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第4.0章 真相 – シンソウ
第13話
しおりを挟むグイリオを拘束しリースを伴い部屋を出たカールがしばらくして一人で戻ってきた。リースを伴ってはいなかった。セレスティアはベッドから抜け出してカールを迎えに行き両手をとった。そのままカールをソファの長椅子に導き自分も隣に腰掛ける。
演技のために夜着を着ている。頼りない格好だったが目の見えないカールならいいかと気にしないようにした。
「グイリオに‥は?」
「ひとまず別室で拘束してる。あとはリースに任せた。あれの得意分野だから安心して。」
セレスティアはふぅと息をついた。
グイリオが犯人。まだ信じられない。
でもその一方で犯人が家族でなかったと安堵する自分もいた。家族を一瞬でも疑って恥ずかしい。俯くセレスティアにカールは状況を説明する。
「あれは法に則り適切に処理する。余罪もあるから殺人教唆未遂だけでは済まない。もうティアを狙うこともないよ。」
断言するということは余罪は確定なのだろう。そこまで調べ上げているという周到ぶりに驚きを通り越して呆れてしまった。
「‥‥大丈夫?」
「うん、ありがとう。」
気遣うカールにそう言ったものの、心の内を正直に打ち明ける。
じわじわと実感が湧いてくれば心が痛い。
「嘘。やっぱりショックかな。兄とずっと慕った人だったから。」
「あれはティアを憎くて狙ったわけじゃない。兄の仮面を被りあなたに近づいた動機は金。求婚も同じだろうね。妹のリディア嬢が遺産を持っていればリディア嬢を襲った。その程度の動機だよ。薄汚い男だ。」
そう吐き捨てる少年に衝撃を受けた。
リディアの名が出た。義妹の名が。
リディアの名は教えていない。調べたって言ってたし、もうこれは完全に私のことバレてるんだよね?
思えばこの屋敷についた時に辺境伯爵令嬢と呼ばれたのに動揺しなかった。多分もっと前から知ってたんだ。
その一方でグイリオのことも思う。記憶の中では優しい兄だったがつまり最初から愛情さえなかった、ということか。それもキツい。
「——教えて?私には遺産があるの?そんな記憶ないけど。」
父は存命だ。他に遺産を受け取った記憶はない。爵位継承は放棄したしセレスティア個人の資産など微々たるものだ。
「ある。まだ相続はしていないけどね。」
「相続していない?それでは私が死んでもグイリオ‥に遺産が行かないんじゃないの?」
相続していないのに殺されそうになる?そもそもグイリオを遺産相続人にも指定していない。
「色々調べる過程で出てきたよ。」
「色々ってどうやって調べたの?」
「金、優秀な人材、それに人手を適切に使えばわからないことはないんだよ。僕が動かなくてもね。」
薄く微笑む少年を見やりぼんやりと納得する。
そうだった。この少年はどこぞのやんごとない令息だった。つまりそれほどの豪権を駆使できる身分。だからそういうことなんだろう。
「遺産はあなたが師匠と呼ぶ叔母君の遺産。遺言状で叔母君の所有していた土地の相続人にティアが指名されていた。」
「私が?知らないわ?なぜ私が知らないの?」
「父君が隠されていた。賢明だね。」
「父が?」
なぜ父が?父が土地を欲しがった?
訝しむがカールがそれを制する。
「違う。秘匿された理由は相続条件のせいだ。叔母君がつけた土地の相続の条件はあなたが結婚し伴侶を得ること。そしてあなたが死亡又はその資格を失った場合はグイリオが相続する、となっていたんだ。」
セレスティアは目を見開く。
全く聞いていない。叔母からも、父からも。
そこで得心する。
「だから私を殺そうと?土地が欲しくて?」
「土地はフォラント領を分割するような場所だからね。そこがフォラント領になれば農耕地は繋がって一気に効率が上がる。だからあいつは自分が相続できれば辺境伯に高く売れると踏んだ。それほどにあいつは金に困っていた。」
初めて聞くことばかりでセレスティアはただ驚くばかりだった。
「それは‥」
「父君から‥辺境伯から聞いた。」
父と、辺境伯とはっきり言われ息を呑む。そして鼓動が速くなった。
あの父から?聞いたということは——
「‥父に‥辺境伯にあったの?」
「うん、直接聞かないとわからないことがあったから。でもあまり語ってもらえなかった。だからこちらで勝手に推察するしかなかったよ。あなたを守るために。」
カールの静かな語り口にセレスティアは背筋を震わせた。
この少年は父と対等に渡り合ったというのか。辺境伯は伊達ではない。威圧的な父には並の神経では対抗できないだろうに。
「いつ?いつ父に?」
「一昨日かな。僕が消えた日が二日あったでしょ?あの日だよ。」
「無理よ。フォラント領へはここからなら早馬でも片道二日はかかるわ?」
「だから辺境伯にお越しいただいたんだ。」
セレスティアは絶句した。あの父を呼び出した?
「流石に辺境伯をここに招くとグイリオが警戒する。だから隣街で落ち合ったんだ。ここからだと馬で数時間ほどだからね。急な呼び出しでもティアの名を出したら応じてくれたよ。ティアは愛されてるね。」
更に言葉を失った。父を私の名前で呼び出した?そして父がそれに応じた?あの父が?
セレスティアは信じられず言葉を失う。
セレスティアの息を呑むその気配にカールは顔を綻ばせる。
「何か誤解しているようだけど、父君はご家族を大切にしている。リディア嬢の結婚もきちんと考えられているみたいだったよ。毒を飲んだと聞いてあなたのこともとても心配していた。言葉が足りないだけで勿体無いよね。」
さらに目を瞠るセレスティアにカールは笑みを深める。
「良い機会だし父君とよくよく話し合ってみたら?少し難しい方のようだが根は優しい良い方だ。」
あの父が?難しいが良い方?どこから目線?
そんなことを言う十四のカールの方が恐ろしい。
本当に十四なのだろうか?
「‥‥父から何を聞いたの?」
「欲しいものは何も。残念ながら。」
カールが珍しく疲れたようなため息をついた。
「結構頑張ったんだけどもね。魔法使いにも口を割らない辺境伯はなかなかだ。」
「ウォーロック?」
「うん、魔法の言葉。これを言うと結構みんな素直に僕の言うことを聞くんだよ。だが辺境伯は手強くって全然効かなかったよ。」
カールはとてもいい笑顔だが言っていることは凄みがある。どんな効果がある魔法なのか。
この少年は全てを見通して全てを支配して強力な魔法を放つ。だから魔法使い?
「‥‥今回の件、あれだけではないのね?まだ何かあるの?」
沈黙。そして躊躇いがちにカールが俯いた。
「‥‥聞きたい?僕の仮説だよ?辺境伯は何も語らなかった。だから記録を元に推測するしかない。」
「カールの考えを聞きたいわ。真相に近いのでしょう?全て教えてくれる約束よね?」
カールが顔を顰め少し苦い表情をする。
もうその覚悟をできている。したつもりだ。
膝の上で組んだ両手に力が入った。
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