77 / 205
第77話 地獄の? トレーニング③
しおりを挟む
昼食は尾栗庵で正也さんと一緒に食べた。
朝の運動で食欲が出ない……と少しは乙女らしいことの一つも言いたいが、私の胃袋はそんなことではびくともしない。
むしろシゴキのストレス解消とばかりに注文をしまくってやった。
ハンバーグ、チャーハン、ミートソーススパ、唐揚げ、フライドポテト、ピザ、焼きうどんときて最後におにぎりを十個。
それらを一気に吸引する姿は可愛らしい乙女とは対局にいると言っていいだろう。
「結局、ストレッチだけで終わっちゃたね。柔道の練習はもうちょっとランニングが早くこなせるようになってからかな?」
本当は正也さんみたいなイケメンの前では自重したいところなのだが、どうせ彼にはもうバレている。
正也さんの能力『認識阻害』で今までさんざん私を観察していたらしいから。
その証拠に彼は、もうとっくに見慣れているよと言わんばかりに顔色一つ変えずサンドイッチを静かに食べている。
「もぐむぐ……正也さんは普段もぐもぐなにしてらっしゃるんですか? ごっくん」
食べつつも、さり気なく尋ねる。
イケメンの生態系を気にするのは乙女の習性。
体育会系のノリはキツイが、せっかくのイケメンとの相席だ、この際だから色々と勉強させてもらおう。
「普段? ……そうだなぁ、訓練の他には音楽聞いたりサイクリングしたりかな?
たまに大学に行ってたりもするよ」
「大学生なんですか?」
「そう、まぁ柔道の部活以外はあんまり行ってないけれどね」
あははと笑う。
……やはり柔道部か。
いかんなぁ……これはマジで熱血タイプ確定じゃないか?
せっかくのイケメンなのに、なにか対策を考えねば……。
「部活以外はって勉強のほうは大丈夫なんですか?」
「大丈夫さ、入学も卒業も、僕らは特別待遇で通れるからね。もちろん学費も全部JPAが出してくれているよ」
ブッ!!
鼻からパスタが飛び出てしまった。
「え、そ、そうなんですか!? そんな特典があるんですか!??」
「もちろん。JPAの力は凄いからね。学校だけじゃない、仕事も公務関係なら全てキャリア待遇で紹介されるよ?」
「……ぜ、全然聞いてなかったですそんなこと……」
「う~~~~ん。まぁ、七瀬先生っておおらかな所があるからね、色々細かな説明とかついうっかり忘れちゃったりするから……」
言って、はははと笑う。
おおらかじゃねえ。あれは雑って言うんだよ!!
「でも今は教官を務めてくれる人って七瀬先生くらいしかいないしね」
「そうなんですか?」
「うん、……まあ片桐さんや所長……あとここの料理長さんなんかも、昔、教官やってたって話だけれども、みんなそれぞれの業務で忙しいからね。空いてるのは七瀬先生くらいなんだよ」
「他に教官を務められるほどの優秀な方って居ないんですか??」
いや、ヤツが優秀かどうかは一旦おいいといての話ね。
「全国を探せばいるよ、いくらでも。でもみんな面倒臭がってやらないんだ。
ほら、超能力者って変わり者が多いじゃない? 悪い意味でみんな個人主義なんだよね。群れたがらないっていうかね」
「超能力者は陰キャが多いと」
「ははははははははは! まぁそうだね、強い能力者ってだいたい陰キャだねそういえば。でも、僕は案外明るい性格って言われるよ?」
ふむ、まぁ例外もそりゃあるだろう。
しかし変わり者っていうのは正也さんにも当てはまっている気がする。まだわかんないけどそんな気がする。
「ま、大西所長なんかも面白いし、そもそも男の能力者って珍しいんだよね」
「へぇ?」
「強い能力者はほとんど女性なんだ。ほら幽霊ってあるじゃない? あれって主人を失ったファントムが彷徨っている姿なんだけど、はっきりとしたものってやっぱり女性型が多いんだよね。ファントムの性別は元の主人に由来するし、存在がはっきりとしているものほど強力な力を持っているんだよ」
「はぁ……そうなんですか……」
勉強になる。っていうか幽霊ってそうなのかよっ!!
