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第13話 小金持ちじゃ。
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そして翌日、
私はバイトの昼休みを利用してスーパーに併設された銀行ATMに行ってきた。
入学金と称して見せられた500万円はそのままだと物騒ということで、今日、銀行に振り込まれる手筈となっていたのだ。
列に並び、順番が回ってくる。
そそくさとパネル操作をこなし、残高照会をする。
出てきた通帳を素早く引き抜き、バディバックに詰めると、忍者のような動きで人の列をすり抜け人気の無い電柱裏に身を潜める。
そして恐る恐る通帳を開け、残高を確認する。
JPA 振込 ――――5,030,000
「ぐおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
私は目を飛び出させ、盛大に唸った!!
入ってる、入ってるぞーーーーーーっ!!!!
きっちり500万円っ!!
さらに昨日の説明会参加日当の3万円もしっかりとっ!!!!
そして最終残高は――――5,045,334円なり。
「セレブ生活キタァーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
恥を忘れ、天に向かって叫ぶ私。
正直、いまだ昨日の話を信じ切っていなかった私の疑念は、確信へと変わった。
「……やばい、これ。全部本当の話しだ」
一気に貯金が増えた安心感と、これから始まる新しい世界での暮らしを想像し、身を震わせる。
「と、とりあえず……落ち着こう」
通帳を大事にしまい、代わりに水道水の入ったペットボトルを取り出す。
「まてよ……」
それに口を付けようとしたところで私の手が止まる。
「500万も入ったし……これから定期的に収入も約束された……」
で、あれば多少の贅沢くらいしてもいいんじゃないか?
私は先にある自販機を見て喉を鳴らした。
いつもは少しでも節約するため空のペットボトルに水道水を入れて持ち歩いている。
どうしても味のある飲み物が欲しい時は、量販店で売っているファミリーサイズのジュースを家で飲むようにしている。
割高な自販機では絶対に買わない。
しかしそれも昨日の自分まで。
今日の自分はもう自販機で飲み物を買っていい存在に昇華しているのだ!!
私は自販機の前に仁王立つ。
そして品定めをし、お金を入れ、ボタンを押す。
――――ゴトトン。
懐かしい音がして、商品が取り出し口に頭を出す。
それを取り出して私は感動に打ち震えた。
「は、は……八年ぶりに買っちゃった……」
両親が亡くなってからというもの、お小遣いはもちろん、物をねだるなんてことを許される環境になかった私。
そして独り立ちしてからも食べるのに精一杯で、ほんの少しの贅沢も出来なかった私は実に八年ぶりに自販機で物を買うという贅沢をしてしまった。
しかも安売り店でも絶対に手を出さない割高ショートサイズのプレミアムコーヒーである。
「う、う、う……うまぁ~~~~ぃ」
一口飲んだ私は感動の涙を流す。
え? なに?? 缶コーヒーってこんなに美味しかった!??
それとも自販機で買ってすぐ飲むという勝ち確な行動が美味さを何倍にもしているのだろうか?
道行く主婦やサラリーマンが、泣きながらコーヒーを飲んでいる私を不思議に見て通り過ぎる。
いいさいいさ。
存分に不思議がっておくれ。
所詮、他人様にはわからんよこの感動は。
普通のことが普通に出来るようになったというこの感動は。
ちょっと大袈裟な表現だったかなと内心テレてしまったが、実際それくらい感動したのだ。
「ああ、生活に余裕が出来るってすばらしい!!」
私は羽が生えたように軽やかなステップで、大きな体をポヨンポヨン揺らしながら会社へと戻った。
「ただいま……」
バイトを終えた私はアパートへ帰ってきた。
言い出すのが辛かったが、帰り際、主任さんにバイトを辞めさせて貰いたいと伝えた。
みんなやさしくて、仕事もそこそこ楽しく気に入っていた職場だったが、二週間後には研修が待っている。
とくに優しくしてもらったおじさんに辞める理由を聞かれたが、本当のことを言うわけにもいかず、つい『芸能事務所にスカウトされまして』と我ながらわけのわからないウソをついて、しばし職場は騒然となってしまった。
『悪いことは言わないやめときな!!』や『騙されてるんだよ!!』とか『おじさんは許さんぞっ!!』などお叱りの声が飛び交い。なかには『作品が配信されたら俺、絶対落とすから』と下卑た笑いを浮かべる特殊なお兄さんもいたが、なんとか誤魔化し、あくまで訓練生として声を掛けられただけだからと乗り切った。
やれやれ、うかつに『訓練所』とか言ってしまったばかりにこのざまである。
「ふう……疲れた……」
なにはともあれ二週間後、訓練所に行く前日までは業務の引き継ぎもあるので働くことになった。
もちろん、お世話になったバイト先に迷惑はかけられないので私はそれを快諾した。
JPAの訓練所は山梨にあるらしい。
なんでも河口湖のほとりだとか。
そんな所に少なくとも半年は放り込まれることになる。
身の回りの整理や準備は色々しなければならない。
住所は残しておいてほしいらしく、とりあえずこのアパートはそのままにして行くつもりだが、荷物は極力整理しなければならないし、管理人さんにも事情を説明しなければいけない。
「やれやれ……忙しいことですこと」
それでもワクワクしている私がいた。
どんな訓練や生活が待っているのか。
なんにせよ、このまま日陰者として暮らすよりかはずっと楽しそうだ。
私は大量に作り置きしていた豚汁と豚バラ味噌大根を大盛りご飯で迎え撃ちながらニンマリと笑った。
私はバイトの昼休みを利用してスーパーに併設された銀行ATMに行ってきた。
入学金と称して見せられた500万円はそのままだと物騒ということで、今日、銀行に振り込まれる手筈となっていたのだ。
列に並び、順番が回ってくる。
そそくさとパネル操作をこなし、残高照会をする。
出てきた通帳を素早く引き抜き、バディバックに詰めると、忍者のような動きで人の列をすり抜け人気の無い電柱裏に身を潜める。
そして恐る恐る通帳を開け、残高を確認する。
JPA 振込 ――――5,030,000
「ぐおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
私は目を飛び出させ、盛大に唸った!!
