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Ⅵ ✕✕ンシャ、俺。
078: 聖なる獣
しおりを挟むだがレーザーは飛んでこなかった。
一拍の沈黙ののち、飛んでいたドローンが全て音を立てて床に落ちた。警備システムの電源が落ちている。床に転がるドローンに近づいて足で転がしよくよく見たがこれは完全に死んでいた。念のため全部叩き潰した。
「システムが‥ダウンしたのか?」
「そんな‥ありえないわ。バックアップシステムも作動しないなんて」
状況がわからない。だが一息つけた。二人で床に座り込んだ。
だが危機は脱していない。ここから出られなければ意味がない。血が止まらない。回復が遅い。青ざめたサクラが俺の腕の中で目を閉じる。サクラの方が魔素依存が高い。相当に辛いだろうに‥‥
「すまない‥‥俺のせいで」
「ううん、私も知らなかったわ。こんな‥」
脱獄防止システム
結局あの人工知能は俺たちを奴隷としか見なしていなかった。俺と最後に話した時、ソフィアはサクラをあれほどに心配していた。
やっぱりあれはソフィアじゃない。
なぜかこの瞬間攻撃が止んでいる。この間に逃げないと。意識のないサクラを抱きしめ立ちあがろうとするも俺の足が血で滑る。力も出ない。血が流れすぎて意識が飛びそうになるも必死に堪える。ここで気を失ってはダメだ。血溜まりの中で俺はうずくまった。
朦朧とする俺の脳裏に懐かしい映像が見える。家族皆で撮ったあの写真だ。俺の知らない時に知らないところで亡くしていた家族。俺以外皆いなくなった。今更涙が流れ出した。
ソフィアを失ったサクラの気持ちが今ならわかる。一人残されるとはこういうことだ。
「父さん、母さん、じいちゃん‥‥ガンド‥」
俺の囁きと共に魔素の吹き溜まりのような塊が現れた。ここは魔素のない部屋のはずなのにだ。場所は俺達の下、俺とサクラの血が流れ出た俺たちの血の海の中だ。
真っ赤な海の中から何ががぬるりと滑り出してきた。最初に出てきたのは頭、尖った耳が見える。そして前足に体。床なのに池から出てくるように俺の目の前に現れた。真っ赤に染まったそれは四つ足の大きな獣に見えた。
俺が目を瞠る中でそいつが身を振って血を落とせばそこには金色に輝く狼が現れた。だが狼と呼ぶには大きすぎた。
「狼‥‥いや、フェンリルか?」
かつて北欧神話で語られた至高神殺しの獣、だがその毛皮は伝説と違い眩いばかりの赤みを帯びた金、かつてのサクラの髪の色だ。それはサクラの血を受け継いている証。俺たち神の器の、魔力の濃い血から生まれた俺たちの血を継いでいる魔族だ。
フェンリルが俺の顔を覗き込む。青い澄んだ瞳、色は違うが懐かしい優しい目だ。そして俺の頬をペロリと舐めた。これは俺に甘える時のあいつの癖だ。
「‥‥お前、ガンドか?」
フェンリル、もうひとつの名はヴァナルガンド。ガンドの意は狼の精霊だ。
それだけじゃない。懐かしい気配、俺の両親、じいちゃん。こいつはかつて亡くした俺の家族だ。生まれ変わりとかじゃない、でも俺が望んだ姿なのかもしれない。
『ガンド、それが我の名でしょうか』
その狼が傅くように俺に頭を下げた。
『賜りし名はガンド、主をお守りすべく血の海より生まれ出ました』
脳内に響く声は念話。この獣は知性がある。
魔王の使徒は地上に降臨後に生まれるはずだった。だがそれが今生まれ出た。この苦境に俺が無意識下でそう望んだからか。
ガンドが俺の背後の扉の前に進み出て爪を払う。鋼鉄製の白い扉が切り刻まれた。開いた扉から黒い魔素が流れ込んでくる。それを深く吸い込めば魔力が戻ってきた。
魔力攻撃力は低めだが物理攻撃力がある。こいつは文字通り俺の矛と盾だ。
「サクラ、大丈夫か?」
俺の腕の中のサクラがうっすらと目を開け頷いてくれた。何とかなりそうだ。魔力が戻り急速に傷が回復していく。俺はサクラを抱きしめ横抱きに抱き上げた。気配を探っていた魔狼が状況を理解したのか俺を守るように進み出た。
『警備システムは再起動中です。猶予がありません、ここは我に。間もなく追手が来ます。先に地上にお逃げください』
「だがお前だけでは」
『我は一人ではありません』
狼が血の海を見やる。そこには突き出した二体の蛇、いやこれは竜か。今まさに生まれ出ようとしている。マムシ程度の大きさだが本当の体は大きい。これは———
「ヨルム‥‥ウロボロス‥‥」
竜の背後では床から血まみれの人の手が突き出している、おそらくは不死者。伸びた手は女性のもの、だがまだ体は見えない。
「ヘラ‥‥三体‥これなら」
なんとかなるかもしれない。何より時間がない。システムがダウンしている今しか逃げられない。俺たちがいない方がこいつらも動きやすいだろう。
「すまない、先に行く。ガンド、また会おう」
『必ずや。すぐにおそばに参ります』
サクラと共に部屋を出ようとしたところで防爆扉がまた閉まった。攻撃は飛んでこないが『ソフィア』はまだ諦めていない。その扉を俺が蹴破った。魔力が戻ればこっちのもんだ。
逆の扉が開いて別の四つ足警備システムがなだれ込んできた。それをガンドが前足で薙ぎ払う。こいつは相当に強い。
「ガンド!」
『お先に!しんがりはお任せを!』
ちょいちょい大河風な言い回しは時代劇好きだったじいちゃんのイメージか?すぐに矯正されればいいが。こいつに悪いことをしたと一瞬思った。
目の前には地上へのゲート。とうとうここまで来れた。魔法陣が描かれたそれは女神が魔導で作り上げたもの。魔導転送に『ソフィア』は干渉できない。つまりここに入ってしまえば俺たちの勝ちだ。
サクラを抱いたまま俺はその上に立った。眩い光と共に俺たちの肉体が転送された。
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