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第十七話 源さんの弱点
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源田家には小さな蔵が一棟ある。
昭和初期には二棟あったのだが、時代の変化に合わせていろいろと手放した際、一棟潰して離れを建てた。
残った蔵には、源田家と朔太郎の神社の歴史と思い出が詰まっている。
朔太郎と隆輝は、先日の秋祭りで使用した狩衣と摸造刀を仕舞う為に、蔵を訪れた。
高さ一メートル程の桐箪笥の引き出しに、それぞれを丁寧に仕舞う。この引き出しを開けるのは、また一年後。
「あれ?」
朔太郎は、桐箪笥の近くにフォークギターが置かれているのに気付いた。
秋祭り前、狩衣と摸造刀を取りに入った時には、ここには無かったはず。
「あぁ、多分親父が引っ張り出して来たんだろ」
朔太郎の頭越しにギターを見た隆輝が、小さく溜め息を吐いた。
大きな体をもぞもぞと動かして、ギターを元にあったであろう場所に置いた。
「諦めが悪いよなぁ」
「何事にも挑戦するのは良い事ですよ」
「挑戦ったってなぁ」
隆輝は眉根を寄せて、はぁと大きな溜め息を吐いた。
隆輝の父・善輝がギターに挑戦して断念するのは、これで何度目であろうか。何度挑んでも習得に至らず、青春のメロディを奏でられずにいる。
無理だと分かってはいても、簡単には諦めきれないのである。
「そういう源さんだって、エレキギターを手放したのは最近でしょう」
うっとバツが悪そうな顔をして、隆輝は目を逸らせた。
思考回路も言動もよく似ている。
親子ですねぇ、と朔太郎は微笑んだ。
蔵を後にして、母屋にて昼食を頂く。
仕事の都合で善輝は不在だった。しかし、みどりに加え、里帰り中の姉・美奈子とその子供達と囲む食卓は、とても賑やかだ。
団欒中、隆輝が先程の出来事を話した。
美奈子が心当たりあり、と頷く。
「ちょっと前に子供達に音楽の良さを云々、って言ってたけど……お父さん自ら弾き語ろうとしてたのね」
少し、呆れ顔。
孫の為に張り切る気持ちは理解できるし、有難いけれども——
「才能の無さは遺伝レベルなんだからさぁ」
何を隠そう、代々源田家の男子は楽器の才能が皆無なのである。
楽器の種類は問わず、どんな方法で練習を積んでも習得に至らない。義務教育中に必ず触れる楽器、リコーダーやハーモニカも綺麗に奏でられた試しがない。不協和音が響くのだ。
神社の秋祭りで演奏に参加しないのは、この為であった。
談笑の中、朔太郎は懐かしい出来事を思い出していた。
時は少し遡って、隆輝が高校三年生の年。
「隆輝くんの、弱点……?」
朔太郎は拝殿の裏で、男子高校生三人に囲まれて縮こまっていた。
紺色のブレザーにチェックのスラックスを腰でだらしなく着こなした彼らは、地元の公立高校の生徒だ。
明るく脱色した長い襟足を弄りながら、中央の男子が朔太郎に顔を近付ける。
「そうそう。お兄さん、源田のお友達なんでしょ。じゃぁ、知ってるよね?」
笑顔だが、高圧的。
朔太郎は何故か明治十年のあの出来事を思い出して、この場から直ぐに逃げ出したい気持ちになった。
しかし、退路を塞がれている為に逃れようがなく、箒の柄をぎゅっと握り締めた。
知らない、と首を振る。
「そんな訳ないじゃん」
朔太郎の右側に立つ男子が、ドンと壁に手をついて苛立たしそうに言った。
背中に嫌な汗が流れる。泣いてしまいそうだ。
