【完結】ヒロイン、俺。

ユリーカ

文字の大きさ
29 / 114
Ⅲ ハンター、俺。

026: 魔女っ子現る

しおりを挟む



「あああぁぁぁにいいいぃぃじゃあぁぁぁッ」

 その絶叫と共にその黒く丸い物体は俺めがけて落下しガツン!と激突した。俺の頭に足のようなものがブチ当たったんだが。これはいわゆるドロップキック状態だ。
 あまりの衝撃で仰け反った俺はその場にしゃがみ込んで悶絶だ。黒い物体は華麗に俺の前にシュタッと着地した、足から。

「いってぇぇぇッ」
「ルキアスッおい!」
「ルキアス様!大丈夫ですか?」

 頭蓋骨が割れるかと思ったが聖女の魔法で瞬間回復してくれた。腐っても聖女!すげぇな!
 ポメよ来い!とは思ったが!落下物の攻撃なら俺じゃなくて英雄を狙えよ!これが俺じゃなく一般市民だったら確実に死んでた案件だ。

 落下したちびっこい物体がむくりと立ち上がった。

「おおッやっとついたか?ここはどこじゃ?兄者?」

 辺りを見回す幼女を俺は唖然として見上げた。歳の頃はよくわからんが幼い?‥‥小学生に上がる前くらいじゃないか?子役アイドルになれそうなくらい随分と可愛らしい顔立ちだが俺の嫁には及ばない。紫のとんがり帽子に地面すれすれ裾を引きずりそうな長さの紫のローブ。肩下まで伸びる濡れ羽のように艷やかな黒髪ストレートとクリクリとした大きな紫色の瞳が目を惹く。これでほうきを持っていればいわゆる魔女っ子スタイルだ。

 そこであの感覚がした。ポメと俺とを繋いでいる感覚。対人族では発動しないもの。そして俺はすとんと理解した。同時にザァァッと血の気が引く。


 ヤバい。こいつ、魔族だ。


「ん?確かに兄者の匂いがするんじゃが。兄者はどこじゃ?あにじゃーッ」

 そう言いながら幼女が路地のゴミ箱の中や空き箱をどけている。一体何を探しているんだ?そんでもって俺たちを完全無視だ。英雄二人も驚いているようだ。

「‥‥兄者?これは‥お前の妹か?いや、確か妹はいなかったはずだが。まさか!魔王とお前との子ども」
「え?はぁぁ?!違います!じじ実は親戚の子を預かってます!」

 王子、俺の調査完璧ですね。そこがまた怖い。
 そしてBL路線の妄想が止まりませんな。単為生殖?一人で子供は無理デスー

 俺の妹でも子供でもないが、だとしても空からは降ってこないって。おそらくこれはポメよ来い!と召喚したつもりだったが違う魔族がやってきてしまった件だ。魔族とバレないように俺の親戚としたが空から降ってきた辺りでめちゃくちゃ怪しいって!

 こんな人族の街のど真ん中で魔族を召喚しようとした俺が悪いわけなんだが。

 魔族から逃げて来た俺が親戚の子を預かってる設定も苦しすぎるのに英雄たちは疑問に思っていないようだ。

 そこへアンアンッとアイドル仔犬がコーナーを回って全速力で路地を走ってきた。小型犬の仔犬サイズ故になかなかこっちにやってこない。砂煙は上がってるんだが足おっそ。

「ポメッどこ行ってたんだ!」

 肝心な時にどこ行ってたんだよ俺の守護獣!

 やっと来てくれたか!街の中だから走ってきたのか、賢いなお前。召喚で現れたら目立つもんな。俺は今自分で盛大な墓穴を掘っていたところだよ!

 両手を広げて迎えようとしたが俺の前にその幼女が立ち塞がった。うるうる涙目でポメに駆けていく。

「あにじゃぁぁぁ!!」
『るぅぅぅ!!』

 飛び上がったポメを幼女が抱きしめた。ポメは尻尾フリフリ全開だ。
 どうやら感動の再会‥‥なんだが言動と見た目が一致しない。よって俺のアドリブが炸裂した。

「兄者?あの犬がか?」
「うぇ?えーとえーと!ああ!アニジャはあの犬の名前です!」
「あら、先ほどルキアス様はポメとお呼びでは?」
「ぐぅぅッ アニジャはあだ名です!」
「ほう、あの犬はお前のか。犬まで可愛らしいな。なんだ、あの子は犬を探していたのか」
「そう!そうなんです!見つかってヨカッタ!」
「まぁ、そうでしたの。それはよかったですわね」

 英雄二人は微笑ましげに幼女と仔犬をほのぼの見ているんだが。

 お二人とも?それだけですか?空からアレが降ってきたことはスルー?まあ俺は助かるんですが。

 そこで王子がキリリと俺にキメ顔だ。変態だが無駄にイケメンである。

「魔王は城にいなかった。討伐し損ねたが次に魔王に出会ったら必ず俺が倒す。だから今は俺のそばにいてくれ」
「そうですわ、また拐われては大変ですもの。私と一緒に参りましょう?」

 魔王は俺。これはそれとバレたら俺は英雄たちの手打ちになるというフラグですか?そんなフラグが立った状況で英雄のそばにいられるわけないでしょ!!

 俺の答えなんて待ってくれない。俺の手を取り強引に連れて行こうとする、それ英雄たちの手にぞわりと背中が泡だった。俺の中の女神様が英雄を拒絶している。そうとわかった。そう思った瞬間、俺の中の怒りのメーターが一気に目盛を振り切った。

「触るな」

 一瞬だった。線路のポイントが切り替わるようにガチャンと俺の意識が切られて魔王の意識が肉体を支配した。低い声、俺では振り払えなかった勇者の手を魔王は易々と払い除けた。

「ルキアス?」

 王子が怪訝な顔をした。魔王とはバレていないが俺の雰囲気の変化には気がついたようだ。一歩身を引いた王子の手は聖剣の柄に置かれている。流石は勇者、強敵を前に本能で体が動いたようだ。俺からはレベル4852のオーラがバンバン出ているし。もう別格クラスだ。それを肌で察知したのか聖女が目を瞠り慄いたようにゆらりと退いた。

 この肉体は一度魔王と繋がっている。すでにレールが敷かれている。そのため肉体は簡単に支配されてしまった。ポイントが切り替わる引き金は俺が怪我することだと思ったがどうやら魔王の怒りだったらしい。その脳内ポイント切替機を俺は確かに意識できた。

 げげげッ ここで!こんな街中で!魔王降臨!もうダメだ!この街は粉塵と化すぞ!それに俺が魔王と面割れすると色々とマズい!魔王として指名手配されれば人族潜入と称した観光ツアーは即中止だ。まだ全然遊び足りないのに!!

 完全に遮断された俺の意識が脳内で慄いた。

 魔王の逆鱗は多分、おそらく、いや、間違いなく女神様。女神様を傷つけたり嫌がらせをしたらいかれる魔王が現れる。俺だって即座にキレた。この切替機はそういう意味で存外ゆるいかもしれない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...