【完結】ヒロイン、俺。

ユリーカ

文字の大きさ
88 / 114
Ⅵ ✕✕ンシャ、俺。

078: 聖なる獣

しおりを挟む



 だがレーザーは飛んでこなかった。

 一拍の沈黙ののち、飛んでいたドローンが全て音を立てて床に落ちた。警備システムの電源が落ちている。床に転がるドローンに近づいて足で転がしよくよく見たがこれは完全に死んでいた。念のため全部叩き潰した。

「システムが‥ダウンしたのか?」
「そんな‥ありえないわ。バックアップシステムも作動しないなんて」

 状況がわからない。だが一息つけた。二人で床に座り込んだ。

 だが危機は脱していない。ここから出られなければ意味がない。血が止まらない。回復が遅い。青ざめたサクラが俺の腕の中で目を閉じる。サクラの方が魔素依存が高い。相当に辛いだろうに‥‥

「すまない‥‥俺のせいで」
「ううん、私も知らなかったわ。こんな‥」

 脱獄防止システム

 結局あの人工知能は俺たちを奴隷としか見なしていなかった。俺と最後に話した時、ソフィアはサクラをあれほどに心配していた。


 やっぱりあれはソフィアじゃない。


 なぜかこの瞬間攻撃が止んでいる。この間に逃げないと。意識のないサクラを抱きしめ立ちあがろうとするも俺の足が血で滑る。力も出ない。血が流れすぎて意識が飛びそうになるも必死に堪える。ここで気を失ってはダメだ。血溜まりの中で俺はうずくまった。

 朦朧とする俺の脳裏に懐かしい映像が見える。家族皆で撮ったあの写真だ。俺の知らない時に知らないところで亡くしていた家族。俺以外皆いなくなった。今更涙が流れ出した。

 ソフィアを失ったサクラの気持ちが今ならわかる。一人残されるとはこういうことだ。

「父さん、母さん、じいちゃん‥‥ガンド‥」

 俺の囁きと共に魔素の吹き溜まりのような塊が現れた。ここは魔素のない部屋のはずなのにだ。場所は俺達の下、俺とサクラの血が流れ出た俺たちの血の海の中だ。

 真っ赤な海の中から何ががぬるりと滑り出してきた。最初に出てきたのは頭、尖った耳が見える。そして前足に体。床なのに池から出てくるように俺の目の前に現れた。真っ赤に染まったそれは四つ足の大きな獣に見えた。

 俺が目を瞠る中でそいつが身を振って血を落とせばそこには金色に輝く狼が現れた。だが狼と呼ぶには大きすぎた。

「狼‥‥いや、フェンリルか?」

 かつて北欧神話で語られた至高神殺しの獣、だがその毛皮は伝説と違い眩いばかりの赤みを帯びた金、かつてのサクラの髪の色だ。それはサクラの血を受け継いている証。俺たち神の器の、魔力の濃い血から生まれた俺たちの血を継いでいる魔族こどもだ。

 フェンリルが俺の顔を覗き込む。青い澄んだ瞳、色は違うが懐かしい優しい目だ。そして俺の頬をペロリと舐めた。これは俺に甘える時のあいつの癖だ。

「‥‥お前、ガンドか?」

 フェンリル、もうひとつの名はヴァナルガンド。ガンドの意は狼の精霊だ。

 それだけじゃない。懐かしい気配、俺の両親、じいちゃん。こいつはかつて亡くした俺の家族だ。生まれ変わりとかじゃない、でも俺が望んだ姿なのかもしれない。

『ガンド、それが我の名でしょうか』

 その狼がかしずくように俺に頭を下げた。

『賜りし名はガンド、主をお守りすべく血の海より生まれ出ました』

 脳内に響く声は念話。この獣は知性がある。

 魔王の使徒は地上に降臨後に生まれるはずだった。だがそれが今生まれ出た。この苦境に俺が無意識下でそう望んだからか。

 ガンドが俺の背後の扉の前に進み出て爪を払う。鋼鉄製の白い扉が切り刻まれた。開いた扉から黒い魔素が流れ込んでくる。それを深く吸い込めば魔力が戻ってきた。

 魔力攻撃力は低めだが物理攻撃力がある。こいつは文字通り俺の矛と盾だ。

「サクラ、大丈夫か?」

 俺の腕の中のサクラがうっすらと目を開け頷いてくれた。何とかなりそうだ。魔力が戻り急速に傷が回復していく。俺はサクラを抱きしめ横抱きに抱き上げた。気配を探っていた魔狼が状況を理解したのか俺を守るように進み出た。

『警備システムは再起動中です。猶予がありません、ここは我に。間もなく追手が来ます。先に地上にお逃げください』
「だがお前だけでは」
『我は一人ではありません』

 狼が血の海を見やる。そこには突き出した二体の蛇、いやこれは竜か。今まさに生まれ出ようとしている。マムシ程度の大きさだが本当の体は大きい。これは———

「ヨルム‥‥ウロボロス‥‥」

 竜の背後では床から血まみれの人の手が突き出している、おそらくは不死者。伸びた手は女性のもの、だがまだ体は見えない。

「ヘラ‥‥三体‥これなら」

 なんとかなるかもしれない。何より時間がない。システムがダウンしている今しか逃げられない。俺たちがいない方がこいつらも動きやすいだろう。

「すまない、先に行く。ガンド、また会おう」
『必ずや。すぐにおそばに参ります』

 サクラと共に部屋を出ようとしたところで防爆扉がまた閉まった。攻撃は飛んでこないが『ソフィア』はまだ諦めていない。その扉を俺が蹴破った。魔力が戻ればこっちのもんだ。
 逆の扉が開いて別の四つ足警備システムがなだれ込んできた。それをガンドが前足で薙ぎ払う。こいつは相当に強い。

「ガンド!」
『お先に!しんがりはお任せを!』

 ちょいちょい大河風な言い回しは時代劇好きだったじいちゃんのイメージか?すぐに矯正されればいいが。こいつに悪いことをしたと一瞬思った。

 目の前には地上へのゲート。とうとうここまで来れた。魔法陣が描かれたそれは女神が魔導で作り上げたもの。魔導転送に『ソフィア』は干渉できない。つまりここに入ってしまえば俺たちの勝ちだ。

 サクラを抱いたまま俺はその上に立った。眩い光と共に俺たちの肉体が転送された。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...