【完結】ヒロイン、俺。

ユリーカ

文字の大きさ
86 / 114
Ⅵ ✕✕ンシャ、俺。

076: 再会

しおりを挟む



 世界が終末を迎えてからどれほどの時間が経っただろうか。俺は冷蔵冬眠コールドスリープから目覚めた。

 コンディションは悪くない。急激な温度上昇は体に負荷をかける。数千年低温保存された俺の肉体は三日かけて常温に戻されていた。

「ここが‥‥天上」

 部屋の小さな窓から見えるものは暗闇ダークマターのみ、魔素マナが濃い。ここが宇宙なのか時空の狭間なのか、その情報は与えられなかった。セキュリティ上の機密情報なのだろう。
 だがこの魔素のせいでこのエリアは魔力が漲っている。これが唯一神の力の源なのだろう。ここなら地上にいる時より大きな奇跡を起こせる。

 あらかじめ出された指示通りに俺はシャワーを浴びて着替える。シャワーの設備も服も見たことがなかったが情報はすでにダウンロードされていた。

 鏡に映る俺の顔は記憶より歳をとっていた。歳は見た目二十に近い。冷蔵冬眠中でも成長をコントロールできる。おそらく一番耐性のある肉体年齢まで引き上げられたのだろう。

  完全なる神の器。サクラスから完治と告げられた当時は魔力過剰で死なない体になっただけだった。完全な魔力解放で器は完成する。その証がこの瞳だ。
 以前黒かった俺の瞳は今は濃い深海青ディープシー、青い瞳は能力者共通だが色味は個体差が出る。サクラスの瞳は澄んだ炎のような青、俺は暗く深い深海の青だ。これは持った魔力の性質なのかもしれない。

 ドナー制度で世界中から集められた能力者は百数名。うち細胞移植や過負荷に耐えられず生き残ったのは四半数足らず。さらに長い冷蔵冬眠にも肉体が耐えられず死亡、能力者でも今日まで生き残ったものはほんの一握りだった。そこからただ一人俺が選ばれた。それは俺が『第二の器セカンド』だったから、魔力の強さ故だろう。

 これから俺は魔王として地上に降り立つ。
 地上の安寧のために。
 人類にこの世界を支配できない。それは俺も同意見だ。すでに歴史が証明している。

 人が集えば争いはどうしても起こる。これは生けるものの宿命だろう。争うことで弱いものは死に強いものが生き残る。弱肉強食、それが進化の過程だ。

 俺の役目は地上の争いを早期に収めること、罪を犯した者には断罪を。断罪者はただ一人、神の代行者。こうすることで憎しみの連鎖を断ち切る。目には目を、例え同害でも報復を許すハンムラビ法典はいらない。恨まれるのは俺だけでいい。かつて人類が犯した過ちを繰り返さないために。

 女神が世界を作り魔王が治める。
 そう使命が与えられていた。


 ここはAI『ソフィア』が作り出した巨大な要塞だ。疑似惑星のような球体、だがここに生命反応はない。窓の外も黒いが内装も黒。ただひたすらに部屋が並んでいる。この部屋は人工知能の心臓、コアシステムを隠すダミーなのだろう。その廊下を俺は指示通りに淡々と進む。たどり着いた先は唯一神の間だった。

「ようこそセカンド、神に選ばれし者よ」

 そこには真っ白い衣装を纏った唯一神が立っていた。

 かつて輝いていた赤みがかった輝く金髪プラチナブロンドは色が落ちてピンクがかった銀髪になっていたがそれ以外は何も変わっていない。懐かしい、この世のものとも思えない程に美しい女神。だが俺を見ても彼女は何の反応も示さなかった。俺の腹の奥にドス黒いものが渦巻いたがぐっと飲み込んだ。

「———ファースト」

 サクラス・グリフィス医学博士にして眠らない魔女。彼女の魔力は俺の上を行った。ナンバリングでは『第一の器ファースト』。その彼女も、『ソフィア』に記憶を封じられている。今はただ洗脳されAIの指示通り動く人形だ。

「神に選ばれし魔王、その証をここに」

 剣を一振り差し出された。それを受け取り解析もせずにすぐ収納に放り込んだ。ただの魔剣だ。儀式のつもりか?AIのくせに。

 俺たちはただの他人のように会話する。

「地上の準備は整っています。移転先はゴンドアナの人族としてあります。媒体名は『ルキアス』、本当に人族で問題ないかしら?」
「構わない、まずは人族の様子が知りたい。どこだろうとやることは同じだ」
「では降りますか?」
「ああ、ここで俺がやることは何もない」
「わかりました。こちらです」

 女神に先導されて俺たちは連絡デッキを渡る。ここは施設をつなぐジョイントだ。簡易施設のため警備システムもない。そうとわかっていて俺はデッキ中央で足を止めた。そして窓ガラスに拳を叩きつけた。俺の全力でも強化サファイアガラスは割れなかったが大きなひびが入った。
 施設内の警報が鳴り響き連絡デッキの窓とゲートが自動的に緊急封鎖された。エアロックドアで封鎖、やはりここは宇宙空間なのかもしれない。

 完全閉鎖された空間、これで少しは時間が稼げたか。

「一体なにを?!」

 俺の前を歩いていた女神が目を瞠り振り返る。そこで俺は腹の底の怒りを吐き出した。それは冷蔵冬眠の夢からずっとずっと溜め込んでいた俺の怒りだ。

「‥‥‥‥サクラ‥‥なぜ言わなかった?」
「‥‥‥‥え?」
「なぜ!なぜ俺がソフィアのための被験体だったと言わなかったんだ?!」
「——————ッ」

 俺の怒声にサクラがビクリと身を震わせ目を瞠った。やはりそうだ。彼女の洗脳は解けていた。俺だってAIの洗脳から抜け出せた。俺の上をいく女神にそれが出来ないわけがない。

「‥‥アス‥‥カ?意識が‥‥」
「一言言ってくれれば‥‥ソフィアは俺の恩師で友人だ。大事なソフィアのためなら俺だって望んで被験者になった。なぜ言ってくれなかったんだ?!言ってくれれば君はここまで苦しまなかっただろ?!」

 サクラは目を見開いて呟いた。顔は真っ青だ。

「言えるわけない‥‥アスカを利用していたのに」
「違う!俺はこうして生き延びている。君に生かされたんだ!」
「たくさん痛くて苦しい思いをしたし」
「それは病のせいだ、サクラのせいじゃない!」
「でも‥‥最後に私は」
「サクラだって苦しんだんだろ?君自身も被験者になっていたんだから!」

 出来上がった薬を最初に飲んでいたのはサクラ。彼女は自ら第一被験者となった。

 俺の脳にダウンロードされたサクラの投薬記録、彼女が飲んだ薬は俺の倍だ。第一の器ファーストであれば効果を確認出来る。毒性の強いもの、攻撃性の強すぎるもの、その時点で半数近くが排除された。だがそれは相当な苦痛を伴う。すでに神の器になっていたとしても苦痛は俺の比ではなかったはずだ。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...