君の名はベヒーモス

ユリーカ

文字の大きさ
18 / 32
第二章: リヴァイアサン

第十七話: 君の名はリヴァイアサン

しおりを挟む



 環は仔猫の側に寄り仔犬の顔をそっと近づけた。

 環にとって犬は猫の天敵。仔猫が嫌がらないか心配していた。近づけられた仔犬は神妙な顔だ。

『この間はすまなかったな、ベヒーモスよ。』
『いいってことよ、兄弟。オレとお前の仲だろう?また楽しくやろうぜ。』
『だが私もお前の主の元にくだるとお前の食いぶちが減ってしまう。』

 リヴァイアサンはしゅんと頭を下げる。

『へっ 何言ってんだ。お前のためだ。そんな小せぇことオレが気にするかよ。それよりお前は腹いっぱいメシを食え。オレに構わずな。それがオレの幸せだ。』

 リヴァイアサンは涙目でベヒーモスを見た。感涙だ。

『ベヒーモス!お前、いいやつだな!』
『なんでぇ、今頃気が付いたのか?』

 どうぞどうぞ!とメシを勧めるベヒーモスの異常さにリヴァイアサンは気が付かない。
 仔猫はぺろりと仔犬の鼻を舐めた。やった!と環が狂喜の声をあげる。

「大丈夫そうですね。」

 拓人も安堵の息をついた。この仔犬も仔猫同様、大食いであった。できれば引き取ってもらいたい、それが正直なところだった。

 仔犬を抱いている環の手を取り仔犬の名を告げた。

「こいつの名はリヴァイアサン。水属性ですが陸での生活も問題ありません。あなたには絶対服従です。ルールさえ守ってもらえればあなたの助けとなるでしょう。」

 何やらイケメンに手を握られ、厳かにそう言われて環はぽーっとなっている。しかし脳内のモンスターデータベースにその名がヒットしたあたりで目を瞠った。

「リヴァイアサン‥‥?リヴァイアサン?!あのリヴァイアサンですか?めっちゃくちゃ強いじゃないですか!またまたかっこいい名前ですね!!」

 今回も名前だと自己解決する。あやかしであるという認識はあるが、もうそのものだと思うこともない。

「リヴァイアサン、かっこいい名前だね。今日からよろしくね。」

 そう言って環は仔犬をぎゅーっと抱きしめた。その途端、バケツいっぱいの魔力がドバーッと仔犬の頭からぶっかけられた。リヴァイアサンが目を瞠る。そしてゲフッとゲップをした。それを見た仔猫が仰天する。

『おい、何これしきで腹いっぱいになってんだ?!腹減ってたんだろ?!大食いのリヴァイアサンが何やってんだよ?!』
『誰が大食いだと言った?!私は小食だ!いつも腹を減らしてたからといって大食いと決めつけるな!!』
『図体比で計算があわねぇだろ!!』
『私は燃費が良いのが自慢だ!!』 

 当社比で小食というが、はたから見ればリヴァイアサンも立派に大食いだ。つまりバケツがおかしいということになる。

 二匹の念話は環の耳には届いていない。環は抱き上げた仔犬を見つめてうーんと思案する。

「リヴァイアサン、長い名前だね。短くしようか。リヴァイア‥‥リヴァ‥イ‥‥キャーッやだやだ!兵長?!兵長なの?!お掃除頑張らなくっちゃ!!」

 環の歓喜にざぶんざぶんとバケツ二杯分の魔力が仔犬に注がれた。この時点で仔犬は吐き気を催している。仔猫はすでに引いていた。

「ありがとうございます!この子の幸せのために心臓を捧げます!」

 環は右手の握り拳を左胸に押し当てて拓人に礼を言った。さすがの拓人も笑顔で引いている。

 タマキよ、お前は何にかぶれているんだ?

 環は笑顔で仔犬と仔猫を腕に抱き上げた。

「すっごくうれしい!今日からよろしくね!」

 抱き上げられた仔猫と仔犬は、タライ大になみなみと貯められた、頭上の魔力の塊を見あげてゾッとした。
 供給される魔力は対象が二体になれば二倍になる。環は枯渇知らず。これはベヒーモスの誤算だっただろう。

 滝の修行のように魔力がぶっかけられる中、ベヒーモスとリヴァイアサンは胸焼けにがくりとした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

元恋人が届けた、断りたい縁談

待鳥園子
恋愛
シュトルム辺境伯の末娘ソフィに隣国の帝国第二皇子から届けられた『縁談』の使者は、なんと元恋人のジョサイアだった。 手紙ひとつで別れることになったソフィは、素直になれずジョサイアから逃げ回る。 「私に届けなければ、彼は帝国に帰ることが出来ない」 そう思いようやく書状を受け取ろうと決意したソフィに、ジョサイアは何かを言い掛けて!?

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

処理中です...