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Ⅶ マオウ、俺。
080: 唯一神の降臨
しおりを挟む女神様を失い魔王の封印が解けた。そして俺は全ての記憶を取り戻した。
女神とは、魔王とは、神の器とは何か。
なぜ俺の中に女神様‥サクラが封じられたのか。
なぜサクラがあんなに謝っていたのか。
一年近く闘病した高校生「アスカ」、五千年近く眠りについた二十弱の青年の「魔王」、記憶を失った十六歳頃の「ルキアス」、三つの記憶の融合で意識がまだはっきりしない。封印が解かれ元に戻った肉体は見た目大人だが精神は大混乱だ。
長い様でいておそらく一瞬だったろう夢。過負荷がそれ程来なかったのは魔王の封印が解けたから。少し長めの黒い前髪をガシガシとかきあげる。俺はディートの言葉を思い出した。
『違うよ、全然。僕も違うし君も違う』
俺は転生者じゃなかった。俺は死んでない。ここだって異世界じゃない。ここは俺が生まれた時代から五千年後の未来。やり直していたのは俺じゃなくこの世界と人類だったんだ。だがそんなの色々と忘れた俺にわかるわけない。はぁぁと盛大なため息が出た。
「最悪だな、俺は」
自分に呆れすぎて嘲笑の笑い声が出た。
女神じゃない、人間だと「魔王」はサクラに言ったのに。記憶を失った「ルキアス」はサクラを女神様と呼んだ。挙句は初対面でいきなりあのプロポーズ。ずっと一緒だと「魔王」が言った約束だって忘れていた。サクラはそれを聞いてどう思っただろうか。サクラを忘れた「ルキアス」、サクラの肉体を探そうともしない「ルキアス」に腹を立てただろう。
そんな「ルキアス」にそれでもサクラは新しい約束をくれた。
サクラの肉体を取り戻して精神を戻せばよかったのに、ガキな「ルキアス」は別離に怯えてサクラを閉じ込めるばかりだった。なぜサクラの肉体のことに考えがいかなかった?サクラの肉体があればこんなことには———
ん?肉体?
天井を見上げれば真っ黒い。見覚えのある内装だ。仰向けに寝ていた黒光りする床から俺は起き上がり、部屋の正面を見据えた。
ここはサクラと再会した唯一神の間だ。そしてそこに一人の女が悠然と座っていた。サクラがかつて腰掛けていただろう唯一神の黒い玉座に。いや、忙しすぎてサクラは座ることもなかっただろう。
空色の青い瞳、淡い金髪の長い髪の女、だがいけすかない気配がする。勤勉ではなく異常にプライドが高い。魔力の気配でわかる。
こいつも能力者、俺をここに連れてきた。おそらくは———
「目が覚めたか、魔王よ」
「なんだお前」
「我が名は”万物の支配者”、この世界の唯一神だ」
あ?何言ってんだこいつ。頭イカれてんのか?
「お前は神じゃない。俺はお前を知らない」
「至高神『ソフィア』よりこの世界の唯一神の位を賜った。私が唯一神で間違いない。唯一神だった『第一の器』は廃棄となった」
「‥‥‥‥なんだと?」
「堕天した神は必要ない。私が廃棄処分した」
その言葉に俺の体温が下がった。心が冷える。これほどの怒りは未経験だ。
あの人工知能はサクラを散々、五千年天上に閉じ込めてこき使って、不要になればあっさり廃棄処分。奴隷、いや家畜のよう、家畜だって処分時はもう少し惜しまれるものだ。
サクラに手を下したのはこいつ。あの白い両手はこいつのもの。サクラは天上から植林した一方でこいつは同じ手で津波を起こ森を破壊した。エルフの殺戮も人族の進軍も、津波も、全部サクラを表に出すため。そして出てきたサクラをいたぶった挙句、俺とサクラのつながりを断ち切った。女神を消滅させ魔王の封印を解くため。
俺が英雄たちにやたら遭遇したわけ、人族への神託もエルフを襲うよう野党へ出した指示もディートの結界を壊したのも全部こいつだ。天上から見ていれば全てわかっただろう。
ただサクラを消滅させるために。
怒りで体が震える中で俺は浅い呼吸で手を握りしめた。
こいつら、絶対許さない———
「魔王よ、私に下れ」
「‥‥‥‥‥‥あぁ?」
「私が唯一の神だ。我が命で再び地上に降臨しろ」
この上でまだ俺を魔王として使役するつもりか?極寒の心から一転、俺の脳内でプツンと何かが切れる音がした。
「あぁ?ザけんなよ?お前が神?こんな小物が神を名乗るか。この程度の魔力じゃ天地創造もできないだろ?」
「私は唯一神だ。口を慎め」
「まあ天地創造はもういらないな。地上は再生した。後からのこのこやってきたお前でも神になれる。まあやることもやれることもないだろうがな」
「静まれと言った。我が命が聞こえぬか!」
「じゃあ俺を、『第二の器』を黙らせて見ろよ。唯一神ならできんだろ、『第三の器』。だが忠告だ、力づくはやめておいた方がいい」
俺の纏う威圧の魔力にサードの表情が険しくなった。どうやら図星の様だ。
唯一神という権力で俺を下そうとしたのだろうがこいつにはそれをなす力が伴っていない。『ソフィア』が仕方なく空いた玉座にこいつを置いたのだろうが。
力がない。こいつは使えない役立たずだ。これが『ソフィア』がサクラに執着した所以か。サクラこそ替えが効かない能力者だった。
ここは地上と違い魔素が濃い。ここからなら激弱なサードでも地上にいたサクラを殲滅できた。地上では魔素が薄いがゆえに魔力は極端に弱くなる。ましてサクラは俺の中に封じられていた。真の力を出せなかった。あの時の魔王でだってハンデだらけでこいつには勝てなかっただろう。
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