【完結】ヒロイン、俺。

ユリーカ

文字の大きさ
60 / 114
Ⅴ メシア、俺。

053: 遭遇

しおりを挟む



 一人で廊下を歩く。無人の空間だが空気が重い。薄暗く闇も深い。魔力も薄巻いている。まるでところどころ木漏れ陽の差す鬱蒼とした闇の森の中を歩いているようだ。先程までは大丈夫だと思っていたが急に心細くなった。そのせいかなんとなく呼んでしまった。

『ポメ』
『———いかがなさいましたか?』
『いや‥‥ちょっと呼んでみただけだ。問題ない』

 俺の足元、影の闇からぬるりと少年が滑り出した。俺の不安を見透かしているようだ。

「やはりおそばに控えましょうか」
「いや、いい。呼び出してすまなかった」

 ポメは呼び出せばこうして来てくれる。場の魔力が乱れてはいるが離れていても問題はない。なぜか落ち着かない俺が子供のようで恥ずかしい。

 図書館に入るまではここまでじゃなかった。
 なんでこんなに嫌な感じがするんだ?

「るぅは何処に‥‥まったく、あれほど言っておいたのに」
「るぅは知識欲が強い。俺もそうだからよくわかる。それよりお前は知り合いに会えたのか?」
「はぁ、それが遅れているようで、もう少しかかりそうです。時間を守らない困った奴でして」

 ふうん、本当に古い付き合いのようだ。ポメが個人的なことを語るのは珍しい。再度大丈夫だと伝ええれば少年は闇の中に溶け込んだ。ポメに頼りっぱなしだ。俺ももっと独り立ちしなくちゃな。

「おっと、ここら辺か」

 書庫の最奥、いよいよ人の気配もないだろうエリアに辿り着き、俺は見えたものに目を見張ってしまった。


「え?」


 そこには一人の女性。窓際に腰掛けて優雅に本を読んでいた。まるで絵画のワンシーンのように美しい。

 図書館の随分奥の書庫、そんなホコリくさいところに人なんていないと思っていたから油断した。一瞬司書か?と思ったがその身なりですぐにそれを否定した。俺に気がついた女性が顔を上げて俺を見上げた。驚いて見開かれた目が俺とまともにあってしまった。

「‥‥‥‥えっと」
「‥‥‥‥こんにちは」

 茶色い艶やかなストレート、落ち着いたグリーンのドレスをまとった令嬢だ。胸も程よく大きく腰がキュッでお尻ばいん。恐ろしくプロポーションがいい。それでいていやらしくない。
 一度見たら忘れられない美貌、身のこなしが優雅、言葉の発音もきれい、知的で落ち着いた立ち振る舞いが上品。かなり高位の令嬢、公爵令嬢と言われても違和感がない。もしこの完璧令嬢に何かを持たせろと言われた俺は迷わずバイオリンを選ぶだろう。

 俺がめちゃくちゃ動揺したのは無理もない。この世界に転生して初めてまともに出会った正当な貴族令嬢だ。しかも超美人。ちなみに聖女は気位は高かったが貴族令嬢ではない。おっとりしているのに冒険者のお姉さんたちみたいに気さくに話し掛けられない雰囲気だ。

 しかし公爵位クラスの令嬢が供も連れずに書庫の、しかも無人の最奥に一人。おかしい。そして話す言葉もだいぶ違っていた。

「へぇ、こんなところで君に出会えるなんて。さすがの僕も予想していなかった。あ、でも図書館で会うのも運命かもな」

 どこから見ても完璧令嬢なのに一人称が僕。しかも初対面でやたら俺に馴れ馴れしい。だが取り入ろうといった下心はないとわかる。これは同窓会で久しぶりにあった旧友のようだ。だが断言できる、面識はない。誰かと勘違いしている?にんまり笑う令嬢の笑顔に酷い違和感を感じた。

 顔貌は美しいのに何か‥‥

 オノマトペで表現するなら
 ぬるぬる?

「こんなマニアックな書庫にくるなんてね。目当ては神話?神学かな。神様のこと調べにきたの?王立図書館までわざわざやって来たということはどうせ歴史書や地学書は読み尽くしたんだよね。あ、神学なら僕のオススメはこれだね」

 図星を刺され俺は言葉を詰まらせる。一方令嬢は優雅に立ち上がり本棚から一冊本を抜き取り俺に差し出してきた。唖然としながらも俺は突き出された分厚い本とそれを差し出した令嬢を代わるがわる見た。

 令嬢のブルーグリーンの瞳に見つめられる。その視線から逃れられない。生理的にとても嫌な感じだ。俺の背中に脂汗が流れ落ちる。

「あれ?この本じゃなかった?僕の余計なお世話だったかい?」
「いや‥」

 そこであの感覚がした。ポメやるぅと同じ。
 俺と繋がっている感覚。つまり———

「———お前、魔族か?」
「フフ、正解。封じられててもさすがにわかるよね、腐っても魔王ってやつ?」

 にっこり微笑んだ令嬢は本棚に本を戻した。俺を魔王とわかっている。やはりこいつは俺と繋がっている。だがこの状況がわからない。

 ポメとるぅは召喚で現れた。こいつは偶然出会った。これの違いは?

 こいつは俺の味方か?
 それともここで俺を待ち伏せしていた?

 人の姿をしているのも気になった。魔族で完全なる人型は俺だけ、つまりこいつはるぅのように何かが違っているということだ。不死者アンデットかまたはポメが持っていたような擬態?

「こんなところで何してる」
「何って?本を探してたけど?他に何すんのさ」
「いや、魔族ならもっと」
「おーい、ルキ。本はあったかの?ん?なんじゃ、こいつはルキの知り合いか?ん?」

 そこに空気を読まない魔女っ子登場。令嬢が振り返りるぅを見下ろした。その令嬢とるぅの視線が交わる。だがるぅの発言で俺に緊張が走った。

 ?るぅはそう聞いた。
 こいつとるぅは面識がないのか?

「おぬしは———」

 そこで令嬢が素早く動いた。目を瞠る魔女っ子の眉間をとんと人差し指でついた。目を閉じ意識を失う魔女っ子の体を令嬢が優雅に受け止め縦抱きに抱え上げた。

 俺の護衛役があっさり捕まった。思わず駆け寄ろうとした俺を令嬢が手を突き出して制止する。

「おっと、動かないで。この可愛いアークリッチがどうなっても知らないよ?」

 俺がガチンと固まった。魔女っ子がアークリッチと知っている。知り合いではないのに。

 リッチは心臓を串刺しにされても首を刎ねられても死なない。ましてやるぅはアークリッチ、陽の光に耐性があるリッチを消滅させることなど不可能だ。それでも俺は動きを止めてしまったのは、そんなこと当然知っているであろうこいつの不敵な笑みだ。

 俺の思考を読んだ令嬢が目を細めて微笑んだ。獲物に狙いを定める猛禽類のような笑顔だ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...