――なかったことにしてる。
まるで俺を傷つけた過去なんて存在しなかったみたいに、笑顔で話しかけてくる。
その無神経さが、胸を抉った。

「仲良かったの?」

「いや全然。こいつさ、マジやばくて。俺が高2の時――」

やめろ。
声に出そうとする。けど、声帯が凍りついたみたいに震えるだけで、言葉にならない。
胃の奥がひっくり返りそうな吐き気だけが込み上げる。

その時だった。

「……何やってるんですか?」

背後から、冷たい声が落ちた。振り返ると――千影がいた。
肩で息をしている。俺を追いかけて、本気で走ってきたらしい。

「えっ! 藤崎千影じゃん!? やば! 本物!?」

隣の女が急にテンションを上げて、きゃーきゃー騒ぎ出す。

千影はその声を無視して、まっすぐに俺を見つめた。
次に視線を水島へ移し、低い声で言う。

「……すみません。この人は、俺の大切な人です。もうお引き取り願えますか」

そう言って、俺の腕を自分の方へと強く引き寄せる。
熱が伝わってくる。逃げ出したはずなのに――その温度に、心臓が大きく跳ねた。

「……わかったよ。ノリ悪いなぁ」

あいつは肩をすくめ、女を連れて立ち去っていった。

残されたのは、まだ息が荒い俺と、腕を放そうとしない千影だった。

「……誰ですか、今の人」

千影の低い声に、喉がひゅっと狭まる。
逃げられない、と直感した。

「……」

俺は観念して、すべて話すことにした。
高校時代のこと。あの嘘告白でどれだけ傷ついたか。
そして、千影に対して抱いていた疑い。
言葉を選びながら、ひとつ残らず吐き出した。

話し終わった頃、千影は呆れたようにため息をついた。

「はぁ……じゃあ何ですか。俺の一世一代の告白は、さっきのクソ野郎と同レベル扱いされて、挙句に捨てられかけたってわけですか?」

その言葉に、胸が痛んだ。
確かにまとめると――千影が一番可哀想だ。

「い、いや……違う。色々一緒に過ごしてみて、千影が本当にいいやつだってのはわかったんだよ」

「当然です」

千影は少しだけ肩をすくめる。

「碧さんを傷つけるようなやつと比べられるだけで腹が立つ。……さっきもっと言ってやればよかった」

「やめろって」

「冗談です」

そう言いつつも、千影の瞳は真剣そのものだった。

「でも……これで俺の気持ちは通じましたよね? 別れないですよね?」

「いや、その……女の人は……」

俺が恐る恐る口にすると、千影が目を瞬いた。

「……もしかして、姉貴のことですか?」

「えっ……」

言葉を失った。

「俺、4歳上の姉がいるんですよ。たまたま数日前に会って、それで一緒に歩いてただけです」

……こんな古典的な勘違い、現実にあるのか。
全身から力が抜けていった。

「ねぇ、碧さん。これで、俺たちを阻むものはなくなりました」

千影の真剣な声が胸に響く。
申し訳なさでいっぱいになった俺は、何かお詫びをしなきゃと思い――気づけば、体が勝手に動いていた。

「わ、悪かった……。っ!」

背伸びをして、千影の唇に軽く触れる。ほんの一瞬の、触れるだけのキス。

「これで……許してくれる?」

不安で、目を逸らしそうになる。だが、視線の先にいた千影の顔は、真っ赤に染まっていた。

「……え、碧さんから……?」

「ファ、ファーストキスなんだが…」

俺はおずおずと言う。

「……!」

次の瞬間、強く抱きしめられ、深いキスを重ねられた。
今度はしつこいほどに、呼吸を奪われる。

「……気持ちいいですか?」

「うん……なあ」

俺は背中に手を回し、耳元で囁く。

「今夜……泊まってもいいか?」

千影の目が大きく見開かれる。

「……それ、どういう意味かわかって言ってます?」

「……そういう意味で言ってる」

千影の腕に力がこもった。

「碧さん……! 一生大事にします。ほんと、可愛くて、ずるいくらい可愛い……。さっきまで怒ってたのに、全部許しちゃうじゃないですか……」

吐息混じりの声でそう言って、また熱いキスが降ってきた。

――その夜、俺たちは初めて一夜を共にした。
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