入ってる、入ってるぞーーーーーーっ!!!!
きっちり500万円っ!!
さらに昨日の説明会参加日当の3万円もしっかりとっ!!!!
そして最終残高は――――5,045,334円なり。
「セレブ生活キタァーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
恥を忘れ、天に向かって叫ぶ私。
正直、いまだ昨日の話を信じ切っていなかった私の疑念は、確信へと変わった。
「……やばい、これ。全部本当の話しだ」
一気に貯金が増えた安心感と、これから始まる新しい世界での暮らしを想像し、身を震わせる。
「と、とりあえず……落ち着こう」
通帳を大事にしまい、代わりに水道水の入ったペットボトルを取り出す。
「まてよ……」
それに口を付けようとしたところで私の手が止まる。
「500万も入ったし……これから定期的に収入も約束された……」
で、あれば多少の贅沢くらいしてもいいんじゃないか?
私は先にある自販機を見て喉を鳴らした。
いつもは少しでも節約するため空のペットボトルに水道水を入れて持ち歩いている。
どうしても味のある飲み物が欲しい時は、量販店で売っているファミリーサイズのジュースを家で飲むようにしている。
割高な自販機では絶対に買わない。
しかしそれも昨日の自分まで。
今日の自分はもう自販機で飲み物を買っていい存在に昇華しているのだ!!
私は自販機の前に仁王立つ。
そして品定めをし、お金を入れ、ボタンを押す。
――――ゴトトン。
懐かしい音がして、商品が取り出し口に頭を出す。
それを取り出して私は感動に打ち震えた。
「は、は……八年ぶりに買っちゃった……」
両親が亡くなってからというもの、お小遣いはもちろん、物をねだるなんてことを許される環境になかった私。
そして独り立ちしてからも食べるのに精一杯で、ほんの少しの贅沢も出来なかった私は実に八年ぶりに自販機で物を買うという贅沢をしてしまった。
しかも安売り店でも絶対に手を出さない割高ショートサイズのプレミアムコーヒーである。
「う、う、う……うまぁ~~~~ぃ」
一口飲んだ私は感動の涙を流す。
え? なに?? 缶コーヒーってこんなに美味しかった!??
それとも自販機で買ってすぐ飲むという勝ち確な行動が美味さを何倍にもしているのだろうか?
道行く主婦やサラリーマンが、泣きながらコーヒーを飲んでいる私を不思議に見て通り過ぎる。
いいさいいさ。
存分に不思議がっておくれ。
所詮、他人様にはわからんよこの感動は。
普通のことが普通に出来るようになったというこの感動は。
ちょっと大袈裟な表現だったかなと内心テレてしまったが、実際それくらい感動したのだ。
「ああ、生活に余裕が出来るってすばらしい!!」
私は羽が生えたように軽やかなステップで、大きな体をポヨンポヨン揺らしながら会社へと戻った。
「ただいま……」
バイトを終えた私はアパートへ帰ってきた。
言い出すのが辛かったが、帰り際、主任さんにバイトを辞めさせて貰いたいと伝えた。
みんなやさしくて、仕事もそこそこ楽しく気に入っていた職場だったが、二週間後には研修が待っている。
とくに優しくしてもらったおじさんに辞める理由を聞かれたが、本当のことを言うわけにもいかず、つい『芸能事務所にスカウトされまして』と我ながらわけのわからないウソをついて、しばし職場は騒然となってしまった。
『悪いことは言わないやめときな!!』や『騙されてるんだよ!!』とか『おじさんは許さんぞっ!!』などお叱りの声が飛び交い。なかには『作品が配信されたら俺、絶対落とすから』と下卑た笑いを浮かべる特殊なお兄さんもいたが、なんとか誤魔化し、あくまで訓練生として声を掛けられただけだからと乗り切った。
やれやれ、うかつに『訓練所』とか言ってしまったばかりにこのざまである。
「ふう……疲れた……」
なにはともあれ二週間後、訓練所に行く前日までは業務の引き継ぎもあるので働くことになった。
もちろん、お世話になったバイト先に迷惑はかけられないので私はそれを快諾した。
JPAの訓練所は山梨にあるらしい。
なんでも河口湖のほとりだとか。
そんな所に少なくとも半年は放り込まれることになる。
身の回りの整理や準備は色々しなければならない。
住所は残しておいてほしいらしく、とりあえずこのアパートはそのままにして行くつもりだが、荷物は極力整理しなければならないし、管理人さんにも事情を説明しなければいけない。
「やれやれ……忙しいことですこと」
それでもワクワクしている私がいた。
どんな訓練や生活が待っているのか。
なんにせよ、このまま日陰者として暮らすよりかはずっと楽しそうだ。
私は大量に作り置きしていた豚汁と豚バラ味噌大根を大盛りご飯で迎え撃ちながらニンマリと笑った。
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