【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)

文字の大きさ
28 / 51

閑話、エリザ

 あの方に再び逢えるとは思わなかった。

 夢現に現れたあの方に。
 自分が知っている時より、いい意味で歳を重ねた姿をしていた。それでも変わらない眼差し。
 だから、本当にあの方にだとわかった時、どんなに驚いた事か。

 嬉しい反面、場所でわたくしがいる事を知られたくなかった。

 あの方は全てを知っているようだった。

 セシリアの名前を口にしたのだ。



 わたくしの娘。
 あの男との子供。
 疑いのない事実の証。

 あの子がお腹にいる事に気づいた時、奈落の底に落とされたように思った。今いる場所でさえ、地獄同然だと言うのにそれ以上のショックを受けたのだ。

 堕ろす?
 堕したい。

 でも、王族の血を引く子供。
 もしかすると、復讐できる?
 そう思ったのも事実。

 膨らむお腹。
 動き出すのがわかりだす。


 気持ち悪かった。自分の胎内にある。あの男のものが混じっていると思うだけで気持ちが悪かった。
 でもその反面、『命』が愛おしかった。

 相反する想い。
 
 わたくしは、娼館にとってもお荷物だった。
 それでも、わたくしはあの子を産んだ。

 苦しいお産。一人で迎える初めてのお産。
 誰かに助けて欲しかった。
 自然にあの方の名前を呼んでいた。呼ばずにはいられなかった。

 何もなければ、わたくしはあの方の子供を・・・産むはずだったのに・・・。生まれた子供を見れば、あの男の目の色をしていた。紛いない色。

 突きつけられる、変えることのできない事実。
 ふにゃふにゃの赤ちゃんは可愛い女の子。でも、憎い男の色を持っている。

 苦しかった。

 『生まれてきてありがとう』

 そう言いたくとも、口にできなかった。

 セシリアと名付けた。
 あの方と一度だけ話した未来の話。
 もし・・・。その時の名前。
 いいわよねって、思って・・・。

 わたくしは、働いた。
 拒否権もない仕事。
 公爵令嬢として生きてきたわたくしにとって、自尊心を捨てることに等しい行いだった。

 でも、生きていく為には必要だった。
 セシリアを育てる為にも必要な行為。

 必死だった。
 必死だった。

 セシリアの気持ちをおざなりにしてー、生きてきた。
 ひどい事を言ったのも一度や二度ではない。
 あの子の存在を否定したこともあった。
 お酒も抜け、冷静になると自己嫌悪に陥ることも度々あった。
 母親として何が正しいのかわからなくなっていった。

 そんなとき、娼館の主人がセシリアを売り出す計画を立てているのを立ち聞きしてしまったのだ。
 
 あの瞳を目玉にして、貴族に売り出すと言うのだ。

 血の気が引いた。
 あの子を政治に使うのだろうか。
 そうなれば、あの子の幸せはない。
 自分もあの男の復讐に使とは思ったこともある。でも、あの子はじゃない。

 わたくしの娘だ。
 幸せになる権利はあるのだ。

 客から、フィアナらしき女性の噂話を聞いた事を思い出した。元公爵令嬢が孤児院を営んでいると。

 フィアナ・・・、わたくしのせいで・・・、助けてくれるだろうか?

 いや、フィアナなら大丈夫だ。


 フィアナであると確証を得たわたくしは、手紙を書いた。
 そして、それをセシリアに託して、あの子を追い出した。

 娼館の主人には、あの子のこれまでの養育費や、これからあろうはずのあの子の損失分をわたくし自身が払うと約束した。

 そう、わたくしは公爵令嬢よ。
 馬鹿にしないで。
 そこらにいる娼婦とは違うの。教育も、美貌も全て違う。これを武器にして成り上がって見せるわ。
 娼婦のマナーを向上させ、質を上げることにも協力した。

 だが、わたくしにとって過酷な環境下だった。
 肺病に侵されたのだからー。



感想 26

あなたにおすすめの小説

今更ですか?結構です。

みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。 エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。 え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。 相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。

私の存在

戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。 何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。 しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。 しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…

暗闇に輝く星は自分で幸せをつかむ

Rj
恋愛
許婚のせいで見知らぬ女の子からいきなり頬をたたかれたステラ・デュボワは、誰にでもやさしい許婚と高等学校卒業後にこのまま結婚してよいのかと考えはじめる。特待生として通うスペンサー学園で最終学年となり最後の学園生活を送る中、許婚との関係がこじれたり、思わぬ申し出をうけたりとこれまで考えていた将来とはまったく違う方向へとすすんでいく。幸せは自分でつかみます! ステラの恋と成長の物語です。 *女性蔑視の台詞や場面があります。

男爵令嬢の記憶が交差する

まるねこ
恋愛
男爵令嬢であるフランはあるきっかけで前世の記憶を思い出していく。 意味のない夢だと思っていたけれど、それは次第に現実と絡み合い―― Copyright©︎2025-まるねこ

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

安らかにお眠りください

くびのほきょう
恋愛
父母兄を馬車の事故で亡くし6歳で天涯孤独になった侯爵令嬢と、その婚約者で、母を愛しているために側室を娶らない自分の父に憧れて自分も父王のように誠実に生きたいと思っていた王子の話。 ※突然残酷な描写が入ります。 ※視点がコロコロ変わり分かりづらい構成です。 ※小説家になろう様へも投稿しています。

さよなら、私の初恋の人

キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。 破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。 出会いは10歳。 世話係に任命されたのも10歳。 それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。 そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。 だけどいつまでも子供のままではいられない。 ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。 いつもながらの完全ご都合主義。 作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。 直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。 ※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』 誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。 小説家になろうさんでも時差投稿します。

【完結】フェリシアの誤算

伽羅
恋愛
前世の記憶を持つフェリシアはルームメイトのジェシカと細々と暮らしていた。流行り病でジェシカを亡くしたフェリシアは、彼女を探しに来た人物に彼女と間違えられたのをいい事にジェシカになりすましてついて行くが、なんと彼女は公爵家の孫だった。 正体を明かして迷惑料としてお金をせびろうと考えていたフェリシアだったが、それを言い出す事も出来ないままズルズルと公爵家で暮らしていく事になり…。