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Ⅵ ✕✕ンシャ、俺。
076: 再会
しおりを挟む世界が終末を迎えてからどれほどの時間が経っただろうか。俺は冷蔵冬眠から目覚めた。
コンディションは悪くない。急激な温度上昇は体に負荷をかける。数千年低温保存された俺の肉体は三日かけて常温に戻されていた。
「ここが‥‥天上」
部屋の小さな窓から見えるものは暗闇のみ、魔素が濃い。ここが宇宙なのか時空の狭間なのか、その情報は与えられなかった。セキュリティ上の機密情報なのだろう。
だがこの魔素のせいでこのエリアは魔力が漲っている。これが唯一神の力の源なのだろう。ここなら地上にいる時より大きな奇跡を起こせる。
あらかじめ出された指示通りに俺はシャワーを浴びて着替える。シャワーの設備も服も見たことがなかったが情報はすでにダウンロードされていた。
鏡に映る俺の顔は記憶より歳をとっていた。歳は見た目二十に近い。冷蔵冬眠中でも成長をコントロールできる。おそらく一番耐性のある肉体年齢まで引き上げられたのだろう。
完全なる神の器。サクラスから完治と告げられた当時は魔力過剰で死なない体になっただけだった。完全な魔力解放で器は完成する。その証がこの瞳だ。
以前黒かった俺の瞳は今は濃い深海青、青い瞳は能力者共通だが色味は個体差が出る。サクラスの瞳は澄んだ炎のような青、俺は暗く深い深海の青だ。これは持った魔力の性質なのかもしれない。
ドナー制度で世界中から集められた能力者は百数名。うち細胞移植や過負荷に耐えられず生き残ったのは四半数足らず。さらに長い冷蔵冬眠にも肉体が耐えられず死亡、能力者でも今日まで生き残ったものはほんの一握りだった。そこからただ一人俺が選ばれた。それは俺が『第二の器』だったから、魔力の強さ故だろう。
これから俺は魔王として地上に降り立つ。
地上の安寧のために。
人類にこの世界を支配できない。それは俺も同意見だ。すでに歴史が証明している。
人が集えば争いはどうしても起こる。これは生けるものの宿命だろう。争うことで弱いものは死に強いものが生き残る。弱肉強食、それが進化の過程だ。
俺の役目は地上の争いを早期に収めること、罪を犯した者には断罪を。断罪者はただ一人、神の代行者。こうすることで憎しみの連鎖を断ち切る。目には目を、例え同害でも報復を許すハンムラビ法典はいらない。恨まれるのは俺だけでいい。かつて人類が犯した過ちを繰り返さないために。
女神が世界を作り魔王が治める。
そう使命が与えられていた。
ここはAI『ソフィア』が作り出した巨大な要塞だ。疑似惑星のような球体、だがここに生命反応はない。窓の外も黒いが内装も黒。ただひたすらに部屋が並んでいる。この部屋は人工知能の心臓、コアシステムを隠すダミーなのだろう。その廊下を俺は指示通りに淡々と進む。たどり着いた先は唯一神の間だった。
「ようこそセカンド、神に選ばれし者よ」
そこには真っ白い衣装を纏った唯一神が立っていた。
かつて輝いていた赤みがかった輝く金髪は色が落ちてピンクがかった銀髪になっていたがそれ以外は何も変わっていない。懐かしい、この世のものとも思えない程に美しい女神。だが俺を見ても彼女は何の反応も示さなかった。俺の腹の奥にドス黒いものが渦巻いたがぐっと飲み込んだ。
「———ファースト」
サクラス・グリフィス医学博士にして眠らない魔女。彼女の魔力は俺の上を行った。ナンバリングでは『第一の器』。その彼女も俺同様、『ソフィア』に記憶を封じられている。今はただ洗脳されAIの指示通り動く人形だ。
「神に選ばれし魔王、その証をここに」
剣を一振り差し出された。それを受け取り解析もせずにすぐ収納に放り込んだ。ただの魔剣だ。儀式のつもりか?AIのくせに。
俺たちはただの他人のように会話する。
「地上の準備は整っています。移転先はゴンドアナの人族としてあります。媒体名は『ルキアス』、本当に人族で問題ないかしら?」
「構わない、まずは人族の様子が知りたい。どこだろうとやることは同じだ」
「では降りますか?」
「ああ、ここで俺がやることは何もない」
「わかりました。こちらです」
女神に先導されて俺たちは連絡デッキを渡る。ここは施設をつなぐジョイントだ。簡易施設のため警備システムもない。そうとわかっていて俺はデッキ中央で足を止めた。そして窓ガラスに拳を叩きつけた。俺の全力でも強化ガラスは割れなかったが大きなひびが入った。
施設内の警報が鳴り響き連絡デッキの窓とゲートが自動的に緊急封鎖された。エアロックドアで封鎖、やはりここは宇宙空間なのかもしれない。
完全閉鎖された空間、これで少しは時間が稼げたか。
「一体なにを?!」
俺の前を歩いていた女神が目を瞠り振り返る。そこで俺は腹の底の怒りを吐き出した。それは冷蔵冬眠の夢からずっとずっと溜め込んでいた俺の怒りだ。
「‥‥‥‥サクラ‥‥なぜ言わなかった?」
「‥‥‥‥え?」
「なぜ!なぜ俺がソフィアのための被験体だったと言わなかったんだ?!」
「——————ッ」
俺の怒声にサクラがビクリと身を震わせ目を瞠った。やはりそうだ。彼女の洗脳は解けていた。俺だってAIの洗脳から抜け出せた。俺の上をいく女神にそれが出来ないわけがない。
「‥‥アス‥‥カ?意識が‥‥」
「一言言ってくれれば‥‥ソフィアは俺の恩師で友人だ。大事なソフィアのためなら俺だって望んで被験者になった。なぜ言ってくれなかったんだ?!言ってくれれば君はここまで苦しまなかっただろ?!」
サクラは目を見開いて呟いた。顔は真っ青だ。
「言えるわけない‥‥アスカを利用していたのに」
「違う!俺はこうして生き延びている。君に生かされたんだ!」
「たくさん痛くて苦しい思いをしたし」
「それは病のせいだ、サクラのせいじゃない!」
「でも‥‥最後に私は」
「サクラだって苦しんだんだろ?君自身も被験者になっていたんだから!」
出来上がった薬を最初に飲んでいたのはサクラ。彼女は自ら第一被験者となった。
俺の脳にダウンロードされたサクラの投薬記録、彼女が飲んだ薬は俺の倍だ。第一の器であれば効果を確認出来る。毒性の強いもの、攻撃性の強すぎるもの、その時点で半数近くが排除された。だがそれは相当な苦痛を伴う。すでに神の器になっていたとしても苦痛は俺の比ではなかったはずだ。
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