超能力者の私生活

盛り塩

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第139話 謎の襲撃者②

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 ドシャドシャと、二人が床に崩れ落ちる。
 全力で精気を吸収してやった。
 多分もう生きてはいないだろう。

 だが、それに罪悪感は感じない。完全なる正当防衛だったからだ。

 ゆらりと傾く体が見えた。
 それはもう一人の襲撃者。
 そいつも糸の切れた人形のようにフラフラとよろめくと、二人に覆いかぶさるように倒れ込んだ。
 見ると、胸と腹から血を流して痙攣していた。

「――――危なかったわ……ね」
 先生は真唯さんを庇いながら煙の立つ銃を向けていた。

「――――ゴホッゴホッ!!」

 咳とともに血を吐く先生。
 先生の脇腹からも大量の血が流れていた。

「――――先生っ!!」
 銃撃を躱せなかったのだろう、その傷は深かった。

「……う……ぐ…………っ」

 真唯さんも頭から血を流している。
 先生に押し倒されたおかげで直撃はしなかったようだが、頭蓋骨がえぐれて意識が朦朧としているみたいだ。

「大変、ラミアっ!!」
 私は冷静に判断し、死ぬ子先生の回復を先にしようとした。

「違うわよ馬鹿っ!!」
 しかしその選択を叱責されてしまう。

「え、でもっ!!」
「私より……その襲撃者を回復させなさい」
 息も絶え絶えに、先生は自分が撃った相手を目で指し示した。

「なんで? こいつは敵でしょ!?」

「……全滅させちゃダメよ……。一人は生かして、事情を吐かせなさい……はぁはぁ……」
「そ……それは……」

 た、たしかにそれはそうかも知れないけど。
 このまま三人とも殺してしまったら、こいつらが一体誰で、何の目的で襲撃してきたかわからなくなってしまう。
 その情報をまずは優先しろと先生はいっているのだろうが……。

「……くっ!!」

 私は悔しい気持ちを抑え込んで、最後に倒れた侵入者に向き直る。
 先の二人はもう助からないだろう。
 完全に命が潰えた相手にはさしものラミアでも、その力は及ばない。
 しかし、こいつは重傷だが、まだかろうじて生きている。

 今ならまだ回復させられる。
 しかし、先生や真唯さんも重傷なのだ。

「早く……私は平気よ、真唯も…………死にはしないわ……」
「――――……わかった」
 その先生の言葉を信じて、私は襲撃者に能力を使うことを決心する。

 しかし。
 再びそいつに向き直った時――――。

 そいつは自分の眉間に銃口を当てていた。
 マシンガンを逆手に持って。

「――――ダメ、自決させちゃっ!!」

 先生が叫ぶが、
 ダラダダンッ――――!!!!
 直後、銃はそいつ自身の頭を貫いた。

「……な、なんてことを……」

 私はその襲撃者の行動に唖然とし、理解に苦しんだ。
 情報を渡すまいと自害したんだろうが、でもそんな事そんな簡単にできるものなのか? 映画や小説の話しでは聞いたことはあるが、実際にそんな捨て身の判断を見せられたのは初めてだったからだ。

「早くっ!! 回復させなさいっ!! 今ならまだ死んでないっ!!」

 頭は半分ほど吹き飛んでしまっているが、しかし今はまだ、この瞬間は魂が残っているとの見立てだろう。
 私も、まだギリギリ回復が間に合うだろうと思ったが、

「――――ごふっごふっ!!」

 先生が湿った咳をした。
 その口からはまた大量の血が吹き出している。
 その様子から、先生の傷はきっと言っているほど大丈夫じゃない。

 私の回復は――――多分、あと二回は使える。
 ここで襲撃者を治しても、死ぬ子先生に使う分は残る計算だが、でもそれをすると今度は私が行動不能になってしまう。
 そうなると回復させた襲撃者が暴れたり、増援が現れた場合――――そこで私たちは全滅する。
 
 なので、この状態で使える回数は実質一回。

 その一回をどっちに使うか。
 また私の前に命の天秤が現れた。

 それを見て私は思った。
 この能力を持っている限り、この天秤には多分一生付き纏われるんだろうなと。
 私はずっと命の選択を迫られるんだろうなと。

 ああ良かった。

 脳天気な両親の子供として生まれて。
 その性格を受け継いで生まれて。

 ――――馬鹿に生まれて良かった。

 私は迷わず先生を回復させた。




「馬鹿っ馬鹿っ!! このスーパーお馬鹿っ!!!!」

 完全に息絶えた三人の襲撃者を見下ろしながら、大人モードの先生が私をスリッパでどついてきた。
 スパァンと軽快な音がなる。
 これほど治しがいの無い相手もいないだろう。

「命を救ってあげた相手に随分な仕打ちをしてくれますなぁ……」
 どつかれた頭を擦りながら私は仏頂面で先生を睨んだ。

「だから私は大丈夫だって言ったでしょ!! あ~~も~~どうすんのよ? 結局こいつら何者なのかどう言うつもりなのか全部わからないままじゃないっ!!」

 すでに屍と化している男達を蹴り飛ばして先生が激高する。
 連中の覆面は剥ぎ、顔や性別は一応確認したが、それだけの情報では今のところ何もわからない。
 一体こいつらは本当に何なのだ。
 なぜ急に私たちを襲って来たのだ?
 それを確認する術を潰した私が言うのも何だが、調べない訳にはいかない。

「あの……真唯さんは大丈夫そうですか」

 診療所にひとり出勤していた看護婦さんが、真唯さんの頭に包帯を巻いて応急処置をしてくれていた。
 その人に彼女の容態を確認する。

「……大丈夫です。脳震盪を起こしているだけです」

 すぐにでも能力で回復させてあげたいが、今は私が行動不能になるのはリスクが高すぎるとの判断で、安全が確保されるか、私がフルチャージするまでは申し訳ないが寝かせておくしか無かった。
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