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第93話 ラミア⑬
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苦しみに顔を歪めるラミア。
私の体を乗っ取り暴走するラミアは確かに危険な存在だ。
このまま放置は出来ない。
だから退治するのが正解だし、それに文句を言う権利は私には無い。
百恵ちゃんや菜々ちん、施設の人たちの命を奪うことになるくらいなら、私は殺されたって……嫌だけど……文句を言うつもりもない。
「結構持ち堪えるねぇ?
……お前みたいに頑丈《タフ》な魑魅は消すのが惜しいんだが……」
――――パキィンッ!!
女将が、結界を全身に張り付かせた!!
それはまるで結界で作られた甲冑のよう。
手、足、頭、全身に装着されたそれは、あらゆる能力に対しての堅牢な防御力とファントムに対しての絶大な攻撃力を同時に併せ持つ。
両腕に光る手甲は、結界で出来た打撃武器。
対超能力者に特化した鎧武者である。
なるほど、これは……寮長を任されることはある。
どんなイキった新人が来ても、この人にかかれば瞬殺されるだろう。
弱り、消え入ってしまいそうなラミアに対して女将は冷酷に言う。
「これも自業自得《さだめ》だ……諦めな」
――――ゴッ!!
そしてその鉄拳がラミアに振り下ろされた!!
「だ、ダメじゃ女将――――その一撃は強すぎる!!」
叫ぶ百恵ちゃん。
彼女はその攻撃の威力がわかっているのだろう、ラミアが消滅させられるのを確信したかのように悲痛に叫んだ!!
『ぎぎゅっ!!??』
ラミアも恐怖に縮こまり、観念したかのように目を堅くつむる!!
拳にまとう結界の装甲は、最後のあがきとばかりに作り出したラミアの結界を、まるで薄ガラスのように簡単に打ち破り、そして――――、
――――ドガァッ!!!!
血しぶきが舞った。
「ぐぅっああぁぁぁっっぅつつっ!!!!」
悲鳴が天井に突き抜けた。
でも、それはラミアの声では無かった。
「……な、に? ……あんた……!?」
それは――――私が上げた悲鳴。
すんでの所でラミアと入れ替わった私の魂は、彼女を庇い、押しのけて、体の主導権を奪い取った。
そして代わりに受けたのだ、女将の鉄拳を。
しかし、腕でガードし、防御したにもかかわらず女将の鉄拳は、それとは全く関係なく魂に直接ダメージを与えてきた。
「ぐ……ぐあぁぁぁぁぁぁっ……!!!!」
今まで感じたことのない……己の存在そのものが吹き飛ばされるような一撃に、私は痛みではなく、恐怖を大きく感じた。
……ラミアがこれを食らっていたら……間違いなく消滅させられていただろう。
直感でそう感じるほどの強力な一撃だった!!
ぐらりと体勢を崩し、倒れ込む私。
『きゅ……きゅきゅぅ……』
ラミアが背で心配そうな声を上げる。
ああ……無事だったんだね。
入れ替われて良かった。
咄嗟のことで自分でも何をどうやったかわからないけど……とにかくこの子が消されると思ったら勝手に魂《からだ》が動いていた。
……これも親心みたいなものなんだろうか?
とにかく本能でこの子を失いたくないと感じた。
その力が身体の主導権を奪い返したのだろう。
「……………………ふぅん」
と、女将がやれやれと言った様子で結界の甲冑を解いた。
「……久々にいい運動が出来ると思ったんだがねぇ。……奥に引っ込んでしまっちゃ、これ以上痛めつける理由も無くなるね……主人に感謝するんだねラミアよ?」
そう言って、構えも解き、着物の乱れを治す女将。
……どうやら、これ以上戦う意志は無いようだ。
――――た、助かった??
「……もっとも、まだ暴れ足りないって言うんなら、まだまだ相手してやってもいいんだけどもね?」
ギロリとラミアを睨みつける。
『ぎゅぎゅぎゅっ!!!!』
毛を逆立て慌てて私の中に入ってしまうラミア。よほど女将の攻撃が痛かったのだろう。もはや彼女にもその意志は無いようだった。
私の体もボロボロになっていた。
「あんたも。……宝塚だったかい? あの状況でよく咄嗟に手綱を掴めたねぇ、褒めてやろうじゃないか。今の感覚を忘れるんじゃないよ? 能力者ってのは魑魅にナメられたらお終いだからねえ、今後ともしっかり躾けておきな。……次にまた同じような騷ぎ起こしたら、今度は本気で退治してやるからね?」
座りきった目を私に向け、無茶苦茶になった天井とロビーを指差して言う。
いや……あの、それやったの私じゃないんです。
言い訳しようとしたが、したら余計怒らせるパターンだと悟り黙る。
しかし……感覚を忘れるなと言われても……どうやったか自分でもわからない。
でも、とにかく彼女《ラミア》を守りたいと思い、抱きしめたような感覚はあった。
それがラミアの心を落ち着かせ、私に手綱を委ねるきっかけになったのだとしたら、それこそが『今の感覚』だったのだろう。
――――つまり。
私の能力発動条件とは――――ファントムとの『信頼』だったのかもしれない。
彼女を理解し、受け入れることが私の超能力となるのだ。
と、中からじんわりと暖かな感覚が広がってくる。
ラミアが傷を治してくれているようだった。
まるで『そうだよ』とでも言うように。
よかった……もう暴れる素振りは無くなった。
私はホッとして……そのまま意識を失った。
私の体を乗っ取り暴走するラミアは確かに危険な存在だ。
このまま放置は出来ない。
だから退治するのが正解だし、それに文句を言う権利は私には無い。
百恵ちゃんや菜々ちん、施設の人たちの命を奪うことになるくらいなら、私は殺されたって……嫌だけど……文句を言うつもりもない。
「結構持ち堪えるねぇ?