そもそも彼らは何故脅すような態度をとってまで隆輝の弱点を知りたいのだろうか。
「あいつムカつくんだよねー」
「家が金持ちってだけでも勝ち組なのに、勉強もスポーツも出来るじゃん」
「で、うちの学校の女子がイケメン、イケメンてうるせぇの」
「なーんか、ズルくね?」
だから、弱みを握ってやろうと思ってさ。
三人はヘラヘラと笑った。
なんとくだらない。ただの嫉妬と僻みが理由だった。
確かに裕福な家庭に生まれるか否かは運かもしれない。しかし、その与えられた運と才能を伸ばし我が物にしたのは、紛れもなく本人の努力のはず。
それに、将来は源田家の家系と財産を守り継続させる任を負う事になる隆輝の苦労を思うと、世話になるばかりの朔太郎は心が痛んだ。
その時。
「何してんの」
声に振り向けば、隆輝が立っていた。
乱れなく着用した制服のスラックスのポケットに両手を突っ込んで、気怠そうに立つ姿は、不思議と迫力があった。
「何もしてねぇよ。このお兄さんとちょっと遊んでただけだし」
「えー、本当に?」
ゆっくりと隆輝が歩みを進める。
ローファーが落ち葉を割って、小気味よい音がした。
男子達は隆輝の迫力に気圧され、すぐ側まで近寄らせてしまった。
隆輝は、彼らの頭の間から薄ら涙目になっている朔太郎を見た。
「あ、泣かしてる。イジメじゃん」
「はぁ?! 違ぇし!」
「じゃぁ何やってんの」
隆輝が男子達を見下ろす。
この頃、隆輝の身長は一七八センチを超えていた。まだまだ成長中である。
別に怒っている訳ではないが、その体躯と雰囲気は恐怖心を煽るのには十分だった。
今の内に距離を取ろうと考えた朔太郎だが、哀れにも一人の男子に肩を掴まれ、拘束されてしまった。
人質を得た事で調子づく男子達。
こいつがどうなっても良いのか、と漫画やドラマのような台詞付き。
男子達は、隆輝の口から直接弱点を聞き出そうとした。
「うーん、俺の弱点か……」
苛立たしさと焦りで貧乏ゆすりをする男子。
冷汗の止まらぬ朔太郎。
腕を組んで数秒考えた隆輝が、言う。
「楽器ができねぇ」
期待していた回答と違ったのか、男子達は口々に罵った。
隆輝は困ったように高い鼻をかいた。
虫全般平気。ホラーやスプラッター系も平気。スポーツも大体の競技は出来るし、教科も苦手科目は……
「音楽の実技だけ点数悪いんだよ。高校は選択科目なって取ってないから忘れてたけど、楽器の才能が全く無ぇんだよなぁ」
男子生徒の一人が、弱点は弱点なのだから言いふらしてやろうぜ、と提案した。
やっと朔太郎を解放して、男子生徒達は落ち葉を蹴散らしながら去って行った。
朔太郎と隆輝は、呆気に取られたまま男子生徒達の背中を見送った。
「あー、そんな事もあったなぁ」
緑茶を啜りながら隆輝が懐かしんだ。
あの後、男子生徒達は隆輝の弱点を拡散した。
しかし、隆輝の楽器無才能は同じ出身校の同級生なら周知の事実であり、弱点を知った他行の女子生徒達はギャップ萌えだと騒ぎ、隆輝の好感度は更に上がったのだった。
「だからあの年のバレンタインは特別凄かったのねぇ」
毎年たくさんのバレンタインチョコレートを貰っていたが、その年は例年の三倍近い数が贈られた。
更に、拡散された筈の噂も、隆輝が東京の大学への進学が決まると訪れた告白ラッシュにより、あっという間に立ち消えたのだった。
現在は朔太郎と身内に加え、仲の良い同級生や昔馴染みの地域住民がこの弱点を知っている。
秋祭りの時、にこりの質問に曖昧に答えたのは恥ずかしさや見栄ではなく、ネタに擦り続けられそうで面倒だったからである。