さらっと解明されてしまった世界の七不思議の一つに私は汗を流した。
「なので強い能力者はほとんど女性さ。男は……数はいるけど、ほとんどが無自覚者か天才止まり。そこから飛び抜けてJPASに入れるかどうかだね」
「へぇ……じゃあ所長や天道さんって凄いんですね」
「まあ、ね。男の中ではだけどね」
そうして悪戯っぽく笑い、
「正也、でいいよ。従姉妹《うずめ》もいるし天道じゃややこしいだろう」
と、名前で呼ぶことを許してくれる。
心の中じゃあとっくに名前で呼んでましたけどねと舌を出す。
しかし……男の人を名前で呼ぶなんて……なんだかアレね、ちょっと興奮するよね、しかもこんなイケメン男子を名前呼びですよ? これってなんかすごく陽キャっぽくてなんだかウキウキするんですけど~~~~♪
「あ~~~~~~~~ぃ、授業のぉぉぉぉぉ……時ぁぁ間ぅんでぇす~~~~うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふぅ」
「ごわぁぁぁぁぁっ!!!!」
突然、陰キャの権化に後ろを取られて焼きうどんを撒き散らす。
振り返るとそこには死ぬ子先生が立っていた。
空気が……死ぬ子先生の周りの空気だけが黒く淀んでいる!!
「午ぅ後ぉからは~~~~……座学ぅっていったでしょぅううう?? なんでぇええええ~~来ないのぅ、もう時間~~……過ぎてるわよぉぉぉぉ?? それともぉ私をぅぅぅぅ……一人にしてぇぇぇ仲間はずれにしてぇぇぇぇぇ笑うつもりねっぇそうなのねぇそうなのでしょぉうぉぅぉぅ? わかったわ~~……もう死んでやるからぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
カッターナイフを手首に当てて、いつもより数段割増にうざったくなっている死ぬ子先生。
「……あの、座学って先生が……??」
「ほかにぃぃぃぃぃぃ……誰ぇがいるっていうのよぉおお?? この……ドスケベアバズレ淫乱娘がぁぁぁぁぁっ!!!!」
ゴゴゴゴゴと効果音が聞こえる。
どうやら私が正也さんとイチャついていたのがショックだったらしい。
後輩に先を越されて結婚された三十路目前のOLかっ!?
「ま……正也さん」
正面を向き直ると、彼の姿は忽然と無くなっていた。
朝の運動で食欲が出ない……と少しは乙女らしいことの一つも言いたいが、私の胃袋はそんなことではびくともしない。
むしろシゴキのストレス解消とばかりに注文をしまくってやった。
ハンバーグ、チャーハン、ミートソーススパ、唐揚げ、フライドポテト、ピザ、焼きうどんときて最後におにぎりを十個。
それらを一気に吸引する姿は可愛らしい乙女とは対局にいると言っていいだろう。
「結局、ストレッチだけで終わっちゃたね。柔道の練習はもうちょっとランニングが早くこなせるようになってからかな?」
本当は正也さんみたいなイケメンの前では自重したいところなのだが、どうせ彼にはもうバレている。
正也さんの能力『認識阻害』で今までさんざん私を観察していたらしいから。
その証拠に彼は、もうとっくに見慣れているよと言わんばかりに顔色一つ変えずサンドイッチを静かに食べている。
「もぐむぐ……正也さんは普段もぐもぐなにしてらっしゃるんですか? ごっくん」
食べつつも、さり気なく尋ねる。
イケメンの生態系を気にするのは乙女の習性。
体育会系のノリはキツイが、せっかくのイケメンとの相席だ、この際だから色々と勉強させてもらおう。
「普段? ……そうだなぁ、訓練の他には音楽聞いたりサイクリングしたりかな?
たまに大学に行ってたりもするよ」
「大学生なんですか?」
「そう、まぁ柔道の部活以外はあんまり行ってないけれどね」
あははと笑う。
……やはり柔道部か。
いかんなぁ……これはマジで熱血タイプ確定じゃないか?
せっかくのイケメンなのに、なにか対策を考えねば……。
「部活以外はって勉強のほうは大丈夫なんですか?」
「大丈夫さ、入学も卒業も、僕らは特別待遇で通れるからね。もちろん学費も全部JPAが出してくれているよ」
ブッ!!
