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Ⅴ メシア、俺。
053: 遭遇
しおりを挟む一人で廊下を歩く。無人の空間だが空気が重い。薄暗く闇も深い。魔力も薄巻いている。まるでところどころ木漏れ陽の差す鬱蒼とした闇の森の中を歩いているようだ。先程までは大丈夫だと思っていたが急に心細くなった。そのせいかなんとなく呼んでしまった。
『ポメ』
『———いかがなさいましたか?』
『いや‥‥ちょっと呼んでみただけだ。問題ない』
俺の足元、影の闇からぬるりと少年が滑り出した。俺の不安を見透かしているようだ。
「やはりおそばに控えましょうか」
「いや、いい。呼び出してすまなかった」
ポメは呼び出せばこうして来てくれる。場の魔力が乱れてはいるが離れていても問題はない。なぜか落ち着かない俺が子供のようで恥ずかしい。
図書館に入るまではここまでじゃなかった。
なんでこんなに嫌な感じがするんだ?
「るぅは何処に‥‥まったく、あれほど言っておいたのに」
「るぅは知識欲が強い。俺もそうだからよくわかる。それよりお前は知り合いに会えたのか?」
「はぁ、それが遅れているようで、もう少しかかりそうです。時間を守らない困った奴でして」
ふうん、本当に古い付き合いのようだ。ポメが個人的なことを語るのは珍しい。再度大丈夫だと伝ええれば少年は闇の中に溶け込んだ。ポメに頼りっぱなしだ。俺ももっと独り立ちしなくちゃな。
「おっと、ここら辺か」
書庫の最奥、いよいよ人の気配もないだろうエリアに辿り着き、俺は見えたものに目を見張ってしまった。
「え?」
そこには一人の女性。窓際に腰掛けて優雅に本を読んでいた。まるで絵画のワンシーンのように美しい。
図書館の随分奥の書庫、そんなホコリくさいところに人なんていないと思っていたから油断した。一瞬司書か?と思ったがその身なりですぐにそれを否定した。俺に気がついた女性が顔を上げて俺を見上げた。驚いて見開かれた目が俺とまともにあってしまった。
「‥‥‥‥えっと」
「‥‥‥‥こんにちは」
茶色い艶やかなストレート、落ち着いたグリーンのドレスをまとった令嬢だ。胸も程よく大きく腰がキュッでお尻ばいん。恐ろしくプロポーションがいい。それでいていやらしくない。
一度見たら忘れられない美貌、身のこなしが優雅、言葉の発音もきれい、知的で落ち着いた立ち振る舞いが上品。かなり高位の令嬢、公爵令嬢と言われても違和感がない。もしこの完璧令嬢に何かを持たせろと言われた俺は迷わずバイオリンを選ぶだろう。
俺がめちゃくちゃ動揺したのは無理もない。この世界に転生して初めてまともに出会った正当な貴族令嬢だ。しかも超美人。ちなみに聖女は気位は高かったが貴族令嬢ではない。おっとりしているのに冒険者のお姉さんたちみたいに気さくに話し掛けられない雰囲気だ。
しかし公爵位クラスの令嬢が供も連れずに書庫の、しかも無人の最奥に一人。おかしい。そして話す言葉もだいぶ違っていた。
「へぇ、こんなところで君に出会えるなんて。さすがの僕も予想していなかった。あ、でも図書館で会うのも運命かもな」
どこから見ても完璧令嬢なのに一人称が僕。しかも初対面でやたら俺に馴れ馴れしい。だが取り入ろうといった下心はないとわかる。これは同窓会で久しぶりにあった旧友のようだ。だが断言できる、面識はない。誰かと勘違いしている?にんまり笑う令嬢の笑顔に酷い違和感を感じた。
顔貌は美しいのに何か‥‥
オノマトペで表現するなら
ぬるぬる?
「こんなマニアックな書庫にくるなんてね。目当ては神話?神学かな。神様のこと調べにきたの?王立図書館までわざわざやって来たということはどうせ歴史書や地学書は読み尽くしたんだよね。あ、神学なら僕のオススメはこれだね」
図星を刺され俺は言葉を詰まらせる。一方令嬢は優雅に立ち上がり本棚から一冊本を抜き取り俺に差し出してきた。唖然としながらも俺は突き出された分厚い本とそれを差し出した令嬢を代わるがわる見た。
令嬢のブルーグリーンの瞳に見つめられる。その視線から逃れられない。生理的にとても嫌な感じだ。俺の背中に脂汗が流れ落ちる。
「あれ?この本じゃなかった?僕の余計なお世話だったかい?」
「いや‥」
そこであの感覚がした。ポメやるぅと同じ。
俺と繋がっている感覚。つまり———
「———お前、魔族か?」
「フフ、正解。封じられててもさすがにわかるよね、腐っても魔王ってやつ?」
にっこり微笑んだ令嬢は本棚に本を戻した。俺を魔王とわかっている。やはりこいつは俺と繋がっている。だがこの状況がわからない。
ポメとるぅは召喚で現れた。こいつは偶然出会った。これの違いは?
こいつは俺の味方か?
それともここで俺を待ち伏せしていた?
人の姿をしているのも気になった。魔族で完全なる人型は俺だけ、つまりこいつはるぅのように何かが違っているということだ。不死者かまたはポメが持っていたような擬態?
「こんなところで何してる」
「何って?本を探してたけど?他に何すんのさ」
「いや、魔族ならもっと」
「おーい、ルキ。本はあったかの?ん?なんじゃ、こいつはルキの知り合いか?ん?」
そこに空気を読まない魔女っ子登場。令嬢が振り返りるぅを見下ろした。その令嬢とるぅの視線が交わる。だがるぅの発言で俺に緊張が走った。
知り合いか?るぅはそう聞いた。
こいつとるぅは面識がないのか?
「おぬしは———」
そこで令嬢が素早く動いた。目を瞠る魔女っ子の眉間をとんと人差し指でついた。目を閉じ意識を失う魔女っ子の体を令嬢が優雅に受け止め縦抱きに抱え上げた。
俺の護衛役があっさり捕まった。思わず駆け寄ろうとした俺を令嬢が手を突き出して制止する。
「おっと、動かないで。この可愛いアークリッチがどうなっても知らないよ?」
俺がガチンと固まった。魔女っ子がアークリッチと知っている。知り合いではないのに。
リッチは心臓を串刺しにされても首を刎ねられても死なない。ましてやるぅはアークリッチ、陽の光に耐性があるリッチを消滅させることなど不可能だ。それでも俺は動きを止めてしまったのは、そんなこと当然知っているであろうこいつの不敵な笑みだ。
俺の思考を読んだ令嬢が目を細めて微笑んだ。獲物に狙いを定める猛禽類のような笑顔だ。
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