後日、この弱点はみどりによって、悪気なくにこりにバラされる事となるのであった。
昭和初期には二棟あったのだが、時代の変化に合わせていろいろと手放した際、一棟潰して離れを建てた。
残った蔵には、源田家と朔太郎の神社の歴史と思い出が詰まっている。
朔太郎と隆輝は、先日の秋祭りで使用した狩衣と摸造刀を仕舞う為に、蔵を訪れた。
高さ一メートル程の桐箪笥の引き出しに、それぞれを丁寧に仕舞う。この引き出しを開けるのは、また一年後。
「あれ?」
朔太郎は、桐箪笥の近くにフォークギターが置かれているのに気付いた。
秋祭り前、狩衣と摸造刀を取りに入った時には、ここには無かったはず。
「あぁ、多分親父が引っ張り出して来たんだろ」
朔太郎の頭越しにギターを見た隆輝が、小さく溜め息を吐いた。
大きな体をもぞもぞと動かして、ギターを元にあったであろう場所に置いた。
「諦めが悪いよなぁ」
「何事にも挑戦するのは良い事ですよ」
「挑戦ったってなぁ」
隆輝は眉根を寄せて、はぁと大きな溜め息を吐いた。
隆輝の父・善輝がギターに挑戦して断念するのは、これで何度目であろうか。何度挑んでも習得に至らず、青春のメロディを奏でられずにいる。
無理だと分かってはいても、簡単には諦めきれないのである。
「そういう源さんだって、エレキギターを手放したのは最近でしょう」
うっとバツが悪そうな顔をして、隆輝は目を逸らせた。
思考回路も言動もよく似ている。
親子ですねぇ、と朔太郎は微笑んだ。
蔵を後にして、母屋にて昼食を頂く。
仕事の都合で善輝は不在だった。しかし、みどりに加え、里帰り中の姉・美奈子とその子供達と囲む食卓は、とても賑やかだ。
団欒中、隆輝が先程の出来事を話した。
美奈子が心当たりあり、と頷く。
「ちょっと前に子供達に音楽の良さを云々、って言ってたけど……お父さん自ら弾き語ろうとしてたのね」
少し、呆れ顔。
孫の為に張り切る気持ちは理解できるし、有難いけれども——
「才能の無さは遺伝レベルなんだからさぁ」
何を隠そう、代々源田家の男子は楽器の才能が皆無なのである。
楽器の種類は問わず、どんな方法で練習を積んでも習得に至らない。義務教育中に必ず触れる楽器、リコーダーやハーモニカも綺麗に奏でられた試しがない。不協和音が響くのだ。
神社の秋祭りで演奏に参加しないのは、この為であった。
談笑の中、朔太郎は懐かしい出来事を思い出していた。
時は少し遡って、隆輝が高校三年生の年。
「隆輝くんの、弱点……?」
朔太郎は拝殿の裏で、男子高校生三人に囲まれて縮こまっていた。
紺色のブレザーにチェックのスラックスを腰でだらしなく着こなした彼らは、地元の公立高校の生徒だ。
明るく脱色した長い襟足を弄りながら、中央の男子が朔太郎に顔を近付ける。
「そうそう。お兄さん、源田のお友達なんでしょ。じゃぁ、知ってるよね?」
笑顔だが、高圧的。
朔太郎は何故か明治十年のあの出来事を思い出して、この場から直ぐに逃げ出したい気持ちになった。
しかし、退路を塞がれている為に逃れようがなく、箒の柄をぎゅっと握り締めた。
知らない、と首を振る。
「そんな訳ないじゃん」
朔太郎の右側に立つ男子が、ドンと壁に手をついて苛立たしそうに言った。
背中に嫌な汗が流れる。泣いてしまいそうだ。
そもそも彼らは何故脅すような態度をとってまで隆輝の弱点を知りたいのだろうか。
「あいつムカつくんだよねー」
「家が金持ちってだけでも勝ち組なのに、勉強もスポーツも出来るじゃん」
