【完結】ヒロイン、俺。

ユリーカ

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Ⅲ ハンター、俺。

026: 魔女っ子現る

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「あああぁぁぁにいいいぃぃじゃあぁぁぁッ」

 その絶叫と共にその黒く丸い物体は俺めがけて落下しガツン!と激突した。俺の頭に足のようなものがブチ当たったんだが。これはいわゆるドロップキック状態だ。
 あまりの衝撃で仰け反った俺はその場にしゃがみ込んで悶絶だ。黒い物体は華麗に俺の前にシュタッと着地した、足から。

「いってぇぇぇッ」
「ルキアスッおい!」
「ルキアス様!大丈夫ですか?」

 頭蓋骨が割れるかと思ったが聖女の魔法で瞬間回復してくれた。腐っても聖女!すげぇな!
 ポメよ来い!とは思ったが!落下物の攻撃なら俺じゃなくて英雄を狙えよ!これが俺じゃなく一般市民だったら確実に死んでた案件だ。

 落下したちびっこい物体がむくりと立ち上がった。

「おおッやっとついたか?ここはどこじゃ?兄者?」

 辺りを見回す幼女を俺は唖然として見上げた。歳の頃はよくわからんが幼い?‥‥小学生に上がる前くらいじゃないか?子役アイドルになれそうなくらい随分と可愛らしい顔立ちだが俺の嫁には及ばない。紫のとんがり帽子に地面すれすれ裾を引きずりそうな長さの紫のローブ。肩下まで伸びる濡れ羽のように艷やかな黒髪ストレートとクリクリとした大きな紫色の瞳が目を惹く。これでほうきを持っていればいわゆる魔女っ子スタイルだ。

 そこであの感覚がした。ポメと俺とを繋いでいる感覚。対人族では発動しないもの。そして俺はすとんと理解した。同時にザァァッと血の気が引く。


 ヤバい。こいつ、魔族だ。


「ん?確かに兄者の匂いがするんじゃが。兄者はどこじゃ?あにじゃーッ」

 そう言いながら幼女が路地のゴミ箱の中や空き箱をどけている。一体何を探しているんだ?そんでもって俺たちを完全無視だ。英雄二人も驚いているようだ。

「‥‥兄者?これは‥お前の妹か?いや、確か妹はいなかったはずだが。まさか!魔王とお前との子ども」
「え?はぁぁ?!違います!じじ実は親戚の子を預かってます!」

 王子、俺の調査完璧ですね。そこがまた怖い。
 そしてBL路線の妄想が止まりませんな。単為生殖?一人で子供は無理デスー

 俺の妹でも子供でもないが、だとしても空からは降ってこないって。おそらくこれはポメよ来い!と召喚したつもりだったが違う魔族がやってきてしまった件だ。魔族とバレないように俺の親戚としたが空から降ってきた辺りでめちゃくちゃ怪しいって!

 こんな人族の街のど真ん中で魔族を召喚しようとした俺が悪いわけなんだが。

 魔族から逃げて来た俺が親戚の子を預かってる設定も苦しすぎるのに英雄たちは疑問に思っていないようだ。

 そこへアンアンッとアイドル仔犬がコーナーを回って全速力で路地を走ってきた。小型犬の仔犬サイズ故になかなかこっちにやってこない。砂煙は上がってるんだが足おっそ。

「ポメッどこ行ってたんだ!」

 肝心な時にどこ行ってたんだよ俺の守護獣!

 やっと来てくれたか!街の中だから走ってきたのか、賢いなお前。召喚で現れたら目立つもんな。俺は今自分で盛大な墓穴を掘っていたところだよ!

 両手を広げて迎えようとしたが俺の前にその幼女が立ち塞がった。うるうる涙目でポメに駆けていく。

「あにじゃぁぁぁ!!」
『るぅぅぅ!!』

 飛び上がったポメを幼女が抱きしめた。ポメは尻尾フリフリ全開だ。
 どうやら感動の再会‥‥なんだが言動と見た目が一致しない。よって俺のアドリブが炸裂した。

「兄者?あの犬がか?」
「うぇ?えーとえーと!ああ!アニジャはあの犬の名前です!」
「あら、先ほどルキアス様はポメとお呼びでは?」
「ぐぅぅッ アニジャはあだ名です!」
「ほう、あの犬はお前のか。犬まで可愛らしいな。なんだ、あの子は犬を探していたのか」
「そう!そうなんです!見つかってヨカッタ!」
「まぁ、そうでしたの。それはよかったですわね」

 英雄二人は微笑ましげに幼女と仔犬をほのぼの見ているんだが。

 お二人とも?それだけですか?空からアレが降ってきたことはスルー?まあ俺は助かるんですが。

 そこで王子がキリリと俺にキメ顔だ。変態だが無駄にイケメンである。

「魔王は城にいなかった。討伐し損ねたが次に魔王に出会ったら必ず俺が倒す。だから今は俺のそばにいてくれ」
「そうですわ、また拐われては大変ですもの。私と一緒に参りましょう?」

 魔王は俺。これはそれとバレたら俺は英雄たちの手打ちになるというフラグですか?そんなフラグが立った状況で英雄のそばにいられるわけないでしょ!!

 俺の答えなんて待ってくれない。俺の手を取り強引に連れて行こうとする、それ英雄たちの手にぞわりと背中が泡だった。俺の中の女神様が英雄を拒絶している。そうとわかった。そう思った瞬間、俺の中の怒りのメーターが一気に目盛を振り切った。

「触るな」

 一瞬だった。線路のポイントが切り替わるようにガチャンと俺の意識が切られて魔王の意識が肉体を支配した。低い声、俺では振り払えなかった勇者の手を魔王は易々と払い除けた。

「ルキアス?」

 王子が怪訝な顔をした。魔王とはバレていないが俺の雰囲気の変化には気がついたようだ。一歩身を引いた王子の手は聖剣の柄に置かれている。流石は勇者、強敵を前に本能で体が動いたようだ。俺からはレベル4852のオーラがバンバン出ているし。もう別格クラスだ。それを肌で察知したのか聖女が目を瞠り慄いたようにゆらりと退いた。

 この肉体は一度魔王と繋がっている。すでにレールが敷かれている。そのため肉体は簡単に支配されてしまった。ポイントが切り替わる引き金は俺が怪我することだと思ったがどうやら魔王の怒りだったらしい。その脳内ポイント切替機を俺は確かに意識できた。

 げげげッ ここで!こんな街中で!魔王降臨!もうダメだ!この街は粉塵と化すぞ!それに俺が魔王と面割れすると色々とマズい!魔王として指名手配されれば人族潜入と称した観光ツアーは即中止だ。まだ全然遊び足りないのに!!

 完全に遮断された俺の意識が脳内で慄いた。

 魔王の逆鱗は多分、おそらく、いや、間違いなく女神様。女神様を傷つけたり嫌がらせをしたらいかれる魔王が現れる。俺だって即座にキレた。この切替機はそういう意味で存外ゆるいかもしれない。

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