……お前みたいに頑丈《タフ》な魑魅は消すのが惜しいんだが……」
――――パキィンッ!!
女将が、結界を全身に張り付かせた!!
それはまるで結界で作られた甲冑のよう。
手、足、頭、全身に装着されたそれは、あらゆる能力に対しての堅牢な防御力とファントムに対しての絶大な攻撃力を同時に併せ持つ。
両腕に光る手甲は、結界で出来た打撃武器。
対超能力者に特化した鎧武者である。
なるほど、これは……寮長を任されることはある。
どんなイキった新人が来ても、この人にかかれば瞬殺されるだろう。
弱り、消え入ってしまいそうなラミアに対して女将は冷酷に言う。
「これも自業自得《さだめ》だ……諦めな」
――――ゴッ!!
そしてその鉄拳がラミアに振り下ろされた!!
「だ、ダメじゃ女将――――その一撃は強すぎる!!」
叫ぶ百恵ちゃん。
彼女はその攻撃の威力がわかっているのだろう、ラミアが消滅させられるのを確信したかのように悲痛に叫んだ!!
『ぎぎゅっ!!??』
ラミアも恐怖に縮こまり、観念したかのように目を堅くつむる!!
拳にまとう結界の装甲は、最後のあがきとばかりに作り出したラミアの結界を、まるで薄ガラスのように簡単に打ち破り、そして――――、
――――ドガァッ!!!!
血しぶきが舞った。
「ぐぅっああぁぁぁっっぅつつっ!!!!」
悲鳴が天井に突き抜けた。
でも、それはラミアの声では無かった。
「……な、に? ……あんた……!?」
それは――――私が上げた悲鳴。
すんでの所でラミアと入れ替わった私の魂は、彼女を庇い、押しのけて、体の主導権を奪い取った。
そして代わりに受けたのだ、女将の鉄拳を。
しかし、腕でガードし、防御したにもかかわらず女将の鉄拳は、それとは全く関係なく魂に直接ダメージを与えてきた。
「ぐ……ぐあぁぁぁぁぁぁっ……!!!!」
今まで感じたことのない……己の存在そのものが吹き飛ばされるような一撃に、私は痛みではなく、恐怖を大きく感じた。
……ラミアがこれを食らっていたら……間違いなく消滅させられていただろう。
直感でそう感じるほどの強力な一撃だった!!
ぐらりと体勢を崩し、倒れ込む私。
『きゅ……きゅきゅぅ……』
ラミアが背で心配そうな声を上げる。
ああ……無事だったんだね。
入れ替われて良かった。
咄嗟のことで自分でも何をどうやったかわからないけど……とにかくこの子が消されると思ったら勝手に魂《からだ》が動いていた。
……これも親心みたいなものなんだろうか?
とにかく本能でこの子を失いたくないと感じた。
その力が身体の主導権を奪い返したのだろう。
「……………………ふぅん」
と、女将がやれやれと言った様子で結界の甲冑を解いた。
「……久々にいい運動が出来ると思ったんだがねぇ。……奥に引っ込んでしまっちゃ、これ以上痛めつける理由も無くなるね……主人に感謝するんだねラミアよ?」
そう言って、構えも解き、着物の乱れを治す女将。
……どうやら、これ以上戦う意志は無いようだ。
――――た、助かった??
「……もっとも、まだ暴れ足りないって言うんなら、まだまだ相手してやってもいいんだけどもね?」
ギロリとラミアを睨みつける。
『ぎゅぎゅぎゅっ!!!!』
毛を逆立て慌てて私の中に入ってしまうラミア。よほど女将の攻撃が痛かったのだろう。もはや彼女にもその意志は無いようだった。
私の体もボロボロになっていた。
「あんたも。……宝塚だったかい? あの状況でよく咄嗟に手綱を掴めたねぇ、褒めてやろうじゃないか。今の感覚を忘れるんじゃないよ? 能力者ってのは魑魅にナメられたらお終いだからねえ、今後ともしっかり躾けておきな。……次にまた同じような騷ぎ起こしたら、今度は本気で退治してやるからね?」
座りきった目を私に向け、無茶苦茶になった天井とロビーを指差して言う。
いや……あの、それやったの私じゃないんです。
言い訳しようとしたが、したら余計怒らせるパターンだと悟り黙る。
しかし……感覚を忘れるなと言われても……どうやったか自分でもわからない。
でも、とにかく彼女《ラミア》を守りたいと思い、抱きしめたような感覚はあった。
それがラミアの心を落ち着かせ、私に手綱を委ねるきっかけになったのだとしたら、それこそが『今の感覚』だったのだろう。
――――つまり。
私の能力発動条件とは――――ファントムとの『信頼』だったのかもしれない。
彼女を理解し、受け入れることが私の超能力となるのだ。
と、中からじんわりと暖かな感覚が広がってくる。
ラミアが傷を治してくれているようだった。
まるで『そうだよ』とでも言うように。
よかった……もう暴れる素振りは無くなった。
私はホッとして……そのまま意識を失った。
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