「で、うちの学校の女子がイケメン、イケメンてうるせぇの」
「なーんか、ズルくね?」
だから、弱みを握ってやろうと思ってさ。
三人はヘラヘラと笑った。
なんとくだらない。ただの嫉妬と僻みが理由だった。
確かに裕福な家庭に生まれるか否かは運かもしれない。しかし、その与えられた運と才能を伸ばし我が物にしたのは、紛れもなく本人の努力のはず。
それに、将来は源田家の家系と財産を守り継続させる任を負う事になる隆輝の苦労を思うと、世話になるばかりの朔太郎は心が痛んだ。
その時。
「何してんの」
声に振り向けば、隆輝が立っていた。
乱れなく着用した制服のスラックスのポケットに両手を突っ込んで、気怠そうに立つ姿は、不思議と迫力があった。
「何もしてねぇよ。このお兄さんとちょっと遊んでただけだし」
「えー、本当に?」
ゆっくりと隆輝が歩みを進める。
ローファーが落ち葉を割って、小気味よい音がした。
男子達は隆輝の迫力に気圧され、すぐ側まで近寄らせてしまった。
隆輝は、彼らの頭の間から薄ら涙目になっている朔太郎を見た。
「あ、泣かしてる。イジメじゃん」
「はぁ?! 違ぇし!」
「じゃぁ何やってんの」
隆輝が男子達を見下ろす。
この頃、隆輝の身長は一七八センチを超えていた。まだまだ成長中である。
別に怒っている訳ではないが、その体躯と雰囲気は恐怖心を煽るのには十分だった。
今の内に距離を取ろうと考えた朔太郎だが、哀れにも一人の男子に肩を掴まれ、拘束されてしまった。
人質を得た事で調子づく男子達。
こいつがどうなっても良いのか、と漫画やドラマのような台詞付き。
男子達は、隆輝の口から直接弱点を聞き出そうとした。
「うーん、俺の弱点か……」
苛立たしさと焦りで貧乏ゆすりをする男子。
冷汗の止まらぬ朔太郎。
腕を組んで数秒考えた隆輝が、言う。
「楽器ができねぇ」
期待していた回答と違ったのか、男子達は口々に罵った。
隆輝は困ったように高い鼻をかいた。
虫全般平気。ホラーやスプラッター系も平気。スポーツも大体の競技は出来るし、教科も苦手科目は……
「音楽の実技だけ点数悪いんだよ。高校は選択科目なって取ってないから忘れてたけど、楽器の才能が全く無ぇんだよなぁ」
男子生徒の一人が、弱点は弱点なのだから言いふらしてやろうぜ、と提案した。
やっと朔太郎を解放して、男子生徒達は落ち葉を蹴散らしながら去って行った。
朔太郎と隆輝は、呆気に取られたまま男子生徒達の背中を見送った。
「あー、そんな事もあったなぁ」
緑茶を啜りながら隆輝が懐かしんだ。
あの後、男子生徒達は隆輝の弱点を拡散した。
しかし、隆輝の楽器無才能は同じ出身校の同級生なら周知の事実であり、弱点を知った他行の女子生徒達はギャップ萌えだと騒ぎ、隆輝の好感度は更に上がったのだった。
「だからあの年のバレンタインは特別凄かったのねぇ」
毎年たくさんのバレンタインチョコレートを貰っていたが、その年は例年の三倍近い数が贈られた。
更に、拡散された筈の噂も、隆輝が東京の大学への進学が決まると訪れた告白ラッシュにより、あっという間に立ち消えたのだった。
現在は朔太郎と身内に加え、仲の良い同級生や昔馴染みの地域住民がこの弱点を知っている。
秋祭りの時、にこりの質問に曖昧に答えたのは恥ずかしさや見栄ではなく、ネタに擦り続けられそうで面倒だったからである。
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