【完結】ヒロイン、俺。

ユリーカ

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Ⅶ マオウ、俺。

084: サイシュウヘイキ、俺。

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 俺はふわりと城壁に降り立った。そこらにいた兵士が俺に気がついて奇声をあげて突撃してきたがこいつらには用はない。

「邪魔だ」

 俺は城壁に手を置いて魔力を込めた。俺的にはカッコよく足元の積み石を軽く崩して邪魔な兵士たちを落とすイメージでいたのが。

 轟音と共に目の前の積み石が一瞬で砂と化した。蟻地獄に落ちるように兵士たちが砂と共に落ちている。結果は同じだったが効果は俺のイメージとだいぶ違う。正直カッコわるい。だがそれだけじゃ終わらなかった。
 繋がっていた城壁沿いの見張り塔も魔力が伝わって砂の城のように崩れていく。兵士たちが逃げ惑う中であらゆるものがドミノ倒しのように連鎖して砂煙が上がっていく。

 あっという間に城壁の半分が崩壊、さらに崩れた門塔、半壊した居城と砂の山が出来た。それも俺が行きたい方向じゃないところが。兵士たちは唖然としていたが俺も唖然だ。そこで俺の腹の底からの一言。

「脆い!脆過ぎる!」

 色々あって忘れてたけど改めて自分の最終破壊兵器ぶりを思い出した!上空で見ていた三人から「あーあー」と聞こえてきそうだ。実際言ってそうだし。

 発破のイメージで魔力を城壁に流したのだが効きすぎたようだ。表情は必死に凍らせたが、あまりの破壊力に内心ビビったのは内緒である。

 名誉のために説明させてもらうが天上の要塞に比べてここはあまりに崩れやすい。天上と同じ感覚でやったが岩がまるで砂のようだ。耐震構造は?鉄筋は?地震がないからってちょっと脆すぎる!仮にも城を守る城壁だろ?もっとしっかり作れって!

 つまり何が言いたいかというと。
 断じてこれは俺のせいじゃない!!

 なんでだよ!魔王の時はすっげぇカッコよく竜を倒してたじゃんか!なんで今回はうまくいかないんだ?あれ俺だよな?!どうやったんだよ!魔王が覚醒したら魔力制御はなんとかなると勝手に思っていたんだがそうではなかったんか?!
 いや待てよ?竜を殺した時は女神だったサクラの力を使ってなかったか?そうだ!俺の世紀末兵器魔導じゃなく制御できるサクラの力しか使ってないじゃん!あいつきったねーッ

 こっから更にハイファンタジーのヒーローらしく雷とか氷とかカッコよく落とそうと思ったのにオーバーキル必至!無差別大量殺人兵器!完全にヤバいやつになるじゃんか!
 
 やはり俺に魔導は鬼門のようだ。

 「ルキアス」の時はレベル100で魔力15万だった。魔王が解放されレベル4852になった今、俺の魔力はレベル補正で28万まで上昇していた。諦めてなかったわけじゃないがファイア‥いやファイアボールでさえ発動は完全に無理だろう。特に俺は火属性との相性が良すぎてどの魔導を出してもきっと煉獄火炎ヘルファイア。いっそ吹っ切れたわ!

 地上に降りて魔素が薄いはずなのにこれ。繊細な制御が難しい。魔王の魔力が強すぎてやりにくい、が俺の正直な感想だ。

 そんな俺に上空から呑気な声が聞こえてきた。ヘラだ。

「おーい、わらわが作ったステッキを使ってはどうじゃ?」
「あぁ?お前正気か?!使えるわけないだろうが!!」
「そうかのぅ」

 デバフステッキ、大変優秀な代物ではあるが、今の俺の姿はもう女神級美少女ではない。ダーク系ちょっとイケメン青年な俺がオープンハートの魔法ステッキを持つとか?黒歴史必須!もう噴メシものだ。今後のためにさらにパワーアップしたデバフは必要だがなる早でデザイン改定だ!

「あーッもうめんどくせぇ!!」

 俺は足元、向かうドームを目指して拳を床に叩きつけた。正拳突きで俺のイメージ通りに積み石がガラガラと兵士たちとともに崩れていく。鉄筋入ってないからやはり脆いな。直下型地震直撃で総崩れしているようだ。

 結局こうなる。魔力攻撃力より物理攻撃力が劣る俺はやはり物理で行くべきなんだろう。カラテ上等!カッコよく魔導を使ってみたかったが仕方ない!ドンマイ俺!

 頭上から静かなため息と「あーあーあー」「やっぱりダメだったね」という声が聞こえてくるのは絶対気のせいだ!

 切り掛かってくる鎧騎士連中はゲンコツの衝撃波でふっ飛ばした。生死不明、まあ運が良ければ鎧が守ってくれるだろう。まだ比較的手加減できるゲンコツサイコー!俺を遠巻きにする兵士たちに言い放った。

「退け。邪魔するやつは容赦しない」

 警告を聞いた上で俺に切り掛かってくる奴らには手加減無用だ。投げ飛ばし障壁を蹴り破りメチャクチャに破壊しまくる。何度も言うが俺の前に出てくるやつが悪い!そして俺は本命ドームの外までたどり着いた。

 だが目の前に見覚えのある顔が現れ俺は足を止めた。

「貴様が魔王かッ」

 聖剣の剣先を俺に突きつけるのは勇者。赤毛のルフィノ王子殿下だ。最近色々とあってすっかり英雄のことを忘れていた。

 俺は今サクラの顔をしていないから「ルキアス」とわからないんだろう。なんだかとても懐かしい。しかもレベルが342、40も上がっている。へー、すげぇ、頑張ったんだな。「ルキアス」もぼちぼち頑張ったがレベル100までしか上げられなかったし。

 この世界で記憶をなくした俺が目覚めたあの日、魔王の使命を無視してスローライフを目指していた自分。あの頃の俺はそれはもう脳天気に夢を抱いて希望に胸を膨らませていたなぁ

 もう思い起こすも黒歴史だ。つーか、前半黒歴史しかないぞ?もうため息が止まらない。目眩もしてきたから綺麗さっぱり忘れよう、うん完全消去と。

 内心しみじみしている俺だったが顔は無表情だ。もう身を隠す必要もない。この顔は王子とは初対面だ、面割れしてもいいだろう。

「だとしたら?」
「ここは一歩も通さない!。ルキアスの敵!弱化したお前をここで倒す!」


 ‥‥‥‥あ?なんだって?誰が誰の敵?


 意味わからんこと言われた。またこの王子の思い込みか?

「えー、すまないがもう一度」
「魔王!お前の能力を封印したと言った!お前はそれを取り戻しにきたんだろうが!そうはさせない!ルキアスをどこにやった!すぐに解放しろ!」

 能力を封印?俺が取り戻しにきたのはサクラだが?で?ルキアスがなんだって?

 ピコーン!

 サードの方便を鵜呑みにして魔王を弱体化させるためにあの檻で魔王のスキルを封じたと、そういう話なんだな。だが実際封じているのは自分たちが神と崇めていた元唯一神の精神、そして俺は魔王として真に覚醒した。お前らのしてることは俺の封印を解いて強くして、尚且つ怒らせただけだぞ?

 忘れてたけど魔王とルキアス、デキてる説もあったんだっけか。そんな訳あるかよ。あーッもうホントめんどくせぇ!!


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