超能力者の私生活

盛り塩

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第184話 一人戦う③

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 私の表情を読み取り、んふふふふといやらしく笑う所長。
 それに耐えかね、視線を外して無視を決め込む。

「キミの言う通りさ。世間の人間なんてみな自分以外の不幸なんて娯楽としか感じていないよね? そしてその娯楽が無くなるとすぐに次のオモチャ弱者を見つけ出してまた遊び始めるんだ。救えない下衆どもばかりさ」

「……………………」

 真っ向から否定する言葉が出てこない。
 所長の言っていることは間違ってはいないからだ。
 でもだからといって無差別に殺していいはずがない。
 私はそれを口にしようとしたが、先に所長が話を続けた。

「でもねぇ……僕もさ、そんな下衆どもと同等なんだよ」
「……?」
「強者が弱者を踏みにじるのは当然の行動と言うことさ。悲しいことだけれどそれが摂理というものだよ。だったら、団結して強者となった僕ら能力者が、代わりに弱者になった一般人を娯楽代わりに踏みにじるのも自然な行動だとは思わないかい?」

 反論できない。
 それはやはり自分の中に所長に同調してしまう狂気があるということ。
 それを認めたくなくて私はただ黙ってうつむく。

「JPAも悪くはないよ? でも、やり方が生ぬるい。世間に痛めつけられた同胞を保護するだけじゃね。……それだけじゃ救われない精神もあることを忘れちゃいけない」
「…………それは」
「キミも正也くんや渦女くんの過去を聞いたんだったらわかるだろう? あれだけ凄惨な迫害を受けて、それでも保護したから明日からは全てを忘れて元気に生きていこう、なんて都合の良いことは出来やしないよ。……現に彼らは私が仕返しの機会を与えてあげたにもかかわらず、その後ずっと収まらない悔しさと怒りで精神を病んでいたよ?」

 私は気が狂ったように過去を語る渦女の顔を思い出して唇を噛む。
 いたぶった連中に復讐したはずなのに、彼女の精神は壊れたままだった。

「例え相手を殺してやったとしても、それでも収まらない怒りってのは、やがて自分を壊していくものなんだよね。正也くんや渦女くんだけじゃない。彼らと同じような暴虐を受けた犠牲者はまだまだ数え切れないほどいて、そのほとんどはろくに復讐する事も許されず一生をその悔しさと怒りの熱に焼かれて過ごさなくちゃいけないんだ」

 私も虐められた経験があるからその気持はよくわかる。
 自尊心を傷付けられる痛みというのは、殴られるよりも刺されるよりも辛いものだ。そしてその痛みはジワジワといつまでも心を抉ってくる。
 親戚やクラスメイトからの無視や嘲笑、子供レベルの暴力程度だった私ですら、未だに当時を思い出すと息が苦しくなる。
 家族を殺されたり、身を汚された彼らの無念は相手を百回殺しても収まるものではないことは充分理解出来た。

「そんな彼らの行き場のない怒りってさ……いったいどうしたらいいと思う?」
「……どうしようも……無いと思います。……おさめようがないと思います」
 その返事に所長は満足気にうなずき、
「その通り。キミはやはりいいね。実に素直な回答をくれる。そう、収まらないんだよ。そして溢れ出し、はみ出した怒りはどこに行ってしまうんだろう?」
「それは……」

 私は口ごもった。
 そんな答えなど一つしかないじゃないか。
 代わりに所長が答えた。

「やはり、下衆どもに受け取ってもらうしかないよね♡」
 そう言う所長の目は渦巻く狂気に満ちていた。




 一台の白いワゴン車が国道を走る。
 車内には血の匂いが充満していて窓を開けながらじゃないと、とても座ってなどいられない。そんな風舞う助手席で、男は運転している同僚に声をかける。

「……なあ、本当にこのまま湖に沈めるのかよ? バラバラに切断しといたほうが良くねぇか?」
「確かにな。そもそも湖に沈めるよりかはゴミ処理場で焼いたほうが証拠が残らんからな、ツテのある施設を知っている。そこに持っていったほうがいいかもな」

 運転手は荷台に寝かせてある二人の死体をミラー越しに確認する。
 JPA監視官の七瀬マリアとその妹、百恵である。

「だろう? その方が騒ぎにならないし確実にトドメを刺せるぜ?」

 二人の心臓は間違いなく止まっている。
 それは車に運び込むときに確認済みだ。
 しかしそれでも相手は超能力者。
 たとえ心臓が止まっていたとしても何が起こるかわからない。
 万全を喫するならば遺体を残すような真似はせず、燃やして灰にしてしまったほうが良い。

「しかし、余計な真似はするなと最恩訓練生に言われている。……常に俺たちを監視しているとも」
「でもよ、それはあの女の私情みたいなもんだろ? 従う必要あるのかよ?」
「バカ、言葉を選べ!! 監視されていると言っているだろう!?」

 そう言われた助手席の男はヤバいとばかりに口を塞ぎ冷や汗をかく。
 まだ十六歳の訓練生とは言え、JPAに昇格するほどの能力者だ。どれほどの精度で自分たちを監視しているかわからない。それになんと言っても、あの片桐監視官の補佐を努めている人間。怒らせてタダで済むとは思えない。

「……きっと、最恩訓練生には何か思惑があるのだろう。俺たちは余計なことを考えずに黙って指示に従っておくほうが無難だぜ」
「そ、そうだな」
「……それに、所長が決起してくれたおかげで、これから嫌って言うほど一般人を殺して回れるんだ。鬱憤はそこで晴らそうぜ?」
「……そうだな、それがいいな」

 うなずいて、助手席の男は歩道を歩く女子高生を目で追った。
 そして色々想像し舌なめずりをする。

「なあ、一般人相手になら何をしてもいいんだよなぁ?」
「ああ、そうさ。それだけの権利が俺たちにはある。……ただし、勝手には動くなよ? 必ず指示が出るまで待てよな」
「ち、お預けかよ」
「そう言うなって。もうじき俺たちにも虐殺命令《ゴーサイン》が回ってくるさ。お楽しみはそれからだよ」

 ニヤニヤしながら男はハンドルを指で叩いてリズムを刻む。

 その時が来たら、いままで自分が受けた侮辱や傷、狂わされた人生。その全ての代償を世の中に払わせてやる。その機会を与えてくれる大西所長には感謝の二文字しかない。
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