超能力者の私生活

盛り塩

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第203話 菜々のメッセージ①

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「――――ぐっ……!!」
 上昇していくヘリの縄ばしごに掴まりながら女将が苦痛に顔を歪めた。

「お、女将さん!??」
 バランスを崩し、落ちそうになる彼女をとっさにに支える。

「……すまないねぇ。ちょっと疲れたよ……歳かねぇ……」

 力なく言う女将さんは額から玉の汗を流していた。

「いま回収しますっ!!」

 開けられたヘリの扉から戦闘服姿の女性が二人、顔を出した。
 見たことのある顔だ。
 きっと寮で働いている仲居さんたちだろう。

 ウインチでゆっくりと引き上げられて、やがて昇降口にたどりつく。
 二人に引き上げられる女将さんと私。
 乗り込む際にスポーツブラを機体の金具に引っ掛けてしまい、ペタチチが丸出しになってしまう。

「――――あ……と、ちょっと待って……!?」

 引っ掛かりを解こうと手を伸ばす私だが、戦いでボロボロになっていたスポブラはそのままビリビリと破れていき、スポンと夜の空へと旅立ってしまった。

「NO~~~~~~~~っ!!」

 唯一の服を失った私の悲痛の声は、大きなローター音に消されていった。




「女将……大丈夫ですか?」

 生まれたままの姿で座席に横たわる私。
 それでも女将の身を案じて声をかける。

「……あんたもね」

 もう開き直り、隠そうともしていない私の姿を見て呆れる女将。
 なんとも締まらない状況だが、申し訳ないとしか言えない。

 仲居の戦闘員さんから毛布を受け取った。
 ありがたやありがたや。

 対面の席に座り、タオルで汗を拭いながら女将はため息をついた。

「あれしきの戦闘でここまで消耗しちまうとはねえ……。もうちょっと若けりゃ大西ごときに背中を見せたりしないんだけどね……」

 情けないね、とため息をつく女将。
 一見、圧倒的な実力差で押していたように見えたが……やはり歳が歳だけに、実はかなり無理して戦っていたのだと今になってわかった。

「ごめんなさい女将さん……私のために……無理させてしまって」
「何いってんだい? 謝るのはこっちの方だよ。……まだ訓練生のあんたを、こんなくだらない内部抗争に巻き込んで……まったく面目《めんもく》ない話だよ」

 ポンと頭に手を置かれる。
 その感触に私の緊張はほぐれ、また涙がぼろぼろと流れてきた。
 それを見て女将さんがフッと笑う。

「……私が来るまでよく一人で持ち堪えていたね。……しかもあの片桐をノシてるとは思わなかったよ? ……あいつが元気だったら……今頃あそこにゃ死体の山が出来ていたろうからね」
「――――??」
「私が大西を。コイツが片桐をって手順だったのさ」

 言って床の鉄板をコンコン小突く。

「これって……この戦闘へりですか……??」
「そうさ、あいつを止めるにはこれくらい必要だろうよ」

 聞いてゾッとする。
 ベヒモス化した片桐さんVS戦闘ヘリ(AH-1S コブラ)
 あかん……そんなことしたら辺り一面火の海と化す。

「もっとも、四本木のやつがいてくれたら、そっちのほうが良かったけどもね」

 四本木とは……たしか料理長の名前。

「料理長……そうだ、料理長はどこにいるんです? 私たち料理長と合流するために……――――っ!!」

 そこまで言ってまた涙が溢れてくる。

「その……途中………襲われて、百恵ちゃんと……死ぬ子先生が殺されて……菜々ちんが裏切ったとか言ってきて……もう……何が…………なんだが……」

 ぐじゅぐじゅになって私はこれまでのことを話した。
 女将さんはそれを全部聞いてくれて、そして……教えてくれた。

 ――――「菜々は裏切っちゃいないし、二人も多分生きてるよ」と。




「菜々がベヒモス化って……どういうことだい?」

 料理長が険しい顔を七瀬に向けた。
 彼女たちを乗せたヘリは長浜の特別病院へ向けて飛んでいた。

「私たちを撃つ前に……あいつが耳打ちしてきたんです……」

 弱々しい声で七瀬はあのときの菜々の台詞を思い出し、伝えた。

「……私を撃つ直前……あの子が言ったんですよ……『二人のお墓には先生の好きなクレマチスの花を添えに行きます』って」
「……それが何だっていうんだい?」

 言っている意味がわからず、料理長は首をかしげる。

「私は……黒百合が好きなんですよ……」
「……だから、どういうことだい?」

「菜々は……おそらく……花言葉に自分の状況を添えて……伝えたかったんだと……思います――――スーーーー……」

 そこで、七瀬の意識がいったん途絶える。
 ――――バシンッ!!!!
 そこにすかさず瀬戸のビンタが炸裂した。

「むおっ、痛いっ!!」
「いいところで寝ないで、続きが気になるでしょうがっ!!」
「……あんた、私……さっきまで三途の川で石積んでたのよ……ちょっとは、いたわってくれる??」
「……もうすぐ病院に着くから、また死んでもいくらでも蘇生してあげるわ、だから安心して最後の力を振り絞りなさい」

 ちなみに二人は同い年で同期生である。
 血も涙も容赦もない同僚に七瀬はワナワナと唇を震わせつつも、続きを話した。

「んぐぐ……クレマチスの花言葉はね……『旅人の喜び』『精神の美』そして……『策略』よ」
「策略……?」

 瀬戸と料理長がまた首を傾げる。

「確かに思わせぶりな言葉だが、これだけじゃ何のことかわからないねぇ」
「マリア、それあんたの勝手な深読みじゃないの?」
「クレマチスには……もう一つ『鉄仙』って言う種類の花があるのよ……」
「テッセン??」
「聞いたことないねぇ」
「……鉄仙の花言葉は……『甘い束縛』」
「……束縛……」

 それを聞いた瀬戸の顔が強張った。

「……なるほど、甘い束縛か……つまり自分は所長に縛り付けられていると、菜々の奴は言いたかったわけかい?」

 料理長が訊くと、七瀬は黙ってうなずいた。

「所長の能力……マステマは……能力を解放する代わりに……相手の自由と生命を要求してきます……。アレに取り憑かれたら最後……自分の意思、思惑さえもコントロールされてしまう……正也や渦女みたいに……」
「まるで悪魔の契約だねぇ……甘い束縛……なるほど、言い換えるには丁度いい言葉かもしれないねぇ」
 
 吸い込まれるような漆黒の湖の先に、きらびやかな街の光が見えてきた。
 七瀬の話しが本当ならば、菜々はいまこの水面のような闇の中にいる。
 このまま放っておくわけにはいかないなと、料理長はその光を目に映して呟いた。
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