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馬車に揺られ行く。
通り過ぎる景色。
ガラス窓に写る、色味のない私の顔。

全てがなくなり、私の心は空っぽだった。




最愛のあの人は、私ではない方を選んだ。
あの方の腕にしがみつき、恋する眼差しであの方を見上げていた。

私はなんだったのだろう。
あの方の婚約者として、10年、寄り添ってきた。なのに、三年足らずであの子はあの方の心をつかみ、腕の中でいる。

あの方は私の心内を知ろうとしなくなった。

私は尽くした。
あの方のために。

頑張ったのよ。
努力したの。
血が滲むような・・・。

独りよがりだった。

見てくれなかった。


どうして?
どうしてあの子の言う事だけ信じるの?
私は?
私の話は聞いてくれないの?
どうして?
私の目を見て。
声を聞いて。
私を見て。

悲しい。

悲しい。
悔しい・・・。

私、いじめてないわ。
そんな事するはずないじゃない。
なぜしないといけないの?

私は貴方のなんだったの?

なんで、なんで、あんな事したの?

なぜ、私に一時いっときの希望を与えたの?

私は何なの?


あの方は、学園の卒業パーティーで私に婚約破棄を突きつけた。

あの方は私を罵倒した。

あの子の取り巻きが私をなじった。

私の味方はいなかった。

泣くことも、笑うことも出来なかった。

ただ、立ちつくした。

動かない私を苛立つようにして突き飛ばした。
衛兵に言って、私を追い出した。

私は何?



どうやって帰ったのか、よく覚えていない。

帰ったら、お父様に叱られた。

公爵家の娘が、とか、
恥だ、とか
私が悪いんだ、とか・・・。

じゃあ、どうすればよかったの?

お父様に言ったわ。
でも、何もしなかったじゃない。

私一人の責任?



そう、私は失格なのね。

ダメな存在なんだ。

恥ずべき存在。



修道院に送られることになった。

昨日の今日・・・。

早いわね。


きっと、あの方はお父様にも手を回したんだわ。

お金?かしら?

お母様はよくお金を使うものね。

資金ぶり悪いものね。


あははっ。

私は何?




私は馬車に揺られる。

一定の蹄の音を聞きながら。

死に行く道のよう。

馬が止まる。

ガタンと音を立てて。

私に謝る御者の声。
けたたましい馬の蹄の音。
男たちの声。


あぁ、私の命はここまでか。

笑っちゃう。

ほっとしてしまう。

なんだろう・・・。

このこみ上げてくる嬉しさは?



あぁ、私は待っていたんだ。

私を楽にしてくれる存在を。


嬉しい。

さあ、私を殺して。

醜い私を。
まだあの方に縋ろうとしている、愚かな私を。
消して。

早く、私を消して。

お願い、楽にして。



馬車のドアが開き光が入ってきた。




私は笑いながら目を閉じた。





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