【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)

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23.

 それからの母との時間は短いものだった。

 母は起き上がることもできずにベッドの上で毎日を過ごした。

 私はロイと花を買いに行く。
 である、ロイに気が引け、何度か遠慮をもうしでたが、「僕以外とは行かせせたくないから」と、付き添ってくれる。

 季節を先どりした花を腕いっぱいに買い込む。

 母には、寂しい思いをして欲しくなかった。
 楽しくいて欲しくて毎日毎日、母の側でいた。お父さんも同じらしく、部屋の外でロイと何かと話し込んでは、部屋に入ってくる。
 ロイもお父さんも、この屋敷に仕事場を設けたらしい。
 お父さんにいたっては、母の側に机を持ってきているのだからー。

 母とマザー、私とおしゃべりをしていると、仕事の手を止め、にこにこと笑っている。

「お仕事、してください」

 そう母にいわれると、お父さんは口を尖らせている。

「だって可愛いのに・・・」

 大きな子供みたい。
 少しだけ『お父さん』と呼ぶのを早まったのてはないかと思うこともあった。

「仕事をしている、かっこよさを見せてあげて、ください」

 母の一言で、やる気を見せるお父さん。

 笑う母。

 マザーと私も笑う。

 おじいちゃんとも話す。
 母の子供の頃の話を。

 私の知らない母が、そこにいた。
 生意気な事を言って大人を困らしたこと。
 木登りをしたこと・・・。

 私と変わらない少女が隣にいるように感じだ。自由に生きた明るい少女がー。

 そして、王太子妃教育の過酷さ。
 表情を出さないようにする術。外交交渉について。前王妃様からの教育のことを・・・。外部に知られてはいけない事のはず。
 政治的に裏切りにあたるのでは?・・・と聞けば、「そんなことを気にしなくても、壊れる時は簡単に壊れるものよ。こんな事で国が潰れるならそれまでのことね」と笑っていた。

 母は、あの国を見限ったのだろう。
 当然だが・・・。

 そのおかげで、私は救われたのだから今更なのではあるのだが・・・。

 母の話はとても楽しかった。

 だから、だからー、こんなに早いとは思わなかった。


 結婚式をして1ヶ月もしないうちに、母はお父さんの腕中で息を引き取った。

 最期に母は言った。

「わたくしを忘れてくださいね」
「何を言ってる。僕らは『永久の誓い』をしたんだ。君は『永久の妻』だよ。君の死後、僕が君以外の誰かを娶ろうものなら、神罰が下されるよ」
「マゼル様は・・・、本当に・・・」
「君を愛してるからね」
「貴方に最期に逢えて、幸せ、でしたわ。マゼル様、後はお願い、します」
「うん」

 母はこちらを見た。

「お父様、セシリアをお願いします」
「わかった。安心しろ。ひ孫ができるまでは死ぬ気はないからな」

 ふふふっと笑う。
 
「セシリア」
「・・・は、い・・・」
「ごめんなさいね。我儘な母親で。出来損ないの母親で」

 頭を振る。
 できそこないなんかじゃない。
 私のせいだ。
 私の所為なのだ。

 こいこいと手招く。
 母は、近づいた私の手を引っ張った。
 いきなりのことで、バランスを崩し母の胸に飛び込む形になった。 
 母は、私を抱きしめた。
 耳元で、囁かれる。

「生まれてきて、ありがとう・・・」

 ありがとう?
 本当に?

「あなたに会えたことを後悔していないわ。セシリア」
「かあ、さん・・・?」
「・・・セシリア、あし、てるわ」

 ゆっくりと目が閉じられた。

 息が、呼吸が止まる。
 腕の力が失われていく。

「かあさん!かあさんっ!!」

 涙が止まらなかった。

 ロイが後ろから抱きしめてくれた。

 私は泣いた。

 泣いた。

 誰もが泣いた。



 母は笑っていた。

 最期まで幸せそうに、笑っていたー。

 
 
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