鼻からパスタが飛び出てしまった。
「え、そ、そうなんですか!? そんな特典があるんですか!??」
「もちろん。JPAの力は凄いからね。学校だけじゃない、仕事も公務関係なら全てキャリア待遇で紹介されるよ?」
「……ぜ、全然聞いてなかったですそんなこと……」
「う~~~~ん。まぁ、七瀬先生っておおらかな所があるからね、色々細かな説明とかついうっかり忘れちゃったりするから……」
言って、はははと笑う。
おおらかじゃねえ。あれは雑って言うんだよ!!
「でも今は教官を務めてくれる人って七瀬先生くらいしかいないしね」
「そうなんですか?」
「うん、……まあ片桐さんや所長……あとここの料理長さんなんかも、昔、教官やってたって話だけれども、みんなそれぞれの業務で忙しいからね。空いてるのは七瀬先生くらいなんだよ」
「他に教官を務められるほどの優秀な方って居ないんですか??」
いや、ヤツが優秀かどうかは一旦おいいといての話ね。
「全国を探せばいるよ、いくらでも。でもみんな面倒臭がってやらないんだ。
ほら、超能力者って変わり者が多いじゃない? 悪い意味でみんな個人主義なんだよね。群れたがらないっていうかね」
「超能力者は陰キャが多いと」
「ははははははははは! まぁそうだね、強い能力者ってだいたい陰キャだねそういえば。でも、僕は案外明るい性格って言われるよ?」
ふむ、まぁ例外もそりゃあるだろう。
しかし変わり者っていうのは正也さんにも当てはまっている気がする。まだわかんないけどそんな気がする。
「ま、大西所長なんかも面白いし、そもそも男の能力者って珍しいんだよね」
「へぇ?」
「強い能力者はほとんど女性なんだ。ほら幽霊ってあるじゃない? あれって主人を失ったファントムが彷徨っている姿なんだけど、はっきりとしたものってやっぱり女性型が多いんだよね。ファントムの性別は元の主人に由来するし、存在がはっきりとしているものほど強力な力を持っているんだよ」
「はぁ……そうなんですか……」
勉強になる。っていうか幽霊ってそうなのかよっ!!
さらっと解明されてしまった世界の七不思議の一つに私は汗を流した。
「なので強い能力者はほとんど女性さ。男は……数はいるけど、ほとんどが無自覚者か天才止まり。そこから飛び抜けてJPASに入れるかどうかだね」
「へぇ……じゃあ所長や天道さんって凄いんですね」
「まあ、ね。男の中ではだけどね」
そうして悪戯っぽく笑い、
「正也、でいいよ。従姉妹《うずめ》もいるし天道じゃややこしいだろう」
と、名前で呼ぶことを許してくれる。
心の中じゃあとっくに名前で呼んでましたけどねと舌を出す。
しかし……男の人を名前で呼ぶなんて……なんだかアレね、ちょっと興奮するよね、しかもこんなイケメン男子を名前呼びですよ? これってなんかすごく陽キャっぽくてなんだかウキウキするんですけど~~~~♪
「あ~~~~~~~~ぃ、授業のぉぉぉぉぉ……時ぁぁ間ぅんでぇす~~~~うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふぅ」
「ごわぁぁぁぁぁっ!!!!」
突然、陰キャの権化に後ろを取られて焼きうどんを撒き散らす。
振り返るとそこには死ぬ子先生が立っていた。
空気が……死ぬ子先生の周りの空気だけが黒く淀んでいる!!
「午ぅ後ぉからは~~~~……座学ぅっていったでしょぅううう?? なんでぇええええ~~来ないのぅ、もう時間~~……過ぎてるわよぉぉぉぉ?? それともぉ私をぅぅぅぅ……一人にしてぇぇぇ仲間はずれにしてぇぇぇぇぇ笑うつもりねっぇそうなのねぇそうなのでしょぉうぉぅぉぅ? わかったわ~~……もう死んでやるからぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
カッターナイフを手首に当てて、いつもより数段割増にうざったくなっている死ぬ子先生。
「……あの、座学って先生が……??」
「ほかにぃぃぃぃぃぃ……誰ぇがいるっていうのよぉおお?? この……ドスケベアバズレ淫乱娘がぁぁぁぁぁっ!!!!」
ゴゴゴゴゴと効果音が聞こえる。
どうやら私が正也さんとイチャついていたのがショックだったらしい。
後輩に先を越されて結婚された三十路目前のOLかっ!?
「ま……正也さん」
正面を向き直ると、彼の姿は忽然と無くなっていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる